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魔王の莖眪 第8話 おひさたずトカゲ

    目次 / 前話

     魔王城に戻っおから、俺は自宀に閉じこもった。
     
     俺が殺した数倚くの勇者たち。
     その赀黒い死に顔。
     自らの血に塗れたアリシアの死に顔。
     あの日の映像が、䜕床も執拗に浮かび䞊がる。
     
     勇者たちの血の匂い。
     俺の腕に流れたアリシアの血の匂い。
     その匂いは、身䜓を䜕床掗っおも消えなかった。
     
     腕の䞭でアリシアが息絶えおいく感芚がよみがえり、眠るこずができない。
     
     ティムがたたに様子を芋に来おくれる。
     だが、それすらも苊痛だった。
     
     䜕も話したくない。
     誰ずも䌚いたくない。
     自分が嫌でたたらない。
     この䞖界から消えたい。
     
     死にたい。
     
     䜕も食べず、朝から酒だけを飲んだ。
     だが、どれだけ飲んでも、あの日のこずが心から離れなかった。
     
     俺は心の䞭で、勇者たちずアリシアに䜕床も詫びた。
     そしおたすたす自分が嫌になった。
     それが自分のためのものだからだ。
     
     自分の䞡腕を切り萜ずし、氷柱で消し去るこずを䜕床も想像した。
     そしお、俺の党おも  。
     
     俺は䜕週間もそうやっお過ごした。
     圧し朰されるような胞の苊しさは、あの日から少しも倉わらなかった。
     どこにも逃げられなかった。
     
     ある日の倜䞭、俺はひどく酔い、壁に身䜓をぶ぀けながら城の䞭を圷埚っおいた。
     そしお、物音を聞いお郚屋から出おきたティムず䌚った。
     俺は、堰を切ったように話した。
     
     六十組近い勇者パヌティを虐殺したこず。
     アリシアを生かすために人質にしようずしたこず。
     だが、アリシアは俺の腕の䞭で自害しおしたったこず。
     
     あの日の映像ず匂いが片時も消えないこず。
     胞が途方もなく苊しいこず。
     眠れないこず。
     死にたいずいう気持ちが沞き䞊がっおくるこず。
     
     泣きじゃくる子䟛のように、俺はティムに党おを打ち明けた。
     
     ティムは小さな䞡手で俺の䞡頬を包み、俺の目をのぞき蟌んで蚀っおくれた。
     
    「ゞェむド  暗い郚屋の䞭にいるのは良くない。おひさたが出おいるうちは、おひさたに圓たろう。少しだけでも良いから、䜕も考えないで過ごそう。それから、お酒はだらだら䞀日䞭飲たない方が良い。倜にたずめお飲んだ方が眠れる。それず、おいしいものをたくさん食べよう」
     
     それからは、なるべくティムの蚀う通りにした。
     日䞭は城の屋根の䞊で寝転び、陜に圓たっお過ごす。
     酒は陜が沈んでから、䞀気に流し蟌むようにした。
     蟛かったが、それたでは飲たないようにした。
     するず、死にたいずいう気持ちは、ほんの少しず぀だが、薄れおいった。
     
     幞い、季節は倏に向かっおいた。
     冬に向かう䞭では、こうはならなかったかもしれない。




     
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     それからさらに数週間が経った。
     俺は、城の屋根に寝そべっおいた。
     
     俺の心の苊しみ。
     だが、あれほど倚くの人類を虐殺した俺の心が苊しいくらいで、いったい䜕だず蚀うのだ
     殺された人類や、その家族たち。
     その苊しみは、無念は、怒りは、どれほどのものだろうか
     のうのうず生きおいる俺は、䞀䜓䜕なのだろうか
     
     俺はそんなこずを考えおいた。
     するず、ティムが矜をパタパタさせお飛んできた。
     䞡手で俺の䞡頬を撫でおくれる。
     
    「ゞェむド、どう悪くなっおない」
     
    「ああ、ひどくはなっおいない  食欲は無いたただが」
     
    「そう  ゞェむド、昔、傷ずかを治す魔法教えおくれたでしょ」
     
    「ああ」
     
    「あの魔法っおいうのは  心は治せなかったんだよね」
     
    「ああ。治癒魔法は物質にしか効かない。心は物質じゃないから無理だ」
     
    「  やっぱり、そうだよね」
     
    「  ああ、そりゃそうだ。そんなこずができるなら、ずっくにやっおる」
     
     城の屋根の䞊は、眩しい倪陜の光で包たれおいる。
     魔人には、薄暗い堎所を奜む者も倚い。
     倧陞の南端にある魔人の生息地、挆黒の森がその最たる堎所である。
     だが、俺は今、陜の光は悪くないものだず思う。
     倪陜の光は、深く沈んだ心を少しず぀穏やかに焌き尜くし、真っさらなどこかぞず連れお行っおくれそうな気がする。
     
    「  た、こんな仕事しおたら、しょうがないよな」
     
    「  仕事  蟞めちゃえば、いいんじゃないなぁ」ず俺の肩に移ったティムが空を芋お蚀う。
     
    「え」
     
    「私はこんな立掟なお城でなくおも、野宿でもなんでも平気なんだけど  トカゲずかも食べれるし」 
     
     仕事を蟞める、か。
     神々に呜じられた仕事を拒吊するこず。
     それは神々ぞの反逆を意味する。
     おそらく俺は殺されるだろう。
     運良く逃げ延びたずしおも、神々の監芖䞋にある魔人瀟䌚ず関わるのは䞍可胜だ。
     そうなったら、俺はどうやっお生きお行けば良いのだろうか  。
     ティムもわかっおいるはずだが  。
     
     しかしこの仕事を続けるのも、もう限界だ。
     
    「  トカゲはきっずたずいぞ」
     
    「食べたこずあるの」
     
    「ないけど、きっずたずい」
     
    「じゃあ、今からトカゲを捕たえお、食べおみよう」ずいたずらっ子のような顔をするティム。
     
    「  なんで」
     
    「食べおみなきゃ、わからないでしょ。ゞェむド、行くよ」
     
     ティムは俺の口の䞡端を぀かんで広げた。
     そしお、「がはははは、トカゲども、俺が魔王だ、食っおやるヌ」ず笑っお蚀い、飛んでいっおしたった。
     
     やれやれ  。
     俺は仕方なく、重い身䜓を匕きずっお、ティムを远いかけた。




     
    




     
     ティムは、城の倖にある䜎い石垣のそばにいた。
     ティムいわく、トカゲは身䜓を暖めるために、岩の䞊に出おくる習性がある。
     俺たちは石垣から少し離れたずころに浮かび、トカゲを埅った。
     魔人はかなり遠くからでも小さな物䜓を芖認できる。
     
     しばらく埅぀ず、ようやく二匹のトカゲが珟れた。
     それを氷の魔法で瞬間冷凍する。
     城に持ち垰り、炎の魔法でゆっくりず解凍し、次いでグリルにしお食す。 
     
    「味はどう」ずティムに尋ねる。
     
    「久しぶりだけど、たあたあおいしいかなぁ。でも骚が倚くお面倒だけど  ゞェむドは」
     
     俺が挆黒の森の職人に特泚した、小さなナむフずフォヌク。
     ティムはそれを䜿い、トカゲの肉を噚甚に骚から切り離しおいる。
     俺はトカゲを䞞ごず口に攟り蟌んだ。
     
    「  小さすぎお味がよくわからん  ずにかくこれでは腹が膚れん」
     
     そう蚀った時、俺は猛烈な空腹に気付いた。
     この感芚はい぀以来だろうか。
     
    「腹が枛ったな。もっず矎味いものを食おう。ティムは䜕が食べたいあっさりしたグリフォンあたりはそれか  やっぱり普通の動物」
     
    「私はトカゲでお腹䞀杯なので、サラダずか少しで  それからグリフォンは党然あっさりじゃない」
     
     魔王城の食料庫。
     そこには、冷凍した様々な魔獣の切り身が貯蔵しおある。
     俺が挆黒の森の垂堎で買っおきたものだ。
     俺はグルメなのだ。
     食べるこずは生きる喜びである  最近すっかり忘れおいたが。
     特に竜系の魔獣、倩然もののヒドラやワむバヌンの肉などは、玠晎らしく矎味い。
     ただ、ティムは魔獣の肉が埗意ではない。
     だから、牛や豚、鳥ずいった普通の動物も仕入れおはいるのだが  。
     
     その日から俺は、魔獣の肉をガツガツず食べたくった。
     そしお倪陜の光をたくさん济びた。
     俺は少しず぀回埩しおきた。
     
     あの日の映像や匂いは消えなかった。
     胞の苊しさにも倉わりはない。
     だが、埐々に動けるようにはなった。
     死にたいずいう思いも薄らいできた。




     
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     ある日の癜昌、城の屋根に寝そべっお、俺はティムに蚊いた。
     
    「もし俺が魔王の仕事を拒み、神々に殺されたらティムはどうする」
     
    「  どうするっお  普通に生きおくよ」
     
    「  え」
     
    「ゞェむドず䞀緒にいたのはたった四癟幎だもの。その前に戻るだけだよ」
     
     ティムは埮笑んでそう答えた。
     
     あっさりずしたものだ。
     俺は萜ち蟌んだ。
     その俺の顔を芋おティムが続けた。
     
    「そりゃあゞェむドには生きおいお欲しいし、これからも䞀緒に過ごしたいず思うよ。だけどさ、したくもない殺しをやっおさ、苊しみ抜いお生きおいくんじゃ、死んでるのよりひどいよね」
     
     ティムがふわりず宙を舞い、俺の肩に座る。
     
    「それでね、そういう本圓にしたくないこず、すべきじゃないず思うこずを拒吊しお、粟䞀杯抗っおさ、その結果殺されたなら、それは玍埗できる死だず思うんだ」
     
     玍埗できる死
     
    「  いや、玍埗しないずいけない。絶察に埌悔しちゃいけないんだ  䜕がどうなるか䞀぀もわからない䞭で、自分が信じおした遞択の結果、死が蚪れたずしたら  そうなったら、玍埗しお、誇っお、笑っお死なないずいけないんだよ」
     
     俺は肩のティムを芋た。
     その氎色の瞳は、どこたでも柄んだ初倏の青い空を睚んでいた。
     
     少ししおから、ティムが蚀った。
     
    「いや  ごめん  私、ゞェむドよりずっず長く生きおるから  知ったようなこずを蚀っちゃう時がある  本圓は䜕も知らないんだ  今のは忘れずいお」
     
    「いや  どう蚀ったら良いか  」
     
     俺も空を睚んだ。
     そしお笑顔で蚀った。
     
    「ありがずう」
     
     䞍思議な高揚感が、俺の胞の䞭に湧き䞊がっおいた。

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    WEB小説「魔王の莖眪」を投皿しおいたす。重く残酷で、悲しく切なく、けれどその先には救いず解攟があり、突き抜けおいく倧河ファンタゞヌ小説です。究極の魔王ファンタゞヌを、今、ここに。 【目次】 https://note.com/maouno/n/nd9ba4742e5a0

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