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品性という言葉を知らない(第94話)連載小説

SNS社会の生々しさや、
主人公の人格のゆがみに迫る現代サスペンス


栗山杏奈は歯科クリニックで働く
いわゆるキラキラ女子を演じているが
実は夜職の顔がある

―――さらには2つのSNSで使い分ける顔
恋愛・友達・仕事・家族―――

友達は自分のSNSをいかに彩ってくれるか
男は自分の日常をいかに華やかに楽しませてくれるか

既婚者や彼女持ちの複数の男たちとの関係
杏奈はそういう関係こそが、
自分にとって都合のいいものだと思っていた

――すべて
杏奈自身うまくいっていると思っていた

仕事も、人間関係も、男との関係も、
「上から見下ろしていた」はずの世界が
少しずつ狂い始めていったある日

2つのSNSで使い分ける顔が
少しずつ明るみに出ていく―――――――



クレール山手デンタル 書庫

大きなため息をつきながら、
杏奈がスマートフォンを眺めている。

「まただよ……これってさ、
ちゃんと届いたのかな?」

転職サイトから届いた、
採用見送りのメール。

10社応募して、1社も書類通過すらしない。

「もしかして、探すサイトが悪いのかな。

それとも……
あんま杏奈に合わない職種とか?

でも、マーケティングとか広報とか、
やったことないけど、
杏奈ってSNSで見られるの得意だから、
企業のことも発信できるだろうし、
向いてると思うんだけどな。

職種を変えるか、サイトを変えるか…だよねぇ。」

そんなことを考えていると、
Instagramに通知がついた。

一時期はInstagramの通知がつくだけで、びくっとしていた。

また何かコメントされてるんじゃないか。
また過去のスクショを貼られてるんじゃないか。
また誰かに動画出されたんじゃないか。

夜もあまり眠れなかったけど、
時間が経てばみんなの興味も薄れていったようだ。

今ではあの誕生日の投稿に『いいね』もコメントも
ほぼ増えていない。

通知は、匠からのDMだった。

『今日のお店はここだよ!今日は二次会おいでね!』
『はーい!ありがとうございます!』

店のURLを開くと、前回と同じだった。
『酒処 いちばん』

「え!またここー?ふふ。
今回は、二次会行ってみようかな。」

******

『酒処 いちばん』
今回の司会は、ハイブランドのロゴピアスをした男性だ。

「はい!みなさーん!お疲れ様です!
これで一次会はお開きですが、
二次会はいつものところです!

行ける人は……あっ、行かない人はいないですよね?
僕たち、ここの出口にいるので、ついてきてくださーい!」

店を出るとき、匠とすれ違った。

「おっ!杏奈ちゃん!
今日あんま話せなかったね!」

「そうですよー。
杏奈の席に全然いなかったですもん!」

「ごめん!ごめん!二次会行くよね?」

「はい!今日は行きます♡」

「よーし!楽しもうね!」

「はいっ」
杏奈は目じりをおもいきり下げて、
満面の笑みで返事をした。

******

「はい、みんな! ベガス旅行の事前会議 第2弾!お疲れー!」

匠の号令とともに、
乾杯のコールが響き渡る。

一次会の居酒屋から一転、
二次会で連れてこられたのは、
都心にそびえ立つ高級タワーマンションの最上階にあるパーティールームだった。

「うわぁ……! すごぉい……!」

重厚な扉が開いた瞬間、
杏奈の口から感嘆の吐息が漏れた。

壁一面の巨大なガラス窓の向こうには、 どこまでも広がる都心の夜景。

暗がりの中に浮かび上がる青やピンクの
艶やかなネオンサインが、
室内を大人の秘密基地のように彩っている。

大理石のテーブルの中央には、
キラキラと光を浴びるシャンパンタワーがある。

「うわぁ…!ほんっとに……セレブの世界じゃん♡」

胸がキュンと高ぶる。

周りを見渡せば、
白Tシャツの上からでもわかる隆々とした筋肉を誇示する男や、
金髪にハイブランドの大きなロゴピアスを光らせた男、
浅黒いくてひげを生やした男たちがいる。

「杏奈って、
こういうのも全然平気なほうだと思ってたけど…… まだまだだよねぇ。

やっぱりあの人たち見ると、
有名老舗旅館の従業員のイメージとは
かけ離れてるって思っちゃう。

チャラさと威圧感すごいよね。
あ!でも匠さんがフィーリング大切にしてるから、
今どきのイケメンを集めたのかな?
伝統を守りつつ個性を大事にしてるなんて、
やっぱり匠さんの会社って最先端♡

あ!温故知新ってやつだ!」

そんなことを考えていると、
金髪ピアスの男に話し掛けられた。

「杏奈ちゃん、こっち来なよ」
白濁した泡が弾けるシャンパングラスを杏奈に手渡した。




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