
チロル会音楽部~ロック青春記 第22話*ザ・レイク登場!
天気の良い日曜日だった。西鹿児島駅からほど近い県医師会館に、ジーンズ姿のティーンエイジャーたちが、自転車に乗って集合した。
僕は、キース・エマーソンを真似て、手作りした銀色のブレスレットを左手に装着。それがお守りのような効果を発揮し、アドレナリンが湧き上がってくるのを感じていた。
参加バンドの代表者を集めての事前打ち合わせで、「アンプのボリュームはいじらないこと」という指示が出された。つまみは、最大値10のうち「4」に固定される。
「ボリューム4じゃ、迫力出ないね」
「がっかりだよ」
「なんでそんな設定にしたんだろう?」
「ロックのこと、ぜんぜん解かってないよ」
「せっかく大きな会場で、苦情の心配もないんだから、思いっきりやりたいよね」
「俺たちが一番年下だし、顔ぶれを見ても、どうせ予選落ちするんだから、思いっきり好きなようにやろう!」
「おう! ボリューム10だ!」
「でも、その場でバレたら、すぐに戻されるぞ」
「あわてずに、できるだけ自然な動作でやらんといかん」
「終わったら戻すことも忘れずにね」
せっかくの大舞台。ロックにとっては大音量こそ命。
― わくわくするぜ! ―
僕らは、すでに「コンテスト参加者」の立場をかなぐり捨て、凶暴な「サウンド・テロリスト」と化していた。
さあ、出番がやってきた。
前の出場バンドの演奏が終わるのを、今か今かと待ちかまえ、僕らはステージへと向かった。計画実行へ向けて、はやる気持ちを抑えて、わざとゆっくり歩く。
高鳴る胸を押し隠し、「素知らぬ顔で」「自然な動作で」と自分に言い聞かせながら、ギターのコードプラグを差し込むときに、さりげなくボリュームつまみにも手を伸ばす。
僕は、キーボードだから、プラグを差し込む必要なんかない。だけど、皆に紛れて、知らん顔でアンプに近寄り、ボリュームだけいじる。
司会者が、バンド名と演奏曲に続き、バンドのモットーを紹介している。皆がそちらを見るので、ちょうど良い隠れ蓑になっている。
爆発の瞬間が、刻一刻と近づいて来る。
会場の誰もが、そんなこと知る由もない。
ドラムの中間君が、スティックで合図を出す。
演奏スタート!☆
ギターの轟音とシンバルの炸裂が、一気に飛び出し、花火のように弾け飛ぶ。
録音技師が、大音量にぶったまげてヘッドフォンをはずした。
鮫島君のベースに導かれ、南君のドスの効いた声が響き渡る。
アンプの大音量に負けじと、中間君のスティックさばきに力が入る。トップシンバルがやけに軽く感じられ、ひらひらと動きまくるのが不思議なほどだ。
キーボードの出番が近づく。
― Born to be wild!
Born to be wild! ―
来るぞ、来るぞ…
― 来た! ―
ギュワーーーーー!
鍵盤の端から端まで、思いっきりの高速グリッサンド。フットボリュームを踏み込み、目一杯の高速で指を動かしまくる。
それに続き、リボンコントローラーを使いまくる。
ウィ~~ン
ジュワワ~~~オ
ミュインミュイ~~ン!
これを使ってる奴なんか他に誰もいやしない。完全に独壇場だ。
髪を振り乱し、もう無我夢中。
そして、末原君のギター・ソロが続く。
相変わらずの安定感。安心して聞いていられる。
そして、めでたく無事に演奏終了。
いや、録音技師にとっては、無事どころの騒ぎじゃない。めでたいなんて言ってる場合じゃなかったんだが…。
ステージを去る前には、また素知らぬ顔で、ボリュームをもとに戻しておいた。
審査は異常に長引いた。
主催者の指示を無視し、大反則行為を行った小僧たち。
どうせ入賞などありっこない。
早いとこ結果を知って、とっとと帰りたい。
それなのに、発表は遅れに遅れ、
散々待たされじらされた。
そして、やっと審査結果の発表が始まった。
ひとつ、またひとつと、入賞バンド名が呼ばれる。
当然、僕らのバンド名は呼ばれない。
周囲が緊張している中、僕らだけは至って気楽だった。
優勝バンドの発表が近づいた。
― 待てよ…、
ここまでに、めぼしいバンドは、全部呼ばれてるよな?
ほかに、呼ばれそうなバンドって、あったっけ? ―
ひょっとして…、
ひょっとする??
まさかね…、そんなことあり得ない。
あり得ないんだけど…、それでも、もしかして…、
僕らは顔を見合わせた。
そわそわしてきた。
「では、いよいよ優勝者の発表です」
会場が静まり返る。
「湖のように無限の可能性を秘めた…」
― なに? 湖のように? ―
全身、ゾクッと鳥肌立った。
「ザ・レイクです」
― わおぉぉお!! ―
僕らは全員大声をあげ、ステージに向かって走り出していた。

