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夫を嫌いになった訳ではない。でも離れたいと思った。

    ハワイから日本への帰国準備を始めている。

    家を売る。
    荷物を片付ける。
    日本の住まいを整える。
    表向きはそんな話だ。

    でも本当は、もうひとつ大きな理由がある。

    夫から距離を置きたい。
    そう思うようになったことだ。

    この言葉だけを見ると、夫婦仲が悪いと思われるかもしれない。

    でも少し違う。

    夫が嫌いになったわけではない。
    大きな喧嘩をしたわけでもない。
    浮気があったわけでもない。
    暴力もない。

    それでも私は、離れて暮らしたいと思うようになった。

    ⸻

    若い頃の私は、この人だと思った。
    初めて会った時、特別なものを感じた。
    結婚して、子供が生まれて、ハワイで暮らし始めた。
    当時は、一緒に年を重ねていく友達夫婦になるのだと思っていた。

    たくさん話して、
    たくさん笑って、
    旅行して、
    人生を楽しむ。

    そんな未来を想像していた。
    でも現実は少し違った。

    ⸻

    夫は悪い人ではない。
    むしろ真面目だ。
    責任感も強い。
    家族のためによく働いてきた。
    そこは感謝している。

    ただ、私たちは根本的に違った。

    私は感情を共有したい。
    気持ちを話したい。
    一緒に考えたい。

    でも夫は事実を話す。
    分析する。
    説明する。
    問題を解決しようとする。

    その違いが何十年も積み重なった。

    ⸻

    ある日、日本から持ってきた海苔の佃煮を勧めた。
    「ごはんですよ」という商品だ。

    私は、
    「おいしいよ」
    と言いたかっただけだった。

    すると夫は、
    「海苔がどうしてこうなっているんだ?」
    と聞いた。

    たぶん夫は純粋な疑問だったのだと思う。
    でも私は一瞬で疲れてしまった。

    また始まった。
    そう感じた。

    なぜそんな質問になるのか。

    なぜ普通に食べてみようと思わないのか。
    なぜいつも説明しなければならないのか。
    その時気付いた。

    私は海苔に怒っていたのではない。
    長年の積み重ねに疲れていたのだ。

    ⸻

    最近わかったことがある。

    夫を変えたかったわけではない。
    本当は、自分を我慢させる生活を終わらせたかっただけなのだ。

    若い頃はできた。
    子育てもあった。
    生活もあった。
    夢中で走ってきた。

    でも50代になった今、
    残りの人生を考えるようになった。

    このままなのか。
    本当にこれでいいのか。
    そう自分に問いかけるようになった。

    ⸻

    私は離婚したいわけではない。
    少なくとも今はそうではない。

    ただ距離を変えたい。
    暮らし方を変えたい。
    日本にいる時間を増やしたい。

    自分の人生を、自分の感覚で生きてみたい。
    それだけだ。

    ⸻

    夫は夫の人生。

    私は私の人生。

    それでも必要な時には支え合う。
    そんな形があってもいいのではないか。

    昔の私は、それを失敗だと思っていた。
    でも今は違う。

    夫婦の形は一つではない。

    60代、70代に向けて、
    新しい関係を作り直すこともできる。

    私は今、その入り口に立っている。

    #創作大賞2026 #エッセイ部門

    もし今、
    「このままでいいのかな」
    「人生をもう一度、自分のために選び直したい」
    そんなふうに感じている人がいたら、
    この本が何かのきっかけになったら嬉しいです。

    📖『ハワイ27年。54歳で人生を選び直すまで』
    人生は、何歳からでも選び直せる。
    そう思えるようになった、
    私自身の記録です。

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