2026年8月の音楽月報(DOMi & JD BECK、ストレイテナー、Xênia França)
DOMi & JD BECK / PHANTOM THREAD
楽しみにしていたZ世代ドラム&キーボードのジャズユニット、DOMi & JD BECKの新譜。2025年サマソニの出演直前、2枚目のフルアルバムの録音は終わっているよとインスタに投稿されてから随分と待ちましたが、待った甲斐のある挑戦的かつ素晴らしい作品でした。
技巧派アーティストとして知られる2人ですが、今回は金管楽器系の外部ミュージシャンを大胆に導入、ほぼ全曲で2人が歌うという、デビュー作とは全く異なる仕上がりに。
1枚目でもこの曲は2人だけで歌っていましたが、他の曲はゲストがリードボーカルを取っていたのでそれだけで大分印象が変わりますね。
ただ、この歌の導入をポップスへの接近と解釈するのは早計で、「まず曲をすべて譜面に書き出し、楽器を練習してレコーディングした」 「ボーカルメロディはオーケストラの楽器が奏でているラインを歌っている」とインタビューで話されていました。
つまり、今作はドラムとキーボードというユニットの物理的制約を取り払い、2人の理想とする音像をダイレクトに出力したのが今回の作品、という所なのでしょう。
ボーカルパートはすべて、スコアの一部としてSibeliusに書かれていた。ボーカル入りの曲のほとんどで、メインメロディはオーケストラの別の楽器でダブリングされている。例えば“GROWiNG OLDER”のイングリッシュホルン、“HAD ENOUGH”のフルート、“SOME THiNGS NEVER CHANGE”のバスーン(ファゴット)など。
現時点での私的ベストトラックはこの曲。先の発言の続きにもなりますが、作品を通じて特にフルートをはじめとする木管楽器が通奏低音的に鳴っており、この曲は特にボーカルのメロディとユニゾンしたり、歌の余白を引き継いで更に高い音域を到達したり、曲の魅力を拡張するようなプレイが素晴らしい。
2021〜2024年くらいの星野源は弦・管楽器隊を入れないミニマムな編成でライブをしていましたが、フルート(サックス等もご担当)奏者の武嶋聡氏は必ずライブメンバーに加えていたことも何となく思い出しました。Rolling Stonesインタビューでの発言も引用しますが、木管楽器の担う役割というのは大きいのでしょうね。
JD・ベック:特に木管楽器を多く使ったのは、僕たちが楽器も使わず、自分たちの歌も入れずに作曲していたからなんだ。木管楽器がボーカルの役割を果たしてくれるような感覚があった。息づかいや音の動き方が、人の声に一番近い気がしたんだよね。
デビュー前のNord SessionsとJD BeckのZildjan LIVEで彼らを知ったので、もっとアグレッシブでテクニックを押し出したインプロヴィゼーション的な方向性に舵を切って欲しかったな〜という思いは、無くはないです。
ただ、数少ないインスト曲『CONCERTiNO』では全編通して凄まじい手数を披露したり
何より後にリリースされたインスト盤を聴くと、一聴すると歌モノに聴こえる曲でも裏のオーケストラは複雑なラインを描いていたりと、
人懐っこそうなフォルムには似つかない情報量の多さには聴くたびに発見も多く、長く楽しめそうな作品だなと。
インスト盤やカラオケ版は食指が伸びないのですが、通常盤では特に惹かれなかった『EXiT 』の歌に隠れてた複雑かつ美しいオーケストラがインスト盤だとより強く聴き取れて一気に好きになったり、
このアルバムについてはむしろインスト盤もセットで聴くことで曲の全体像を把握して深く楽しむことが出来そうです。
そして年末には東名阪ツアー。2023年の初来日から毎年来てれて本当に嬉しいことです。というか4年間も毎年来日してくれるアーティストってマジで貴重かつ前例が無いのでは…。デビューしたての頃のTHE 1975くらいしか私は記憶にないです。
後最後に完全な蛇足。2024年の来日から演奏し始めたAphex Twinsのカバーの音源化だけマジで何卒お願いします…ホント良かったんでアレ…
ストレイテナー / シーグラス - DECADE EMO MIX
近年の彼らが時折取り組んでいる、過去曲のリメイクシリーズ。
Melodic Stormに次ぐ代表曲のこれを手掛けるのは予想外でしたが、いやはや素晴らしいアレンジでした。キャリア的にはもう大御所に差し掛かるのに、この人たちずっと良いの本当に凄い。
イントロからギター2本が絡むアレンジに変わったことで、音像全体がカラフルになった印象。
原曲よりから少しだけBPMを落とすことでよりメロディの美しさが全面に出ていますが、それは原曲発表から10年経過した彼らだからこそ出せる魅力なのかなぁと。
切なさやるせなさを抱えたまま走り抜けていく原曲、一度精算した悲しみを遠い視点から思い返しているような、爽やかさと切なさが同居しているような新録バージョン。どちらも好きですが、今の私にフィットするのは今回のバージョンかな。
ストレイテナー、決して大衆的な存在とは言えないものの、毎年ツアーを回り、しっかりと「良い新曲」を定期的に作る、ある意味スピッツ的なロックバンドとしての理想的なキャリアの重ね方をしているなぁと思います。ずっとよくてずっと良いバンドって素晴らしい。
Love Spells / Heart For Eyes
私としては珍しく継続的に活動を追っているラッパー、Kevin Abstractの昨年の新譜での客演で知ったシンガーのデビューアルバム。
作品全体を通してどこか煙たい室内を感じると言いますか、靄ががった丸い音色で全ての楽器が鳴らされている、素晴らしいインディーポップが楽しめました。
Kevin Abstractの作品を聴いてた際はもっとヒップホップ文脈の方なのかな?と思っていましたが、いい意味で期待が裏切られました。
以下のインタビューも読みましたが、出身地であるテキサスのカントリーミュージックの影響も大きいと。
リズムはシャッフルだったり、アコースティックな楽器で音像が構成されていたりとオーセンティックな出来上がりになってもおかしくないのに、
彼の線の細く美しいボーカルと、先述した「煙たい、靄がかった音像」が合わさるとドリームポップに近い質感が覗く瞬間もあったのが面白かったです。
Xênia França / Ancestral Infinito
ここ数年、断続的に思い返しては聴き返しているブラジルのシンガー。
スムースな歌声からネオソウルと紐付けて聴いていましたが、他にも同じ界隈のシンガーは聴いている中で、この作品を定期的に思い返して聴く程心に引っかかっていたのは、ビートの使い分けが独特で、曲ごとの特徴が私の中で掴みやすいからかなーと。
アルバムの中だとこの曲が顕著なのですが、印象的なイントロのロートタムと思しき音程が自在に上下するタイコの音色、時折挟まるウォータードラムといった民族的な音色のビートが印象的で。
そしてBメロまでの展開を2回しした後、強制的に場面を転換させるような発振音からサビに移行するとスタンダードなドラムセットにビートの主役を譲り、歌を引き立てる存在に戻る。
同じドラムスでも音色の違いによって曲のシーンが明確に変わることが感じられて、使い分けが上手いなぁと。
ビートの観点でもう1曲。アルバムの最後を飾るこの曲では、間奏でそれまでの性急なハイハットが印象的なビートから一点し、BPMを落とした上で絶妙なタイム感のタム回しが主体のビートになる箇所が最も印象的。
更にもう一曲、美しくもスリリングなストリングスアレンジが心に残るこの曲の共同制作者、Arthur Verocaiのお名前をどこかで見たことがあるなと思って検索をかけたら、Hiatus Kaiyoteの作品でもストリングスアレンジを手がけていた方でした。
今年の前半にも聴いていたPedro Martinsと彼女を皮切りに、これまで未開拓だったブラジルの音楽にも触れていくことが出来そうです。
Thom Yorke / Dawn Chorus
お盆休み、少し前に出ていたシドニーオペラハウス前でのThom Yorkeソロライブ映像を見ました。2年前のソロ来日を思い出して懐かしい気持ち。
太いく無機質なシンセベースに昔のゲームを思い出す、チープな8bitのような音色のキーボードの連弾。このトラックに歌声をのせるだけでポップソングに出来るのはこの人の声質に依るものでしょう。
RadioheadであれAtoms for PeaceであれThe Smileであれ、彼の音楽は実験的な要素も多分に含んでいるものの、そこに意識が行く前にポップソングとしてツルンと受け入れられるのは、何より普遍的なメロディーの良さと歌声の美しいに因るものだよなぁと改めて。
この声で歌えばポップソングになるの、ある種のチートですらあると思います。大好き。
Jutin Brown / Lots for Nothin'
Dolphin Hyperspaceへの客演で知ったドラマーJustin BrownがリーダーとなったプロジェクトNyeusiの作品。読み方はニエウシ、で合っているのでしょうか。
前半は特にフュージョン的な疾走感といいますか、特にこの曲はキーボードがメインのメロディを担う中でオカズをこれでもかと詰め込んで駆け抜けるようなドラムが気持ちいい。
私的なツボは、すこし錆びた金属が鳴るような「ジャラッ」というシンバルの音色。狙って録られているのか分かりませんが、独特な残響感があって好きなのです。
私的にこのアルバムがとても聴きやすかったのが、序盤はアップテンポな曲を配置しつつ、中盤からはテンポをさげつつ、うねるようなグルーヴの曲が増えてることでダレずに通して聴けること。
推し曲として最後まで悩んだのがこの曲で、ランダムに音程が上下する様がどこかスペイシーなシンセの波の手綱を握るように支えるドラムが良かったです。
参加メンバーをまとめたページを見つけたので引用させて頂きます。演奏者の経歴をまとめる能力が本当に私は無いので、こうした記事を作られている方にいつも助けられています。
今月分は以上となります。
先月の月報はこちら。
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