
お願い、迎えに来てね #010 (1-10) 宣戦布告
第1部 諦念編|第1章
Hello, world.
それは偶然を装った 残酷なリフレイン
だれかの色に 染まるための空白を
だれかのために ちぎって 差し出すのは
もう おしまいにするんだ
ぼくが「ぼく」であることを
世界に そしてきみに 証明するための儀式
沈黙 加速する鼓動
これが ぼくの 残酷で純粋な はじまり
三学期。中学生活、最後の席替え。
貴樹くんは窓際の一番後ろ。
わたしはその二つ前。
くじ運がいいのか悪いのか?
朝学習のプリントは、一番後ろの人が列ごとに回収することになっているから、毎朝必ず貴樹くんにプリントを渡すことになる。たかが紙っぺら一枚渡すだけなのに。このぎこちなさたるや。これじゃまるで、毎朝クラスメイトに「貴樹くんが好きです」って公言しているみたいだ。
貴樹くんとわたしの間に挟まれた席の麗香に、毎回のようにからかわれる。
「後ろ振り返って『月桜が貴樹くんのこと好きだって』って言ってあげようか?」
うわぁ。きっと今、わたし顔が赤くなってる。
恥ずかしくて俯いていると、麗香がさらに煽ってくる。
「月桜。もうすぐ卒業だよ。貴樹くんと逢えなくなっちゃうよ。このままでいいの?」
貴樹くんが好きだなんて、誰にも打ち明けたことはなかった。だけど、なんかもう限界。クラス全員が知ってるっぽいし。毎朝麗香に煽られるし。もう素直に認めて楽になりたい。
親友の紗良ちゃんとの帰り道。「今日こそは紗良ちゃんに打ち明ける」という決意を心に固めながら歩いていた。
受験生なのにごめん。いつもならすんなり帰るところを、紗良ちゃんとの分かれ道で呼び止めた。
「紗良ちゃん。相談したいことがあるの」
ずっと前から貴樹くんが好きだったこと。
毎朝麗香にからかわれてること。
告白しようか悩んでいること。
やっと言えた。
「月桜の態度見てたら、誰だって気づくよ。……でもさ。なんか意外なんだよね。月桜が選ぶ人が、貴樹くんだっていうのが」
「貴樹くんじゃ……へん?」
「男の趣味は人それぞれ。でもよかった! わたし絶対月桜とは被らないわ」
それじゃオトコノシュミガワルイみたい。なんか傷つく。
「告白……したほうがいいよ。月桜が気持ち伝えたいなら」
話に夢中でぜんぜん気づかなかった。
和乃、いつからそこにいたの?
今の話、聞いてた?
貴樹くんが好きだって。告白したいって。
……どうしよう。和乃に知られてしまった!
わたしたちに追いついた和乃は、追い抜いて帰ることもできずに、角の酒屋の物陰に隠れていたらしい。
紗良ちゃんと別れて、同じ道に向かう和乃とふたりで歩いていた。
和乃にだけは知られたくなかった。
橘くんの悲しい思い出が、浮かんでは消え、浮かんでは消え、胸の奥をざわつかせる。また和乃に余計なことをされるんじゃないか? という不安が大きくなっていく。和乃もきっと橘くんのことが好きだったんだろう。
どうしてまた同じ人……
実は密かに気になっていた。和乃も貴樹くんが好きなんじゃないかって。今度は邪魔しないで。この恋だけは失いたくない。
和乃の軽い嫉妬が原因であんなことになったなんて、和乃は知るよしもない。和乃は何も知らないとわかっているのに、それでも抑えていた怒りが爆発してしまった。もう止められない。
「さっきの話、聞こえてたよね?」
「うん」
短く答える和乃に、わたしは言葉を叩きつけた。
「もし和乃も貴樹くんが好きだとしても、わたし、気持ちが抑えられない。友だちなのに、とか。抜け駆けして、とか。そんなふうに思われたくない」
好きとも、好きじゃないとも言わず、和乃はずっと黙っている。
「もし和乃も貴樹くんが好きなら、フェアに戦って」
宣戦布告。堂々、恋のライバル宣言だ!
どうしてまた同じ人……
和乃に嫉妬されて邪魔されるのは、もう嫌なんだよ。
誰かに遠慮して気持ちが伝えられないのは、もう嫌なんだよ。
我慢するのは、ひとりで泣くのは、もう嫌なんだよ。
貴樹くんは失いたくない。
失いたくないなら、動くしかない。
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