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「弁」「弇」「弁`」「弁、」「′开」…並べて分かる?異字体のワケ:制水弁と仕切弁

    常用漢字「弁」の無茶な経緯

    上水道のマンホール「制水弁」「仕切弁」にも使われる漢字、「弁」。

    この漢字、常用漢字制定時に4つの旧字を1つの「弁」にまとめる無茶をしたことで有名である。

    元々の旧字4つ
    「弁」:かんむり。(例:武弁)
    「瓣」:液体や気体の流れを調整するもの。(安全瓣)
    「辨」:わける。(辨別)
    「辯」:かたる。(辯解)

    (出所)漢字ペディア

    制水弁は、漢字の「弁」を使っている。
    「瓣」も「弁」にまとめられたわけだから、当たり前だ。

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    まさかの「弇」も登場

    しかし戦前の古い制水弁は、なぜか上記の漢字のどれでもない、「弇」(えん)の字を使っているものがある。

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    その理由として、「意味が近い漢字だから」「そして形も似ているから」と説明されることが多い。

    意味が近いのは理解できる。
    「弁」=液体や気体の出入りを調節するもの。
    「弇」=おおう。かぶせる。

    でも形は似ているだろうか?
    私は納得できなかった。

    そこでふと思い出したのが、東京国立博物館の仏像彫刻である。
    その理由を語ろう。

    着想のきっかけ:仏像彫刻の外見の変遷

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    ↑東京国立博物館 本館。

    前回の記事で、私は東京国立博物館の「各国の仏像彫刻の展示が好き」と言及した。

    皆さんは仏像彫刻を見て、「なんで髪の毛がパンチパーマなんだろう?」「その服装、どんな構造の布が垂れ下がってるの?ありえる?」と思ったことはないだろうか?
    私もそう感じていた。

    そして私は、東京国立博物館の展示を見てその疑問が氷解した。
    「ああ、シルクロードを西から東に伝わる間に、伝言ゲームみたいにデザインが少しずつ変わったのか。」

    西洋風ゆるパーマとローマのトーガ風の服装、外見も西洋人風からスタートして、
    最終的に日本ではすっかり東洋人風の見た目となっている。

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    ↑パキスタン。
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    ↑中国。
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    ↑韓国。
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    ↑日本。

    仮説:デザインの伝言ゲームで「弁」が「弇」になった?

    「弁」と「弇」も同様に、徐々にデザインが微調整されていって、代用されるようになったのではないか。

    そんな仮説に基づいて、都内各所の地面を探し回ってみると、面白いデザインの揺れを見つけた。

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    「弁」の上部が繋がっており、限りなく「弇」のように見える。
    これが「弁」と「弇」をつなぐミッシングリンクではないか!

    さっそく形が近い順に並べてみよう。

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    ↑一般的な字形。
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    ↑「弁」の上部がくっついている。
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    ↑「弇」だが形が控えめ。
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    ↑堂々とした立派な「弇」。

    並べて見てみると、「形が近い」と言われるのも頷ける。

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    ↑「弁」↔︎「弇」。

    さらに「弁`」「弁、」「′开」も登場

    また、駆け回った副産物として、別の字形のバリエーションも見つけた。

    それが「弁`」「弁、」である。なぜか「弁」に点々がついている。

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    ↑「弁`」。
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    ↑「弁、」の双子。

    また、「弁」の右ツノが無い字形「′开」にも出会った。

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    ↑「′开」。漢字として物足りなく感じる。

    まとめるとこうなる。

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    なお、これらの出現頻度は体感では、
    「弁」>「弁`」>「′开」>「弁、」だろうか。

    「弁`」はしばしば見かけるが、「弁、」は相当意識して探さないと見つからない。

    仮説:「弁」を使うためらい?

    様々な「弁」のバリエーションを探す中で感じたのは、
    「弁」という漢字を使うことに対するためらいであった。

    常用漢字としてまとめられる以前、あくまでこの蓋は正式な意味では「瓣」だった。
    蓋を鋳造する際に文字が潰れないよう、代替の漢字として簡素な形の「弁」を使ったのではないか。

    しかし「弁」の本来の意味は「かんむり」である。
    位の高い者が冠る「かんむり」という漢字を、鉄蓋に使うのに引け目を感じたのだろう。
    「弁」と区別した漢字とするために、点をつけてみたり、ツノを欠いてみたりしたのではないか。

    漢字ではそういった例が実際にある。
    玉座の「玉」は、「王」という漢字に敬意を払い、点をつけて区別しているのだろう。
    「卅」は、唐の皇帝・太宗の諱である世民の「世」の漢字を避ける避諱として、画数を減らしたものである。

    旧字体「瓣」を見にいくはずだった

    そしてこれだけバリエーションがあるなら、旧字体の「瓣」を使った蓋だってもちろんある。

    しかしレアないわゆる「骨董蓋」であるため、しっかりインターネットでその所在地を確認してから現地に向かうと…

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    ↑「瓣」の蓋があるはずの場所

    なんと、無い!
    というより、削られてしまっている!

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    ↑無残に削られた蓋。

    あるべきはずの蓋がない。
    私は周囲を何度もウロウロしたが、無いものは無い。

    時間帯が朝の通勤時だったからか、通行人が私を不審そうに見て通り過ぎていく。
    おそらく傍目から見ると、私は大事な物をどこかに落として悲壮に暮れている人に見えたことだろう。

    旧字体「瓣」を探す旅はまだまだ続く…

    老朽化等もあり、旧字体が書かれた蓋はどうも全国的に現存数がかなり少なくなっているようだ。

    しかしここで諦めるわけにはいかない。
    将来の記事では、日本全国を旅し、旧字体の蓋に出会うまでの道筋を皆様にご紹介することとしよう。

    おまけ①:さらなるバリエーション「弇、」に出会う

    「弇」に点々をつけた「弇、」に出会うことができた。
    「気」も「氣」になっており、あわせて「排氣弇、」である。
    字面がイカつすぎる。

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    場所柄も外務省の目の前であり、ますます強そうだ。

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    おまけ②:「止水栓」「栓水止」「栓止水」

    止水栓の表記にも差異を見つけて面白かったので共有する。
    「栓水止」は右書きだと分かるが、「栓止水」は何なのだろう。

    また、左書きの「止水栓」は名古屋では頻繁に見つかるが、
    東京では見つけるのはかなり困難で、大半の左書きは「止水弁」表記だった。

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    ↑名古屋の「止水栓」。
    「◯八」は名古屋市のマークだが、「P」はどういう意味だろう。
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    ↑東京の「止水栓」。
    見つけるのにかなり苦労した。
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    ↑「栓水止」。
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    ↑「栓止水」。もはや「水」の字形は「木」である。

    おわりに

    今後もマンホールにまつわることを、好奇心に基づき書いていこうと思います。
    今回の記事を読んで地面の蓋に書いてある漢字の字形が気になりはじめたら、スキで教えていただけるとうれしいです。

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