
ハゼ釣り|雑サメ。〜勇者の隣で普通に暮らす……多分♯52|第9章 世界が更新されたのかどうかは、よく分からなかった(たぶん気のせい編)
炊き出し場にいい匂いと湯気が回り始めた午後。
「最近クマすごいねー」
「学校近くとかまで来るっぽいよ」
「私鹿しか見たことない」
「私イノシシ」
「どれも畑には迷惑なやつ」
「クマは段違い」
「もうハンターさん出てるのかなあ」
「何人か行ったみたいよ?」
「ハンターさん減ってるんだっけ?」
「猟銃免許取るのも大変そうだもんね」
「猟銃ねえ。私昔間違えて空砲打っちゃって、兄に命中させた。いまだに言われる」
「おばちゃん猟銃免許持ってたの!?すごい!」
「……」
「……もう時効のやつね」
「時効ってなに!?」
「昔は色々ゆるかったのよ」
「絶対それで済まないやつ!」
「はー。それよりもうすぐ秋ねえ。そろそろ釣り行きたいわ」
「私今週ハゼ釣り行くんだ~」
「あら、いいわね」
ハゼ釣りかあ。
帰り道、シオリの頭の中はもうハゼだった。
◻︎◻︎
数日後。
場所は川の下流。田舎。
大きな橋がいくつも掛かっている。
整備されたコンクリに、ミカルと二人並んで座る。
途中で買った釣り餌を開けると、ポリゴンの虫が蠢いている。
「この虫がさあ」
シオリは二本の指でそっとつまむ。
唯一の特殊能力発動。虫は立派なミミズになった。
「こういう時は、ポリゴンでいいのに。まあ、イソメよりマシか」
シオリはため息をついて、釣り針にミミズをちぎって引っ掛ける。
「虫苦手か?」
「そうでもない。クワガタの繁殖とかしたことあるし。ただ、長い虫はあんまり好きじゃない」
ミカルはぽーんと釣竿を振った。
ぽちゃんと重りが投げ込まれ沈んでいった。続けてシオリもほおり投げる。
五分くらい待つと浮きがピクピク反応する。ぴっと引くと、すぐ竿が軽くなった。
「あー」
「竿引くの早すぎだろ」
「わかってる」
ハゼ釣りは子どもでもできるくらい簡単だ。
何回か繰り返すと、タイミングが合うようになって二人でバケツいっぱい取れた。
「ハゼって可愛いよね」
バケツを眺めるとハゼと目があった気がした。
つつくと鼻がヒクヒクした。
「これ、どうしよう?」
「唐揚げだろ?」
「半分返していい?」
「……ハゼは目の位置がずるいよな」
ミカルと一緒に、元気で小さい子から返していった。
「返せない子もいたね」
「しょうがない。釣りってそんなもんだろ」
「まあね」
神殿の食堂の台所を借りて捌いていく。
塩でぬめりをとって、簡単に鱗を削いで。
最初締める時はちょっと心臓の辺りがキュッとなった気がした。
内臓を引っ張り出して、ハゼの胃の部分を指先でちょっとなぜる。
その後、生き物を食べ物にする作業を繰り返していく。
衣を付けて、170度の油に放り込む。
ジュワっという音とともに底まで沈んで、ぷかあと黄金色に浮いてくる。
毎回見る度に、食材に魔法を掛けてる心地になる。
台所が良い匂いに包まれ、
引き上げた衣の先端にシュワシュワと泡が弾けて消える。
「揚げたて食べよ」
ミカルと1個ずつつまみ食いする。
揚げたての衣がサクサクして、舌がふわふわの白身に触れた。
「美味い、な」
「だね」
その後キャベツを付け合わせに、一緒に並んで食卓についた。
「いただきます」
「ごちそうさま」
いつもより少し、神妙な気分になった。