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Photo bykt_121200

血環➖西成はぐれもん➖ 第32話

    春也は本来のボクシングスタイルで猛攻を仕掛けていた。鋭い踏み込みと同時に放たれるジャブ、そして右ストレート。海は腕でガードするも、その拳の重さに顔をしかめる。


    春也が冷徹に呟く。


    「クセ、見えたわ」


    左へのフェイントから、フックと見せかけた鮮やかなアッパーが空を切り上げる。


    「オラァ!!」


    衝撃が海の顎を跳ね上げた。


    「くそが! テクニックで勝てる思うなよ!!」


    海の激しい前蹴りが春也の腹部をえぐる。だが、春也は肉体を蝕む痛みを無視し、強引に距離を詰めた。


    「――引けへん時があるやろ!」


    渾身の左フック。


    「誰か守らなあかん時――!」


    続けて右アッパー。


    「背中見せられへん時――!」


    正確無比なワン・ツーが叩き込まれる。海のガードが強引に抉じ開けられた。

    距離を離そうとする海の蹴りを紙一重でかわし、春也は深く踏み込む。


    「お前らにはわからんわな――」


    春也は耳元で囁くように呟いた。


    「おやすみ」


    クロスカウンターが一閃。右ストレートが正確に顎を捉えた。海の巨体が物理法則を無視したように宙に浮き、そのまま力なく地面へと崩れ落ちた。


    静寂が場を支配する。春也が汗を拭い、ゆっくりと振り返った。


    そこには、京志が平然とタバコを燻らせながら立っていた。


    「…………おせぇ」


    京志の足元には、リクが微動だにせず横たわっている。


    京志一家の面々は、その圧倒的な光景に息を呑んだ。


    「なんやねん、それ……」


    春也が呆れたように零す。


    「ははっ……なんや、あいつ」


    竜がぽつりと笑い、それは次第に確信に満ちた笑みへと変わっていった。


    「いや……マジで、ほんまに……なんなん、あいつ……強すぎるやろ……!」


    堰を切ったように、一家の奴らが一斉に笑い出した。そこには興奮、安堵、そして深い尊敬が混ざり合っていた。


    そんな中、意識などとうに無いはずのリクの指が、ピクリと跳ねた。


    「おい!!」


    春也の悲鳴に近い叫びが笑い声を切り裂く。


    殺意という本能だけが死に体を突き動かし、隠し持っていた拳銃が、京志の無防備な背中を捉える。


    凍りつく空気。

    京志の身体が痙攣を始める。

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