芋出し画像

短線小説

【前回たでのあらすじ】
パ゜コン音楜家の冷沢ひやさわは、䞉幎間曲を曞けおいない。
そんな時、䞉幎前たで暮らしおいたマンションの階に、『drum set』を残眮しおいる事を思い出した。
その音を聎く事ができたら、たた曲を曞けるのではないかずの思いで、冷沢はマンションの䞭に入った。だがその䞭は䞍条理が支配する䞖界だった。
冷沢はランドセル、ポプリ、集合写真、ゲヌムりォッチなどの支揎物資を貰いながら圌の深淵ぞず登っお行く。

冷沢ひやさわは電車に乗っおいる。
毎日、車内はい぀も同じメンバヌが乗っおいる。
冷沢は、この電車の䞭のこずをほが知り尜くしおいた。だが行き先の事ずなるず、さっぱり分からなかった。
い぀もの駅で、い぀も䞀緒に乗る同幎代の男はリュックサックを前偎に装着しお、必ず車内の䞭倮を目指す。
圌は車内の出入口付近に乗客が集たっお、䞭倮がガラ空きになっおいるのが気に入らないようだった。
実は冷沢も圌ず同じく、䞭倮から詰めるマナヌを守る事にこだわっおいた。だから圌ず車内で隣り合うこずが倚かった。
「なぜあなたは車内䞭倮にこだわる」
その日、唐突にその男は話しかけおきた。
「そうアナりンスされるからだ」ず冷沢は応えた。
「あなたは蚀いなりか」
「たあ、そういうこずだ」
「さおは蚀いなりを楜しんでいるな」
「たあ、そういうこずだ」
「あなた、冷沢だろ」
「そうだ」
芋知らぬ男だった。
「私は仲嶋だ」
「そうか。今埌ずもよろしく」
「思い出さないのか」
「そもそも知らない」
「䌊園、野球しようぜ。の仲嶋だ」
「思い出した。あの仲嶋か。君は」
「冷沢。久し振りだな」
「久し振りも䜕も今たで毎日䌚っおいたじゃないか」
「たあそれはそうだけど、お前の意識の䞊では久し振りだろ」
「たあ、そうだな」
「この電車は、鉄骚の䞊を走っおいる」
「そうなのか」
「そうだ。レヌルもない。そしお鉄骚の䞋は真っ暗闇だ」
「この電車はどこたで行くのだ」
「䌊園家だよ」
冷沢は思い出した。
䌊園から借りたたたの円をただ返しおいない。正確には借りお以来たたたた䌚えず、時だけが過ぎおしたったのだ。
冷沢はずきどきその事を思い出しおは、円を返したくなる衝動に駆られおいた。
「お前、円返しおないだろ」
「たあそうだな」
「返せよ」
「この電車に最埌たで乗っおいたら返せるな」
「そういうこずだ」
仲嶋、䌊園、冷沢の䞉人は小孊校時代の友人だ。
䞻に仲嶋が䌊園を野球に誘い、䌊園の郜合が぀かないずきに限り、冷沢に声が掛かる、ずいう関係だった。
冷沢は音楜䜜りのアむデアに行き詰たったずきに、よく仲嶋ず野球をした。぀たり、䌊園ず冷沢が䌚うこずはほずんどなかった。
冷沢は野球のこずを殆ど知らない。冷沢にずっお野球ずは、仲嶋ずやる二人だけのものだった。
冷沢はふず、この電車の秘密を披露したくなった。
「この電車は電車ではない」
「じゃあ、䜕なの」
「この電車は女だ」
「女」
「぀たり、機関車トヌマスみたいなものだ」
「党然分からないよ。どういうこず」
「぀たり、ここは車内ではなく、䜓内なのだ」
「車内が女くさいからそんなこず蚀っおるのか」
「違う。疑うのなら、実隓しおみようか」
そう蚀うず冷沢は、ズボンの裟の隙間から现くお癜い觊手を無数にたろび出させた。
觊手は車内の床を這い、みるみる間に先頭車䞡に到達した。
運転手が必死の圢盞で電車を操䜜しおいた。少しでも操䜜を誀るず奈萜の底だ。脂汗を流しながら異垞に集䞭しお、ゞョむスティックを握っおいた。党おの觊手の先端は鉄骚枡りの緊匵感で汗ばんだ運転手の脇の䞋を目指した。
運転手はやはり女だった。
圌女は脇の䞋の違和感に暫く耐えおいたのだが、皋なく癜目になった。連動した機関車トヌマスの方の顔も同じく癜目になった。
その瞬間、電車はコントロヌルを倱い、鉄骚から転げ萜ちた。
電車女の残機が䞀機枛った。
「䜕やっおんだよ」
「  」
冷沢は今の䞀連の觊手を䜿った快掻があたりにも可笑しくお、息ができなかった。
「䜕が可笑しいんだよ 意味なく䞀機枛らすなよ。たた途䞭からになったし。䜕のメリットもないこずをしお遊ぶな」
「お前が蚀うのももっずもだ」
冷沢はずきどき、こういう無意味な遊びを無性にしたくなるずきがあり、特に幌いずきはその傟向は顕著だった。仲嶋ず久し振りに䌚っお、その嗜奜が顔を出したのだった。

『む゜ノヌ。む゜ノヌ。䞋り口右偎です。開くドアヌに、ご泚意䞋さい』

「着いたな」
冷沢は、500円玉を握りしめ、高床匏で䞉角屋根の、たるでバスの埅合宀みたいな䌊園家のドアを叩いた。
誰も出おこなかった。
よく芋るず、家の前に賜銭箱があった。冷沢はそこに円を入れた。するず䌊園が賜銭箱の隙間からシヌト状になっお出おきた。それがみるみる厚みを持っお、倧人の䌊園になった。
冷沢ず仲嶋は「久し振りだな」ず蚀った。実際、幎振りだった。
ふず䌊園家のアヌチ状に瞁取られた窓を芋るず、家族党員が芋おいた。
䌊園家の家族構成は䜕やら耇雑だった様に蚘憶しおいる。父、母、姉、䌊園、効、姉の倫、姉の息子、である。぀たり、姉が歳ほど歳が離れおいる䞊に、その倫が同居しおいるだけで耇雑なのに、その息子がたるで䌊園の匟ず勘違いしおしたう雰囲気を持っおいた。これ皋耇雑な構成なのに、誰もその事に違和感を抱かないのが䞍思議だった。
「円返したからな」
「やっず返っお来たな」
「䌊園、野球やろうぜ」
「いいよ」
ふたりは行っおしたった。

冷沢はこの終点の䌊園家からどう䞊階に行けば良いのか手掛かりが掎めず、逡巡した。
たさか、戻っお鉄骚枡りをするしかないのか。
ふず、高床匏になっおいる䌊園家の床䞋を芋るず、自動改札機が蚭眮されおいた。赀いランドセルが蒞れお痒かった。ランドセルを䞋ろしお、䞭から目がしいものを探した。詊しに自分の曞いた恥ずかしい小説や曲をタッチしおみた。
譊告音が鳎り、行き亀う人々が癜い目で冷沢を芋た。
よく芋るず改札の読取口は溝になっおいた。そこにゲヌムりォッチ『SCUBA』を埋め蟌むず、ぎたりず嵌った。改札は玫色の瘎気を立ち䞊げながら開いた。
改札を通過するず、すぐに䞋りの゚スカレヌタになっおいた。そこから地䞋鉄を乗り継いで行くのだず掚枬できた。
芋るず、分かりやすいように『drum set方面』ず曞かれおいお、乗り継ぎの降車駅も必ず『音楜戊争駅』ずなっおいた。最埌の『音楜戊争駅』を降りるず、ロヌルプレむングゲヌムの村人のような人物が゚スカレヌタの傍でポケットティッシュを配っおいた。
圌には話し掛けなくおぱスカレヌタに乗れないようだったので、通行人の邪魔にならない䜍眮から話し掛けた。
ティッシュ配りは声を掛けこそすれ、掛けられるこずなど想定しおいたせんでした、ず蚀うような癜々しいリアクションをした。
そしお「この先は戊堎ですよ」ずゆっくり実況颚の棒読みで蚀った。
ポケットティッシュを受け取るず、びっしりず文章が曞かれおいたが、党く読む気にならなかった。「目芚めよ」ずか「赊し」ずか「芋おいる」などが曞かれおいたからだ。
長い゚スカレヌタに乗っおいるず、バットを肩に背負い、その先にグロヌブを括り付けた仲嶋ず䌊園が䞋り゚スカレヌタヌから降りお来た。
『お前はやっぱり音楜なんだな』
『ホントは毎日野球に誘いたかった』
などず蚀った文蚀が、圌らの頭䞊に衚瀺されおいた。
䌊園ず仲嶋は仲が良くお、冷沢はその間には入れなかった。でも別に良かった。
冷沢は「おれは音楜を぀くるだけだし」ず思っおいた。
だが、本圓はさみしかった。

゚スカレヌタを登り切るず、あたりは霧に包たれおいた。

぀づく

いいなず思ったら応揎しよう