ホワイトカラーからブルーカラーへ──人材を振り分けるロードバランサーとしての派遣会社
弊社ではIT組織づくりの支援をしており、継続的に営業をしています。特に事業会社やスタートアップでは、頭数を揃えるという採用はしていません。ITエンジニアについては、これまで純粋なコーディングをヒトが担ってきたため、メンバー層であっても一定の需要がありました。ところがAIの台頭に伴い、この部分の需要が激減しています。首都圏以外の大手企業で外注に依存しており、外注費削減のために採用したい、という話がたまにある程度です。
普通のホワイトカラーが余りつつある中で、想定されるのがホワイトカラーからブルーカラーへの転身です。折しもリスキリングという言葉が流行しているので、この二つはセットで語られています。過去にも取り上げましたが、RIZAPが自社社員をホワイトカラーからブルーカラーに転身させるという話がありました。実際にRIZAPグループは建設業へ本格参入し、グループ全体で最大500人規模のホワイトカラー人材を建設職人へ転向させる方針を発表しています。今回はさらにその先について、予測を交えてお話ししたいと思います。
人材の調整弁としての派遣会社
派遣会社がリスキリングの名のもとに、ホワイトカラーからブルーカラーへ転身させているという記事が出てきました。
派遣会社に限らず、SESやテスト会社など、正社員の数を多く追ってしまった企業はIT業界に多数存在します。ITで人数を追っているのは、AI投資を背景にした建設ラッシュが起きているデータセンター需要に伴うインフラエンジニア、オペレーター職です。セキュリティ関連だとSOCが人数を多く集めています。
しかし、それでも溢れた場合はブルーカラーに転身していくのだろうと見ています。正社員として抱えた人員を、需要のある領域に振り向け、それでも余ればさらに別の領域へ移していく。個人のキャリア観や視座をいったん脇に置き、社会の人流を数だけで眺めると、派遣会社はまるで人材の調整弁のように機能していることが分かります。
新卒で派遣会社という選択
派遣会社は、マーケティングの文脈でポジティブな派遣像をインプットしようとしています。案件を選べる、自分の時間を持てるなど、さまざまな謳い文句があります。「自由な働き方」「手に職をつけられる」といったキャッチフレーズとともに、自ら進んで派遣会社を選ぶ人は今後も増えていくでしょう。雇用が不安定だから仕方なく、ではなく、前向きな選択肢として受け止められていくところに、この流れの根の深さがあります。
これは、かつてのフリーター礼賛によく似ています。
一般的に、派遣会社の給与は安く設定されています。ある大手派遣会社にお勤めの方の場合、給料は240万円程度でしたが、全寮制であるために「微かに貯金ができる」という線で初任給が設定されていました。同じ企業では中途で入った場合も家賃補助などが手厚く、生きていける設計になっています。裏を返せば、その水準でなければ人が定着しない設計だとも言えます。
派遣会社にお勤めの方からキャリア相談をいただくこともありますが、GMARCHクラスの方も少なくありません。慶應の方もおられました。少なくとも私立四大にご在籍の場合は、その学費と給与を天秤に掛けてみて、一度冷静になってほしいと思います。
個人的なワーキングプアの経験からも言えますが、お金面で余裕がないと視野狭窄に陥り、近視眼的な選択をしやすくなりますので注意が必要です。
新卒はなぜ派遣に流れるのか
なぜそのようになっているのかを探っていくと、就活の際に人材紹介会社を選択していることから始まっています。
2〜3年ほど前は、第二新卒向け人材紹介事業とデータベースを共にするタイプの人材紹介会社の門を叩いた場合に、派遣会社へ誘導されていました。しかしこの1年は事情が変わり、ハイクラスの人材紹介会社でも、派遣会社を滑り止めとして誘導していることが確認できています。
2〜3年前には、支援が難しそうな人材に対しハイクラスを自称する人材紹介会社は塩対応をしていました。それがこの1年は、1dayで会社紹介から内定まで出る派遣会社に取りあえず誘導することで、内定を持たせています。就活生も内定を一つでも持つことで安心したいので、進んで受けています。需要と供給がきれいに噛み合ってしまっているわけです。
さらに調査を進めていくと、「単一の人材紹介会社で就活を進めることで、会社選び、対策、日程調整が進められるので楽」という声もあるようです。初任給が見直されるニュースがある中、見直されていない初任給に満足がいかず就活を長期化させる傾向もありますが、具体的なアクションが変わらないので内定先も変わらず、そのまま派遣会社に行くというストーリーが完成します。
中途は派遣かコンサルPMOが既定路線に
中途についても、構造は地続きです。背景にあるのは、大手を中心とした人材紹介会社のマーケティングコストの高まりです。集客のためにマスメディアやWeb広告、SEOなどにかけるお金が高まり、コスト回収が強く求められています。
コスト回収を求める人材紹介会社のアクションはシンプルで、次の戦略に収斂します。一つは、採用フィーが高く、かつ採用ハードルが低いところに候補者を当てるパターンで、これはコンサルティングファームのPMOで進める形になります。もう一つは、採用フィーはそこまで高くないが採用ハードルが低く、短期(できれば1day)で内定が出るところに候補者を当てるパターンで、こちらは派遣会社・SESで進める形になります。
事業会社も採用は継続していますが、メンバークラスを募集しているところはレアです。加えて採用ハードルが高止まりしているため、上記の2種類に比べると「おいしくない」案件になります。人材紹介フィー50%で締結している企業であっても、紹介の優先度は下がっています。
広く採用の支援を展開していると、年収が概ね1000万円以上で決まる人材であれば、採用ハードルが高くてもブティック系人材紹介会社が動いていることが分かります。ここには往年に見られたような、人材紹介による介在価値が感じられます。一方で、低い年収帯の人材は売上に繋がりにくいので、そもそもターゲットにされていません。
総じて、根気よく直接応募を続けるか、人脈を作ってその中でリファラルで決めるかをしない限り、派遣会社に誘導される可能性は、どの年代でもどのスキルセットでもありえます。
足りないお金をスキマバイトで埋める世界
個人への寄り添いや、求める視座の概念を捨て、社会の人流を数だけで見れば、派遣会社による人員の合理的な配置や、ホワイトカラーからブルーカラーへの転身を含めたリスキリングは、ロードバランサーのように見えます。負荷の高いところに人を流し、溢れたら別のノードへ振り向ける。システムとしては、よくできています。
一方で、個人の給与ということを考えると心もとなく、少子高齢化も含めた日本全体の給与水準で考えると、下がっていくのではないかと懸念しています。その中で、足りないお金をスキマバイトで埋めるという話も出てきました。
そろそろ人材各所から怒られる頃合いではありますが、調整弁の内側に組み込まれたまま流されるのか、それとも自分で経路を選び直すのかは、最終的には一人ひとりの判断に委ねられています。各人が情報を適切に収集し、納得のいくキャリアを歩んでいただきたいと思います。
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