
【雑サメ。#2】 セル画のご飯とポリゴンの猫/第1章 ポリゴンの猫とセル画ご飯(なんか世界がおかしい編)
気絶したふりをしたシオリが運ばれた部屋は、やはりポリゴンだった。
人の気配が無くなったのを確認して目を開けると、カクっとした天井が見えた。
「……おかしい、ベッド柔らかい」
視線を横にずらすと、シーツのシワが目に入った。
ざらっと、布の感触。
シオリは黙ってベッドに腰掛ける。
立ち上がって振り返ると、ベッドはテッカテカに角張った。
ふと自分の服装を見る。水着のままだ。
「海から直接飛ばされちゃったからなー」
思わず呟く。
着替えも特に持ってきてない。
少しどころじゃない。かなり気まずい。
クローゼットらしきものを探ると、中にてらてらした四角い物が一枚。
つまむと。
「布になった」
シオリはとりあえずパレオみたいに腰に巻く。
少し落ち着いた気がした。
ついでに緩んだポニーテールを、高い位置で結び直した。
軽いノックが聞こえた。
「起きたか?」
「あ、ミカル」
ミカルの金髪がさらりと揺れた。
「体調良さそうならなんか食べるか?」
シオリは黙ってお腹に手を当てた。
「お腹空いてるかも」
「食堂、こっちな」
◻︎◻︎
「で、これがご飯?」
「すみません、今パンとベーコンと卵しかなくて」
例によって、カクッとしたシスターが困ったように説明する。
「ううん、それはいいの。ただ――」
パンに乗ったベーコンエッグはいい匂い。
目玉焼きなんて黄身がプリプリに輝いている。
まるでラピュタのお弁当みたいに――
「セル画だよね?これ?」
「せるがー?シオリ様の国のお言葉ですか?」
シスターは首を横に傾ける。
「お粥なら作れるかも」とのシスターの提案を丁寧に断り、シオリはテーブルにつく。
この際食べられるならなんだっていい。
ポリゴンだろうがセル画だろうが、――受け入れないと……。
手に持つとベーコンエッグは立体になった。
シオリは、恐る恐る齧り付く。
「――!」
ちゃんとベーコンエッグだった。
しかもしっかり美味しい。
「うっ」
シオリの頬っぺたをポロポロと涙が伝う。
……私生きていけるかもしれない。
声にならなかった。
「どうした、大丈夫か!?」
「シオリ様!?」
シスターが、シオリの腰の背骨あたりを懸命に撫でてくれた。
ミカルも何となく、近くにいてくれた。
◻︎◻︎
その数日後、ミカルが気分転換にと誘ってくれた。
神殿の近くの街中だという。
「ここ数日、災厄は出てないから」
不穏な単語が聞こえたような気がしたが、シオリは聞こえないフリをした。
「この街出身なの?」
歩くついでに聞いてみた。
「ああ。神殿で生まれた」
「へー」
街は――
やはり輪郭が甘い。
人々は同じ場所をぐるぐると周り、たまに止まる。
鳩は近づくと飛び立ち、同じ動きで餌を啄む。
犬と猫も、同じ。
そして個体によっては、壁の向こうに自然と埋まって消える。
にゃーん
と鳴き声だけは聞こえる。
「猫好きなのか?」
「うん」
撫でたくて、壁から頭だけ生えている猫に近づくと。
……近づきすぎて焦点が合わず、猫は丸くて白い物体に成り果てた。
仕方なく、視点をなるべく猫から遠ざける。
指先だけ、猫へと一生懸命伸ばす。
「何やってんだ?」
ミカルが怪訝そうにシオリを見る。
「何って猫を撫でようとしただけ」
「ほら」
ミカルが抱き上げた瞬間、猫の毛並みがふわふわになる。
ミカルはシオリの腕の中に猫を入れた。
(あったかい)
猫は腕の中でじっとシオリを見つめている。
「にゃーん」
「ミカル、ありがと」
「存外、不器用なんだな」
頭をポンと撫でられる。
「……ここにいていいんだね」
毛並みにそっと顔を埋めた。