
恋愛小説「想い出つづる」アニメ絵付き (6話)
(夢と現実)
ユズキは、パスタ屋のカウンター席に座っ
て隣の席の翔太を見ていました。
翔太のその向こうに女の子が並んで座って
いました。
『真面目そうな可愛い女の子ね』と、
ユヅキは思いました。
翔太たちは、今観て来た映画の話しをして
いるところでした。

麻衣ちゃんをカフェに誘った時のような
ガチガチな翔太ではありませんでした。
『今回は翔太、上手くやってるのかな?』
と、ユヅキは二人を温かく見ていました。
「菜々子ちゃん、次の日曜日何か予定ある
?」と、翔太が聞きました。
「今のところ何もないよ」
「それだったら、前に行きたいって言っ
ていた日本の原風景が見れるあそこに行
かない?」
「うん、行きたい」
『もちろん、私も一緒よ』と、ユヅキは
自分がデートする気分になっていました。
『あっ、その前に翔太と菜々子ちゃんと
の出会いの記憶を見とかないと』
二年間通った、専門学校の卒業が近づいた
頃、クラスでサイン帳にメッセージを書い
てもらうということが流行りました。
僕も、それを見習ってサイン帳にクラスメ
ートからのメッセージを書いてもらいまし
た。
そのメッセージの中で、菜々子ちゃんから
のメッセージが特別、僕の心を震わしまし
た。

なんと、菜々子ちゃんは、皆が1ページだ
け使ってメッセージを書いていたのに、
菜々子ちゃんは3ページにわたる長いメッ
セージを僕の為に書いてくれました。
そのメッセージの中に、こんな詩も添え
られていました。
「春 桜の季節 淋しいね さようならの
言葉で空いた心は 次に来る こんにちは
の言葉で満たされる」
それから、菜々子ちゃんがメッセージの中
で「思う」ではなく「想う」という漢字を
使っている事に僕は新しい発見をしました。
それまでの僕の頭の中には、「思う」とう
漢字はありましたが、「想う」という漢字
はありませんでした。
菜々子ちゃんのメッセージを読んでから、
急に菜々子ちゃんを意識するようになって
しまいました。
二年生から菜々子ちゃんとも同じクラスだ
ったのに、僕は、麻衣ちゃんしか見ていな
かったことを少し悔やみました。
菜々子ちゃんが書いたメッセージをきっか
けに、僕と菜々子ちゃんは、卒業後も連絡
を取るようになりました。
ただ、「友達以上恋人未満」という関係で
したが。
でも、菜々子ちゃんと会って話しをしてい
るだけで僕は幸せな気分になれました。
僕のそんな平穏な幸せは、「仕事の関係先
の外国人から猛烈なプロポーズをされてい
る」と、菜々子ちゃんの口から聞くまでで
した。
卒業してもバイト生活している僕には、
「そんなプロポーズ断れ」なんてとても言
えませんでした。
『また出た! 翔太の悪い癖、菜々子ちゃ
んはその言葉を待っていたのよ、ある意味
翔太を試したのよ』と、ユヅキが訳知り顔
で言いました。
その時僕は、自分勝手に「菜々子ちゃんも
そのプロポーズが迷惑そうだった」と思う
ようにして、二人の話はそれ以上そのこと
に触れないまま終わりました。
ただ僕は、前に菜々子ちゃんが「外国に住
みたい」という夢を語っていたことが少し
引っかかっていました。
僕は、菜々子ちゃんにプロポーズをした
外国人のことが気になっていましたが、
「友達以上恋人未満」の関係が壊れるのが
怖くって、何も出来ないままズルズルその
ままの関係が続いていきました。
そんな時、菜々子ちゃんから初めて映画に
誘われました。
『それで今、映画の後ここでパスタを食べ
ていたってことなのね』
『菜々子ちゃんとは、こういう関係だった
んだね、上手く恋人になれると良いんだけ
ど』と、ユヅキは隣でパスタを食べている
翔太に向かって言いました。
翔太と菜々子ちゃんは、待ち合わせした駅
から電車に乗って山間の田園風景が綺麗な
駅で降りました。

あいにく天気は雨でしたが、それがかえっ
て田園風景の情緒を盛り上げていました。
傘をさして雨の中を二人で歩いて行きまし
た。
その二人の姿はまるで浮世絵の中を歩いて
いるように見えました。
『私もこんな所を翔太と歩きたかったな』
と、ユヅキは、羨ましそうに前を歩く
菜々子ちゃんを見ながら呟きました。
時より現れる、ひっそりしたお寺や神社に
二人は立ち寄ったりしていました。
ゆったりした時間に包まれた世界を二人は
楽しんでいました。
お昼に、古民家のおそば屋を見つけて入っ
て行きました。
食事を食べ終えた頃、菜々子ちゃんが、
「私、あのプロポーズを受けようと思って
いるの」と、突然言い出しました。
「えっ」
「そうなんだ」
翔太はそれ以上声が出なくなってしまいま
した。
その空気を察して、菜々子ちゃんが何かし
ゃべり出しましたが、翔太の耳には何も入
って来ませんでした。
二人は、おそば屋さんを出ました。
小雨になっていた雨は、翔太の気持ちとシ
ンクロするように土砂降りになっていまし
た。

『翔太、泣いてる場合じゃないよ、「プロ
ポーズを受けようと思っているの」て、こ
とはまだ受けてないんだよ』
『菜々子ちゃんは、翔太に引き留めてもら
いたいんだよ』
『翔太、ここで男にならなきゃ』
そんなユヅキの声も虚しく、翔太は未だに
幼い恋しか出来ないままの翔太でした。
『やれやれ、何時になったら翔太は大人の
恋が出来るのよ?』
『次の出会いもなんだか不安だけど、
ここまで来たら見ないわけにはいかない
よね』
恋愛小説「想い出つづる」アニメ絵付き(7話)へつづく