
【SIerの絶望】優秀な後輩が壊れた夜。「松下村塾」で凡人が悟った、吐き気がするほどの『立志』と生存者バイアス
金が欲しい。モテたい。頼られたい。
俺の欲は、どこまでいっても私欲に過ぎなかった。
これを叶えても、俺しか幸せにならない。
これを叶えても、皆の印象に残らない。
やがて忘れられ、会社のシステムの片隅で亡霊になるだけだ。
📖俺の「私欲」と、吉田松陰の『立志』
立志──
志を立てること。目的を定めて、それをなし遂げようとすること。
一般的な辞書にはそう書いてある。
しかし、先日の山口旅行で訪れた「松下村塾」で、吉田松陰はただの決心で済ませてはいなかった。
彼は言った。
体は私なり、心は公なり。
私を役して公に殉う者を大人と為し、公を役して私に殉う者を小人と為す。
【現代訳】
自分の肉体を使って、身をかえりみずに公のために役立てる者は立派な人であり、公である心を自分の欲望を満足させることに使おうとする者は、徳のないとるに足らない人である。
そして、現代では以下の「超訳版」が有名だ。
自分の利益のために、現状を打ち破ろうとするのを『野心』と呼び、社会の利益のために、現状を打ち破ろうとするのを『志』と呼びます。
……俺は、それを古い偉人の綺麗事だと思っていた。
しかしその数日後。
俺はJTC(伝統的日本企業)の泥船の底で、その「綺麗事」の意味を、最悪の形で思い知ることになる。
🌧️壊れていくエリート後輩と、JTCの泥船
2026年7月3日(金)22時30分。
仕事を22時に終えた俺は、まだ仕事をしている下畑の傍らで、大原さんと雑談をしていた。(※大原さんの登場は過去記事『5月の戦況報告』を参照)
「下畑君はAPI案件、大丈夫?」
大原さんは下畑のOJTの指導者(トレーナー)だった。
同い年ということもあり、彼らには同僚を越えた仲の良さがある。
「もう無理ですね。最近寝れないし、毎日吐いてるんですよ。今日も午前休で胃カメラやってきました。」
理系国公立大学院卒。
心身ともに最強クラスであるはずの後輩・下畑が、ついに限界を迎えていた。
下畑といえば、俺の1つ下の後輩であり、昨年度、JTCでは異例の早期昇進を果たし主任になったエリートだ。
その彼が、いま、無惨に壊れていた。
理由は過労だけではない。
下畑は主任に昇格した後、信じられない量の雑用を押し付けられていた。
親会社であるJBBシステム(通称Jsys)の主任が仕込んだバグ改修。
それにかかる影響調査、他チームとの調整。さらには、本来Jsysの主任が行う予定の議事録の代筆まで。
案件を仕切っている自社の係長にエスカレーションしても、
「今は下畑君がやっておいて」と丸投げされる始末だ。
そして、部長から彼に下された評価は「期待を下回る働き」。
理不尽すぎる。
評価の理由は「超勤(残業)が多くて費用対効果に見合ってないから」だったらしい。
彼は、「圧倒的な理不尽」と「他人のエゴ」の犠牲になっていた。
学校も、会社も、理不尽が蔓延っている。
そして、このIT業界において最も残酷な理不尽は、間違いなく「配属ガチャによる生存者バイアス」だ。
⚖️生存者バイアスと、「傲慢なバケモノ」の正体
例えば、俺の同期に「子安」という男がいる。
俺がテスト画面を虚無の顔でクリックし続ける3年間を過ごしていた間、子安はちゃんとしたOJTを受け、早期から恵まれた案件にアサインされた。
彼が現在担当しているのは、一人で回せるような案件だ。彼はそこで「一人親方」として案件をコントロールしている気になっている。
さらに恐ろしいことに、一人では心許ないという理由で、彼と仲のいいベテラン社員2名が「アドバイザー」としてそれぞれ0.3人月ずつ稼働を割り振られ、彼を全力で介護している。
そして彼は、会社から「期待を大きく上回る」という最大の評価を得ているのだ。
環境に恵まれ、評価に守られた人間の「無自覚なエゴ」は暴走する。
現在、下畑や大原さんは子安と同じチームだが、子安の案件が小さすぎて彼が普段何をしているか誰も把握していない。
それなのに子安は、「生成AI活用事例研修」などという、すでに多くの人が活用している謎の施策を立ち上げ、それぞれの上長に許可も取らずに俺や大原さん、下畑らを巻き込み、無駄な会議をセットしてくる。
親会社の尻拭いで深夜まで炎上し、命を削っている下畑の貴重な時間を、子安は「自分の意識高い系ごっこ」のために平気で奪っていくのだ。
稼働を盗んでいる子安は高く評価され、深夜まで泥水をすすっている下畑は「費用対効果が悪い」と最低評価を下される。
思い出す出来事がある。
2025年末、俺、大原さん、子安、下畑、大森の5人で飲みに行った時のことだ。
子安以外は皆、共有API制作案件や個人情報システム更改(COBOL・C言語からJavaへのリライト案件)という重い案件を担っていた。
それぞれの辛さを吐露し、自分たちの実力不足や人員不足などを嘆く中、子安は一人、煌びやかに言い放った。
「今いる環境で、最大限できることをしないとでしょ」
場が凍り付いた。
一気に緊張感が高まるのが分かった。
「まあ、それが考えられる環境ならいいよね。」
本来おおらかな大原さんが、皮肉めいた反応をしてその場をなんとか収めた。
確かに、恵まれたやつも努力はしているのだろう。
だが、あたかも「自分の努力だけで今の環境がある」かのようなポジショントークを、煌びやかに語る。
ふざけるな。
理不尽に見舞われた俺や下畑が、努力していない訳ではない。
仕事以外にも必死に足掻き、生き残るために頑張っている。
ただ、運が悪かっただけだ。
だが、恵まれた奴はそれを「努力不足」と笑い、自己責任だと切り捨てる。
……しかし、俺もきっと、最初から恵まれた立場にいたら、子安のように無
自覚に他人の時間を奪い、同じように底辺を嘲笑っていただろう。
人間なんてそんなものだ。
🧭泥船の底で掲げる、吐き気のする『立志』
下畑が限界を迎えたあの夜。
松下村塾の教えが、脳裏に蘇った。
出世コースを外れ、無敵の道化となった俺にしかできない「立志」があるとしたら。
俺は、俺や下畑のように、理不尽な環境で燻っている奴らの「拠り所」になりたい。
子安のような無自覚なエリートにすり潰される前に、絶望や愚痴を吐き出せる、最低最悪の避難所でありたい。
綺麗事だ。
自分でも虫唾が走る。最高に気持ち悪い。俺のキャラじゃない。
だが、これが泥水の中で見つけた、俺の紛れもない「本心」でもある。
だから俺は行動に移す。
【行動1】武器を手に入れ、理不尽なゲームの「土俵」に上がる
JTCは、今でも「資格ファースト」だ。
実力がどれほどあろうと、資格という通行証を持っていなければ、昇進という戦場にすら上がれない。
俺のOJT指導者も、技術力もマネジメント力も十二分にあるにもかかわらず、資格を取らなかっただけで係長に上がるのが40代半ばまで遅れた。
JTCとはそういう場所だ。
資格を盾にして初めて、配属ガチャ、上司ガチャ、案件ガチャという理不尽なゲームに参加する権利(最低でもSR以上を引く権利)を得られる。
それが嫌なら外資に行けという話だが、俺の今の実力では到底無理だ。
会社からは「今年度中に応用情報技術者試験に合格しろ」と指示が出ている。
俺は会社に期待しない底辺社畜だが、このクソみたいなシステムの中で「発言権」や「影響力」を手に入れるためには、このパスポートが絶対に要る。
だから、会社の指示通り、いや、会社を利用して応用情報を必ずもぎ取る。
ただの道化ではなく、力を持った道化になるための第一歩だ。
【行動2】泥船の記録を、執念で世に放ち続ける
そして、このnoteでの更新を最低でも2026年が終わるまでは絶対に継続することだ。
現在、フォロワーが200人を超え、このやるせない気持ちや創作活動に対して、かつてないほど熱意が燃えている。
だが、凡人のモチベーションなど脆いものだ。
いつこの熱が冷め、筆を折るか分からない。そして一度折れたら、俺は二度と再開しない自信がある。
だからこそ、理不尽に怒りを覚え、泥水を啜っている「今」の感情を、意地でも出力し続ける。
もちろん、2027年もそれ以降も続けていくための土台として、まずは今年、この泥船の記録を執念で書き連ねる。
これが全国の燻っている奴らへの「狼煙」になるはずだ。
🗡️弱者には、誰かの「拠り所」になる資格もない
結局、強くなければ、俺の立志も実行できない。
弱い人は影響力がない。
俺が強くなれば、俺や下畑のように理不尽と正面から対立している人の拠り所になれる。
だから俺は、この痛みが、理不尽への怒りが鮮明な「今」、こうして記録を残し続ける。
この先、もし俺が何かの間違いで「恵まれた立場」になった時。
俺自身が、恵まれない人への接し方を間違える「傲慢なバケモノ」にならないために。
泥船の底から、この吐き気のする立志を、俺の羅針盤とする。