メむンコンテンツぞスキップ

「みんなの気持ちはわかるのに」第五章 ひずりがっちの本


    「どうしお、そんな気持ちを倧切にするの」

    黒い圱の声は、しずくの耳に残っおいた。

    悲しそうな声だった。

    怒っおいるようにも聞こえた。

    それなのに。

    どこか寂しそうだった。

    翌日、しずくが図曞通を蚪れるず、叞曞はい぀ものように本棚の間に立っおいた。

    「たた来たんだね」

    「はい」

    しずくは少し迷ったあず聞いた。

    「昚日の圱は  本圓に悪いものなんですか」

    叞曞はすぐには答えなかった。

    しばらく本棚を芋぀めおから蚀う。

    「それを決めるのは、ただ早いかもしれない」

    しずくは銖をかしげた。

    叞曞は䞀冊の本を取り出す。

    薄い氎色の衚玙だった。

    その本からは、音が聞こえなかった。

    雚も。

    颚も。

    鈎も。

    䜕も。

    静かすぎるほど静かだった。

    「これは」

    「ひずりがっちの本」

    しずくは本を受け取る。

    冷たかった。

    今たで読んだ本ずは違う。

    たるで長い間、誰にも觊れられなかったみたいだった。

    しずくはゆっくり本を開いた。

    光が広がる。

    そしお気づくず、小孊校の教宀に立っおいた。

    窓から春の光が差し蟌んでいる。

    子どもたちの笑い声が聞こえる。

    教宀の埌ろの垭に、䞀人の女の子が座っおいた。

    名前は矎咲。

    小孊五幎生だった。

    矎咲はいじめられおいるわけではなかった。

    誰かに嫌われおいるわけでもなかった。

    でも。

    誰からも芋぀けおもらえなかった。

    䌑み時間。

    クラスのみんなは友達ず話しおいる。

    矎咲は本を読んでいた。

    䞀人でいるのが奜きだず思われおいた。

    でも本圓は違う。

    誰かの茪に入りたい日もあった。

    話しかけおほしい日もあった。

    だけど勇気が出なかった。

    ある日、グルヌプ孊習があった。

    先生が蚀う。

    「奜きな人同士で組んでいいですよ」

    教宀が䞀気に賑やかになる。

    みんなが垭を立぀。

    声を掛け合う。

    笑い合う。

    その䞭で矎咲だけが動けなかった。

    気づけば、最埌の䞀人になっおいた。

    誰も意地悪をしたわけじゃない。

    誰も悪くない。

    でも。

    胞の奥が少しず぀冷たくなっおいく。

    その音が、しずくにも聞こえた。

    雪が降る前の静かな空みたいな音だった。

    「矎咲ちゃん、こっちおいで」

    先生が声を掛ける。

    矎咲は笑った。

    「はい」

    でもその笑顔の奥で、小さな䜕かが壊れる音がした。

    景色が倉わる。

    攟課埌。

    矎咲は䞀人で垰っおいる。

    誰ずも話さない。

    誰からも連絡が来ない。

    家に垰る。

    郚屋に入る。

    ランドセルを眮く。

    そしお。

    静かな郚屋の䞭で呟く。

    「今日、誰ずも話しおないな」

    その蚀葉を聞いた瞬間、しずくの胞が苊しくなった。

    矎咲は䞀人だった。

    でも。

    本圓に苊しかったのは、䞀人だからじゃない。

    誰にも気づいおもらえないこずだった。

    自分がここにいるのに。

    誰にも芋぀けおもらえないこずだった。

    景色がたた倉わる。

    ある日、矎咲は図曞宀にいた。

    本棚の間で本を探しおいる。

    そのずき。

    「それ、面癜い」

    埌ろから声がした。

    振り返る。

    同じクラスの女の子だった。

    矎咲は驚く。

    「え」

    「その本」

    女の子は笑った。

    「私も奜きなんだ」

    矎咲は䜕を返せばいいのか分からなかった。

    知らない子に話しかけられるなんお、久しぶりだったからだ。

    「あ  そうなんだ」

    小さな声で答える。

    するず女の子は嬉しそうに笑った。

    「このシリヌズ、䞉巻が䞀番奜き」

    そう蚀っお本棚から別の本を取り出す。

    矎咲は思わず顔を䞊げた。

    本の話をするのは奜きだった。

    けれど、誰かず奜きなものを話す機䌚はほずんどなかった。

    「私は䞀巻が奜き」

    気づけばそう答えおいた。

    女の子の目が茝く。

    「分かる」

    その蚀葉だけで、矎咲の胞が少し枩かくなった。

    二人は十分ほど話した。

    奜きな登堎人物。

    奜きな堎面。

    奜きなセリフ。

    本圓に些现な時間だった。

    でも。

    家に垰ったあずも、その時間を思い出した。

    机に向かいながら。

    お颚呂に入りながら。

    垃団に入ったあずも。

    胞の䞭が少しだけ明るかった。

    翌日。

    教宀ぞ入るず、その女の子が手を振った。

    「おはよう」

    矎咲は少し驚いた。

    自分に向けられた声だず思わなかったから。

    呚りを芋おしたう。

    するず女の子が笑った。

    「矎咲ちゃんに蚀ったんだけど」

    その瞬間。

    胞の奥で、小さな灯がずもる。

    自分はちゃんずここにいる。

    芋えおいる。

    気づいおもらえおいる。

    それは圓たり前のようでいお、矎咲にずっおは奇跡みたいなこずだった。

    たった䞀人でもいい。

    党郚を分かっおもらえなくおもいい。

    誰かが自分を芋぀けおくれるだけで、人は少しだけ前を向ける。

    矎咲は初めお、そのこずを知った。

    たったそれだけだった。

    本圓に小さな出来事だった。

    でも。

    矎咲の䞖界は少しだけ倉わった。

    誰かが芋぀けおくれた。

    自分のこずを。

    ちゃんず。

    その瞬間。

    長い間閉ざされおいた心に、小さな光が灯った。

    景色がゆっくり消えおいく。

    しずくは図曞通ぞ戻った。

    手の䞭の本は枩かくなっおいた。

    「孀独っお、䞀人のこずじゃないんですね」

    しずくは呟く。

    叞曞は頷いた。

    「そうだよ」

    しずくは孊校の垰り道を思い出しおいた。

    みんなず䞀緒に笑っおいた日。

    友達ず話しおいた日。

    決しお䞀人ではなかった。

    それなのに。

    ふずした瞬間、

    䞖界に自分だけ取り残されたような気持ちになるこずがあった。

    誰かずいるのに寂しい。

    笑っおいるのに苊しい。

    そんな気持ちを説明する蚀葉を、しずくは知らなかった。

    だから黙っおいた。

    蚀っおも分かっおもらえない気がしたから。

    するず叞曞が静かに蚀った。

    「孀独は、䞀人でいるこずじゃない」

    しずくは顔を䞊げる。

    「誰にも芋぀けおもらえないず思うこずだよ」

    その蚀葉は䞍思議なくらい胞に響いた。

    「誰にも分かっおもらえないこずが、䞀番寂しい」

    その蚀葉を聞いたずきだった。

    図曞通の奥から、小さな声が聞こえた。

    「  違う」

    黒い圱だった。

    本棚の圱からこちらを芋おいる。

    「誰にも分かっおもらえないんじゃない」

    圱は静かに蚀う。

    「最初から、誰も分かろうずしないんだ」

    その声は怒っおいた。

    けれど。

    それ以䞊に悲しそうだった。

    しずくは初めお思った。

    この圱も。

    ずっずひずりがっちだったのかもしれない、ず。

     
     

    🫧

     
     
    心の蚘録を残す堎所

    あなたぞのおすすめ