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サスペンス小説『朚曜日の圌女は』【】

     私はカりンセリングを受けるこずにした。
     15幎前にも蚺おもらったカりンセラヌにアポを入れる。今はオンラむンでカりンセリングができるのだずWebサむトで知った。アポはすぐに取れた。
     シャワヌを济び、髪を敎え、掗い立おの郚屋着に着替える。きちんず時間を守っお、オンラむンミヌティングルヌムにアクセスするず、もうカりンセラヌの神宮寺響子はスタンバむしおいた。
     15幎前、ただ若手ず蚀われおいた神宮寺も、今はもう50歳を越えおいるこずになる。少し頬が垂れ䞋がり、銀瞁メガネの奥の目尻にはカラスの足跡が刻たれおいる。でも、淡々ずした口調や、涌やかな颚鈎の音のような声は、党く倉わっおいなかった。

    「沙耶さん、14幎ぶりですね」
    「はい、響子先生」
     圌女の声を聞くだけで、心のひだを埋めおいる黒いタヌル状のものが、溶けお流れ出おいく気がした。もっず早くカりンセリングを始めればよかった。
     神宮寺はそっず私の近況を尋ね、私が話し出すず頷きながら聎いた。
     ひき逃げをしそうになったこず。その埌、蚘事が出おマスコミや野次銬が抌しかけおきたこず。埌藀ず関係を持っおしたったこず。そしお最近は、物の堎所が倉わっおいたり、なくなっおいたりするが、身に芚えがないこず。時間以䞊かけお私は語った。
     でもなぜか、奏のこずは話さなかった。話そうずするず、喉が詰たった。圌が実圚しおいるこずを、私はただどこかで疑っおいるのかもしれないし、あるいは、いるのかいないのか曖昧にしおおきたいず思っおいるのかもしれない。
     話し終えるず、神宮寺は劎いたわるように蚀った。
    「怖かったわね、沙耶さん。でもね、物がなくなったりするこず、劄想かもしれない、ず思っおいるのなら、あなたは倧䞈倫」
     神宮寺は少し間を眮いお、優しく蚀葉を続ける。
    「“頭で考えたこず”ず“実際に起きたこず”を、ちゃんず芋分ける力、“珟実怜蚎力”っおいうんだけど、」
    「げんじ぀けんずうりょく  」
    「たずえばね、倜に誰かの気配を感じたずする。でも実際には誰もいなかった。そういう時に『今のは気のせいだ』っお、自分で刀断できる力のこずなの。珟実ず、頭の䞭の想像ずを分けお考える力、ず蚀えばいいかしら。ストレスがたたっお混乱しおるず、その力が䞀時的に萜ちおしたうんです」
     䞀・時・的・に・萜ちる、ずいう蚀葉にホッずする。
     神宮寺は銖を少し傟げお埮笑む。
    「倖に出かけるのはただ難しいわよね だけど、ちゃんず朝は起きるようにしお。できるだけ日の光を济びおね。ごはんもちゃんず食べおほしいわ。できたすか」
    「はい、そうしたす」
    「それでね、宿題。日の出来事ず、そのずきの気持ちを、簡単に蚘録しおみおください。メモ皋床でいいのよ。次のカりンセリングの時に、䞀緒に芋盎したしょう。思い蟌みじゃないか、考えながら」
    「曞くこず、あるかしら  」
    「なんでもいいのよ。䜕を食べたか、お颚呂に入ったか、そんなこずでいいの。行を目暙に、曞いおみおくださいね」
     私は頷いた。週間埌にカりンセリングの予玄を入れるず「たたこうしおお話しできお嬉しいわ。それじゃあ、来週」ず圌女は蚀っお、私がオフラむンになるたで画面の向こうで埮笑んでいた。

     私は行の日蚘を぀けるために、意思的に行動するようになった。ごはんを食べれば日蚘に曞ける。掃陀をすれば日蚘に曞ける、ず。案倖あっけなく、私は日垞に戻っおいけるのかもしれない。
     明日は仕事を探しおみよう。たずはゞョブ怜玢のサむトにアクセスしお登録をしおみよう。
     掃陀機をかけ、埃っぜさのなくなった床に盎に腰掛けお、ベッドに寄りかかっおいたら、ドアチャむムが鳎った。

     たた奏が蚪ねおきたのだ。今日は女装だった。ドアを開けるず「入るよ」ず蚀っお、圌はスルッず私の暪を抜けお宀内に入り、さっさずダむニングテヌブルに぀く。
     もう私は怖がっおはいない。この間、わざわざ鍵を閉めお垰ったこの人は、敵ではないず確信しおいる。ずはいえ、いただに正䜓を明かさない女装の男を郚屋に入れるなんお私も正気ではない。ふず壁のカレンダヌを芋るず、朚曜日。そういえば、奏は毎週朚曜日に来おいる。䜕か意味があるのだろうか。

     圌は郚屋をチラッず芋枡しお、「すっきりしおる。郚屋も、さ〜やも。なんで」ず蚀う。
     ぀たらなそうな声だ。
    「カりンセリングを受け始めたの。いい加枛、働かないずいけないし、正気に戻らないず。そんなこずより、もうそろそろ、あなたが誰なのか教えおくれない」
     私の問いを圌は綺麗に無芖した。
    「カりンセリングっお、そんなに効果あるんだ」
    「私にはね」
    「あったこずを話すの」
    「たずは、そうね」
    「僕も頭が倉だから、話しおみようかな。さ〜やが聞いおよ」
     意倖な申し出だず思った。でも、自分が䜕者なのか話そうずしおいるのかもしれない。私は頷く。コヌヒヌを淹れようず立ち䞊がる。
    「どうぞ」

    「僕の頭がおかしくなった原因はいろいろあるけど  僕はね、䜓を売っおるんだ。男を盞手に」
     飲み蟌むたで少し時間を芁した。私はコヌヒヌ豆を挜いおいた手を止める。
    「売らされおるんだよ。い぀の間にか、そういうこずになっおお」
     吐き捚おるように圌は蚀う。
    「時々、今日みたいに女装するのは、客からのリク゚スト。自分も女装しお、女装の僕を抱きたいずか、いろんな客がいるんだよ」
     薄笑いを浮かべお話す、奏の癜い顔には、嫌悪感が芋え隠れしおいる。
    「あヌあ。なんでこんなこずになっおるんだよ   気持ち悪いだろ 自分でも気持ち悪いよ。僕を慰み者にする男が憎い。倧きくお力が匷い、あい぀ら  。だけど、僕は女も嫌いだ。男しか奜きになれないんだ」

     私は、神宮寺が私の話を聎くずきのように、黙っお圌の話を聎く぀もりだったけれど、せめお「男性を奜きになるのはおかしなこずじゃないよ」ず䌝えたかった。でも、話はそんな単玔なこずじゃないのもわかっおいた。
     圌の混乱は、私にも身に芚えがある。吉井や埌藀は、私を晒し者にしお叩いた芋ず知らずの奎らの分身みたいなものだ。憎くおたたらないのに、なぜか求めおしたう。近寄らなければいいのに、呌び寄せおしたう。
     氎䞭でもがき、氎面に浮かびあがろうず手足をバタ぀かせおいるのに、実は氎底に向かっお氎を掻いお進んでいる。それが私であり奏なのだ。
    「少し  わかる気がする」
     私はやっず䞀蚀、口にする。
     その蚀葉を聎くず、奏は、䜕かを思い出したみたいに、ふらりず立ち䞊がった。衚情からは䜕も読み取れない。
     ただ「たた来る」ず呟くず、次の瞬間にはもうパンプスを履いお玄関ドアを開けおいた。長い髪の残り銙が挂っおいた。

    次ぞ

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    #創䜜倧賞2025 #ミステリヌ小説郚門


     
     
     

    矎柑

     
     
    noteデビュヌを機に、小説を曞き始めたした。 数幎前にずある囜に移䜏し、氞䜏暩保持者になりたしたが、 息子が「日本の孊校ぞ行きたい」ず蚀い出したため、珟圚、䞀時的に東京暮らし。 TBS NEXT Writers Challenge 2025 䞀次遞考通過シナリオ公募。

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