
【雑サメ。#19】 最後のキスは事故/第4章 距離を保つこと(たぶんセーフ寄りの編)
自室の電球を変えたくて、シオリは椅子の上に立って背伸びする。
……ちょっと危ないな。
一旦降りて脚立を持ってくるべきか。
考えていると、トンとノックと同時に扉が開いた。
「精が出るな。それくらい言えばやるのに」
「呼びに行くより自分でやった方が早いじゃん?」
「脚立でやった方がいいぞ」
「やっぱそうかな」
シオリは両手に電球を持って見比べる。
どっちが古い方だかわからなくなってしまった。
光に透かして確かめる。煤けた方が古いヤツ。
そのとき、一瞬頭がクラっとした。……あ、私お腹空いてる。
何とか踏ん張ろうと足指と土踏まずを丸めるが、自身の体重には叶わなかった。
ツルッと滑って世界が反転する。ミカルの手が、腕が見えた。
焦った表情。顔が近い。肩に掛かるごつっとした手のひら。
間に合わず二人床に投げ出された。ガチっと鈍い音と共に。
鼻がツーンとしてシオリはのたうち回った。ミカルは膝を払って起き上がる。
痛い。全てが吹っ飛ぶくらい。
涙と鼻水と、とにかく全部液体が出た。
「ーーーー!」
「大丈夫か?」
ほっぺたを片手で挟むように掴んで覗き込まれる。
……これが噂の顎クイっ、って違う。ロマンが無さすぎる。
「血が出てる」
シオリは黙って立ち上がり救急セットを出す。
鉄の味がする。これは少しヤバいやつ。
鏡で確認すると前歯の上から血が出てた。
ミカルは多分様子からすると無傷だ。さすが勇者。
消毒液をポンポンと当てていると、
「その、いまさっき当たっただろ?」
「へ?」
「人間は気にするんだろ。ようく消毒しといた方がいい」
至極真面目にそう言った。
「へ?……え?ぶはっ……www」
「……?なにか変なこと言ったか?」
笑いが止まらなかった。
「けど怪我がなくてよかった」
ミカルがほっと息を吐いた。
「俺の歯硬いから」
は?とシオリは首を傾げる。
「シオリも知っていると思うが勇者は身体能力が高い。よって歯も硬い。一歩間違えばシオリの歯が折れていた」
シオリは固まった。ミカルは冗談を言わない。
「唇がワンクッションになって助かったんだな。ま、口の中なら治るのも早いだろ」
その後、脚立を借りてきてミカルに電球を変えてもらった。
これで貸し借りゼロ。
ミカルが倒れてきても、シオリは受け止められる気がしなかった。