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チロル会音楽部~ロック青春記 第8話*鮫島君、ツェッペリンを連れてくる

    マジシャン めどう

     その後、中学・高校時代を通じて、鮫島君とは、よく行動を共にしたわけだが、鮫島君は、どこへ行っても顔が利く男だった。レコード屋の店員のお姉さんとも旧知の仲のように話し、当然のように最新情報を仕入れていた。
     彼がバンドに加わった頃は、もう“チロル会音楽部”の名称は使われなくなっていた。
     では、どんな名前が使われていたかというと、五十音表の「サ行」から上三つを取って“サーシース”。チロル会結成時からの冗談を好む伝統はしっかりと守られていたが、この名称変更は、「アンサンブルを楽しむ集い」から「バンド」という意識の変化を反映したものだった。
     相変わらず『駅馬車』やタイガース、ベンチャーズなどの曲を演奏していたが、意識だけは変化してきていて、それらの曲も、いつか「本物のロック」を鳴らすための助走だと考えて練習するようになっていた。
     鮫島君にとって末原君との出会いは、生涯を通じても大きな出来事だったらしく、散々迷った挙句「ギターではこいつに適わない」と判断し、以後ベースに転向し、ひたすらベーシストとしての腕を磨くことになる。
     彼の出現は、単に「ベーシストが見つかった」というだけではなく、ロックに対する仲間うちでの空気が俄然熱っぽいものになった。
     レッド・ツェッペリンのデビュー時期と重なっていたのも大きかった。 彼らのシングルレコードを鮫島君が貸してくれたことは、僕らの常識を根底から覆すような、それこそ人生を左右するほどの「事件」だった。
     それまでは「末原君というフィルター」を通して遠巻きに眺めていたロックの深淵に、鮫島君というもう一人の異端児によって、不意に背中を押され、真っ逆さまに突き落とされた感じだった。
     鮫島君は、それ以上の衝撃を、一歩先んじて経験していた。
     ラジオから流れて来るツェッペリンのヒット曲『胸いっぱいの愛を』を初めて聴いた時、あまりにもショックが大きく、次の日は学校に行く気が全くせず、休んでしまったという。その後、すぐにシングルレコードを買ってきて、ありとあらゆる知り合いに推しまくったのだ。
     そういった経緯があったことから、今でも、クリームを聴けば末原君を思い出すように、アルバム『レッド・ツェッペリンⅡ』を聴くと、鮫島君を思い出す。
     実は、初めて聴いた時、僕は、その良さが分からなかった。原因の一つは、自宅にあった再生装置があまりにもショボかったことだと思う。薄っぺらい電蓄では、本来の迫力が伝わらないのも当然だった。
     そんな状況を見るに見兼ねてか、鮫島君が小型のステレオを貸してくれたことがある。僕がなかなかツェッペリンの迫力に気付かないことが、よほどじれったかったのかも知れない。
     自転車の荷台に括り付けて、それを片手で抑え、バランスを取りながらの運搬は、けっこうしんどかった。限界に近づくかという瀬戸際になって、やっとたどり着き、額の汗をぬぐったときは、思わず溜息が出た。
     無事運び終えたサメの宝物を荷台から下ろし、いそいそと部屋に運び込み、プラグを差し込むのももどかしく、電源を入れるとすぐに針を落とした。
     聞こえてきたのは、機銃掃射のような攻撃的なギターリフ。これまでに経験したことのない衝撃が走った。ロバート・プラントのスーパー・ハイトーン・ヴォーカルの激しい感情表現にも、心が騒いだ。この時以来、『胸いっぱいの愛を』が、最高の音楽として胸に響くようになる。感情の炸裂こそが至高の音楽表現であると、心の底から思うようになっていた。
     彼らの容姿も美しく、大いに憧れた。波打つブロンドと堀の深いギリシャ神話の登場人物のようなロバート・プラント。いかにも繊細そうな細身の体付きに長い黒髪、神秘的な眼差しのジミー・ペイジ。それぞれ、男性の一つの理想像に見え、それに比べて、周りの大人たちが何と萎びて見えたことか…。
     僕らが中学2年生だった1969年という年、ビートルズが解散し、ウッドストック音楽祭が開催されている。レッド・ツェッペリンがレコード・デビューしていた他、シカゴ、ニール・ヤング、CSN&Y、イエス、キング・クリムゾン、サンタナらが、続々とデビュー・アルバムを発表している。
     次々と現われるロック・ヒーローたちが創り出す、革新的な迫力あるサウンドに、心はすっかりヒートアップし、充実した毎日を送ることになる。それは思わぬ相乗効果を生み出し、学校の成績まで、ホップ・ステップ・ジャンプと、飛躍的に転げ落ちていったが、それがさほど価値のあるものだとは思えなくなっていた。

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    高校時代の鮫島秀樹君(末原君宅にて)

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