Vol.11 専門家に「何か一つ」と聞いたら、全員がこれを答える。
食事、運動、睡眠、お酒、塩分。健康に影響するファクターは山ほどあります。
でも、予防医学の専門家として「何か一つだけ挙げろ」と言われたら、私は迷わず「タバコ」を挙げます。それくらい、喫煙の健康へのインパクトは突出しています。
まず寿命の話をしましょう。20歳より前に喫煙を始めて吸い続けた人の寿命は、非喫煙者と比べて男性で約8年、女性で約10年短くなると報告されています。60歳まで生き抜いた喫煙者でさえ、その後の余命は非喫煙者より約4年短い。
「タバコ=肺がん」というイメージがありますが、それは氷山の一角です。喫煙との因果関係が十分に確かめられているがんは、肺のほか、口腔・咽頭、喉頭、鼻腔・副鼻腔、食道、胃、肝臓、膵臓、膀胱、子宮頸部と全身に及び、大腸がん、腎臓がん、急性骨髄性白血病なども関連が示唆されています。がん以外でも、脳卒中や心筋梗塞などの虚血性心疾患のリスクを上げることが確実とされ、認知症との関連も示唆されています。
次に経済的な損失。タバコ代だけで生涯約1,000万円が消えていきます。これはタバコをやめるだけで、毎月15,000円の高級フルコースを一生食べ続けられる計算です。
一方で、私は喫煙者を責めたいわけではありません。喫煙は「意志が弱いから」続けているのではなく、「ニコチン依存症」という医学的な課題です。
まずは「タバコが何をしているか」を正確に知ること。それだけで、次のアクションは変わってきます。ニコチン依存症は意志力の問題ではなく、脳内報酬系が関与する医学的疾患です。禁煙補助薬(バレニクリンやニコチン置換療法)は、素の意志力だけの禁煙よりも成功率を有意に高めることが複数の臨床試験で示されています。「何度も失敗した」という方は、一度呼吸器内科か禁煙外来への相談をお勧めします。
参考:
厚生労働省 e-ヘルスネット「喫煙者本人の健康影響」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-02-002.html
国立がん研究センター がん情報サービス「たばことがん」
Sakata R, McGale P, Grant EJ, Ozasa K, Peto R, Darby SC. "Impact of smoking on mortality and life expectancy in Japanese smokers: a prospective cohort study." BMJ. 2012;345:e7093. doi:10.1136/bmj.e7093.
*noteの記事の内容は筆者の個人としての見解です。筆者所属の医療機関の見解とは一切関係ありません。内容の正確性には細心の注意を払っておりますが、万が一不適切な内容がございましたらご指摘いただけましたら幸いです。
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