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芋出し画像

【小説】ハクナマタタ

    5日目 りフルピヌク

    軜食にビスケットを぀たみ、ココアで䜓を枩める。
    キリマンゞャロで初めおハむカットの登山靎を履いた。靎玐で䞁寧に締め䞊げおいく。
    最埌にゲむタヌを装着し、ヘッドラむトを点けお倖に出る。
    キボハットで埅機するポヌタヌずりィリアムが来おいる。
    圌らに芋送られながら、日付が倉わるずずもに出発した。

    砂の斜面が延々ず続く。砂の局は厚く、䞀歩進むずその分ずり萜ちおいる感芚がある。ガむドに埓い倧きくゞグザグず進んでいく。
    芋䞊げるず先行するいく぀かのパヌティヌの明かりが䞀列に䞊んでいるのが芋える。
    県䞋には街の明かりも芋える。方角からしおケニアの町だろうか。

    空気は柄んでいる。雲䞀぀ない満倩の星空に向けお登っおいく。倩に召されおいる気分だ。
    富士山でも同じ経隓をした。ただ倜が明けないうちに五合目を出発し、䞀人きりで歩いおいたこずを思い出す。
    こういう経隓ができる山はいく぀もない。倜間の登山は危険が倚い。森林限界を超え、か぀幅のある登山道が敎備されおいなければたず歩けないだろう。
    この瞬間がいかに特別か分かる。

    矎里は足元に泚意しながらゆっくりず先を歩いおいる。「星がきれい」ず声をかけるず、矎里は空を芋䞊げおから小さくうなずいた。衚情は分からない。

    短い䌑憩を䜕床もはさみながら高床を皌いでいく。
    岩堎に腰かけお䌑んでいるず、埌藀さんず氎野さんの姿が芋えた。私が挚拶をするも、返事に力がない。話すこずさえしんどそうだった。
    毎朝りィリアムが氎筒に氎を入れおくれるのだが、この日は熱いお湯にショりガがたっぷりず入っおいた。䞀口で䜓が枩たる。
    矎里は手が冷たいず蚀う。私は二重にした手袋をいったん倖し、矎里の手を盎接枩める。私は手の䜓枩が高いらしい。

    6時間ほど歩いただろうか。
    砂地が終わり、巚岩の間を瞫うようにしお進むようになる。倧きな段差を乗り越えるため、足に力を入れた。

    暗くおも芖界が開けたのが分かる。ギルマンズポむントである。暙高5685m。あずはクレヌタの瞁に沿っお緩やかに䞊がっおいくだけだ。
    「着いた」ず歓声をあげる矎里は既に涙ぐんでいた。

    空が癜み始めた。
    明るくなるず登山道の右偎が垂盎に切れおいるこずに気付いた。足元が芋える安心感以䞊に、恐怖感が襲っおくる。䞀歩螏み間違えれば呜は無い。

    1時間ほど歩くず、他の登山ルヌトずの合流地点であるステラポむントに着いた。
    東の空に朝日が昇っおいるのが芋える。

    山頂に近づくず、地面は次第に雪に芆われる。
    䞊りず䞋りで人が通った跡が蜍のようになっおいる。腰の高さたである雪に足がずられ、バランスを厩す。
    巊手にはアむスクリフず呌ばれる氷河の壁が皜線の倖偎に芋える。䞋の方が芋えないので、すぐ隣に別の山があるような錯芚に陥る。

    さえぎるものがなくなった分、猛烈な颚が襲っおくる。
    意識ががんやりずするようになり、芖線も䞊がらない。
    倒れないよう、トレッキングポヌルを巊右に倧きく開いお䜓を支え、䞀歩ず぀進んでいく。

    ステラポむントからちょうど1時間。
    午前7時半。私たちは山頂に立っおいた。
    芋立お通り、山頂には平らな地圢が広がっおいた。50人ほどの登山者が、登頂の䜙韻に浞っおいる。
    りフルピヌクを瀺す看板には5895mずいう数字が刻たれおいる。
    ハむタッチを亀わした矎里はもう泣いおいなかった。

    登頂を果たしたずいう高揚感で意識がはっきりずしおきた。
    颚が段違いに匷い。凍お぀く寒さず砂塵で、少し出おいる頬が痛い。写真をゆっくり撮る䜙裕はなさそうだ。
    「垰りたしょう」ず矎里が小さく笑った。

    党行皋の䞭で、このキボハットたでの䞋りが䞀番しんどかった。
    盞倉わらず、䞋りはガむドのスピヌドが䞊がる。もはや駆けおいるように芋える。
    平坊な道のりが続くギルマンズポむントたでは良かった。
    問題はそこからの砂地だ。富士山の倧砂走りず同様、倧股で滑りながら䞋るこずができる。ただ、ずにかく距離が長い。䞊りに6時間かけた道だ。2時間以䞊砂地を䞋りねばならない。
    途䞭、私は぀いに音を䞊げお、先を行くガむドを呌び止めた。膝が痛む。少し䌑たないず歩けそうにない。

    転げ萜ちるようにしおキボハットたでたどり着いた。
    砂たみれになった私たちをポヌタヌずりィリアムが出迎えおくれた。
    服に着いた砂をタオルではたきながら、䞉者䞉様にねぎらいの蚀葉をかけおくれる。
    りィリアムにフルヌツゞュヌスを頌むず、私はそのたた小屋の入り口で座り蟌んでしたった。小屋の䞭に入るこずもできない。頭痛もひどい。
    血䞭酞玠飜和床は70%を切っおいた。

    2時間ほどの䌑憩の間に昌食をずった。深呌吞をしお血䞭酞玠飜和床の䞊昇を確認しおから、少し仮眠もずるこずができた。
    私の身䜓は思ったよりも頑䞈で、ホロンボハットたでは十分に垰れるほどに気力も䜓力も回埩しおいた。

    キボハットからホロンボハットたでは1000mの高床を3時間かけお埐々に䞋るので、身䜓ぞの負担が少ない。頭痛は時間ず共に和らいだ。
    䞋りは垞にマりェンゞ峰ず雲海を眺めるこずができる。疲劎のたたった足でも、広倧なアルパむンデザヌトはい぀たでも歩いおいたい。

    先頭をサポヌトガむド、少し離れお矎里、そしお最埌尟を私ずチヌフガむドが歩いおいた。
    このチヌフガむドの英語は蚛りが少なく、私でもなんずか䌚話をするこずができた。
    ガむドになるために過酷な蚓緎があるこず。苊劎しおなったずしおもガむドは絊料が高いずは蚀えず、䜓力的な限界もあるので、将来のこずも考えなければならないこず。
    登山の間だけではない。ガむドたちにずっおは、生掻もたた過酷だった。

    気がかりなこずがあった。
    䞋りで埌藀さんず氎野さんの姿を芋おいないのだ。道はほが䞀本道。芋逃したずは思えない。
    緊急茞送甚のヘリが頭䞊を飛んでいく。「たさか」ず矎里が぀ぶやいた。
    私たちは二人の無事を祈る他なかった。

    午埌4時。ホロンボハットたで戻っおきた。
    この日は1000m䞊っお、2000m䞋る、14時間の行皋だった。

    倕食前のティヌタむム。私たちはようやく山頂アタックの思い出を共有するこずができた。
    今日は特に移動䞭蚀葉を亀わしおいない。それだけ過酷だった。
    「なんでこんな時に星の話なんおず思っおた」ず矎里が笑う。
    矎里は登りの砂地が肉䜓的にも粟神的にもしんどかったず蚀う。
    そんな矎里に気付かず星を芋おいる私も、矎里にずっおは「気にしない人」なのかもしれない。

    小屋に戻るず、盞郚屋になったスりェヌデン人の芪子はただ倖出䞭だった。
    二段ベッドの䞊に私、䞋に矎里が陣取った。

    歯磚きも終え、い぀でも寝られる状態で暪になっおいるず、肩が凝っおいるず矎里が蚀う。寒さで肩に力が入っおいたらしい。
    私はマッサヌゞを申し出た。高校時代は氎泳郚に所属しおいた。緎習埌は毎日郚員同士でマッサヌゞしおいたから、マッサヌゞには自信がある。
    お願いしたいずいう矎里の返事を聞いお、私はベッドを降りた。

    矎里の肩の筋肉は固たっおいるずいうより、腫れあがっおいるように芋えた。
    私は銖元から䞉頭筋、肩甲骚に至るたで慎重に凝りをほぐしおいった。力はほずんど入れおいない。手の平の䜓枩で枩めおいるようなものだった。
    やはり私のマッサヌゞの腕は確かなようだ。「すっごく軜い」ず矎里は肩を回しながら喜んでくれた。

    この登山は二人で良かったず矎里が蚀う。
    私も同感だった。
    キリマンゞャロを登頂するためには次の3぀を乗り越えなければならない。䜓力的な厳しさ、高山病の厳しさ、そしお山の厳しさである。
    疲匊しおいるずきに盞手を気遣う䜙裕はなくなるかもしれない。誰かの高山病が重症化すれば、付き添いで䞋山しなければならない。山の厳しさは同時に楜しさでもあるが、これは山に慣れおいるかどうかで倉わっおくるだろう。
    人数が倚ければ䜕かしらの問題が生じるリスクは高たる。登山に䞍慣れであればなおさらそのリスクは高い。
    二人でなければ登頂はおろか、楜しむこずさえ難しかったかもしれない。

    私はキリマンゞャロが奜きだ。
    危険な箇所は少ない。山小屋は快適。高床を䞊げるごずに景色は倉化し、そのどれもが絶景である。
    い぀たでもこの山に浞っおいたかった。

    自分の子どもを連れおたたい぀か来たいず蚀うず、次は登れる自信がないず矎里が笑った。

    登頂を果たしたこずをSNSで報告する。さっそく䜕人かリアクションが返っおきた。
    身䜓は疲れ切っおいるのになかなか寝付けない。
    矎里も眠れないのか、䜕床も寝返りを打぀音が䞋から聞こえる。

    結局、埌藀さんず氎野さんに䌚うこずは最埌たでなかった。


     
     

    tsugumi

     
     
    「珟圚」の感性を残したいず思い始めた゚ッセむ颚の蚘録です。 本、裁瞫、ギタヌずいった趣味から哲孊を䞭心に奜きなこずを぀ら぀ら曞いおいきたす。

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