
【もしもミュージア厶】#16 第4回企画展「ミライの桃太郎」エピローグ
↓前回の話はこちら
「今日は一番前の席に乗るかい」
「いや、後ろがいいな。そっちの方がフワッとするから」
「よし、しっかりつかまってるんだよ」
スタッフは、笑いながらジンに安全バーをセットした。
ジンが再来場すのは、これで二回目になる。バングルは、まだ半分以上青く輝いている。中学生以下の子どもたちは、学習目的ならば五回まで再来場できるという。
「記憶が消えても、身体と心が覚えるまで勉強するから」
そう言ってジンは、アトラクションに何度も並んでいた。コスモたちのアナウンスも、完全に覚えた。
「気に入ったみたいですね」
「構造色の解説や、ミラーハウスの仕組みまで、全部覚えてくれていました」
館長がスタッフの一人に声をかけると、スタッフは満足そうにしたていた。
「展示担当としては、嬉しいです」
館長はほほ笑んだ。
「さすが、あなたの⋯⋯」
「いや、今は違います」
スタッフは、首を振った。
「ずっと仕事で家族を放ったらかしにして、モモランドが閉館になる時には、全部を捨ててここの学芸員になった⋯⋯そんな人間ですよ、自分は」
少し寂しそうにするスタッフを、館長は眺めた。
「後悔していますか」
「いや、していないですよ。新しい世界線では、妹たちがジンの両親になってくれて、本当に良かった」
スタッフは、まっすぐ壁を見つめた。
「それよりも、この世界の維持管理に努めるのが先決です」
閉館時間のアナウンスが流れた。その時、スタッフのところにジンが駆け寄ってきた。
「そう言えば、今日、理科の時間に光の屈折の話を聞いたよ。面白かった」
ジンの目は輝いていた。
「大人になったら、新しい構造色をデザインするんだ」
スタッフは、満面の笑みをジンに返した。
「おう、楽しみにしてるよ」
閉館後、モニタールームで新着資料の確認をしていた館長は、一つの記録の前で手を止めた。
『収集資料(再来館による代償)・俳優 ジンに関する未来全般』
「おや、これはまた大きな変化ですね」
館長は、黙って記録に目を通した。
高校生になったジンはスカウトされ、俳優になる未来が待っていた。でも、モモランドに通って夢をジンが見つけたことで、未来が変化したらしい。
影響を与えた世界線の資料一覧に目を通していると、通話用モニターが開いた。画面に、慌てた様子の新人学芸員が映っていた。俳優、タクトの未来を扱う展示室からだ。
「館長、資料の一部が消えました。システムには『世界線分岐のため移管』と表示されています」
「こちらでも確認をしました。たまに起こることです」
館長は、落ち着いた声で新人学芸員をなだめた。
「世界線の分岐で、資料の所管が変わっただけです」
モニターでは、移管先は『モモランドの未来センター』となっている。今頃、スタッフ⋯⋯かつてのジンの親は、複雑な気持ちで移管になった資料の山を眺めているだろう。
「よし、現場を見に行きますか」
館長はつぶやき、モニタールームを後にした。
(第4回企画展 おわり)