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品性という言葉を知らない(第76話)連載小説

SNS社会の生々しさや、主人公の人格のゆがみに迫る現代サスペンス


栗山杏奈は歯科クリニックで働くいわゆるキラキラ女子を演じているが
実は夜職の顔がある
―――さらには2つのSNSで使い分ける顔
恋愛・友達・仕事・家族―――

友達は自分のSNSをいかに彩ってくれるか
男は自分の日常をいかに華やかに楽しませてくれるか

既婚者や彼女持ちの複数の男たちとの関係
杏奈はそういう関係こそが、自分にとって都合のいいものだと思っていた

――しかし 
杏奈自身うまくいっていると思っていた

仕事も、人間関係も、男との関係も、
「上から見下ろしていた」はずの世界が少しずつ狂い始めていったある日
2つのSNSで使い分ける顔が少しずつ明るみに出ていく――――



温泉から戻った翌朝 杏奈のマンション

杏奈は実家に帰る準備をしている。

大好きなおばあちゃんの法事には行きたい。
でも、実家には帰りたくない。

「はぁー。ほんっと、実家帰りたくないな。
ふぁぁぁー!
それにしても温泉の次の日って、
なんでこんなにだるいの?

ふふ…瀬戸さん……
露天風呂で盛り上がっちゃったからね♡

わっ!やばっ!」

そう言いながら、
時計を見て慌ててキャリーケースに荷物を詰め込む。

新幹線の窓から景色を眺める。
もう何度も見てきた景色。
実家は東京から新幹線で3時間弱。

最後に帰ったのは、1年以上前だ。

実家に帰ると母からは
「結婚しないの?」
「彼氏は?」
「真由の子供かわいいわよー。」
こんなことばかり言われる。

真由は杏奈の2歳下の妹だ。

地元の短大を卒業して、地元企業に事務職で就職をした。

就職して4年目に職場の先輩と結婚して、
2年後には子供が生まれた。

実家のすぐ近くに住んで、
サポートを受けながら
育休明けに仕事も復帰した。

そして去年2人目の子供が生まれたのだ。

真由は、母親の『望む通り』を
そのまま生きている。

杏奈は、真由の生き方を
『自分にはできない』
『自分には合わない世界』
だと思っている。

――― 子供の頃から、いつもそう。

真由はお母さんが望む通りに
なんでもこなす。

小学生の頃、習い事の候補の中から
真由はピアノとバレエを習いたいと言った。
私は絵画と空手を習いたいと言った。

結局、2人バラバラだと送り迎えが
大変という理由もあって、
ピアノになった。

でも、あれは今でも
『真由を優先した』って思ってる。

子供の頃から真由とお母さんは仲良しだった。
お母さんと、杏奈、真由で買い物に行った帰りに、
時々 喫茶店でご飯を食べることがあった。

杏奈はそこのクリームソーダが大好きだった。

お母さんはいつも真由の話を楽しそうに聞いていた。
「うん。うん。それで?真由、もっとお話して。」

真由も「ねぇ、お母さん!聞いて」とかわいく話すのだ。

―――いつも疎外感を感じていた。

杏奈が8歳の頃、
末っ子の美咲が生まれたことや、
年齢が上がるにつれて、親と出かけることが減っていくことを
心底ほっとしていた。

でも、杏奈が実家を嫌う理由は、
これだけではないのだ。

新幹線の外の景色を見ながら、杏奈はあの日のことを思い出していた。




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