
【雑サメ。#3】 しゃーくね?の呪文/第1章 ポリゴンの猫とセル画ご飯(なんか世界がおかしい編)
「シオリ様、体調が戻ったばかりだというのに申し訳ない」
神殿の台座の上で、青い服の神官が大袈裟に天を仰いで叫ぶ。
……その方向には、誰もいない。
この人、仮に神官Bとしよう。
名前は長すぎて、覚える前に諦めた。
「で、なんでみんな同じ顔なの?カクついてるし」
「……みんな違いますよ?シオリ様にはそう見えているんですね」
「で、なんであなただけ色が違うの?」
「えーっと、順番に説明しますね。私もこの世界の住人の一人ですが、みんな違う顔ですしちゃんと生きてますよ」
「……生きてるの?」
神官Bは穏やかに微笑んだ。
「噂には聞いていましたが、転移者様ってやはり不便でらっしゃいますねえ」
ちなみに、シオリがこの間抱っこした猫は、たまというらしい。
「さて仕切り直しです」
神官Bは胸元でポンと手を合わせるような仕草をした。
「ミカル様、シオリ様。世界に災厄が迫っております。危機に瀕しているのです。そこでぜひ、シオリ様の異世界の知識をお借りしたい」
「あの、災厄ってなんなんですか?どんな悪さするんですか」
「ん?シオリの世界にもいただろ?俺がぶった切ったやつ」
ミカルが、眉を寄せる。
「……うん?私の世界、恋ジョーズにいた?災厄???」
シオリは自分を食べようとしたグレーの塊を思い出した。
(――サメ……お前だったのか)
「あいつも強かったかな。女神補正で割と一撃で沈んだけど」
「ちゃう。あれはサメや」
「うん?さめ?」
それからシオリは息継ぎもせずサメへの情熱を語った。
対サメ用武器の考案&一撃で倒せなかったときの火薬量(検証の結果ミカルの爆炎魔法で解決)。
そして一番危険な天候の指定まで――
思いつくまま前世のオタク知識をフル回転してこの世界の平和のために尽力した。
◻︎◻︎
「大変だ~サメが出たぞ~!!!」
ポリゴンの街に警鐘が鳴り響く。
ミカルは屋根の上で、武器を振り下ろしたまま立っている。
シオリは下で待機している魔法部隊の後方から声をかけた。
「ミカル!」
「まかせろ!」
ウィーン。
唸るベルトに擦れる金属音。
シオリ考案対サメ用大型武器。
角度が悪いと弾き飛ばされるが、刺さったときの威力はそこらの大剣よりも甚大だ。
その武器に魔力を溜め込み、頭からサメを殴りにかかるミカル。
――ポリゴンの地面をサメがヌルヌル泳ぐ。ミカルに向かって飛びかかるサメに、
これぞまさしく――
ダメだ情報量が多すぎてめまいがしてきた。
目の前がチカチカして耐えられない。
「シャークネード……」
シオリは両手を広げ、うっとりサメを見つめる。
一瞬ミカルとも目が合った。
ミカルは、なぜかこちらに向かって小さくピースをする。
「勇者どの!危ない!」
後方支援で火炎魔法組が火の玉を飛ばす。
後ろにタンと一歩下がったミカルは、次の瞬間サメを爆炎で吹き飛ばした。
跡形もなく吹き飛ばされるサメの残骸が辺りに静かに散っていく。
(――私死んでもいい)
耳の中で荘厳な音楽が鳴り響く。
――シオリは鼻血を出して倒れた――
◻︎◻︎
「大丈夫か?シオリ?」
気がついたら自室だった。神殿内にあてがわれたそこそこ広い部屋。
ミカルがベッドで冷たいタオルを当ててくれる。
タオルの感触が柔らかい。水が額を流れて枕に滴り落ちる。
「……やっぱり、ミカルがさわっても本物になるんだねえ」
「なにがだ?それより、あの寝言なんだったんだ?」
「え?私なんか言ってた?」
「台風さえ揃えばカンペキとかなんとか」
「あー……気にしないで」
恥ずかしさで熱が上がる。
「あとなんだっけ?しゃーくね?ちぇーんそー?だっけか?あの呪文なんなの?すっげー力湧いたんだけど」
「……気にしなくていいよ」
シオリは力なく微笑んだ。
◻︎◻︎
「シオリ様!大変です!新しい発見があったのです!」
神官Bが、この間の爆発に巻き込まれたという猫を担いできた。
ん?普通ポリゴンの猫なのだが?
シオリは猫に近づきすぎない距離で視点を合わせた。
(……あ、毛並みが前よりふわふわ……)
にゃーん。
鳴き声は可愛い。
でもやっぱりポリゴンだ。
「……変な世界」
猫は神官Bの腕のなかでゴロゴロと喉を鳴らし始めた。