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Photo bymatsuri365d

接客で一番最初に覚えることは、言葉ではない。

    この春から売場に立つ、あなたへ。
    初出勤の夜、鏡の前で練習した人がいると思う。
    「いらっしゃいませ」の声のトーン。
    「こちら、おすすめです」の言い方。
    先輩の言葉を頭の中で何度も再生した、あの夜のこと。


    自分も、そうだった。

    言葉を覚えれば売れると思っていた。
    上手い一言があれば、お客様の心が動くと思っていた。

    でも、現場に立って気づいた。

    言葉を覚えた新人が最初につまずくのは、言葉が足りないからではない。
    「何を見るか」を知らないまま、言葉だけ先に持っているからだ。


    売れない新人には、共通する動きがある。

    お客様が入店した瞬間に、声をかける。
    「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

    お客様が黙って商品を見始めると、そこへ近づいていく。
    「こちら、今シーズン入荷したばかりで……」

    気づけば、説明が続いている。
    お客様の表情が少し固まる。
    「ちょっと見てるだけです」

    この流れを、何度繰り返しただろうか。

    問題は、言葉ではない。
    タイミングを決める「見る場所」を知らなかったことだ。


    売れる先輩の動きは、全く違う。

    お客様が入店したとき、すぐには動かない。
    ただ、視線だけ動かしている。

    お客様の足が止まる場所。手が伸びる方向。表情の変化。
    そこに、その人が今日何を求めているかが出ている。

    声をかけるのは、その読み取りが終わってからだ。
    だから、一言目がズレない。
    声をかけられたお客様が、警戒ではなく「そうなんです」と答える。

    先輩が持っているのは、上手い言葉ではない。
    「どこを見るか」という判断軸だ。


    接客は、話す仕事ではない。

    これは、20年立ってきた売場で一番確信していることだ。

    接客とは、見て、読んで、必要なことだけ渡す仕事だ。

    だから、最初に覚えることは言葉の量ではない。
    「今日、自分はどこを見るか」を一つ決めること。

    視線でもいい。
    足の止まり方でもいい。
    手が伸びるタイミングでもいい。

    一点を絞って見続けると、見えてくるものがある。
    見えてきたものが、言葉の選び方を変える。
    言葉の選び方が変わると、お客様の反応が変わる。

    その積み重ねが、接客の「型」になっていく。


    もう一つ、伝えておきたいことがある。

    売れなかった日を、失敗だと思わないでほしい。

    接客が続けられなかった日は、確かにある。
    言葉がうまく出なかった日も、お客様に背中を向けられた日も。

    でも、売れなかった日に「見たこと」は、必ず次の接客に残る。
    「あのお客様は、なぜ最後に足が止まったんだろう」
    その問いを持ち帰れた日は、ちゃんと成長している。

    楽しさは、売れた瞬間ではなく「分かった時」に来る。
    何をすればいいか分かった時。しなくていいことが分かった時。

    その瞬間を、あなたは必ず迎える。


    この春、売場に立つあなたへ。

    言葉は、あとからいくらでも増える。
    でも「どこを見るか」だけは、誰かに言われて身につくものではない。

    自分で決めて、毎日少しずつ確かめながら育てていくものだ。

    今日、あなたは売場で何を見ますか。


    本日はここまでです。読んで頂きありがとうございます。また読んで貰えると嬉しいです。

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