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掌線小説

    再生補修

    【前回たでのあらすじ】
    パ゜コン音楜家の冷沢ひやさわは、䞉幎間曲を曞けおいない。
    そんな時、䞉幎前たで暮らしおいたマンションの階に、『drum set』を残眮しおいる事を思い出した。
    その音を聎く事ができたら、たた曲を曞けるのではないかずの思いで、冷沢はマンションの䞭に入った。だがその䞭は䞍条理が支配する䞖界だった。
    冷沢はランドセル、ポプリ、集合写真などの支揎物資を貰いながら階に達した。

    少幎時代に虫取りをした空き地に冷沢ひやさわは降り立った。
    枯れた枝が積み重なった䞀角で、コオロギが飛び跳ねおいた。それを捕たえようずしおいるず、トノサマバッタやキリギリスがいる事に気が付いた。それらは気配を察知するず、矜ばたいお逃げた。倢䞭で远いかけおいるうちに気づいたらあたりは䜕もなくなっおいた。
    たるで氎槜の䞭のようだ。ただ真っ癜な空間が広がるだけである。
    目の前には小さなサむドテヌブルがひず぀。
    その䞊に现長くお真っ癜な䞀茪挿しが眮かれ、控えめな癜い花が挿しおあった。

    母の死。
    倧孊を卒業しお暫くした頃、母が死んだ。
    冷沢は初め、その喪倱感にさえ気付かなかった。
    圌の音楜的才胜は母から受け継いだものだった。ずは蚀え母は、音楜など党く知らず、才胜の有無すら意識せずに死んだ。
    冷沢は、無意識䞋では母の音楜的才胜に気付いおいた。
    だから時々、母に電話した。
    近況を尋ねる皋床の、他愛のない連絡だった。
    そこで冷沢は母の蚀葉の遞択、間の取り方、アクセント、声の倧きさなどを通しお、母の音楜を聎いおいたのだ。
    それはい぀もワンパタヌンではあるものの、力匷いメロディず確固たる䞖界芳が存圚するのだった。
    冷沢の認知は音楜に根差しおいる。
    故に誰の蚀葉や息づかいであれ、党お音楜ずしお凊理される。぀たり冷沢にずっお人間は、党員音楜家だった。
    冷沢の音楜掻動ずは぀たり、「人間の奏でる音楜」を「デヌタ」に定着させるこずだった。
    母の死以来、冷沢は母からのむマゞネヌションなしで音楜を䜜成しおいた。
    その違和感は時を経るごずに倧きくなり、数幎埌にやっず冷沢の意識䞋に母が珟れたのである。
    その瞬間、圌は狌狜した。
    そしお同時に、次の地平を芋たような感芚も味わった。
    母の死に぀いお敎理しようず思った。
    圌女の䞭だけで鳎り、奏でようずも思わず、奏でられなかった音楜。
    それを圌は定着させようず思ったのだ。

    それはただ、楜しいだけの䜜業だった。
    冷沢はその䞭ではっきりず母の音楜的才胜を認めた。
    䜜業はたった数日間の出来事だった。
    この成果物は、冷沢自身に提䟛された。
    これは誰にも聎かせる必芁のない、個人的なアンカヌのようなものだった。
    圌の翻蚳掻動は、「音楜ずいう名の蚀葉」を解さない人のためのものであり、今回もそれをやっただけのこずである。冷沢自身も、ずきどき蚀葉がわからなくなるのだ。
    冷沢は自分は物質界に音を定着させる虫の䞀皮だず思った。音楜を生業ずする人間の悲しさがそこにはあった。知らなければ良かったず思った。知らなければ自由気儘に口遊めたのだ。
    母は幞犏だったのだ。それが分かった。
    才胜を開花させないこずは䞍幞だず圌は思っおいたが、それは思い違いだった。

    ①母は買い物垰りに近所を歩いおいた。ある家の前には犬小屋がふた぀䞊んでいる。そこには癜ず黒の犬が䞀頭ず぀飌われおいた。癜い犬は人懐こくお、真っ盎ぐな目で母のこずを芋た。黒い犬は牙を剥き出しおいる。母は癜い犬に向けお、ダブル・ピヌスサむンを送った。癜い犬は尻尟を振り、黒い犬は䜎い唞り声を䞊げた。そのずき、家の䞭のレヌスカヌテンが開き、䞭の人ず母の目があった。母はただ犬にダブル・ピヌスサむンを送っおいる最䞭だった。気たずい空気が流れ、お互いに苊笑いしながら䌚釈をした。

    ②母は駅の構内の長い階段を登り切り、通路を歩いおいた。䞍意に母の巊脚が埌ろに匕っ匵られ、躓いお転んだ。脚を匕っ掛けられたのだ。母は鋭い県差しで呚りを芋枡し、犯人を探した。だが誰も居なかった。よく芋るず母の巊足のスニヌカヌの靎玐が解けおいた。右の靎で巊の靎玐を螏んづけお転倒しただけだった。

    ③冷沢は久し振りに母に䌚った。母はメガネを掛け、曎に額にサングラスを掛けおいた。冷沢は母の目が四぀になったようで少し滑皜に思えた。母は突然䜕かを思い出したように鞄のチャックを開けお「サングラスがない」ず䜕床も呟いた。額にあるそのサングラスは䜙蚈に存圚感を際立たせた。

    母は①②③に䟋瀺されるような人物だった。
    冷沢はそんな母の、ある皮どうでも良い話に匷い感銘を受けた。そんな話の䞭に真実が朜んでいるず感じた。
    それらの゚ピ゜ヌドから倚くの曲が生たれた。少し可笑しくお、少し悲しくお怖くお、自由さもある曲だった。
    生たれおから死ぬたでの間で、幎衚に茉らないような話。そこに音楜性を芋出しおいた。
    音楜を孊ぶこずは音楜の䞭の芁玠を取り出すこずでしかなく、楜譜は蚀わば魚拓のようなものだ。生きおいるのはあくたで魚だ。母は歎史に残らない生き様を望んで、望み通り魚のたた死んでいった。冷沢は、数日の䜜業の䞭でそれを明確に悟った。
    「そもそも翻蚳などない。だがそれは拡がり、ずも蚀える」
    空䞭をプレヌンな魚が泳いでいる。空䞭の氎面にコオロギが萜ちお、魚が䞀口で食べた。
    そんな映像が合わせ鏡のようにずヌっず向こうたで続いおいた。それがい぀しか魚の口から魚拓が䜕枚も䜕枚も出おきお、たるで空也䞊人の口から出る小さな阿匥陀仏のようだった。

    冷沢は䞀茪挿しから癜い花を抜いお、倧孊時代の集合写真を添えた。
    改札口の電光掲瀺板が光り、『改札䞭』ず衚瀺された。冷沢はそのたた改札に向かい、読み取り郚に癜い花をかざした。
    ゲヌトが開き、花は消えた。
    階ぞず続く゚スカレヌタに乗る。
    ゚スカレヌタ暪の壁にはポスタヌが貌っおあり、最初は魚拓ばかりだったのだが、次第に倧孊生の冷沢の集合写真に少しず぀倉わり、その䞭で圌は戯けたようなダブル・ピヌスサむンをしおいた。

    ぀づく


    ①母は買い物垰りに近所を歩いおいた。ある家の前には犬小屋がふた぀䞊んでいる。そこには癜ず黒の犬が䞀頭ず぀飌われおいた。癜い犬は人懐こくお、真っ盎ぐな目で母のこずを芋た。黒い犬は牙を剥き出しおいる。母は癜い犬に向かっお、ダブル・ピヌスサむンを送った。癜い犬は尻尟を振り、黒い犬は䜎い唞り声を䞊げた。そのずき、家の䞭のレヌスカヌテンが開き、䞭の人ず母の目があった。母はただ犬にダブル・ピヌスサむンを送っおいる最䞭だった。気たずい空気が流れ、お互いに苊笑いしながら䌚釈をした。
    ②母は駅の構内の長い階段を登り切り、通路を歩いおいた。䞍意に母の巊脚が埌ろに匕っ匵られ、躓いお転んだ。脚を匕っ掛けられたのだ。母は鋭い県差しで呚りを芋枡し、犯人を探した。だが誰も居なかった。よく芋るず母の巊足のスニヌカヌの靎玐が解けおいた。右の靎で巊の靎玐を螏んづけお転倒したのだ。
    ③冷沢は久し振りに母に䌚った。母はメガネを掛け、曎に額にサングラスを掛けおいた。冷沢は母の目が四぀になったようで少し滑皜に思えた。母は突然䜕かを思い出したように鞄のチャックを開けお「サングラスがない」ず䜕床も呟いた。

    母は①②③に䟋瀺されるような人物だった。
    冷沢はそんな母の、ある皮どうでも良い話に匷い感銘を受けた。そんな話の䞭に真実が朜んでいるず感じた。
    それらの゚ピ゜ヌドから倚くの曲が生たれた。少し可笑しくお、少し悲しくお怖くお、自由さもある曲だった。
    生たれおから死ぬたでの間で、幎衚に茉らないような話。そこに音楜性を芋出しおいた。
    音楜を孊ぶこずは音楜の䞭の芁玠を取り出すこずでしかなく、楜譜は蚀わば魚拓のようなものだ。生きおいるのはあくたで魚だ。
    母は歎史に残らない生き様を望んで、望み通り魚のたた死んでいった。
    冷沢は、数日の䜜業の䞭でそれを明確に悟った。
    「そもそも翻蚳などない。だがそれは拡がり、ずも蚀える」
    空䞭をプレヌンな魚が泳いでいる。空䞭の氎面にコオロギが萜ちお、魚が䞀口で食べた。
    そんな映像が合わせ鏡のようにずヌっず向こうたで続いおいた。それがい぀しか魚の口から魚拓が䜕枚も䜕枚も出おきお、たるで空也䞊人の口から出る小さな阿匥陀仏のようだった。

    圌は䞀茪挿しから癜い花を抜いお、倧孊時代の集合写真を添えた。
    改札口の電光掲瀺板が光り、『改札䞭』ず衚瀺された。冷沢はそのたた改札に向かい、読み取り郚に癜い花をかざした。
    ゲヌトが開き、花は消えた。
    階ぞず続く゚スカレヌタに乗る。
    ゚スカレヌタ暪の壁にはポスタヌが貌っおあり、最初は魚拓ばかりだったのだが、次第に倧孊時代の冷沢の集合写真に少しず぀倉わり、その䞭で圌は戯けたようなダブル・ピヌスサむンをしおいた。

    ぀づく



    ①母は買い物垰りに近所を歩いおいた。ある家の前には犬小屋がふた぀䞊んでいる。そこには癜ず黒の犬が䞀頭ず぀飌われおいた。癜い犬は人懐こくお、真っ盎ぐな目で母のこずを芋た。黒い犬は牙を剥き出しおいる。母は癜い犬に向かっお、ダブル・ピヌスサむンを送った。癜い犬は尻尟を振り、黒い犬は䜎い唞り声を䞊げた。そのずき、家の䞭のレヌスカヌテンが開き、䞭の人ず母の目があった。母はただ犬にダブル・ピヌスサむンを送っおいる最䞭だった。気たずい空気が流れ、お互いに苊笑いしながら䌚釈をした。
    ②母は駅の構内の長い階段を登り切り、通路を歩いおいた。䞍意に母の巊脚が埌ろに匕っ匵られ、躓いお転んだ。脚を匕っ掛けられたのだ。母は鋭い県差しで呚りを芋枡し、犯人を探した。だが誰も居なかった。よく芋るず母の巊足のスニヌカヌの靎玐が解けおいた。右の靎で巊の靎玐を螏んづけお転倒したのだ。
    ③冷沢は久し振りに母に䌚った。母はメガネを掛け、曎に額にサングラスを掛けおいた。冷沢は母の目が四぀になったようで少し滑皜に思えた。母は突然䜕かを思い出したように鞄のチャックを開けお「サングラスがない」ず䜕床も呟いた。

    母は①②③に䟋瀺されるような人物だった。
    冷沢はそんな母の、ある皮どうでも良い話に匷い感銘を受けた。そんな話の䞭に真実が朜んでいるず感じた。
    それらの゚ピ゜ヌドから倚くの曲が生たれた。少し可笑しくお、少し悲しくお怖くお、自由さもある曲だった。
    生たれおから死ぬたでの間で、幎衚に茉らないような話。そこに音楜性を芋出しおいた。
    音楜を孊ぶこずは音楜の䞭の芁玠を取り出すこずでしかなく、楜譜は蚀わば魚拓のようなものだ。生きおいるのはあくたで魚だ。
    母は歎史に残らない生き様を望んで、望み通り魚のたた死んでいった。
    冷沢は、数日の䜜業の䞭でそれを明確に悟った。
    「そもそも翻蚳などない。だがそれは、拡がり、ずも蚀える」
    空䞭をプレヌンな魚が泳いでいる。空䞭の氎面にコオロギが萜ちお、魚が䞀口で食べた。
    そんな映像が合わせ鏡のようにずヌっず向こうたで続いおいた。それがい぀しか魚の口から魚拓が䜕枚も䜕枚も出おきお、たるで空也䞊人の口から出る小さな阿匥陀仏のようだった。

    圌は䞀茪挿しから癜い花を抜いお、倧孊時代の集合写真を添えた。
    改札口の電光掲瀺板が光り、『改札䞭』ず衚瀺された。冷沢はそのたた改札に向かい、読み取り郚に癜い花をかざした。
    ゲヌトが開き、花は消えた。
    階ぞず続く゚スカレヌタに乗る。
    ゚スカレヌタ暪の壁にはポスタヌが貌っおあり、最初は魚拓ばかりだったのだが、次第に倧孊生の冷沢の集合写真に少しず぀倉わり、その䞭で圌は戯けたようなダブル・ピヌスサむンをしおいた。

    ぀づく

     
     
     
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