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品性という言葉を知らない(第96話)連載小説

SNS社会の生々しさや、
主人公の人格のゆがみに迫る現代サスペンス


栗山杏奈は歯科クリニックで働く
いわゆるキラキラ女子を演じているが
実は夜職の顔がある

―――さらには2つのSNSで使い分ける顔
恋愛・友達・仕事・家族―――

友達は自分のSNSをいかに彩ってくれるか
男は自分の日常をいかに華やかに楽しませてくれるか

既婚者や彼女持ちの複数の男たちとの関係
杏奈はそういう関係こそが、
自分にとって都合のいいものだと思っていた

――すべて
杏奈自身うまくいっていると思っていた

仕事も、人間関係も、男との関係も、
「上から見下ろしていた」はずの世界が
少しずつ狂い始めていったある日

2つのSNSで使い分ける顔が
少しずつ明るみに出ていく――――



匠は、杏奈の目を真っすぐに見た。

「そう。議題。意味わかるかな?」

「え!…えっとぉ…」

杏奈は返事に詰まり、俯いたまま何も答えられない。
すると、匠がすっと杏奈の耳元に顔を近づけ、低くささやいた。

「ねぇ……今、何か変なこと考えたでしょ?」

息がかかる距離から離れると、
匠はおかしそうに、けれど全てを見透かしたような瞳で
もう一度正面から杏奈を見た。

自分の頭の中を丸裸にされているような
恐怖と恥ずかしさで、杏奈は匠の視線を直視できない。

胸が嫌な音を立てて波打つ中、
匠が白Tシャツの筋肉男を呼び寄せた。

「陽太(ようた)!ちょっと!」

「はい!匠さん!」

「あのさ、ベガスの観光地で
今候補出てるとこあるじゃん?
まだ決まってないとこ。

それをさ、杏奈ちゃんにも見せてあげて、
意見聞いてくれる?」

「了解っす!…あ、杏奈さんって言うんすね!
自分、陽太って言います。」

杏奈は顔をあげた。

「杏奈です。よろしくお願いします。」
すると、陽太はにっこり笑った。

「今回さぁ、行く場所はもうけっこう決まってるんだけど。
ベラージオは入れようか迷ってたとこだから。
陽太がいろいろみんなの意見聞いて、
旅行会社とやり取りしてるから。
杏奈ちゃんも行きたいとこ、陽太に言うんだよ。」

匠は杏奈に優しく笑いかけると、
そのまま別の参加者たちの輪へと戻っていった。

陽太がタブレットで、ラスベガスの観光地の説明を始めた。
杏奈の頭の中は、入ってこない。

匠さん……なんなんだろう。

好きになってるんじゃないけど、
なんか気になるというか…

ペース崩れるんだよね。
こっちが優位になれない。

「…さん…杏奈さん?
ベラージオ以外で行きたいとこ、あります?」

陽太の声ではっとした。

「あ!…うん。
あとは…グランドキャニオン行けたらうれしいな。」

「あ!そうなんすね!
グラキャニは、俺らの中でも割れてて。
俺は行きたいんすけど、
杏奈さん来てくれたから一票っすね!」

パッと室内の照明が暗くなり、
一次会で司会をしていたハイブランドのロゴピアスをつけた男が、
マイクを握って大声で叫んだ。



ここまでのあらすじはこちらから

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