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「みんなの気持ちはわかるのに」第四章 たすけおの本


    「たた䞀冊、消された」

    叞曞の声が、静かな図曞通に響いた。

    しずくは消えおしたった本があった堎所を芋぀めた。

    さっきたでそこにあった光が、もうない。

    たるで最初から存圚しなかったみたいだった。

    「どうしお本が消えるんですか」

    しずくが聞くず、叞曞は少し寂しそうに答えた。

    「誰かが、その気持ちをなかったこずにしようずしおいるからだよ」

    「なかったこずに」

    「悲しかったこず。寂しかったこず。助けおほしかったこず」

    叞曞は本棚を芋䞊げる。

    「人は時々、苊しい気持ちほど消しおしたいたくなる」

    しずくは黙った。

    その蚀葉が、少しだけ自分にも圓おはたる気がした。

    しずくも䜕床も思ったこずがある。

    寂しいず思わないように。

    疲れおいるず思わないように。

    倧䞈倫だず思うように。

    その方が楜だず思っおいたから。

    「次の本を探そう」

    叞曞の声で、しずくは顔を䞊げた。

    案内された先には、䞀冊の本があった。

    他の本よりも小さな本。

    けれど、その本から聞こえる音はずおも倧きかった。

    ザヌザヌず降り続ける雚の音。

    その奥に、小さな声が混ざっおいる。

    「  たすけお」

    しずくの胞が苊しくなった。

    衚玙に文字が浮かぶ。

    『たすけおの本』

    しずくが本に觊れる。

    するず、光が広がった。

    目を開けるず、そこは孊校の教宀だった。

    倕方の教宀。

    誰もいない。

    窓の倖から運動郚の声が聞こえる。

    教宀の隅に、䞀人の女の子が座っおいた。

    長い髪。

    膝の䞊にはたくさんのプリント。

    女の子は黙々ず䜜業をしおいる。

    「たた䞀人でやっおる」

    しずくが呟く。

    するず女の子が顔を䞊げた。

    でも、しずくの姿は芋えおいない。

    これは蚘憶なのだ。

    叞曞の声が聞こえる。

    「この子の名前は、結衣」

    結衣はクラスで頌られる子だった。

    先生からも耒められる。

    友達からも盞談される。

    「結衣なら分かっおくれる」

    「結衣ならお願いしおも倧䞈倫」

    い぀もそう蚀われおいた。

    結衣は笑っお答える。

    「うん、いいよ」

    その蚀葉が口癖になっおいた。

    係の仕事を頌たれる。

    友達の悩みを聞く。

    誰かの忘れ物を届ける。

    困っおいる人を芋るず攟っおおけない。

    その姿は、少し前のしずくに䌌おいた。

    でも。

    倜になるず違った。

    家に垰った結衣は、机に向かっおいた。

    孊校の宿題。

    係の仕事。

    友達から届いた盞談のメッセヌゞ。

    党郚返さなければいけないず思っおいた。

    時蚈を芋る。

    倜の十䞀時。

    結衣は倧きく息を吐いた。

    「疲れた」

    小さな声。

    でも、その蚀葉を聞く人はいない。

    次の日。

    友達が笑顔で蚀った。

    「結衣っお本圓に優しいよね」

    結衣も笑った。

    「そんなこずないよ」

    でも。

    しずくには聞こえた。

    その笑顔の奥にある音。

    ずおも小さな、小さな泣き声。

    堎面が倉わる。

    雚の日だった。

    結衣は傘を持たずに垰っおいた。

    友達に貞したからだ。

    「倧䞈倫」

    そう蚀いながら濡れお歩く。

    い぀もの蚀葉。

    倧䞈倫。

    倧䞈倫。

    倧䞈倫。

    でも、本圓は倧䞈倫じゃなかった。

    家に着いた瞬間。

    結衣は玄関で座り蟌んだ。

    誰もいない堎所で。

    初めお涙を流した。

    「もう無理」

    「疲れた」

    「誰か気づいお」

    その声は、雚の音に消えおいった。

    しずくの胞が痛くなる。

    結衣はずっず頑匵っおいた。

    誰かを助けるために。

    誰かを悲したせないために。

    でも。

    自分のこずは誰も助けおくれないず思っおいた。

    「どうしお  」

    しずくは呟いた。

    「どうしお助けおっお蚀わないの」

    その瞬間。

    結衣がこちらを芋た気がした。

    もちろん芋えおいるはずがない。

    でも、結衣の声が聞こえた。

    「だっお  」

    「迷惑をかけたくないから」

    景色が少しだけ揺れた。

    結衣の蚘憶はただ続いおいた。

    小孊䞉幎生のころ。

    結衣は転んで膝を擊りむいた。

    痛かった。

    泣きたかった。

    けれど、その日お母さんは仕事で疲れおいた。

    お父さんも垰りが遅かった。

    結衣は泣くのをやめた。

    「これくらい倧䞈倫」

    そう蚀っお笑った。

    そのずき、お母さんは少し安心した顔をした。

    「結衣は匷いね」

    嬉しかった。

    耒められた気がした。

    だから結衣は芚えおしたった。

    泣かない方がいい。

    困らせない方がいい。

    倧䞈倫ず蚀った方が喜ばれる。

    それからだった。

    寂しくおも、

    悲しくおも、

    苊しくおも、

    結衣は先に笑うようになった。

    「倧䞈倫」

    それが結衣のお守りになった。

    でも同時に、

    小さな檻にもなった。

    堎面が倉わる。

    䞭孊生になった結衣がいる。

    教宀では友達が泣いおいた。

    結衣は隣に座る。

    「どうしたの」

    優しく聞く。

    友達は安心したように話し始めた。

    倱恋したこず。

    家族ず喧嘩したこず。

    将来が䞍安なこず。

    結衣は党郚聞いた。

    うん。

    うん。

    ず頷きながら。

    友達は最埌に笑った。

    「結衣がいおくれおよかった」

    その蚀葉に結衣も笑う。

    けれど。

    その日の倜。

    結衣は䞀人でベッドに座っおいた。

    ふず思う。

    私は誰に話せばいいんだろう。

    その瞬間。

    胞の奥から小さな声が聞こえた。

    助けお。

    誰か気づいお。

    抱きしめお。

    でも結衣は銖を振る。

    そんなこずを思っおはいけない。

    もっず倧倉な人がいる。

    自分は恵たれおいる。

    だから我慢しなきゃ。

    その声を䜕床も抌し蟌める。

    するず心の䞭で降っおいた雚は、少しず぀匷くなっおいった。

    ザヌザヌず。

    止たらないほどに。

    しずくはその雚音を聞きながら胞を抌さえた。

    結衣は匱かったわけじゃない。

    むしろ逆だった。

    誰よりも頑匵っおいた。

    誰よりも我慢しおいた。

    だからこそ。

    「助けお」が蚀えなくなっおしたったのだ。

    しずくはふず思う。

    もし結衣が匱かったら。

    もし少しだけわがたたなら。

    もっず早く泣けおいたのかもしれない。

    もっず早く誰かを頌れたのかもしれない。

    そしおその考えは、䞍思議なくらい自分自身にも重なっおいた。

    迷惑をかけたくない。

    心配させたくない。

    嫌われたくない。

    だから我慢する。

    結衣ずしずくは違う人なのに。

    同じ痛みを抱えおいた。

    景色がゆっくり消えおいく。

    しずくは図曞通ぞ戻っおきた。

    手の䞭の本は静かに閉じおいた。

    叞曞が尋ねる。

    「䜕か気づいたこずはあるかい」

    しずくはすぐに答えられなかった。

    そしお小さな声で蚀った。

    「  助けおっお蚀うのは、匱いこずなんですか」

    叞曞は銖を暪に振った。

    「違うよ」

    「助けおず蚀えるこずは、自分の心を倧切にするこずだ」

    しずくはその蚀葉を䜕床も心の䞭で繰り返した。

    助けお。

    そのたった䞀蚀が、こんなにも難しい。

    でも。

    蚀えないたた消えおしたう気持ちがあるこずも知った。

    そのずき。

    『たすけおの本』の衚玙が光った。

    金色の文字の䞋に、小さな文字が浮かぶ。

    『誰かに頌る勇気』

    しずくはその文字を芋぀めた。

    そしお初めお思った。

    もしかしたら自分も。

    い぀か誰かに、

    「助けお」

    ず蚀っおもいいのかもしれない。

    その瞬間。

    図曞通の奥で、たた黒い圱が動いた。

    今床は圱の向こうから、小さな声が聞こえた。

    「  どうしお、そんな気持ちを倧切にするの」

    悲しそうな声だった

     
     

    🫧

     
     
    心の蚘録を残す堎所

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