メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【雑サメ。#16】 勇者候補生/第4章 距離を保つこと(たぶんセーフ寄りの編)

    ◀【前話】  |🏠【目次】|  ▶【次話】

    ある日、神官Bの部屋にミカルと二人で呼び出されてしまった。

    「e国の勇者候補生の研修?」
    「はい。そうでございます」

    神官Bは静かに頷く。

    「e国って、海越えた向こう側の国だろ。そんな接点、ないと思うけど」
    「おっしゃる通りです。実際、現在フォローに入っているのは近隣諸国ばかりで、こちらとはあまり関わりがありません。ただ――」

    神官Bは淡々と続けた。

    「神殿の立場として、“干渉しない”という判断も、避けられないのです」

    「……で?」

    ミカルは短く息を吐き、近くの椅子に腰を下ろした。

    「ペアとして、シオリ様にも同行していただきたいと考えております」
    「え? 私も?」

    「はい。勇者候補生はまだ若く、繊細だと報告にございます。この辺りで“ペアのモデル例”を複数見るのも、決して無駄ではないかと」

    「余計だな。気が進まない」

    ミカルは視線を逸らしたまま、低く呟く。

    「別のやつじゃ、ダメなのか」

    「各国の報告書を精査した結果、ミカル様とシオリ様のペアは、運用面において群を抜いて安定しております。勇者候補生にとっても、非常に分かりやすい教材となるでしょう」

    神官Bはそう言って、深々と頭を下げた。

    「わかった」

    短く答えると、ミカルはそれ以上何も言わず、部屋を出ていった。

    「え? なに? それって……旅行?」

    廊下に向かう背中に問いかけると、ミカルは振り返りもせずに言う。

    「準備しとけ。そのうち日程、来るから」

    「あっ、そうだ。ねえ、ペアって何?」

    広い廊下を追いかけながら聞くと

    「神殿が好きな形式上の呼び名だよ」

    ミカルは素っ気なく言った。

    どこか珍しく、不機嫌そうな足取りだった。

    ◻︎◻︎

    旅行。
    とりあえず、シオリの中ではそういうことになった。

    「準備しとけ」って言われたし。
    日程が来るって言われたし。
    神殿の人は否定しなかったし。
    ――じゃあもう、旅行でいい。

    部屋に戻って、まず考える。

    (……あ、移動)

    海越えるって言ってたけど、たぶん船じゃない。
    神官Bだし。

    (オーブだよね)

    神殿の転移オーブ。
    あれ、景色とか過程とか一切ない。
    「移動します」→「着きました」で終わるやつ。

    湿気も潮風も船酔いも、存在しない。

    「じゃあ、楽だな」

    準備の難易度が一気に下がった。

    部屋の隅にかけてある“いつものやつ”を見る。水着。

    「……泳げるのかな?」

    どうしても転生前の思考が邪魔して、
    旅行=バカンス、という発想になる。

    暖かいところだったら、ワンチャン泳げるんじゃないのか。
    そんなことを考えてから、

    「まあ、小さいし」

    と、鞄に雑に滑り込ませた。

    鞄は大きすぎず、小さすぎず、神殿基準で「無難」なやつ。

    中身を並べる。

    ・着替え(実質一択)
    ・下着
    ・タオル
    ・糸と針
    ・石鹸

    移動でも汚れないし、荷物も最小でいっか。
    ……でも、現代人として石鹸は手放せない。

    途中で思い出して、小さな袋を足す。
    シスターが作ってくれた焼き菓子。結構、日持ちする。

    「研修って言ってたし……お腹空くよね」

    勇者候補生、若くて繊細らしいし。
    繊細な子は空腹に弱い。これは経験則。

    準備しながら、自然と口元がゆるむ。

    (ペアのモデル例、か)

    よく分からない評価だけど。
    でもミカルと一緒なら、現地でもたぶん楽だ。

    危ない場所には立たせないし、
    説明は雑だけど、判断は早い。

    「……旅行だなあ」

    声に出すと、ますますそう思える。

    移動は一瞬。
    でも生活は続く。

    ご飯は食べるし。寝るし。朝は来る。

    鞄の口を閉めて、床に置いた。

    (あとは、神官Bのタイミング次第)

    オーブが光ったら、もう向こう側だ。

    るん、って音は鳴らなかったけど、
    たぶんシオリの中ではちゃんと鳴ってた。

    少なくとも、不機嫌そうだったミカルよりは。

    ◀【前話】  |🏠【目次】|  ▶【次話】


     
     
    低予算・低体温で回る世界と、爆破でしか更新されない物語。 (雑サメ。連載お休み中。) ログライン『世界の変さより今日の生活』 ・低予算・低体温ファンタジー ・サメは爆破します(重要) ・合わなかったら、そっと閉じてOKです

    あなたへのおすすめ