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チロル会音楽部~ロック青春記 第7話*バンドやる奴いないかなぁ

     器楽合奏部の裏活動のように始まった「チロル会音楽部」。最初こそ持ち寄った楽器で好き勝手に遊んでいたが、やがてロック志向を強めていった。
     そうなると、全員の足並みが揃わなくなってくる。
     “会長”山下君はムード音楽が好きだったし、倉石君が貸してくれたシングルレコードは、軽いヒット路線のポップスだった。
     二年生になったころには、器楽部の裏活動という意識も薄れ、メンバー探しが日課となって行く。
     中学生だった当時のレベルというのは、まだ大したことはなくて、「ギターが弾ける」とい聞いて実際に会ってみると、皆ほとんど初心者だった。
     僕らが通っていた鹿児島市立城西中学校は、生徒数約三千人、一学年約二十クラスというマンモス校。いろんな人材が潜んでいそうで、大いに期待を抱かせてくれた。
     同級生の一人から、ギターの上手いヤツがいるという話を聞いたこともあったが、大隈半島の鹿屋に転校してしまったということだった。その後、ひょんなことから知り合うことになるが、それは、三年になってからのことになる。
     そんな折、ビートルズのファンだった同級生の鎌田君からも、ある人物の情報が入ってきた。後に世良公則率いるツイストのベーシストとして芸能界デビューすることになる鮫島秀樹君だった。
     誘いをかけてから、実際に音を合わせるまで、何らかの事情で一週間ほど待たされることになった。その「空白の一週間」が、僕らの想像をさらに膨らませ、期待と不安を否応なしに高めていった。
     鎌田君の話によると、末原君より上手いかもしれないということで、末原君も期待半分、恐れ半分という感じだった。
     さてと、鮫島君の名前が登場したところで、少し時を遡って、小学生だった頃から振り返ってみようと思う。バンドの事とは全く関係ないのだが、当時の彼のキャラを、より鮮明に描き出してみたいので…。

     鹿児島市立西田小学校に彼が転校してきたのは、四年生のときだった。一学年六クラスあった中で、同級になったことは一度もなかったが、いくつか思い出せるエピソードがある。
     彼が、どこかのクラスに転入して来てから、運動場のどこからか「サメー!」という呼び声が聞こえてくるまでに、さほど時間はかからなかった。大阪から来た足の速い「サメ」と呼ばれる男の子。なんとなくではあるが、そんな子がいることは伝わって来た。
     秋の運動会で、鮫島君の姿は目立っていた。皆の注目の的になる学級対抗リレーで、憎っくき他クラスのアンカーとして、俊足ぶりを見せつけ、まったく余計な活躍をしていたから(笑)
     彼の脚力に関しては、もっと後、高校一年のとき、体力測定の結果を伝える言葉が忘れられない。五十メートル走の結果を、半ば自分に呆れながら教えてくれた。
     「五秒台やった。まさか五秒台とは…、自分でびっくりした」
     鮫島君とは、小学校の相撲大会で一度対戦したことがあって、この時のことが、なんとも印象深く記憶に刻まれている。
     まずは、彼とぶつかる前の話から簡単に…。
     僕は回しを取る相撲が得意だったのだが、全く相撲を取らせてもらえなかったことがある。対戦相手も覚えている。中村君という五、六年のとき同級生になった子だ。
     土俵の上でにらみ合った後、行事役の先生が持つ軍配が返った途端、
     ― ドカスカバシビシ☆★! ―
     世界の見え方が激変。一瞬空が見えたり、地面が見えたり、応援している生徒たちが見えたりと、まるで高速スライドショー。
     ― な、なんだこれは? ―
     そう思った時には、もう土俵の外にひっくり返っていた。地面に手をつき、ゆっくりと立ち上がりながら、今、何が起こったのか考えていた。
     どうやら、いきなり胸板やら顔面やら肩やらを突かれまくり、そのまま突進されて、押し出されたらしい。
     悔しかった。
     ― 相手がこう来ることが、分かっていたなら ―
     無念で無念でしょうがなかったが、すでに勝負は付いている。もう一度相撲を取らせろ、と思っても、もうどうにもならない。
     この無念、さてはてどこに向けたらよいか…。

     答えは一つ。

     次の対戦相手に、思いっきりぶつけるしかない。
     そう思っているところに、運命に導かれるかのように土俵に上がってきたのが、のちに世良公則率いるツイストでベースを弾くことになる鮫島秀樹君だった。
     こちらが、作戦実行に向けて虎視眈々であることなど露知らず、土俵に上がってきた彼は、平和でのほほんとした顔をしている。相手は身体も大きくなく、やせ型である。楽に勝てると思っているようだ。

     軍配が返った。
     ドカスカビシバシ★и★!!
     一瞬で勝負はついた。

     土俵の外にひっくり返っている鮫島君。彼の悔しさは、こちらも先刻体験済みである。これほど悔しい負け方はない。
     勝負が終わった後、土俵下でばったり顔を合わせた鮫島君。こちらの顔を忌々しげに見つめて言い放った。
     「おぼえてろ~!」
     その言い回しが、鹿児島っぽくなかったのと、悔しそうにしつつも、言葉の最後にふっと人懐っこい笑顔が浮かんだのが印象的で、映画のワンシーンのように鮮明に覚えている。
     その後の鮫島君の相撲がどのように変化したか、説明の必要もないだろうが、一応レポートしておこう。たまたまそれを見たのだが、予想通り、軍配が返った途端に爆進し、あっという間に圧勝。自分が負けた時と同じ悔しさを、対戦相手にしっかりプレゼントしていた。
     それからしばらく経った頃、学校の外で彼の姿を見たことがあった。当時西田小学校の南東にあった正門近くを歩いていたときだった。鮫島君が自転車で左後方から現われ、立ち漕ぎ気味に、そのまま右の彼方へすーっと斜めに横切っていった。その場面が映画の一場面のように、妙に鮮やかに記憶されている。
     彼がブルージーンズを穿いていたせいもあるだろう。その頃は、小学生のジーンズ姿はまだ珍しかった。そのせいもあってか、彼の行く先に、何か面白いことが待っているように見えて、後ろ姿を目で追ったことを覚えている。 

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