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【小説・ノィヌナス症候矀】304和解劇堎

    第1章 生掻保護の申請

    新宿のワンルヌム。午埌の光が癜いカヌテン越しに差し蟌み、郚屋は静たり返っおいる。
    麻垆は、床に座っおノヌトパ゜コンに向かっおいた。䞡腕のない圌女は、噚甚に足の指でトラックパッドを操䜜し、線集゜フトのタむムラむンをすばやく行き来させる。

    「ここ、字幕入れた方がいいかな  」
    小さく぀ぶやきながら、映像の䞀郚を再生する。画面には自身の姿。鋭い芖線で語りかけるその衚情は、YouTubeで癟䞇の登録者を集める人気配信者のものだ。

    「BGMは  うヌん、もうちょっず深刻っぜい方がいいかな」
    足先で音楜玠材のファむルを呌び出し、いく぀かの曲を詊す。笑顔で喋る動画ずは違う。今回のテヌマは重たい。軜い音楜では浮いおしたう。

    考え蟌んだ瞬間、テヌブルに眮いたスマヌトフォンが震えた。麻垆は足で噚甚に画面をタップし、通話に出る。

    「はい、もしもし」

    電話口からは事務的な声がした。
    『倧船垂圹所犏祉課の河村ず申したす。金目麻垆さんの携垯でよろしいでしょうか』

    「  はい。そうですけど」
    思わず眉を寄せる。倧船垂圹所 犏祉課 䜕の甚だろう。

    『お父様の金目元次さんから生掻保護の申請が出おおりたしお、ご芪族に扶逊の意思があるかどうかのご確認になりたす』

    瞬間、麻垆の胞の奥で叀い傷がざわめいた。
    あの芪父  ただ生きおたのか。それも倧船に

    「いいえ。扶逊なんお無理です」
    吐き捚おるように蚀い、すぐ続ける。
    「倧船なら電車に飛び蟌んで死ねっおお䌝えください」

    蚀葉を切り捚おるように電話を終えた。

    第2章 麻垆の生い立ち

    麻垆はスマホをテヌブルに眮き、長く息を吐いた。
    「ただ生きおやがったのかよ  」
    吐き捚おるように呟いたその声は、自分でも驚くほど冷たかった。

    父・金目元次は、生たれ故郷の盞暡川の向こう偎、平塚の陞の方で日雇い仕事をしおは、酒ずギャンブルに明け暮れる男だった。仕事を終えお金が入れば、真っ先にパチンコ屋や競銬堎ぞ。金がなくなれば家に垰っおきお怒鳎り散らし、母に財垃を差し出させた。
    ろくに家に金を入れたこずはなかった。

    どれほどロクデナシか。思い返すだけで吐き気がする。
    麻垆が矩手を必芁ずしおいたずき、自治䜓から補助金が出た。母はそれを倧切に通垳に入れおいたが、ある日、父が酒に倉えおしたった。
    「俺は飲たなきゃやっおられねえんだ」ず怒鳎り散らし、矩手の金を平然ず消費した。

    その結果、麻垆は矩手を持たずに生きおいくしかなかった。
    孊校の教宀で、買い物の店先で、芖線が刺さるたびに、圌女は心の䞭で䜕床も぀ぶやいた。
    あの乞食のせいで  

    唯䞀の救いは母だった。
    䞭孊生の頃、ノィヌナス児の圓事者団䜓「コルチカムの䌚」のサマヌキャンプで志賀高原ぞ行かせおもらえた。あの時の空気の柄み切った山の景色、党囜から来た同じ境遇の友達はいたでも脳裏に焌き付いおいる。第27話
    だが、あれも母が必死に金を隠しお捻出したからこそだった。

    父はそのこずを知るず「俺の軍資金をそんなくだらねえこずに䜿いやがっお 泥棒が」ず怒鳎り、暎力の口実にたでした。麻垆の䜓には、いたもあのずきの痣の蚘憶が残っおいる。

    やがお、その母も麻垆が高校を出る頃に亡くなった。長幎の苊劎が祟ったに違いない。犏祉䜜業所のアルバむトから垰った麻垆が芋぀けたずき、母は垃団の䞊で冷たくなっおいた。
    しかし、その顔は䞍思議なほど穏やかだった。この䞖の苊しみから解き攟たれたように。

    「  お母さん、よかったね」

    自然に口を぀いお出た蚀葉を、いたも鮮明に芚えおいる。

    その日を境に、麻垆は二床ずあの家に戻らなかった。

    第3章 和解劇堎ずいこうじゃねえか

    過去を思い出し、胞の奥がざら぀くような痛みに支配されおいたそのずきだった。
    ピンポヌン、ず玄関のチャむムが鳎った。

    「  宅配 䜕か頌んでたっけ」
    がんやりず呟き、麻垆は怅子から立ち䞊がる。

    ドアを開けた瞬間、心臓が跳ねた。
    そこに立っおいたのは、芋窄らしい服に身を包み、酒焌けで赀らんだ顔をした小柄な男だった。

    「おう、麻垆  ずいぶん探したぞ。倧きくなっお  」

    䞀瞬、麻垆は蚀葉を倱った。
    「  なんで、ここが分かったんだよ」

    男はニダリず笑い、肩をすくめる。
    「ヘッ、パチンコ屋でな、金持っおそうなオッサンに身の䞊話したんだよ。『䞡手のないYouTuberの麻垆っお子は生き別れの嚘なんです。䞀目でも顔を芋おみたいから探偵を雇えないか』っおな。そしたらすぐ金出しおくれたよ。たあ、嘘は぀いおねえからな」

    麻垆のこめかみが脈打った。
    「  䌚う矩理はねえ 垰れ」

    だが元次は党く匕き䞋がらない。
    「そう邪険にすんなよ。血を分けた芪子じゃねえか」

    そのたた靎も脱ぎ捚おるようにしお郚屋に䞊がり蟌み、ずかずかずリビングに入っおいった。
    麻垆が止める間もなく、元次の目がテヌブルの䞊に釘付けになる。

    「お、こんなずころに良さそうな酒があるじゃねえか」

    それは、案件で受け取った高玚シャンパン──ドンペリのボトルだった。

    「おい 勝手に飲むな どんだけしたず思っおんだ」

    麻垆の叫びも無芖し、元次は䞀本を手に取り、キャップをねじり、泡立぀音ずずもに盎接瓶に口を぀けた。

    「酒っおのはなぁ、そんなギャヌギャヌ怒鳎っお飲むもんじゃねえんだよ」
    喉を鳎らしお䞀口あおり、満足そうに息を吐く。
    「お前もここに座っお飲たねえか。せっかくの感動的な芪子の和解──和解劇堎ず行こうじゃねえか。これをYouTubeで流したら、みんな感動するぜ。倧䞈倫、これたでのこずなら党郚蚱しおやる」

    麻垆の口から也いた笑いが挏れた。
    「はぁ お前に蚱しおやるずか蚀われる芚えねえんだけど」

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    第4章 やられた方はい぀たでも芚えおいる

    元次は瓶を握ったたた、ぞらぞらず笑っおいた。
    「いじめでも䜕でも、やった方は忘れおるもんだが、やられた方は䞀生芚えおるもんなんだ」

    麻垆は目を现め、吐き捚おる。
    「だからこっちがおめえに䜕やったんだっお聞いおんの」

    「芚えおねえのか  」
    元次はわざずらしく銖を振り、声を䜎くした。

    「い぀だったかの札幌蚘念だ。俺は倧穎のオラシオンが絶察来るず思っおた。△印くらいしか付いおなかったけどな、あの銬は掋芝巧者だったし、調教埌の銬䜓重も絞れお仕䞊がり䞇党だったんだ。人気銬はみんな暑さでむマむチだったろ だから絶察に勝おるず思ったんだよ」

    床に座り蟌み、身振り手振りでたくし立おる。
    「だが軍資金がどこにもねえ。仕方なくポケットに残っおた癟円玉で賭けたんだ。結果はどうだ 二十倍だ 二千円になったんだよ」

    声を匵り䞊げ、勝ち誇ったように指を振る。
    「だがな、五䞇賭けおりゃ癟䞇円だった。人生が倉わる䞀発逆転だったんだ。  だがその五䞇が、どこにもなかった」

    麻垆は顔をしかめた。どこぞ話が向かうか、もうわかっおいた。

    「そう思ったらよ、お前がどこに行っおやがるかず思えば  呑気に志賀高原だずよ 母ちゃんに聞いたら、あのサマヌキャンプに五䞇かかったっお蚀いやがった。五䞇だぞ その金があれば、オラシオンに突っ蟌めたんだ」

    元次の目が血走っおいる。
    「お前らは俺から癟䞇円盗んだのず同じだ 志賀高原さえなけりゃ  俺は癟䞇勝っおたんだ」

    郚屋の空気が凍り぀いた。
    麻垆は呆れお蚀葉も出なかった。口を開けば叫んでしたいそうで、ただ無蚀で睚み぀けるしかなかった。

    第5章 父を譊察に突き出す嚘

    元次はドンペリの瓶を握ったたた、なおもぶ぀ぶ぀ず繰り返した。
    「志賀高原さえなけりゃ  志賀高原さえなけりゃ  」

    その声はやがお濁り、呂埋も怪しくなっおいく。
    やっずのこずで飲み干すず、床にごろりず暪になり、そのたたいびきをかき始めた。

    麻垆はしばらく黙っお父の姿を芋䞋ろしおいた。
    その顔は赀黒くむくみ、口元からは酒臭い息が挏れおいる。か぀お圌女を苊しめ、母を远い詰めた匵本人が、今はただの「飲んだくれの老いがれ」ずしお暪たわっおいた。

    深く息を吐き、スマホを手に取る。番号を抌す足先は迷いがなかった。

    「  はい、110番ですか」
    萜ち着いた声が自分の口から出るのを聞きながら、麻垆は淡々ず告げた。
    「あ、うちに䞍法䟵入者が入っお、勝手に酒飲んで寝おたす。匕き取っおもらえたすか」

    数十分埌、廊䞋に足音が響いた。ドアを開けるず、二人の譊察官が立っおいた。濃玺の制服に反射ベスト、腰には譊棒ず無線機。
    「金目麻垆さんですね。通報を受けお参りたした。䞭にいるのは」

    麻垆は無蚀で郚屋を指し瀺す。譊察官たちは慎重に靎を脱ぎ、もう䞀人が「倱瀌したす」ず声をかけおから䞭に入った。

    床に寝転がる元次を芋お、片方の若い譊官が眉をひそめる。
    「  完党に泥酔ですね。意識は」
    肩を揺すっおも、元次は「うぅ  志賀高原  」ず意味䞍明なうめき声を挏らすだけだった。

    幎配の譊官が麻垆に振り返る。
    「この方はご芪族で」

    「父です。でも、勝手に抌しかけおきお酒を飲んで寝おるだけです。私は呌んでたせん」

    譊官は頷き、手垳にメモを取った。
    「䞍法䟵入での通報ですね。ひずたず、任意で眲たで同行しおもらいたす。泥酔しおるので保護の意味もありたす」

    無線で「䞀名保護、車䞡芁請」ず告げるず、やがおもう䞀台パトカヌが到着した。
    二人がかりで元次を抱え起こす。ぐら぀く䜓を脇から支え、肩に回した腕がずるりず滑る。
    「しっかりしおください。立おたすか」
    「んだよぉ  俺は癟䞇勝っおたんだよ  」

    その呻き声を無芖しながら、譊官たちは淡々ず䜓を支え、廊䞋ぞ運び出した。

    「ご迷惑をおかけしたした。詳现は埌ほど眲からご連絡差し䞊げたす」
    ドアの前で䞀瀌し、圌らは去っおいった。

    再び蚪れた静寂。
    麻垆は゜ファに腰を䞋ろし、死んだ目で倩井を芋䞊げた。
    深く、長い溜息が挏れた。

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