
【もしもミュージアム】#7 第3回企画展「映画・わたしを忘れないで」(中編)
(前回は、こちらから↓)
第1章 再結成したクリエイター
展示室に入ると、大きなスクリーンが短いアニメーションを繰り返し流していた。青白い光の中、アニメーションで描かれた風景や、実写のような暗い駅の場面が次々と切り替わり、それに合わせて二人の主人公、マオとナアの声が、ささやいた。
『癒して、忘れて』
『咲いて、消えて』
『劇場版 フォゲットミー・ノット〜0(零)Hzのレクイエム』
『ここが、私たちの終着』
最後の場面で浮かび上がったタイトル文字と、ワスレナグサの花が、ノイズで乱れ、崩れていく。劇場版フォゲットミー・ノットの制作開始を告知する一分アニメーション⋯⋯ケイが動画サイトで何十回も繰り返し観ていた動画だ。
ふと展示室に目を向けると、スクリーンと反対側の壁一面に、無数のラフスケッチや脚本の一部が展示されていた。
どれにも赤字で『ボツ』と書き込まれていた。床には、破られた何種類もの衣装が、投げ捨てられるように展示されていた。
『劇場版の制作が決まり、監督の呼びかけでクリエイターたちが再び集まりました。しかし、監督の意向で全修正が繰り返され、現場は混乱を極めていました』
解説文の隣には、制作風景をドキュメンタリー風に撮影した映像が小さなモニターに流れていた。
作家たちが話し合いをしながら、マオの動きを確認し、衣装モデルを見ながら原画を作っていた。手描きとデジタル処理を幾重にも重ねた、一場面が完成した。
しかし、声優が吹き替えのリハーサルに入った瞬間、監督は腕を組んで黙り込んだ。
「なんか違う。アニメ版のラストで、ナアは記憶を消されたのに、マオが変わらず元気な訳無い⋯⋯」
画面の向こうで、雑然としたスタジオが凍りつくのが分かった。
「全部、やり直しだな」
作画のチーフが青白い顔をして、画面に向かってささやいた。
「もう何回目になるんだろう」
直後に、テロップが入った。
『二週間後の◯◯年◯月◯日、監督が倒れて、制作は実質中断に追い込まれた』
ケイは、黙ってその様子を観ていた。◯◯年◯月は、映画版フォゲミの告知が全く入らなくなった年だった。
すると、一瞬ノイズが入って、病室で安静中の監督と現場責任者たちが、オンラインで話し合う風景が流れた。監督が頭にある物語を語り、そのイメージを他のスタッフがスケッチや言葉で形にして、共有する。凍った話し合いの風景から一転、様々なアイディアが飛び出していた。
「フォゲミは、最後まで実験的アニメーションだった⋯⋯それでいきましょう」
「魂は一緒ですから」
監督は、下を向いて震える手で顔を覆った。被せるように、吹き替えの監督の声が流れた。
「この時、実は泣いてました。一緒に地獄をみるかもしれない。でも最後までフォゲミでいよう。腹を括れたのは、このチームだったからです」
第2章 こけらおとし
隣の展示室は、小さな小部屋になっていた。入ると、壁一面にフォゲミの関連グッズが展示されていた。フィギュアやゲーム、玩具だけでなく、登場人物をイメージした化粧品や医薬品など、大人向けのファン向けの商品もあった。
『上映日が決まり、いわゆる、フォゲミブームが再来しました。アニメの世界観である、謎の病と治療、忘却、病のモチーフになっている様々な花になぞらえて、有名な医薬品会社もタイアップするなど、商業的にも大きな影響を与えていました』
正面の壁は、スクリーンになっていた。
「これから上映になります。一時間四十分ほどかかりますが、ご覧になりますか」
ケイは、息を飲んだ。
「はい、ぜひ」
やがて、部屋は暗くなった。
(つづく)
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