メインコンテンツへスキップ
見出し画像

僕が娘に残したいもの


    来月もこの手紙が書けますように

    そんなことを思いながら今月も一枚の手紙を書いた

    ぼくと娘に血の繋がりはない……

    だからなのか
    それとも大きな病気を経験したからなのか
    自分でもよくわからないけれど数年前から娘の節目ごとに手紙とプレゼントを残している

    二十歳になった時

    結婚する時

    何かに挫けそうになった時

    もしその日を一緒に迎えられたなら
    自分の手で渡せばいい

    でも……
    もし渡せなかったとしてもいつか届くようにと願って

    そんな気持ちで箱の中にしまっている

    去年の終わり頃からはそれとは別に毎月手紙を書くようになった

    【遺書】と呼ぶには少し違う
    かといって普通の日記でもない

    その月に感じたことや娘への想い
    今日あった小さな出来事

    「そういえば今、こんなアイスが流行っているよ」

    そんな他愛もない話まで書いている

    だからきっとそれは遺書というよりも
    タイムカプセルに近いのかもしれない

    人は案外何を残したかよりも  どれだけ想われていたかを覚えている気がするんだ
    高価な物の名前は忘れてしまっても
    自分のために時間を使ってくれたことや
    自分のことを考えながら言葉を綴ってくれたこと

    そういうものは不思議と心に残る

    だから僕が娘に残したいのは
    物ではなく時間なのだと思う

    「あなたを大切に想っていました」

    その証拠を毎月一枚ずつ積み重ねている

    もちろん本音を言えばその箱を娘が一人で開ける日なんて来てほしくないし
    いつか全部自分の手で渡してしまいたい

    「あーあ、こんなに書いちゃった」
    そう笑いながら

    でも人生には当たり前なんてないことも知っている
    だから備える
    怖いからではなく愛しているから

    来月もまた手紙が書けますように

    再来月も

    その次の月も

    そんな願いを込めながら今日も私は一枚の便箋を開く
    そして箱の中には
    今月の僕をそっとしまうのだ

    この記事が参加している募集

     
     
    言葉を拾って暮らしています 短文詩『雨粒言葉』と 物語『忘れもの預かり侍』を執筆中 社会福祉士/コレペティトゥア メンバーシップでは 限定Discordと声の配信をお届けしています Amazonアソシエイトメンバー

    あなたへのおすすめ