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品性という言葉を知らない(第78話)連載小説

SNS社会の生々しさや、主人公の人格のゆがみに迫る現代サスペンス


栗山杏奈は歯科クリニックで働くいわゆるキラキラ女子を演じているが
実は夜職の顔がある
―――さらには2つのSNSで使い分ける顔
恋愛・友達・仕事・家族―――

友達は自分のSNSをいかに彩ってくれるか
男は自分の日常をいかに華やかに楽しませてくれるか

既婚者や彼女持ちの複数の男たちとの関係
杏奈はそういう関係こそが、自分にとって都合のいいものだと思っていた

――しかし 
杏奈自身うまくいっていると思っていた

仕事も、人間関係も、男との関係も、
「上から見下ろしていた」はずの世界が少しずつ狂い始めていったある日
2つのSNSで使い分ける顔が少しずつ明るみに出ていく――――



近所の喫茶店

子供の頃、
母と真由と3人で来ていた喫茶店。

今そこに、
父の不倫相手とおぼしき女性と来ている。

この沈黙をどうしたらいいのだろう…

杏奈がそう考えていると
「河合と言います。」そう女性が言った。
「あ…はい。栗山です。栗山杏奈です。」

「あぁ。
あなたが長女の?
最初に出た方も、お母さんも
お話出来なさそうだったから。
あなたがお話出来そうでよかったわ。」

そう言いながら、タバコに火を点けながら続けた。

「私は、達哉さん…
あ、あなたのお父さんの会社の部下なの。
お付き合いして2年。
私、いま27なんだけど、
30歳までに子供が欲しいの。
もちろん達哉さんのことは好きよ。

でも…
それより女性には
“タイムリミット”があること、
分かるよね?

同じ女性だもの。

ね?

だから私にはもう時間がないの。

それでね、達哉さんには離婚してって話してるんだけど……
奥さんがOKしてくれないからって。

だから今日、直接話に来たの。

あなた、落ち着いてるし、
話が分かりそうだから、
お家に帰ったらお母さんに伝えてくれる?」

そう言って、タバコの煙を深く長く吐き出した。

「父が好きより、子供が欲しいってことですよね?」

「うーん、まぁそれだけじゃないけど。
それは大きいかなぁ。」

そう言ってコーヒーをひと口飲んだ。

「子供欲しいのに、タバコ吸ってて
大丈夫ですか?」

河合は明らかにムッとした表情を浮かべた。

「う…うるさいわね!
タバコなんて、妊活はじめたら、すぐにやめてやるわよ。」

「そうですか。
あの……うちって、子供3人いるんです。
知ってるかもしれませんが。

私が高校生で、次女が中学生、
三女は小学生です。

私と次女は行きたい大学とかあって。
末っ子も行きたい学校までは決まってないけど、
理系の方に進みたいらしいから。

分かりますよね?
大人だから。

まだまだ養育費かかると思いますよ、
父と結婚しても。」

そう言って杏奈は河合の目をまっすぐに見た。

口元が明らかにゆるんだのを河合は見逃さなかっただろう。

「…ちっ!何なの?
すっごく感じ悪い子ね!」

そう言って、伝票を持って立ち上がろうとした。

すると杏奈も立ち上がり、伝票に手を伸ばした。

「けっこうです。

お支払いいただきたくないですし、
父がご迷惑をかけたようなので、
私がお支払いします。」

そう言い放った杏奈は、
河合が顔を真っ赤にしているところを
ニヤリと見てから、手から伝票を奪った。

「すっごい嫌な子!
将来ヤバそうね…ふふ。
クリームソーダ、かわいいわね。」


そう言って、杏奈を睨みつけ、
ヒールの音を鳴らしながら河合は喫茶店を出て行った。




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