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Photo byfine_whale2872

幼虫

     幼虫は、ガラスの底で、ほとんど動かずに横たわっている。正確には横たわっているというより、形が定まっていないため、そう見えるだけだった。時折、体をくねらせるようにして動くが、すぐにまた眠ってしまう。今となっては、どこが頭で、どこが尻なのかも曖昧だった。

     幼虫は、暗がりを好んだ。光を落とすと、自ら影の方へ寄っていくように見えた。影へ逃げようとしているのか、それとも光そのものを忘れようとしているのかはわからない。それでもその反応は、正常なものだと記録された。

     餌は一日に三回、液状の栄養剤が与えられた。食べているのか、吸収しているのかはわからない。与えるとわずかに膨らむが、しばらくすると、同じだけ萎む。たまに、幼虫は顔をしかめるように餌を拒絶した。しかしそのたびに、細い管を通して、流しこまれた。

     やがて幼虫は薄い膜をまとった。白くて半透明のそれは、残された古い皮膚のように見えた。光も空気も音も、遅れて届くようになった。届くというより、届いたことだけがあとからわかる。

     膜は日ごとに厚みを増した。外側との距離が一枚ずつ増えていくようだった。名前を呼んでも反応はない。もっとも、その名前が幼虫のものであったのか、今では誰も確かめられなかった。

     幼虫は、もはやほとんど動かない。それでも管を通して、餌の供給は続けられた。それが必要というわけでもない。止める理由がないだけだった。

     人々は羽化を待ち望んだ。希望を抱いた。それでも、羽化はいつ起こるのかわからない。起こるものとして扱われるだけで、起こる条件は誰も知らなかった。もはや、幼虫は起きているのか眠っているのかわからなかった。ただ、生きていれば、生きているということが記録された。

     希望だけがよく育った。幼虫が少しでも動けば希望になったし、動かなくても希望になった。変化がなければ、その静けさが希望となった。希望は餌を選ばなかった。

     人々は、最後まで羽化を待った。白い膜の内側で何が育っているのか、誰も見たことはなかった。羽化すれば、何かになると信じていた。そして膜が破れた日、人々は初めて知った。育っていたのは、希望ではなかった。

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