
序章:それを、私は『運がいい』と呼んでいる
握りしめるのをやめた手の中に、
残ったものだけを信じて書く人生の記録。
私は「自分は運がいい」と思っている。
努力してここまで来た、とはあまり思っていない。
かといって、すべてが偶然だったとも思っていない。
自分で選んできた道の途中で、どうにもならない外的要因が何度か重なった。
その結果、気がつけば今ここに立っていた。
そんな感覚がいちばん近い。
子どもの頃、家族という一番身近で、一番寄り添ってくれるはずの場所がそうではなかった。
いやだ壊れないで、と泣いても形は少しずつ変わっていった。
あのとき知ったのは、「自分の人生には、自分の力では動かせないものがある」という事実だった。
だから私は、人生を完全には信じていない。
でも完全に手放すほど投げやりにもなれない。
その中間くらいの力加減で自分の人生を握っている。
いつでもするりと手を離せる、そんな力加減で。
そんな私の細い人生の糸を、緩やかに引いてくれた人たちがいた。
入れ替わり立ち替わり現れたその人たちのおかげで、今、ここに私は立っている。
それを私は、「運がいい」と呼んでいる。
この先に書いていくのは、その糸を引いてくれた人たちのこと、そのときの私が何を考え、どう動いていたのかという、小さな記録だ。
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