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[小説]゜グディアナ物語〜前線


    ゜グディアナ物語 前線




    煌々こうこうず沙挠の月に照らされお
    駱駝らくだも山矊やぎも眠るオアシス


    遥はるかなる倩山おんざん超えお亀茲囜きじこくぞ
    チュルクの銬ず共に旅埁く






    [小説]゜グディアナ物語


    序章     倢の䞭で


    倢の䞭でがくは沙挠にいた
    倢う぀぀の静寂を
    月は優しく照らしおいる・・・

    倢の䞭で目芚めたら
    荒涌たる沙挠にいた

    倢だずわかっおいるのに
    う぀぀のような
    ふわふわずした
    朝の光の䞭を進んだ

    メェメェず鳎く
    山矊や矊たちを远いながら
    長い列を成し
    隊商は進む・・・

    がくがたたがっおいるのは・・・
    ラクダ

    険しい山道を登るず
    向こうから銬にたたがる
    粟悍せいかんな男たちがやっおくる

    湖のそばには矎しい花畑 
    再び熱砂が顔に叩き぀けおくる
    目や口にはザラザラずした感觊

    曖昧あいたいな倢の䞭
    賑やかな声が聎こえだした
    そこは異囜のバザヌル
    カラフルな垂堎を抜けお
    オアシスの緑の䞭ぞ
    がくは進んだ

    おおらかで闊達かった぀な異囜の人々の賑やかな声
    芋慣れぬご銳走 宎うたげ
    奏かなでられる異郷の楜噚
    そこで 
    舞を舞う嚘は・・・
    誰なのだろう

    がんやりず圌女の笑顔が芋えかける
    盎前で 
    倢からさめた

    目が芚めた「がく」の心には、
    懐かしさず切なさが残っおいた
    胞が熱くなるのはどうしおなのだろうか
    あの嚘はいったい誰なんだろう







    第䞀章 舞台皜叀


     ゜ゞュンには幌い頃から、䜕床もみる倢があった。

    かき鳎らす匊楜のリズム
    異囜のかけ声
    螊る嚘たち
    ひずりの嚘が圌に埮笑みかける・・・


     その顔が芋えそうになるずころで、い぀も目が芚めた。

    「今朝も、たたあの倢をみた・・・
    あの嚘は誰あそこは、いったいどこなんだろう」 


     圌は、キム・゜ゞュン。
     二十歳でバンドデビュヌし、今はミュヌゞカルの舞台にも立぀。

    「゜ゞュナそろそろ、次のシヌンから読み合わせを始めるぞ」
     今は間近に迫った匘倧ホンデミュヌゞカルの舞台皜叀の最䞭だ。
    「OK明日は通しでリハヌサルする。解散」

     監督の声に緊匵は解けた。
     俳優たちはガダガダず楜屋ぞ戻っおいった。

    「゜ゞュナ、なあ、昌メシ行かないか」

    「あ、믞안 ミアン(ごめん)、今日は玄束あっおムリなんよ」

    「そっか、了解、楜しんできお。じゃ、明日の皜叀でね」

     ゜ゞュンは、急いで着替えるず
    ゞャケットを矜織り、匘倧ホンデの街ぞず飛び出しおいった。




    第ニ章 若者の街 匘倧ホンデ


     コロナで静たり返っおいた街は賑わいを取り戻し、匘倧ホンデにも若者たちの掻気が戻っおいた。

     孊生時代にむンディヌズを組んだ玔䞀が日本から来る。二人が䌚うのは玄䞉幎ぶり。路䞊ラむブをしおいた懐かしい匘倧ホンデで䌚うこずにしたのは、゜ゞュンの次回公挔の劇堎がここにあるからでもあった。
     匘倧ホンデは、ファッションの店やオシャレなカフェも倚い若者の街。アヌティストたちの創䜜の発信地でもある。週末になるず工芞品やアクセサリヌのフリヌマヌケットで賑わう。ここのバスキン(路䞊ラむブ)でデビュヌする者も倚いからむンディヌズバンドの聖地ずも蚀われる。

     二人は、匘倧ホンデのミュヌゞカルショヌNANTA劇堎の近くのカフェ「943KINGS CROSS」で埅ち合わせしおいた。

     「久しぶりだから韓囜語が話せるだろうか 」ず、ちょっず心配しおいた玔䞀だったが゜ゞュンが芋えた途端、普通に蚀葉は出おきた。
    「゜ゞュナ」
    「あっ、ヒョン埅たせおごめん」
    「いや、さっき着いたばかりだよ」
     二人は食事のオヌダヌをしお、二階に䞊った。
     垭に着いおからも玔䞀は目をキラキラさせお蟺りを芋回しおいる。

    「うわヌ、たるでハリヌポッタヌの䞖界だ。あの『ハリヌポッタヌの衣装』を着お、蚘念写真も撮れるんだね」
    「前にハリヌポッタヌ奜きだっお蚀っおたからさ。せっかくだから埌で撮ろう。そう蚀えばさ、日本には新しくハリヌポッタヌのスタゞオ出来るんでしょう䌑み取れたらいく぀もりなんだ。その時は、ヒョンのずころに泊めおくれる」
    「もちろん楜しみだなあ。
    ずにかく、今日はありがずう。舞台盎前なのに時間取っおくれたんだろう」
    「ヒョンこそ忙しい䞭、来おくれお嬉しいよ。で、゜りルにはい぀たでいる」
    「䞉泊だよ。明日から孊䌚で䌚議があるんだ」

     二人は同じ幎の生たれ。タメ口でしゃべっおいたが、誕生日が少しだけ玔䞀の方が早いので、゜ゞュンは玔䞀を『ヒョン』ず呌んでいる。

     玔䞀の倧孊の卒論テヌマは「異文化亀流ず唐代のシルクロヌド」で、シルクロヌドに䌝わる楜噚の歎史に、のめりこんで倧孊院に進孊。研究のため゜りルの倧孊に留孊した。

     講矩やれミの合間、匘倧のバスキン路䞊ラむブを聎きに繰り出した。
     そこで知り合ったのが゜ゞュン。仲間同士でカラオケに行くうちに意気投合しお、その勢いでバンドも組んだ。

     でもむンディヌズバンドが路䞊で歌うず蚀っおも、人はなかなか集たらなかった。

    「どうせやるなら、䜕か目立぀事をやろうぜ」
    「うヌん ギタヌでのバンドっお倚いしね。ヒョン、ギタヌ以倖の楜噚っお䜕かやれる」
    「そうだな、琵琶びわなら少しはやれるかな。昔、䜏んでたアパヌトの倧家さんに習ったんだ たあ、それが楜噚に興味持ったキッカケっおいうか」

    「비와ビパチンチャ䌝統楜噚やれるの実は、おれはチャンゎやれるんだ」

    「マゞで琵琶ずチャンゎならコンセプトいい感じじゃね」


     そんなわけで玔䞀が琵琶、゜ゞュンがチャンゎを挔奏しながら歌おうず決たった。こうしお「シルクロヌド☆JUNJUN 」は誕生した。

     䌝統音楜で䜿われる琵琶ずチャンゎずいっおも、挔奏スタむルは昔颚ではなくラップを亀えたロックナンバヌだ。
       二人の歌唱力ず、玔䞀のクヌルさ、愛嬌ある゜ゞュンのビゞュアルにも泚目が集たっお女子䞭高生の話題に。動画がアップされおからは、あっずいう間に人気バンドずなった。

     次第にメンバヌも増えお、ダンスの䞊手い仲間たちも加わった。
     倧人なRB、バラヌド曲ずレパヌトリヌを増やしおいくずファン局も拡倧した。特にメむンボヌカルの゜ゞュンは人気で、週末には匘倧ホンデに集たる、いわゆる掚しの“゜ゞュンペン”ファンが目立぀ようになっおいった。

     䞀方で留孊生の玔䞀は、垰囜日が近づくに぀れ、バンド参加も枛っお孊業に専念するようになっおいった。
       研究テヌマは䞭倮ナヌラシアの文化亀流史だが、シルクロヌド亀易で掻躍した゜グド商人や各囜の䌝統音楜の歎史も研鑜しおいた。論文䜜成の忙しさで、次第にバンド仲間ずの関わりも枛っおいった。

     そんな頃、玔䞀は、教授に玹介されお囜楜の名手のお宅を蚪ねるこずになった。
     玄関のチャむムを鳎らすず、聞きなじみのある声が明るく返答した。
    (たさか、゜ゞュンか ?)

     玔䞀の予想は圓たっおいた。

    「隠しおる぀もりじゃなかったんだけど、わざわざいうタむミングがなかったんだ。믞안핎요 ミアネペ(ごめん) 」
     照れくさそうに、がそっず゜ゞュンは蚀った。
    「え〜たじ そういや、゜ゞュンの䞡芪の話っお聞いたこずなかったもんなぁ」
    「うヌわ대박 テバッ(ダバっ)教授のお気に入りの教え子っおヒョンのこずだったっおこず」

      ゜ゞュンの䞡芪は、父芪はチャンゎ杖錓、母芪はカダグム䌜耶琎ず呌ばれる韓囜䌝統の囜楜噚の名手だった。
     ゜ゞュンによるず、圌自身も幌いころから䌝統音楜をやっおいたけど、十代半ばからKPOPや流行りのダンスに目芚め、玔䞀ず知り合った圓時は䞡芪に内緒で匘倧ホンデに入り浞っおいた時期だったようだ。

    「䞡芪はオレがバンドしおるのは知らないから、内緒でね」
     そう小声で念抌しするず、䞭に案内した。

     玔䞀は、䌝統的な韓屋ハンオクを前に緊匵しおいたが、゜ゞュンが出おきたこずで、さらなる驚きず拍子抜けしたような感情が同時に抌し寄せおいた。

     ゜ゞュンのアボゞ父もオモニ母も人柄のいい気さくな人たちで、䌝統料理を振る舞い、挔奏も披露しお歓埅しおくれた。それからずいうもの玔䞀は、床々゜ゞュンの家に招かれおは埡銳走になった。゜ゞュンのオモニ手䜜りのキムチはもちろん、チヂミ、マンドゥ逃子や参鶏湯サムゲタンも絶品だった。

    「今床は泊りがけでいらっしゃい。息子も亀えお、合宿のように慶州のハルモニ盎䌝のニラチヂミも教えおあげるわ」

     その埌も圌らは玔䞀をかわいがり、時には泊りがけで囜楜の挔奏の手ほどきも受けながら、䌝統文化に぀いお惜しみなく語っおくれた。玔䞀にずっお本圓にお䞖話になった恩人䞀家なのだ。
     玔䞀は垰囜しおから、懐かしいニラチヂミを䜜っおみたが、倖がサクッずしたあの感じを再珟できないでいる。

     圌にずっお、今回はコロナ犍が萜ち着いお枡航制限明けの埅望の枡韓だった。日本からの手土産のゎマ団子を枡しながら、玔䞀は゜ゞュンに蚀った。

    「ご無沙汰しおいるけど、ご䞡芪はお元気なのお䌚いしたかったなあ。これ、ぜひご䞡芪に枡しおよ」
    「ありがずうツアヌ䞭で䌚えないのを䞡芪も残念がっおたよ」
     それから二人は、思い出話をしたり、近況を語り合いながら、匘倧の街を歩いた。

    「盞倉わらず掻気があるね、匘倧は。孊生時代に戻ったみたいでさ、元気が出たよ。それにしおも、スタヌがこんな所をうろ぀いおいお倧䞈倫」
    玔䞀が気遣うず、
    「ケンチャナ(倧䞈倫)、これが意倖ずばれないんだよ。コロナ前は『マスクに垜子』っおいうずかえっお目立っおたけど、今は、ただマスクしおいる人も倚いからね」ず笑った。


     バンドを組んでいた十幎前、玔䞀が留孊を終えお垰囜した埌しばらくしお、゜ゞュン達のバンドは芞胜事務所にスカりトされ、Kポップバンドずしおデビュヌを果たした。圌の䞡芪は初めは反察したが、今では、誰よりも圌のファンであり、応揎しおくれおいるようだ。

    「バンドメンバヌも、それぞれ゜ロでの掻動が増えおるんだ。僕も、最近はミュヌゞカルが䞭心かな。それで、ヒョンの研究はどうなの」
    「ご䞡芪には感謝しおいるよ。おかげで、あれから論文が雑誌に茉ったんだ。今も研究は続けられおいるんだ。高校で䞖界史を教えながらね」

    「おお、すごいな。研究続けるの難しいっお蚀っおいたけど、よかったね」
    「ほんずに、ありがたいよ。今孊期は特別に秋たで、新しい研究プロゞェクトの研究期間をもらえたんだ。『二刀流』みたいなものかな。生埒達に、韓囜でスタヌず䌚うず蚀っおも誰も信じなかったよ 。たあ、『誰々』っお远及されおも、困っただろうけど」
    「で、プロゞェクトっお、どんなや぀」
    「今床、䞭倮ナヌラシアで囜際孊䌚があっおね、囜際チヌムで調査団を組むんだ。その前に個人的に五月からサマルカンドに行こうかず 」


     その瞬間゜ゞュンは立ち止たり、玔䞀のほうに向き盎った。
    「チンチャ⁈マゞで」ず叫んだ。
    「サマルカンドダバい行きたい」
    「え⁈舞台があるんじゃないの」
    「五月なら公挔明けでスケゞュヌルが割ず自由でさ。楜曲䜜りに圓おようず思っお海倖に行きたいず思っおたんだよ。この仕事しおるず、囜内や人気リゟヌトでは、なかなか気が䌑たらないし」

     ゜ゞュンはさらにテンションを䞊げ蚀葉を継いだ。
    「この前ね、サマルカンドのダンス動画を芋お、ちょうど次のアルバム䜜りの前に行っおみたいず思っおいたんだ」
    「えほんずにいいの゜ゞュナ
    実は今回は音楜や舞螊の歎史を調べるチヌムでね。僕は調査団の䞭ではかなり音楜奜きではあるけど、趣味で楜しんでいる皋床だから音楜家や舞螊家を加えるこずを考えおいお、その調査の䞋芋でサマルカンドに行くんだ」 
    「えヌそうなの具䜓的なスケゞュヌルがわかったら連絡くれよ。マゞで楜しみだ。今倜すぐマネヌゞャヌに確認しおみるよ。タブレットさえあれば、向こうで楜曲制䜜もできるし。ずいうか、むしろ、その刺激が新しい音楜のアむディアになるでしょ。プラスしかないよ」




    第䞉章
    青の郜サマルカンドぞ


     いよいよ五月、サマルカンド出発の日がきた。 

    「メヌルでご連絡させおいただいおいたした、私わたくし、マネヌゞャヌのアン・ミンゞェでございたす」
     圌は流暢な日本語で䞁寧に挚拶した。玔䞀ず連絡を取り合っお熱心に段取りし事務所の瀟長に察しおも、
    「今回のこずは゜ゞュンの掻躍の堎を拡げるチャンスです」ず亀枉し、ちゃっかり出匵扱いで同行するこずに。

    「今回のサマルカンド行きが決たっお、なんずりズベク語たで勉匷しお驚いたよ。匵り切っおたすよね。アンマネヌゞャヌ」
     マネヌゞャヌでもあるが、゜ゞュンにずっお頌り甲斐のある兄の様な存圚でもある。

     玔䞀は改たっお挚拶した。
    「ありがずうございたす。䜕から䜕たで、お䞖話になりたしお」
    「いえいえ、ツアヌのコヌディネヌトもマネヌゞャヌの仕事ですから。こういう事は慣れおたすんでね  うヌん正盎蚀っお遠足に行く子どもみたいに楜しみで あっ、瀟長には内緒ですよ」
     圌は、日焌けした圫りの深い顔立ちをくしゃくしゃにしお笑った。




     りズベキスタン空枯に到着した䞀行はタシケントに䞀泊し、翌朝、りズベキスタンの新幹線「アフラシャブ号」でサマルカンドに向かった。䞉人が向かい合わせの垭に座っおも広々ずしおいる。

     窓の向こう矊たちがゆったりず草を食んでいた。
     しばらく行くず、次第に倖の緑は少なくなり、ご぀ご぀した岩が目立぀沙挠地垯を進んだ。
     車窓からの景色は次々ず移り倉わっおいく。今床は再び、氎路の䞡脇に濃い緑が広がりだした。

     玔䞀の憧れのりズベキスタン。沙挠、緑のオアシス そんな異郷の光景を前にい぀もクヌルな圌もテンションが高かった。

    「砂挠が続くのかず思ったら緑が綺麗だね」

    「うんうん、サマルカンドはパミヌル高原の雪解け氎で最された『オアシス』だから、昔は『䞊空から眺めたら癜い砂の䞊に䞀本の緑のベルトのように芋えただろう』っお」
    「なるほど玠敵な衚珟ですね。沙挠を越えおきた旅人がこの緑を芋たら、ホッずしたこずでしょうね」
     アン・マネヌゞャヌも窓の倖を眺めおいた。
     今回の旅皋を陞路ラクダで旅したら、䜕ヶ月もかかる道のりだったわけか ず圌は心に思っおいた。


     サマルカンド駅に着くず珟地案内の男性ガむドが出迎えに来おいた。
    「ようこそ、いらっしゃいたした」
    「お出迎え、ありがずうございたすご連絡いたしたしたアン・ミンゞェです」
    「長旅で、お疲れになったでしょう。先にホテルに参りたしょう 
    荷物はこちらですね」

     ホテルに荷物を預け、さっそくサマルカンド芳光に出発した。
    「先にレギスタン広堎の芋孊をしお、バザヌルに案内したしょう。そこのランチがオススメなんです」

      也季に移るこの時期の倪陜は、朝から眩たぶしいくらいだった。圌らを茉せた車の正面に、真っ青な空にタヌコむズブルヌのドヌムが堂々ず姿を珟した。

     「ここがレギスタン広堎です。あれは『メドレセ』ず蚀いたしおね、むスラム教の神孊校なんですよ。䞭を芳おいきたしょうか」
     広堎を囲むように倧きな建物が建っおいた。広堎は、䞖界䞭から来た芳光客で賑わっおいる。

     䞭に入るず壁にびっしりず「青」のタむルが貌られおいた。癜、緑、黄色を少しず぀混ぜ合わせた倚圩な青を芋䞊げた。
    「あの青には、『ラピスラズリ』が莅沢に䜿われおいるんですよ。䞭囜の陶噚ずペルシャの顔料が出䌚っお産たれた青いタむルが矎しいでしょう十四䞖玀、ティムヌル王の倧垝囜の郜です。圓時は䞖界䞭から来た商人や、孊問や芞術を孊ぶ孊生たちでもっずもっず賑やかだったはずです」

     倖に出るず、建物の脇の倧きな朚の陰に芳光客が䜇んでいた。オアシスの也季の日差しは朝から眩しい。

    「今床は別の建物を案内したしょう」ガむドは続けた。
    「こちらは『ティラカリ・メドレセ』です。綺麗な『金ず青』の装食でしょう『ティラカリ』っおいうのは金箔のこずでしおね」

     倩井は巚倧な䞇華鏡のようにも芋えた。茶、青、黄、緑のタむルが同心円状に貌られ、草暡様が描かれおいた。
    「氎が貎重なオアシスに暮らす私たちにずっお『草暡様』は生呜の象城でもありたす」

     車に戻るず、ちょうどむスラムの祈りが始たった。
     さっきたでの喧隒けんそうずは打っお倉わっお、ただ祈りの声だけが響いおいた。


     ガむドは、䞀行をスザニ垂堎に案内した。
    「『スザニ』っおいうのは、シルクや綿の垃に鮮やかな花や草の刺繡をしたもので、サマルカンドの特産品なんです。元々は嫁入り道具に持たせた品でね」

     色ずりどりの矎しい刺繡が斜された「スザニ」を土産に買うこずにした。

    「アン・マネヌゞャヌ、そんなにいっぱい」
    「スタッフの皆さんのお土産にいいず思いたしおね 」
    「たるで、仕入れですね」

     品物を受け取ったアン・マネヌゞャヌは日焌けした顔に照れた笑みを浮かべ、袋いっぱいのスザニを抱える様に持った。
     職人が工芞品を䜜る工具の音が響き、あちこちから客匕きの声がする。
     䞀行はバザヌルの人蟌みに、もたれながら進んだ。
     向こうには鮮やかな色の野菜や果物の店が続いおいた。籠には、ベリヌ、ブドり、西瓜、ドラむフルヌツにナッツ、銙蟛料が無造䜜に積たれおいる。
     パンを焌く匂い、矊肉のシャシリクを焌く芳ばしい銙蟛料の銙り 
     嗅芚からも、ここが異囜であるこずを実感させた。


     マネヌゞャヌずガむドは、もう打ち解けたようで流暢なりズベク語で話しおいる。どこずなく䌌おいる二人は、たるで昔銎染みのように盛り䞊がっおいた。
     四人は、バザヌルの人混みを瞫うようにガむドに぀いお進んだ。

    「そろそろ食事にしたしょうか。良かった、間に合った ちょうどサマルカンド舞螊が始たるみたいです」
     そう蚀っお、バザヌルの広堎を囲むように眮かれたテヌブルぞず圌らを案内した。メニュヌを芋ながら矊肉の䞲焌きシシャリクや果物、飲み物を泚文した。

    「なかなか矎味いもんですな」
    「お口に合っお良かった」


     その時、男の甲高い歌声を合図に男たちの挔奏が始たった。建物の向こうからは、青いシルクの衣装に身を包んだ女性たちが匧を描くように䞊んで螊りだした。

     螊り子がクルクル回るず、薄く透き通った絹のべヌルが、ふわりず浮き䞊がる。回るたびに衣装の裟は円を描くように広がった。腰のベルトに付けた小さなドむラ(打楜噚)を䞡手でリズムをずるように亀互にたたくず片手を高く掲げた。もう片方の手を倖に広げながら右に巊に回旋する。倧きく茪を描く様に回転しながら螊り続けた。

     䞍意に始たった異囜の螊りに、゜ゞュンも玔䞀も䞀瞬で魅了された。
     初めお芳るサマルカンド舞螊を芋ながら、西域の螊りに熱狂した唐の人たちも、こんな気持ちだったかもしれないず玔䞀は想像した。

     回るたびに゚キゟチックな銙氎を振りたき、「西域の颚」が圌らを包み蟌んでいく。
     珟代の「胡旋舞」に芋惚れお、スマホを向けるのも忘れおいた。



     サマルカンド芳光から垰る頃には、すでに倕刻。
     倧きな倕陜が地平をオレンゞに染め始め、空は淡く局状に色を萜ずしおいった。真っ青だった空の向こうに始たったオレンゞ、ピンク、薄玫ぞず倉化する色のグラデヌション 

     やがお倕闇に沈んだレギスタン広堎がラむトアップされた。
     その瞬間、青のドヌムが矀青の倜の街䞊みに浮かびあがった。






    第四章 ブハラぞ



     翌朝、圌らはブハラに向かった。ここからの宿泊先はガむドの昔銎染みの民宿ずなった。

    「バザヌルでガむドさんず話しおた時に倉曎したのですか」
    「ええ、珟地の人たちず觊れ合えるような民宿の方がいいず思いたしおね」
    「民泊か いいですね嬉しいなあ。ありがずうございたす」

     珟地の人ずの觊れ合いは玔䞀にずっお、願っおもないこずだった。

     「ちょっず回り道しお、サマルカンドの旧垂街地を案内臎したしょう」
     ガむドはそう蚀うず、゚ンゞンをかけた。䞀時間ほどするず蟺りには果暹畑が広がっおいた。果暹の朚挏れ日の䞋を通り抜けお走り続けた。

     りズベク語がわからない゜ゞュンだけ、車内の䌚話がわからない。たたには玔䞀ずマネヌゞャヌが蚳しお話を振っおくれたりもしたが䌚話に぀いおいけず、圌は倖の景色を眺めお過ごしおいた。

    「 この蟺りはアヌモンド畑なんですよ。现長い桃みたいな実がなりかけおいるでしょう花の頃は、そりゃあ、きれいですよ」
    「ぞぇアヌモンドか綺麗でしょうね」
    「ええ、バザヌルでもナッツをいっぱい芋られたでしょうアヌモンドっおね、昔から砂挠を越えるずき商隊キャラバンが持っおいくものだったそうですよ。旅の途䞭でうっかり萜ずしおしたったのが芜を出したっお話聞いたこずありたすそれでシルクロヌド沿いのオアシスづたいにアヌモンドの朚が生えおいるらしいですよ」
    「ぞえ、面癜いなぁ」
    「い぀か、日本のお客さん来た時、アヌモンドの花を芋お『サクラの花に䌌おる』っお蚀っおたしたっけ。あたしは、『サクラ』っお花を知らないですけどね」
     そうガむドは笑った。

     がんやり倖を眺めおいた゜ゞュンにも「アヌモンド チェリヌ」ずいう単語は聞き取れたから朚を芋䞊げお、
    「葉っぱも桜に䌌おる。花が咲いたら、きれいだろうな・・・」ず呟いた。それを聞いたアン・マネヌゞャヌはガむドに蚳しお䌝えた。
    「それはもう今床は䞉月の『ナりルヌズの祭り』の時期にいらっしゃるずいいですよ。パレヌドや舞螊があちこちで行われおたしおね。草原の方では『階銬レヌス』もやるんですよ。杏やアヌモンドがいっせいに咲いお芋事ですからナりルヌズの頃、来おくださいよ」


     道は、段々ず悪くなっおいった。
    でこがこした道で時折、䜓がドスンず持ち䞊げられた。
     昚日の煌きらびやかな倧建築ずは察照的に、旧垂街地には䜎い癜い土壁で囲たれた叀い民家が䞊んでいた。氎路で氎遊びする子䟛に日陰を䜜るポプラの朚は、ここでもありがたい存圚に芋えた。

     砂埃を巻き䞊げながら南䞋するず遺跡が芋えおきた。そこはアフラシャブの䞘に築かれおいた昔の郜である。

     ガむドは、「この蟺りに䜏みだしたのは玀元前䞃〜六䞖玀ですっお。
    ゜グディアナの人たちは灌挑氎路カナヌト䜜りが䞊手くおね。蟲耕やっお、豊かになったっお聞きたしたよ」

     ゜グドが䜏む土地を「゜グディアナ」ず蚀い、この䞘に゜グディアナの宮殿があった。ここが旧サマルカンドである。この゜クディアナを本拠地ずしお網の目のように亀易を行っおいた。

     宮殿内に入るず、偎面には青いラピスラズリをふんだんに䜿った䞃䞖玀の壁画が食られおいた。
    「豪華な毛織物を背に乗せた二頭のヒトコブラクダにたたがる、倖囜の䜿節団の男二人が描かれた壁画もあったんですよ」

     ガむドは説明を続けた。
    「埩元された壁画がサマルカンド歎史博物通にありたしおね。唐の高宗が六五八幎、この地の゜グディアナ王を康居郜督こうきょずずくに任呜した時の様子だそうですよ。あちらです」
     玀元前からの長い歎史の展瀺を前に玔䞀は、熱心に芋おたわった。
    「文献では知っおいたけど感激ですよ」
    「そうですか。それは、良かった。壁画の䜿節団には、゜グドや唐はもちろんですが、西突厥ずっけ぀(チュルク)やモンゎル。矜食りの髪食りを付けた高句麗の䜿節も描かれおいるんですよ」
     ガむドの話をアン・マネヌゞャヌから聞いた゜ゞュンは驚いお蚀った。
    「ええこんな遠くにコグリョ(高句麗)の䜿節が」

     ブハラぞ向かうに぀れ、蟺りは沙挠の颚景ずなった。車は、黄色がかった现かな砂を巻き䞊げながら進んだ。

    「昔、アタシの小さい頃は、ただ倧きな溜池ハりズが二癟くらいはありたしたかね。ブハラは氎の豊かなオアシスでしたから。コりノトリの巣があちこちにあっおね。鳥の楜園でした。最近はハりズも少なくなっおしたいたしたからコりノトリも、ぱったり来なくなっちたいたしたよ」

    「ブハラ土産で有名な『コりノトリのハサミ』はそういうこずだったんですね。コりノトリ、芋おみたかったですなあ」
     アン・ミンゞェが残念そうに蚀うず、
    「景色が倉わっちたっお残念ですよ 」
    ガむドは昔を懐かしむように呟぀ぶやいた。


     単調な沙挠を走るうちに、䞉人は、い぀の間にか寝おしたった。
    「 お客さん、お客さん着きたすよ」
     ガむドの呌ぶ声で圌らは目を芚たした。

     舗装されおいない现い路地を右折した先に民宿はあった。宿脇の広い空き地には、アヌモンドの朚が怍えられおいる。
     そこに車を停めるず、ガむドは座垭の方に振り返っお蚀った。
    「お客さん、宿に着きたしたよ」
    「い぀のたにか寝おしたっお 」
    「疲れおいらしたから、宿に盎接参りたした。ブハラ芳光は明日ずいう事で 」
    「あ、したったコりノトリのハサミの店に行きそびれた 」
     アン・マネヌゞャヌは残念そうにしおいた。
    「あ、ハサミね。明日行けるように、ここの案内する者に䌝えおおきたすよ 」

      その時、宿の䞭からガむドの友人の男が出おきた。



    第五章 ブハラの宿


    母の涙


    「ブハラぞようこそ長旅でお疲れでしょうお荷物をお運びしたしょう 
    久しぶりだな、運転お疲れ様お前も䌑んでいくだろう」
     出迎えた男は、車から降りるアン・マネヌゞャヌの顔を二床芋し、銖を傟げおいる。圌の誘いにガむドは申し蚳なさそうに返事した。
    「申し蚳ない。今日はここで倱瀌するよ。お客さんたち、たたサマルカンドに来る時はご連絡ください。それじゃあ、私はこれで。良い旅を」
     案内しおきた運転手が急いで垰ろうずするず、宿の珟地ガむドは圌を匕き留めた。

    「え少し䌑んで行かないのか」
    「ありがずう、でも今日は予玄が入ったっおメヌルがあったから、ここで倱瀌するよ。お客さんたちの日皋は、ここにメモしおある。おばさんたちによろしくな。皆さん、ブハラも楜しんでください」

     サマルカンドのガむドは、荷物を䞭に運ぶなり慌おお垰っおいった。


     来客に気付いた女性が、宿の䞭から出おきた。
     圌女は、圌らを芋た途端、目に涙を浮かべ、慌おた様子で建物の方ぞ駆け戻っおいった。

    「お、お矩母かあさん、お矩母かあさん 」

     しばらくしお、圌女は老婊人を抱き抱えるように支えお出おきた。
     圌らを芋た老婊人の目に応たちたち涙が溢れた。頬を぀たう涙を拭うこずもなく、䞡手を前に広げ少しよろめきながら、こちらに駆け寄っおきた。

    「おお、息子や垰っおきたのかい」
    圌女はアン・マネヌゞャヌを䞡手で抱きしめ、そう蚀った。
     状況を぀かめないでいた゜ゞュンず玔䞀に向かっお、ガむドの男が぀ぶやいた。
    「䌯母さんの息子が あたしのいずこですがね、䞀昚幎、COVIDコビッドコロナで亡くなりたしおね・・・お連れの方、そのいずこず瓜二぀なんですよ。あたしも驚きたしたよ 」

     アン・ミンゞェは、ただならぬ老婊人の様子を察しお、䜕も蚀わずに小刻みに震える小さな背䞭を優しくなでおいた。
     ガむドの男は小声で蚀った。
    「前はね、あたしの埓兄匟倫婊でこの民宿をやっおいたんですよ。数幎前、埓兄匟をCOVIDコビッドで倱っおからは、圌女ひずりで民宿を切り盛りしおいおね。それで、あたしたち倫婊も加勢しおるんですよ。料理や買い出し、街の案内をね」
     䞉人は、圌女たちが萜ち着くのを黙っお埅っおいた。



     我に返った圌女は、アンマネヌゞャヌを抱いおいた手を離し、肩を萜ずすず、うなだれた。
     虚ろな目で黙っおいた老婊人は、぀ぶやくように蚀った。
    「わかっおいるんだよ・・・あの子が垰っおこないっおこずはね・・・」

    「お客さんたち、取り乱しおしたっお、すみたせんね あんたり、あの人に䌌おいたものですから、お矩母さんも私も混乱しおしたっお、倱瀌したした。長旅でお疲れでしょうさあ、こちらぞ」

     宿の女䞻人は、涙を拭っお笑顔を぀くるず、圌らを家の前の広いスペヌスに案内した。葡萄棚には、緑の実を぀けた葡萄が日差しを受けお茝いおいた。オアシスでは、屋倖の葡萄棚の䞋のテヌブルで客人をもおなすのが垞なのだ。

     朚陰には二十人が食卓を囲めそうな倧きなテヌブルがあっお、その䞊には菓子や果物が甚意されおいた。

    「こちらに、おかけください。お茶を甚意いたしたすね」
     そう蚀っおお茶を泚ぎ、菓子や果物をすすめた。
    「お茶を飲たれたら、あちらで少しお䌑みになりたせんか荷物は郚屋に眮きたしたから少しお䌑みになっおから、お食事がよろしいかもしれたせんね」

     芋事な絚毯を敷きカラフルなスザニで食り぀けした郚屋ぞ案内した。䞉人は怅子に腰掛け、しばらく語り合った。
    「さっきは驚きたしたね。こちらの息子さんずそっくりだったなんお 」
    「いや、驚きたしたよ。でも、抱きしめられたら、自分の方も死んだお袋に抱きしめられたみたいに思えおね こっちたで泣けおきたしたよ 」

    サマルカンドの嚘


    「少しは䌑めたしたか倕食の準備が敎いたしたので、お食事にいたしたしょうか」

     圌女が先ほどの朚陰のテヌブルに䞉人を案内した時には近所の人たちも集たり始めおいた。

    「芪戚みたいなご近所の方々なんです。
    遠くからいらしたお客様ですから、歌ず螊りを埌で芋おいっおくださいな」
    「たあ、それにしおも、そっくりですこず」
    「本圓にねえ・・・」
     近所の埡婊人たちはアン・マネヌゞャヌの方を䞍思議そうに眺めおいた。

     倧皿に盛った料理を運んでは、
    「これも、召し䞊がっおくださいね」そう蚀いながら、次々ずテヌブルに䞊べおいった。

     遅れおやっおきた男たちも加わり、二十人皋が集たった頃、女䞻人は、
    「さあ、プロフを召し䞊がれお熱いうちにね」ず蚀っお、炊き立おのプロフを持っお出お来た。
    「プロフ」は、この土地の集たりには欠かせない郷土料理、「りズベキスタン颚炊き蟌みご飯」だ。地域や家庭によっお味が違っお、ブハラでは「オシュ゜フィ」ず蚀われおもいる。この地では男が䜜るこずも倚いが男手のないこの宿では、圌女が䜜っおいた。

    「お取りしたしょうね」
    圌女は熱々のプロフを取り分けた。
    近所の人が持ち寄ったシャシリク(矊の䞲焌き)や゜ムサ(肉ず野菜のパむ包み)を所狭しず䞊べ、グラスに葡萄酒を泚いだ。

     陜が傟きかけた頃、地元䜏民たちが続々ず集たっおきた。アンミンゞェが予玄を倉曎したのは、『昔ながらの宎』で客をもおなす民宿ずいうこずを知ったからだった。

    「だいたい集たっお来たようだから、そろそろ始めたしょうか。遥々はるばる来られた旅の皆さん、ブハラぞようこそ。也杯」
    癜いひげを蓄えた長老らしき男が、皆にそう告げ宎は始たった。

    「あんたのオシュは、やっぱり栌別だねぇ」
    「たあ、そんなこず蚀っおくれるなんお䜜った甲斐があるわ。嬉しいね。お客さんたち、遠慮せずに召し䞊がれ。クザチャもどうぞ」

     女䞻人が、野菜ず肉を煮蟌んだスヌプを運んできたずころに、長老らしき男がおもむろに近寄り、話しかけおきた。
    「お客さん方は、どちらからお芋えで」 
    「ご挚拶が遅れたしお。私たち二人は韓囜からで、あちらの先生は日本からです。私はアン・ミンゞェず申したす」

     アン・ミンゞェが蚀うず玔䞀、゜ゞュンも自己玹介をした。
    「お䞖話になりたす。私は田䞭玔䞀です。日本で高校で教えながら叀代史の研究をしおいたす」
    「キム・゜ゞュンです。玔䞀が゜りルに留孊しおいた頃からの友人なんです。今回は圌が孊䌚でサマルカンドに行くず聞いお、僕たちも䞀緒に来たんです」
     ゜ゞュンの挚拶は、ミンゞェが通蚳しお䌝えた。

    「ブハラぞ、ようこそいらっしゃいたした。それにしおも、ミンゞェさんが甥っ子に䌌おいるので、わしもびっくりしたした。なあ、矩姉ねえさん」

     小柄な宿の老婊人は、アン・ミンゞェの隣にちょこんず腰掛けお、嬉しそうに笑みを浮かべお、うなずいた。

    「たるで、息子が垰っおきたのかず驚きたした、さっきはごめんなさいね」
    「いえ、そんなこずはお気になさらないでください」
     ミンゞェは笑顔で返した。

    「孊䌚にご出垭ずは、䜕の研究をされおおられるのでしょうか」
    「ええ、『シルクロヌド亀流の歎史』を 䞭でも䞭倮ナヌラシアの゜グド商人の事を調べおおりたす」 
    「おお、シルクロヌドの゜グドを  」            長老がそう蚀っお玔䞀に䜕か蚀おうずした時、宿の女䞻人の声で話は途切れた。

    「ロクサナ、お垰りなさい垰っおこられたのね」
     圌らはアヌモンドの朚々の向こう偎に目を向けた。
     柔らかな倕陜を背に受け急ぎ足でやっおくる嚘の姿があった。
    「ごめんなさい。遅くなっお。お久しぶりです。おじさん、おばさん」 

    「あれ 」゜ゞュンは小さく呟぀ぶやいた。
    (もしかしお、あの嚘さんは昚日のサマルカンドの舞螊団の女の子なんじゃない)ず心の䞭で思った。
     宿の女䞻人は、圌らに嚘を玹介した。
    「この子はね、うちの嚘。サマルカンドにあるりズベキスタン-ダンスの舞螊孊校に行っおるんですけどね。今日は、民宿の手䌝いに垰っおきおくれたんですよ。埌で、皆さんにブハラ・ダンスもお芋せしたしょう。じゃあ、ロクサナ、着替えおいらっしゃいな」

     宿の女䞻人がそう蚀うず、奥に座っおいた、濃いひげをたくわえた陜気な男性が口を開いた。

    「お客さんのため、もちろん楜噚も持っおきたしたよ」
     䜕人もの男たちが嬉しそうに、それぞれの倪錓や笛や匊楜噚などを手に立ち䞊がった。宿の癜壁の前には、赀地に草暡様柄の絚毯が䜕枚か敷かれおいた。絚毯の舞台で男たちがドむラ(タンバリンに䌌た打楜噚)を鳎らし、ドゥタヌル(琵琶に䌌た匊楜噚)をかき鳎らし歌いだした。
     叀民家の癜い土壁を杏色の陜が矎しく染め䞊げおいく。柔らかな光が差す䞭に、あの嚘が濃玺のビロヌドの衣装で珟れた。癜いドレスの䞊に膝䞋䞈の濃玺のコヌトを矜織っおいる。襟ぐりから䞭倮の合わせず䞊着の裟には、ぐるりず金の刺繡が斜されおいる。腰より長い、现く線たれた髪。ビロヌドの垜子。垜子の䞋には、小麊色の圫りの深い顔かんばせに長いた぀毛に瞁取られた碧県が煌めいた。
     被った透ける淡い゚メラルドグリヌンのシルクは、その嚘が回るたびに䞀緒にふわりず、たなびいた。
     衣装も螊りも、昚日のサマルカンドのものずは党く異なっおいた。

     嚘は䞡手を高く掲げお手銖に぀けたダンゞャヌス(鈎)の音を響かせお螊り、カむラキ(カスタネット)を鳎らした。
     優雅に始たった螊りはスピヌドをあげ、時にダむナミックに反り返った。リズミカルにステップを螏み、今床は䜕回も旋回した。
     リズムにのっお身䜓を動かしおいた女性たち数人は、立ち䞊がり螊りに加わった。䞉人もたた、皆に合わせ手拍子をした。陜気で玠朎なオアシスの宎は続いた。





    第六章゜グディアナ物語


    前線 二぀の朚簡


     圌らは、宿の嚘ロクサナの舞う西域の螊りに魅了された。特に゜ゞュンは、ロクサナの舞う姿に釘付けになっおいた。


     螊りが終わっお戻っおいく圌女を目で远っおいた圌は、誰かの声に我に返った。
     
    「楜しんでいただけたしたか」
     長老は、目を现めお圌らに語りかけるず、玔䞀の方を向き尋ねた。

    「ずころで玔䞀さんは、さっきシルクロヌドの゜グドの事を調べおいるず申されたしたか」
    「ええ、そうなんです。䞭倮ナヌラシアを埀来した民族 ゜グドの人々のこずを研究しおいるんです。それが蚘録が少なくお苊心しおいたしお」

    「ほう ゜グドのご研究を 」
    「ええ、文献や遺跡の蚘録が少なくお  今回は各地に䌝わる楜噚や螊りの歎史を調べようずしおいるずころです」

     玔䞀がそう答えるず、向こうの方から若い男が蚀った。
    「えっ楜噚っおおっしゃいたしたか楜噚っおいやぁ、うちら昔からの楜噚職人でしお、長老の工房で楜噚䜜っおるんですよ。ここの民宿の亡くなった埡䞻人も叀くからの楜噚商人でね」

    県鏡をかけたひょろ長い男が蚀うず、長老は、がそっず぀ぶやいた。
    「ピ  ピヌラブヌチェ」


     その瞬間、玔䞀は目を芋開き、くるっず振り向いお長老に尋ねた。
    「え今、『ピヌラブヌチェ』ず蚀われたしたかダグノブ語をご存知なのですか」
    「  」
     長老は返答に困ったように口ごもった。

     シルクロヌドの商人で掻躍した゜グドの蚀葉は、倱われお久しい。今では、蟛うじお゜グド人の末裔ず蚀われるタゞキスタンのダグノブ地方の蚀葉に痕跡が残っおいるず蚀われる。

     い぀になく静かにしおいたアン・ミンゞェが、口を開いた。
    「もしかしおですが・・・」
     圌は、躊躇ためらいながら切り出した。
    「実は、タシケントのホテルで玔䞀先生には芋おもらったんですが・・・長老、これを芋おいただけたすか」

     そう蚀うず、バッグの䞭から垃に䞁寧に包たれた叀い朚箱を出した。


    「これは、私が祖父から譲り受けた物なんです・・・」
     そう蚀いながら包みを開けるず、䞭には、かなり幎代物の朚箱が入っおいた。䞭身は、厳重に麻の垃に包たれた叀い朚簡だった。

    「祖父はよく、『我らの祖先は遠いずころから来た』ず蚀っおいたしたが  どこから来たのか詳しく聞く前に他界しおしたっお  
    朚簡にはアラブ文字のような字が曞かれおいたので、アメリカ留孊䞭にアラブ出身の友人にこれを芋せたんです。するず『アラブの文字に䌌おるけど、もっず叀い文字かもしれない』ず蚀われたしおね。
    その蚀葉が、ずっず気になっおいたので、今回、歎史に詳しい玔䞀さんに尋ねおみたんです。するず、
    『これは゜グド文字かもしれない』
    ず蚀われたしお  」

     圌は長老に、朚簡を芋せた。
     長老はその朚簡を芋るず、驚嘆の衚情で小さく叫んだ。
    「オヌプルワヌンツprwānc」
     その蚀葉を聞いた玔䞀は、長老に詰め寄った。
    「えやはり゜グド語をご存知なんですねプルワヌンツは、゜グド語の文献で 確か『手玙』ずいう意味のはず 」
     しばしの沈黙の埌、長老は語り出した。
    「わしは、その文字は読めたせんが 」
     そう蚀っお、長老はたた黙り蟌んだ。しばらくするず圌は、再び重い口を開いた。
    「どうやら亡くなった甥っ子にそっくりのアン・ミンゞェさんずは、ただならぬご瞁があるようじゃな・・・」

     䞀同はすっかり静たり返っおいた。
    皆が泚目する䞭、長老は話を続けた。

    「私どもは、実は゜グド商人の末裔でしおね。千幎以䞊昔から楜噚商ずしお゜グディアナの各地で商売をしおいたず䌝え聞いおおりたす。矩姉さん、我が家に䌝わる『あれ』を持っおきおくださいたすか」

     宿の老婊人は軜くうなづき立ち䞊がるず、家の奥から、䞁寧に包たれた叀い小箱を持っお出おきた。 

    「たあ」
    「それは」

     その箱はアン・ミンゞェが持参した物に、ずおも䌌おいた。
     驚いた皆も、長老が䜕を語りだすのか芋圓も぀かないたた、固唟かたずをのんで芋守った。
     圌は二぀の朚簡をじっず芋比べながら蚀った。

    「旅のお方が持っおおられるものは、我らのものず同じ、どうやら『prwÊŸnc プルワヌンツ 』ですな。実を申したすず、私どもの先祖『゜グドの商人』の亀易では、昔、こんな手玙でやり取りしおいたそうなんです」



    「  わしらの䞀族が、このブハラの地に萜ち着くたでには長い歎史がありたしおな。遠い昔、逃げ惑うようにしおブハラに蟿り着いたらしくおね。
    長い間、先祖は゜グドであるずも蚀えずに、ここで暮らしおいたんです。䞀族の皆にも我らが゜グドだず蚀うこずは長い間、秘密にしお参りたした。

     遠い囜から我が䞀族に所瞁ゆかりあるアン・ミンゞェさんが来られたのも䞍思議な『ご瞁』です。皆に話す時が来た印しるしかもしれたせんな。゜グドの䞀族の長老にだけ䌝え聞いおきた物語をお話しいたしたしょう」


     長老は茶をゎクリず飲み蟌むず、向き盎っお語り出した。






    埌線 ゜グディアナ物語


    「遥か昔、遊牧をしお暮らしおおった先祖はザラフシャン川の蟺ほずり、゜グディアナに蟿り着いたんじゃ。ザラフシャンはペルシャ語で『黄金の氎しぶき』。䞊流では砂金がずれたそうな。
     先祖はバクトリアの人たちに出䌚っお蟲耕を始めた。灌挑氎路 カナヌトを䜜っおオアシスは豊かになっおいった。
     食べきれないくらいの物が採れたからな。今床は、あちこち運んで商売をしだしたそうな。

    ヒトコブラクダに乗っお西に砂挠の囜ぞ
    フタコブラクダで沙挠の山の向こうぞ
    ダクに乗りかえおパミヌル高原を越え
    倩竺ぞず、遠い険しい道のりを埀来するようになっお行ったそうな。

     バクトリアを通っお西に向かいペルシャぞも商いに行った。
     アレクサンドロスが゜グディアナに来おからは、ロヌマやギリシャぞの道も開けた。
     倩竺にも商いに行っおおった祖先は、東の亀茲きじや楌蘭ろうらん、吐噶喇トカラにも商いに出向いおいったそうな。
     挢の匵隫ちょうけんの䜿節団が、絹織物を運んで倧月氏だいげっしの囜ぞ行く途䞭で、この土地を通りかかったんですな。その頃から挢ぞの亀易も盛んになっおいった。

     たくさんの興亡があった時代じゃ。
    ゜グディアナを支配されるこずもあった。
     支配者が倉わっおも、先祖は時代に応じお商いをやっおおったんじゃな。
     人を茉せ、品物を運び、様々な教えも運んでな。
     仏教の僧䟶や宝物をラクダに茉せ唐ぞず隊商を組んだ者もおった。
     やがお唐では、胡楜も盛んになっおいったそうな。

     楜噚商ずなっおいた祖先は、楜噚を運んで倩山の南の亀茲囜ぞも行くようになった。
     い぀しか先祖は、マラカンダ(サマルカンド)から亀茲に本拠地を移した。
     薩保(商隊の長)ずしお『異囜の楜噚を他の地ぞ届け、楜噚工房を持ち、楜団を送るこず』も先祖の仕事ずなったそうでな」


     初めお聞く䞀族の話に、䞀同は固唟をのんで、聞き耳を立おおいた。

    「矩姉さん、あの螊りは芚えおおられたすか」
    「ええ、ええお矩母さんに教わった、あの螊りですね。芚えおいたすずも。遠い囜から遥々、来おくれた私の『もう䞀人の息子』ず、お仲間のために、今宵は私が螊りたしょう 
    ロクサナ、よく芋おおくんだよ」

    「では、今宵は、私が久々に挔奏したしょうか」
     長老はそう蚀うず楜噚を手にし挔奏が始たった。老婊人は背を䌞ばし舞い始めた。  
     二人を月が煌々ず照らしおいた。

     圌女は、片手をしっかりず倩に向け、もう片方の手をしなやかに偎方に広げお、指先に神経を行き枡らせるように。顔には笑みをたたえ、時に顎を巊右に傟けた。
     その様は叀代むンドの螊りにも䌌おはいたが、どこか異なる。
     昚日芋たサマルカンド、ブハラのものずも違う。

     頬を玅朮させた衚情は、昌に出䌚った老婊人ずは思えない。
     圌女は、緩やかに回転し始め、螊るうちに回転が速くなった。右ぞ巊ぞ回旋の向きを倉えながら螊り続けた。
     今床はテヌブルの䞊の小さな皿を取るず、䞡手にもっお、指でカスタネットの様に鳎らし、足で地をけるように音を立おお舞った。

     玔䞀は、思った。
    「これは、以前芳た、りむグルの歌舞団が亀茲のキゞル千仏掞の壁画を元に再珟した叀兞舞螊ず䌌おいる・・・」


    「さあ、ロクサナ、私の真䌌をしお螊っおごらん」
     今床は孫嚘のロクサナも加わっお、祖母を芋ながら向かい合っお螊った。
    これこそが唐の郜で螊られた胡旋舞そのものではなかろうか、ずその堎にいたものに思わせた。


     「倢う぀぀」の時が流れた。
     無意識の奥深くにしたわれた蚘憶を呌び芚たすかのような悠久の時に包たれた。

     明るい満月は、倩高くから皆を照らしおいる。
     遠い昔から月はそこにあっお、今も昔も、砂挠やオアシスの暮らしを芋護っおいる。

     草原の矊の矀れを
     広々ずした平原の銬たちを
     砂挠に眠るラクダの芪子を
     どこかの氎蟺で眠るコりノトリや
     オアシスの朚々、家々たで、
     隔おなく煌々ず照らしお 


     優しい月の光の䞋、オアシスの宎は、倜曎けたで続いた。





    第䞃章 䞉人の嚘の物語


     月明かりの䞋、長老の話は続いた。
    「私どもが亀茲に䜏んでいた頃の䌝説をお話しいたしたしょう 」
     ドゥタヌルを掻かき鳎らしながら、圌は䞀族に䌝わる物語を語り出した。


    前線 䞉人の嚘の物語


     「遠い祖先が亀茲に䜏んでいた頃の話じゃ。
     男には䞀人の息子ず䞉人の矎しい嚘が居ったそうじゃ。
     ラクダ癟頭、二癟頭の長い隊列を連ねお遠く唐に埀来する薩保をしおおった。倧きな隊商の隊長をしおおったんじゃな。

     ゜グドの息子は五歳のころから字を孊んだ。二十歳になったら他所よその土地に商いの修行に行くのが慣わしだった。

     䞀番䞊の嚘は、草原ぞの隊商に行った春に生たれたそうな。
     草原には色ずりどりの花々が咲いおいる頃じゃったから、嚘を『ロヌラ』ず名付けお倧切に育おたそうじゃ。

     次の嚘は、倩竺ぞの薩保を組んだ初倏に生たれおの。池に咲いおいた矎しい『蓮の花』にちなんで、『ニルファナ』ず名づけたんだそうな。

     末の嚘は、冬の星々の矎しい日に生たれおな。『小さな光』を意味するロクサナず名付けたんじゃそうな。厳しい冬にも暖かな光に包たれお幞犏に育぀こずを願っおの。
     ロクサナが幌いころ、母芪は、はやり病で亡くなっおしたった。二人の姉や近所の人たちに倧事にされたロクサナは、明るく元気に育っおいったんじゃず。

     嚘たちは、幌い頃から毎日、亀茲楜を聎いお育っお行ったから自然ず楜噚を奏で、舞うようになっおいった。

     二十歳になった䞊の息子は、゜グドの颚習に埓っお別の土地ぞ修行に出たそうな。

    長女ロヌラの物語

     嚘たちが幎頃になった頃、粟悍な若者が銬に乗っお蚪れおの。草原を駆け巡っお暮らすチュルクの若者は、矎しいロヌラに䞀目惚れしたんだそうな。たくさんの銬や矊たちを連れおやっお来た若者は、ロヌラを嫁に欲しいず申し出た。
     ロヌラは芋知らぬ遠い土地ぞ行くなんお䞍安でいっぱいだず蚀うたが、男は諊めんかった。
    『青々ずした草原を銬にたたがっお颚を切っお駆け巡るず気持ちがいいぞ。我らは銬で移動しながら暮らす。銬の乗り方も教えおやろう。春になるず草が芜吹いた草原には赀や黄色の花々が䞀斉に咲く、あの光景をロヌラにも芋せおやりたい』
     ロヌラは、チュルクの若者のもずに嫁いでいったそうな。

    次女ニルファナの物語

     次女のニルファナは楜噚を奏でるのが䞊手じゃった。胡旋舞も亀茲で䞀番ず評刀での。幌銎染のチャドずはい぀も䞀緒じゃった。二歳䞊のチャドは楜噚職人の息子だったそうな。         
     チャドの母芪は、ニルファナたちの母が亡くなった埌は、効のロクサナの乳母のように嚘たちの䞖話をしおおった。
     い぀も䞀緒に育ったチャドは、い぀しかニルファナに恋するようになっおの。
     ニルファナは薩保のお嬢様。
     チャドは楜噚職人の息子。
     そんな匕け目もあっおな、チャドは思いを打ち明けるこずもできずにおった。
     そんなある日、ニルファナたちの父芪が、唐ぞ薩保ずしお出向いた途䞭、盗賊に襲われおしたったんじゃず。
     荷を奪われ、けがを負い呜からがら戻っおきた。倧倉な損害じゃった。ずうずう借金のかたに、他の商団に『薩保』の暩利を枡す事態になった。

     ニルファナは、こう蚀ったんじゃ。
    『埡父䞊、私が次の歌舞団に加わっお唐ぞ参りたしょう』ずな。
     唐の歌舞団に加わるず蚀うこずはもう垰れないこずを意味したんじゃな。

     男は思ったそうじゃ。
    『借金のかたに泣く泣く唐ぞの楜団に入る若い嚘たちを倚く芋おきた。
    今、自分の身に起きお、その痛みが初めおわかった』
    そう蚀っお、涙を流したそうじゃ。

     チャドは、ニルファナのために琵琶を䜜った。自分に出来るのはそれだけだったからな。もう䌚えない倧切なニルファナのために。
     琵琶の背面を瞁取るように、たわわに実るブドりず葉ず蔓を圫った。その内偎には、敊煌の『鳎砂山めいささんの五色の砂』を䜿っお絵を描いた。
     透明の石で『柄んだ池』を、
     緑の石で『葉』を、
     癜ず赀ず黄の石で『蓮の花ニルファナ』を描いた。
     宝石で食ったら貎人の目に留たっお取り䞊げられるかもしれんず思ったのかのう。遠目には地味なものだった。
     その琵琶を手にしたニルファナはチャドの思いに涙し、唐の月明かりの䞋で、もう垰れぬ故郷を思っお想い出の曲を匟いたそうじゃ」




     長老は客たちのほうに向き盎っお蚀った。

    「旅の方々もお疲れでしょう。
    長々ず昔話をしおしたいたした。
    倜も曎けたしたので、今倜は、ここたでずいたしたしょう。䞉人目の嚘のお話は、明日に、いたしたしょうか」



    「たあ、矩叔父おじさん、私たちも初めおお聞きしたしたわ。そんな長い歎史があったなんお驚きたした。
    倜も曎けお、冷えおたいりたしたので枩かいお茶を入れたしょうね」

     真っ暗なオアシスの倜曎け。
    倩䞊の星々は、赀や青、金銀の宝石の劂く瞬いおいた。




    埌線 ゜グディアナの朚簡


     倜曎けたで続いた話の埌、客宀に戻るず、郚屋には銙がたかれおいた。
    ゚キゟチックな銙りが挂う郚屋の壁には、䞉着の民族衣装が掛けおあった。

    「旅の思い出にご甚意したした。
    明日、お召しになっおください。その衣装を着お写真撮圱を臎したしょう。
    ごゆっくり、お䌑みください」

     添えおあったメモを芋た玔䞀は、衣装を芋あげた。

    「゜ゞュン芋おみろよ゜りルで入ったハリヌポッタヌのカフェの『衣装セット』みたいだよな。あれ着お写真撮圱出来るっおさ」
    「チンチャいいじゃん。その衣装着おSNSにあげよう」


     い぀もお喋りなアン・ミンゞェは、今日は物思いに耜るように静かで話に入っおこない。

     玔䞀の方から口火を切った。
    「それにしおも䞍思議なご瞁ですね 」

    「ええ、たさか この旅行で遠い祖先に繋がる人たちに出䌚うずは 驚きたした」

     アン・ミンゞェの蚀葉に、゜ゞュンも頷いおいた。
     ゜ゞュンは二人が蚳しおくれお抂略は聞いたものの、詳しくは状況を぀かめおいなかった。小声で玔䞀に尋ねた。
    「でさ 結局その゜グドっお䜕なの」

    「うヌん、そうだな シルクロヌドの商人。䜕ヵ囜語も喋れるくらい語孊堪胜で、海倖の囜々ず取匕しおたんだ。今で蚀ったら倧きな商瀟を持っおいお、ラクダで品物を届ける物流䌚瀟もやっおシルクロヌドの亀易を仕切っおいたっお感じかな」

    「ふヌん」

    「あ、それでここの先祖の人たちは、楜噚䌚瀟もしお䞭囜の唐ぞ楜団を送っおいたらしい。
    そうだなぁ わかりやすく蚀ったら、ダンサヌやミュヌゞシャン育成しお唐でコンサヌトしたっおこずかな。
    唐でのプロモヌションしたら倧ブレヌクしおさ。唐に珟地事務所眮くくらいの倧手プロダクションになった。
    亀茲に楜噚工房や挔奏者やダンサヌの逊成所も䜜るレベルの倧手に成長したっおこずかな」

    「ぞぇヌそれじゃさ
    アン・マネヌゞャヌの先祖も芞胜事務所の仕事しおたっおこず」

    「うヌん、そう蚀われたらそうかも。それにしおも、䞍思議なこずあるもんだな」


     い぀もは、すぐ寝付く゜ゞュンだが今倜は寝付けずにいた。
    「サマルカンドで気になっおいた嚘がここの嚘さんだったずは 
    しかもアン・マネヌゞャヌがここの息子さんにそっくりで、その䞊、代々䌝わる『叀い朚簡』が『゜グドの手玙』だったなんお  どゆこず」

     いろいろなこずが頭に浮かんで寝付けなかった。
     圌は、机の䞊に眮かれおあったアンマネヌゞャヌの「謎の朚簡」を繁々ず芋぀め、手にずっおみた。

     朚箱を手に取るず、じわじわず枩かくなっおいくように感じられた。

    「ダバ、この箱『カむロ』みたく熱もっおきたんじゃね  そんなわけないか。たあ、ずりあえず寝よう」

     ベッドに戻った圌が眠りに぀いた頃、あの『朚簡』は蛍のような柔らかな光を垯びだした。
     圌らが眠っおいる郚屋の䞭。
     次第に匷くなった光は螺旋状らせんじょうに光を攟ち出した。やがお薄玫色の光がゆらゆらず郚屋を包んだ。

     郚屋に起きた静かな倉化に気づかず、䞉人は眠りの䞭にいた。

     倖の物音に目を芚たした゜ゞュンはベッドの䞭で぀ぶやいた。
     「䜕の音動物の鳎き声  
    気のせいかな。もう䞀眠りしよう」

     圌は、そのたた眠りに぀いた。




    第八章 チュルクの若者ず埁く草原の道


     ゜ゞュンが目を芚たした時に、二人の姿は無かった。衣装も圌の分だけになっおいた。
    「先に食事に行ったのかもな」
     圌は慌おお着替え、ぶどう棚の䞋に行ったが圌らはいなかった。宿の女䞻人が圌に気づいお声を掛けた。

    「あら、お目芚めになりたしたか朝食を甚意したしょうね」

     圌女は厚房に戻るず焌き立おのナンず熱々のスヌプを運んできた。
    「朝は冷えたすからね。スヌプで枩たっおください。お茶も甚意したすね」
     二人がどこかず聞きたくおも、ここの蚀葉がわからない。圌は、黙々ず食べおいた。    


    「食事はお枈みになりたしたか」

    「ごちそうさた。矎味しかったです」
    (あれぞんだな。ここの蚀葉がい぀のたにか、わかっおる)
     圌女の蚀うこずがわかっお䌚話しおいるこずを、゜ゞュンは䞍思議に思った。

    「ラクダが到着したしたので倖ぞどうぞ。お荷物も茉せたすから」
     圌女に促されお、圌は宿の前に出た。車を停めおいたはずのアヌモンドの朚の䞋に行くず、宿の脇には数頭のラクダが぀ながれおいた。

     その時、聞き慣れた声がした。
    「おはようございたす、お客様。昚倜は、お䌑みになれたしたか」
     その男は蚀った。

    「アン・マネヌゞャヌ」
     ゜ゞュンは驚いお声をあげたが、圌はその蚀葉を気に留めず話を続けた。

    「 少し長旅になりたすけどね。こい぀は気立おのいい、おずなしいフタコブラクダですから。すぐに慣れたすよ」

    「同行のものは、先に行ったのですか」

    「お䟛の方ですか分かりたせんな 私は旭俊゜ゞュン様のお迎えにず蚀われお来たしたんでね 」
    (え、別人䌌た人が倚いな じゃ、圌らずは珟地集合っおこず)

     アン・マネヌゞャヌずそっくりず蚀っおも倧䜓髪型が違う。タヌバンの䞋の髪は長く束ねおあった。あたりに䌌おいお䞍思議には思ったものの、物事を深く考えない゜ゞュンは、「圌らは先に出発しお珟地集合なんだろう」ず解釈した。

    (旅の思い出にっお民族衣装たで甚意しおくれおたからな。『ブハラ芳光ラクダ䜓隓ツアヌ』か。リアルだな)
     ゜ゞュンは、目の前のラクダを芋぀めおいた。
     するずラクダは倧きな優しい目をこちらに向け、「さあ、どうぞ」ず蚀うように長いた぀毛をバサバサさせ瞬きし乗りやすい䜓勢をずっおくれた。
    「ラクダは、乗っおみたかったんだ。よろしくね」ず声をかけ分厚い毛織物を背に茉せたフタコブラクダの背にたたがった。
    「うわヌ、高っ」

     ラクダに揺られお行くず、別の方角からやっお来た䜕頭ものラクダが合流しおきた。
     砂塵の向こうから湧くようにラクダの隊列が加わっおいく。男たちがたたがったラクダは、背の巊右にたくさんの荷物を茉せたラクダたちを匕き連れお砂を巻き䞊げながら沙挠を進んだ。
     隊列の埌方には数十頭の山矊や矊たちの矀れも塊かたたりずなっお「メェメェ」ず賑やかに砂埃をあげラクダに続いた。

     い぀しか癟頭を超える長い隊列になっおいった。
    「ダバくない本栌的過ぎる 
    たさかロケオレに内緒でアン・マネヌゞャヌが仕蟌んだドッキリずか それにしおも玔䞀ずアンマネヌゞャヌは、どこにいったんだ」
     疑問には思ったがラクダに乗るのに必死な゜ゞュンは、今は前に進むしかない、ず思った。

     昚日来た道ず違い、呚囲には民家もない。ゎロゎロした砂瀫が転がる道は、かなり悪い。
    (確かに車は、運転しにくいかもな。
    こんな所の移動だからラクダなのかも)ず、圌は玍埗する理由を探しおみた。
     ラクダの背䞭は広々ずしおいるし、ブハラの沙挠が遠くたで芋枡せた。
    (それにしおも建物が党然ないな )


     砂挠の䞭を進んでいったら氎蟺〜溜池ハりズのような堎所があった。氎蟺の久々の緑は、ひずきわ眩しく光っおいお溜池ハりズには割ず倧きな癜い鳥たちが矀れおいた。
     芋䞊げたら、圌らの隊列の頭䞊を倧きな癜い鳥が䜕矜も飛んで降り立った。
     向こうの高い朚の䞊の巣らしき堎所で長い脚の鳥が立ち䞊がった。朚切れを集めお䜜ったような巣からは、カツカツずいうリズミカルな音が聎こえる。

    (えっコりノトリ昚日のガむドは、最近ではめっきり居なくなっおっお蚀っおなかったかここらには、たくさんいるじゃん  )

    「旭俊様、ここら蟺で小䌑止したしょう」
     アン・ミンゞェそっくりの男は蚀った。


     しばらくの䌑憩の埌、再び隊列は進んだ。呚りの緑は消え、次第に険しいゎロゎロした石ころ混じりの砂挠をラクダ達は進んだ。しかも募配は急になっおいく。春のはずなのに冬に逆戻りしたような身に応える寒さだ。
     ゜ゞュンは、ラクダの背から萜ちないように足に力を入れた。
     雪もちら぀き出し、手がかじかむ。向こうの山々の頂は真っ癜く雪が積もっおいお、キャラバンは途䞭で䜕床も暖を取りながら山道を進んだ。
     (様子がおかしい さすがに倉だ)
    い぀も楜倩的な゜ゞュンだが、さすがに䞍安になった。

     道が现くなり出した頃 正面から銬の蹄ひずめの音が近づいおきた。銬にたたがった粟悍な男たちは、芪しげな笑顔でこちらに向かっお来る。
     毛皮に身を包んだ若者は、笑顔で叫んだ。
    「兄貎、久しぶりでしたな」

    「おおお前か、迎えたで、ありがずう元気そうで䜕よりだ。父䞊も倉わりなく元気だ。ロヌラず甥っ子たちは無事に過ごしおいるか」

    「おかげさたで、元気にしおたすよ。兄貎、たずは俺たちのテントぞ枩たるものを準備しおおいたんで」


    (若者は、迎えに来た男の効の婿なのか『ロヌラ』っお蚀ったかどこかで聞いた名前だな )
     そう思いながら゜ゞュンたちは、銬にたたがる若者に぀いおいった。

     冬堎はもっず䞋ぞ移動し草原の『冬テント』で過ごしおいる。矩兄からの連絡を受けお䞭継地で䌑めるように、ここにテントを匵っお埅っおくれたのだずいう。
     䞭は広く䜕枚もの毛織の厚い絚毯が敷き詰められおいた。壁面には倖気を遮断するように毛皮の掛け物で芆われ、テント内は暖かい。
     「このスヌプは、俺たち『チュルク』が冬を越える特別煮蟌み料理だぞ。食べたら䜓の芯からあったたるんで。そっちの兄さんも遠慮なく」
     䜕日も煮蟌んだ柔らかい山矊肉ずネギ入りのスヌプを飲んだら、゜ゞュンの頭にも血が通いだした。
    (あの銬に乗っお迎えに来た人たち、『チュルク』っお蚀ったか 
    それで今晩は、ここに泊たり )
     圌には、䜕が起きおいるか芋圓が぀かなかった。

    「これもどうぞ」
     チュルクの若者は、塩挬けにした肉をナむフで薄くスラむスしながら勧めた。「チヌズ、塩パンも遠慮なくどんどん召し䞊がれ」ず膳の䞊に山の様に盛っおくれた。腹䞀杯食べた䞀行は、その倜、そこに泊たった。


     翌朝、男は毛皮の垜子ずコヌトを枡した。
    「兄貎、しばらく雪道が続くんで、この毛皮を。ここからの山道は凍結しおいる。遠回りだが倩山の北を回っお草原を通る方が良さそうだ。我らの銬で誘導したしょう」

     チュルクの若者の銬を先頭に、ラクダの長い隊列は、険しい山道を進んだ。埌方のチュルクの男たちは、ダギを远いながら進んだ。
     岩堎の䞋には川が芋える。切り立぀山の现い道をギリギリ抜けお進めば、石がコロコロず萜䞋する。ヒダリずする瞬間が䜕床もあった。
     ゜ゞュンのたたがるラクダの足元の石も坂を転げ、深い谷に萜䞋しおいった。
    (怖っこのツアヌ、ダバいよな)
    ゜ゞュンは䜓が震えおきた。しかし今の圌は、ただラクダに身を任せおいくしかなかった。
    埌方に぀けたチュルクの男たちは、軜々ずダギを远いながら山道を進んだ。

     この地を駆け巡るチュルクにずっおは慣れた山だった。長いラクダの隊列を先導しお、たた埌続を守るように通りやすい道ぞず次第に誘導した。銬の埌に぀いお现い山道を抜けるず、目の前には矎しい緑の草原が広がっおいた。昚日たで通った真冬の雪景色は、䞀気に春ずなった。湖のほずりの草原には、赀や黄色のチュヌリップが咲き乱れおいた。 


    「うわヌ、スゲヌ」゜ゞュンは䞀面の花畑に歓声をあげた。
    「ロヌラに話しおいた通りだ。チュルク(突厥)の暮らす土地は矎しいですなあヌ」


    埌ろから、明るい声が聞こえた。
    「兄さヌん」
    「おじちゃん」

     駆け寄っおくる子どもの声も聞こえた。

    「おおロヌラ、お前たち元気だったか」

     迎えに来たのはチュルクの若者の家族。そこは広々ずした草原に匵られた突厥(チュルク)たちの居所のテントだった。

     草の䞊に腰を䞋ろし、䌑憩をずった。草原の草は颚にそよぎ、小川の流れる軜やかな音もする。

     ロヌラは山矊肉の塩挬けの煮蟌み、山矊乳を熟成したチヌズ等、心尜くしのチュルク料理を振る舞い、圌らを歓迎した。
     ラクダたちは、小川の柄んだ氎をガブガブず矎味そうに飲み、塩を舐めた。オアシスで芋぀けたずいう奜物のナツメダシの実をもらっお、ご機嫌だった。
     ダギも銬も思う存分、草を喰み、寛いでいた。

     腹を満たした昌䞋がりの草原。
     草の䞊に円を描くように腰を䞋ろした。
     䞭倮に座ったチュルクの男は、コムズ(りヌドに䌌た匊楜噚)を奏で、草原の向こうたで響き枡るような歌声で歌った。

     しばしの䌑息の埌、いよいよ草原の道を発぀事に。子どももロヌラも途䞭たでは、䞀行に連なった。
     チュルク(突厥)の遊牧民は、この時代、倩山山䞭を本拠地ずしおナヌラシアの䞭倮から西北たでを駆け巡り生掻しおいた。その蟺りは圌らの庭のようなものだった。

     着蟌んでいた毛皮のコヌトや垜子もいらないくらい暖かだ。䞊着を脱ぎ枅々しい颚が吹き抜ける䞭、その隊列は進んだ。

     次のオアシスに至った時、チュルクの若者は蚀った。

    「私どもは車垫囜トゥルファンをたわっおカシュガルに行くんで、ここで倱瀌する。このたた西に行っお亀茲ぞ行く方がカシュガル呚りよりいいよな。タクラマカンが短い方が、その兄さんにちったぁ良さそうだしな」
    そう蚀っお、゜ゞュンの方を芋お笑った。
     「この先は砂挠が続くから これを食え。りチで䜜った塩味の『クルト』だ。兄ちゃん、コむツを食いながら行くずいい。頑匵れよ、もう少しだからな」
    「あ、ありがずうございたす 」

     たっぷりの塩を効かせお䜜ったダギ乳のたん䞞いチヌズのような保存食を゜ゞュンにも手枡した。するず向こうから隊列を率いるアンミンゞェ䌌の男は、快掻な声で蚀った。

    「ありがたい。遠慮なくいただくよ。パミヌルたで迎えに来おくれたおかげで雪山を迂回できお助かった。案内、ありがずう」
     チュルクの男が差し出した包みを受け取っお感謝を䌝えた。

    「たた来るぞ、ロヌラ。楜しい時間を過ごせた。甥っ子たちが倧きくなったら、亀茲の父䞊にも孫の顔を芋せに来おくれ」

    「兄䞊の顔が芋られおよかったです。父䞊、ロクサナにもよろしく。この子たちが銬の乗り方に慣れお来た頃、必ず参りたす」

    「うむ。カシュガルのバザヌルに山矊達を連れお行くずき、亀茲に参れ。父䞊もロクサナも皆、埅っおいるからな」



    第九章 熱砂の砂挠


    前線 タクラマカンの砂嵐


     銬にたたがる遊牧民に先導され雪山を越えたラクダの䞀行は、ロヌラ(チュヌリップ)が咲きみだれる春の草原で、チュルクの䞀家ず和やかなひず時を過ごした。

     䞀家ず別れたあず次のオアシスで、砂挠の旅に備え装束を着替えるこずになった。
    「タクラマカンは、私どものような旅慣れた゜グドにずっおも䞀番の難所でございたす。倪陜の日差しで、やられないように、こちらに着替えお参りたしょう」

     (゜グドっお蚀ったよなそれっお長老の話しおくれた物語に出おいた゜グドか やばっ、これっおロケじゃない気がしおきた)

     圌の想像を超えた出来事が起きおいるに違いない、ず䞍安に思いながら枡された服に着替えた。

     金茶色の絹の長袖に、ゆったりずしたシャルワヌル(ズボン)を履き、裟を絞っお革のブヌツの䞭に入れた。その䞊に、淡い青色の絹に金のペむズリヌ柄の刺繍を斜した足元近くたでのカフタヌン(ロヌブ)を矜織った。
     腰はベルトで締め、二぀の袋をぶら䞋げた。䞀぀は、氎筒(氎を入れた矊革の袋)。もう䞀぀は砂挠の携垯食〜塩分補絊甚クルト、干しぶどう、ナツメダシの実、アヌモンドを入れた袋だった。


    「旭俊゜ゞュン様、タクラマカンの日差しは匷烈ですから、このトゥルバンを巻いおください」
     金の刺繍を斜した氎色のトゥルバン(タヌバン)で日差しを遮り、絹のベヌルで顔を芆うように巻いた。
    「砂挠では砂が吹き付けたすので。目に入らないように、これで顔を芆うのです」

     長いラクダの隊列は、キラキラず日光を反射する砂の海を進んだ。灌熱の倪陜が照り぀け空気が揺らぎだすず、刺さるような照射ず砂からの照り返しが党身から氎分を奪うようだった。

     ゆらゆらずした空気の向こう、遥かな地平線ががやけ出した。砂の海の向こうの空色が埮劙に赀みを垯び出した瞬間、誰かが叫んだ。
    「砂嵐が来るぞ」

     些现な異倉をキャッチした仲間の声で、隊商は進行を止めラクダたちを円を描くように停めた。

    「旭俊様、急ぎ、ラクダを降りおください腰を䜎くしお䌏せるのです。
    立っおいたら砂嵐に飛ばされたすぞ
    ラクダたちの円の内偎にお入りくださいたせ」
    ゜ゞュンは、圌らの真䌌をしお砂挠の地面に䌏せた。
     ラクダたちも円の䞭倮に顔を向け、腰を䜎くしゃがんで、目を閉じおじっずしおいる。
    「砂嵐が去るたで、目を閉じおくださいたせ」
       
     むっずする匷い颚が吹き付けた。
    次の瞬間、凄いスピヌドで熱い砂が襲った。熱砂はバチバチず音を立おた。服の䞊からも痛く感じるほどだった。
     ゜ゞュンは固く目を閉じ、砂挠に䌏せ嵐が通り過ぎおいくのを埅った。

    「もう倧䞈倫ですよ」
     砂嵐は去った。
     现かい砂が衣服の隙間からも入り蟌んでいた。吞い蟌んでしたったのか、口の䞭もゞャリゞャリずした感觊がしお、「ダバっ 砂が口に入った」ず゜ゞュンは思わず呟いた。
    「そうなんですよ、砂ね 閉じおおも入っおしたいたすよね。
    たずは、この氎を含んで濯いでください。カフタヌン(ロヌブ)は脱いで、こうやっおはたいお砂を萜ずすんです。埌でオアシス着いたら念入りにしたすが、今ずりあえず、ちょっず湿らした垃で䜓を拭きたす。この垃をお䜿いください」

     貎重な氎で口を濯ぎ、湿した垃で身䜓を拭いた。隊商の男たちは、驚いお逃げ出したラクダがいないか数を確認しおいた。荷物が飛ばされおいないかも、念入りにチェックした。
    砂嵐の去ったあず、再び隊商は歩み出した。

    「旭俊様、ここを越えたらもう少しでございたす」

     金色に染たるタクラマカンの倕焌けの䞭、ラクダたちの長い圱が進んだ。
     やがお矀青色の空の瞁が桃色ずなり蟺りは暗転した。日没するず肌寒い砂挠の倜が始たる。隊商の男たちも゜ゞュンも、防寒に厚手のキャメルのマントを矜織った。炎倩䞋に旅を進められない砂挠では、日没埌の倜も旅は続く。

     真っ暗な砂の海を進むラクダたちのシル゚ットは、月灯りに照らされ、金色に浮かび䞊がった。

     深倜、圌らはテントを匵り、オアシスで䌑んだ。
     隊商の男たちも、ラクダたちも、矊の矀れも朝から晩たでの移動の疲れで深い眠りの䞭にいた。
     砂挠の倩高くから照らす月は、そんな圌らを優しく芋守っおいた。




    埌線タクラマカンの倪陜の病
    xšēn wēnフシェヌン・りェヌン

     朝日が東の地平を赫赫かくかくず照らし始めた。たた次の旅が始たる。
    「もう䞀息で、ございたす 旭俊゜ゞュン様。腹ごしらえしおおかないずバテたすので。リコリス茶もどうぞ」
     皆で山矊乳ずナン、チヌズを頬匵り、干し肉や果物をかじった。

     幟日も続いた遠埁で゜ゞュンの肉䜓は、かなり疲劎しおいた。寝おも疲劎は蓄積しおいくばかりだった。
     そんな䞭でも旅は続く。ラクダの䞊で幟たびも携垯した氎を飲み、クルトや山矊乳で塩分補絊した。それでも、その日の喉の枇きは尋垞なものでなかった。

     そんな圌を気遣っお、䜕床もラクダを止め䌑たせた。
     午前䞭ずは蚀え、その日の日差しは匷烈だった。

     次第に゜ゞュンの意識は、がやけおいった。
    「旭俊様、旭俊様 」
     自分を呌ぶ声が遠ざかっおいく 
    そこで゜ゞュンの意識は飛んだ。


     ゜ゞュンが気づいた時、圌は簡易のテントで暪になっおいた。
    「おお目芚められたしたか」
     砂挠を埁く隊商には、医垫も同行しおいた。衣服を緩め、脇にはヒンダリ冷たい矊の袋を挟んであった。袋の䞭には、砂挠で貎重な『冷氎』が入っおいた。

    「倧切な客人が意識を倱なわれお私ども、心配臎したした。重節な倪陜の病、xšēn wēnフシェヌン・りェヌンでございたしたが、これで峠は越えたしたな。若旊那様が䜿いの早銬で取り寄せた『倩山の雪』で、お䜓を冷やしたした。
    目を醒たされたしたので倧䞈倫でございたしょう。ご安心ください」
    (知らぬ間に倧倉な事になっおいたんだ)ず゜ゞュンは驚いた。

     医垫は脈を取りながら、蚀葉を続けた。
    「『気虚』の状態でございたす。旅慣れおおられない旭俊様には、このタクラマカンの暑さは堪えたしたな。生薬を調合臎したした。胃腞の働きを増しお疲劎をずり、䜓の熱を冷たし、『氎すい』を調節いたしたしょう。
     生薬は、『人参ず黄耆おうぎを含む参耆ゞンギ剀』が宜しいかず。暑さで匱った䜓の回埩を助けたしょう」
     医垫は、生薬の調合を脇にいる助手らしき若者に説明しおいた。

    「砂挠のxšēn wēnフシェヌン・りェヌンの患者では、内にこもった熱をずり身䜓を冷やし䜓力を戻すのが重芁じゃぞ。
    人参にんじん、 黄耆おうぎ、陳皮ちんぎ、麊門冬ばくもんどう、蒌朮そうじゅ぀、圓垰ずうき、黄柏おうばく、甘草かんぞう、五味子ごみしの九味を入れおおくのが良い。挢の時代からの薬方に先人が工倫したやり方だから芚えおおくのじゃ 戻っおきたら補䞭益気湯を䜿う手もある」

     医垫は、そう蚀うず調合した生薬を噚に泚ぐず゜ゞュンに枡した。
     苊いかず思ったら割ず飲みやすい、ず゜ゞュンは䞍思議に思った。

    「甘く感じられたすでしょう身䜓にあった生薬は甘く感じるものです。
    今の旭俊様なら塩を舐められたら、甘く感じるはずです。䜓が欲しおいる蚌にございたす。詊しに塩を舌にのせおご芧なさい」
     ゜ゞュンは蚀われたように塩を舌にのせおみたら、「塩なのに甘く感じる」ず䞍思議に思っおいた。

     医垫は、「これを食べるのも治療でございたす」ず蚀っお、たっぷりず味噌を぀けた胡瓜を枡した。
     ポリポリ矎味そうに胡瓜をかじる゜ゞュンを芋お、医垫は目尻を䞋げお埮笑んだ。



     ゜ゞュンの䜓力が回埩したずいう医垫の刀断で、旅は再開した。
     その埌もオアシスでの䌑憩をしながら目的地を目指した。


    「いよいよ着きたしたよ」ず、先頭の男は蚀った。
     向こうにオアシスの緑の朚々が芋えおきた。
     オアシスの䞭の道をラクダたちが砂埃を䞊げながら進んだ。
     鮮やかな色圩の果物、各地から集たった織物、ガラスの氎差し、倧きな壺等がずころ狭しず陳列させおいる。
     商品を売る商人の嚁勢の良い声、客たちずの駆け匕き、再䌚の挚拶 
    バザヌルには、そんな掻気が溢れおいた。
     荷を背負ったロバも通る。商人に䞍可欠なラクダや矊、ロバを売り買いする店も䞊んでいた。
     果物の山の前でラクダを止めたアン・マネヌゞャヌ䌌の男は、うれしそうな声を䞊げた。
    「おお、xarbuzarハルブザヌがありたすよ砂挠を旅しお食べるxarbuzarハルブザヌ、この甘い瓜は栌別ですからね。旭俊゜ゞュン様の身䜓を冷やすのに、ビンドゥバヌネ(西瓜)ずキャヌル(きゅうり)も買っおおきたしょう。

     圌は、甘瓜や西瓜、胡瓜を倧量に買い求めた。路で別れる仲間の分を手枡し、バザヌルを抜けお再び進みだした。
     しばらく行くず癜壁の集萜が芋えおきた。

     皋なくしお「到着」ず蚀う声に、隊商はラクダを止めた。
     川の偎の癜い土壁の倧きな屋敷の前で、隊商は止たった。
    「旭俊゜ゞュン様、いよいよ到着臎したした。こちらが父の屋敷でございたす」

     䞀行の到着に気づいたのか、屋敷の䞭から嬉しそうに匟む声がした。
    「おかえりなさい兄䞊」
     こちらに向かっお嚘が駆けおくる。
    「おお、元気だったか倧きくなったな、ロクサナ」

     駆け出しおきたのは、芋芚えのある亜麻色の髪を線み蟌んだ嚘。
    青い瞳が真っ盎ぐにこちらを芋おいる。

    「たさか・・・」

     颚が䞀陣。
     オアシスの胡楊こずかけやなぎの朚々が匷颚にあおられお葉を揺らし、ガサガサガサッず倧きな音を立おた。

    「ここは、䜕床も倢に出おきた、あの堎所だ」
     その瞬間、゜ゞュンは確信した。
    「オレは、ここに来たこずがある・・・」







    第十章 亀茲で友ず邂逅かいこう 


     屋敷の入り口には、歓迎の「焚き火」がたかれおいた。隊商の者たちは、次々ず火を飛び越え、煙を济びお䜓に燻いぶした。

    「旭俊゜ゞュン様も、火を飛び越え煙を济びおくださいたせ。亀易から垰っお来た者を疫病の邪気から守る颚習でございたす」

     圌の蚀葉に我に垰った゜ゞュンは、その蚀葉に埓い、火を飛び越え煙を济びた。

     そこに束明たいた぀を掲げた若者が珟れた。
    「若旊那様おかえりなさいたせ埡無事で安堵あんど臎したした。お客様、長旅お疲れ様でございたす。お疲れになられたしたでしょう。母が案内したすので、あちらぞどうぞ」そう蚀っお、にこやかに出迎えたのは、職人颚の若者だった。
    「チャドフシャフČad-xÅ¡af )か、久しぶりだな䜕幎ぶりかな。チャドがただ十五になる前だった 背もグンず䌞びお頌もしい若者になった。
    お父䞊のパヌルノァンPāruwān)おじさんや工房の皆も息灜であったか」
    「ええ、若旊那様。䞡芪も、楜噚工房の皆も元気にしおおりたす。私は、荷䞋ろしのお手䌝いを臎したしょう。母がすぐに参りたす。向こうに、お茶の甚意もしおおりたす」

     店の者たちは、ラクダの背に茉せた倧量の錊の荷䞋ろしをしおいた。
    「芋事なザンダニゞ錊にしきでございたすね、若旊那様」
     ザニダニゞは、ブハラ近郊のザンダネ村で䜜られる゜グド錊。ザンダニゞ錊には、連珠暡様の䞭倮に鳥が向かい合った西域特有の図柄が描かれおいた。
     䞀行の到着より先に届いおいたプルワヌンツ(手玙)の内容ず積荷の札の内容を照らし合わせ、䞀぀䞀぀䞁寧に確認しおいた。



    「ただいた垰りたした。父䞊」
    「おお垰っお来たか、チャクシダト(ČaxÅ¡idāt)無事で䜕よりだ。長旅で疲れただろう。たずは茶を飲みなさい。お客様にも、こちらで䌑んで頂きなさい」
     葡萄ぶどう棚の方ぞ案内された゜ゞュンは、チャクシダトの父芪が「ブハラの長老」にそっくりで驚いた。

     茶を運んできた女性は、嬉しそうに、「お垰りなさいたせチャクシダト坊ちゃん。たあ立掟になられお 嬉しゅうございたす。たずは喉を最しおください」ず、皆に茶を泚いだ。
    「お久しぶりです、マフシヌドMahÅ¡id )おばさん。バザヌルで買った土産の果物です。ハルブザヌル(xarbuzar甘瓜)が䞊んでいたので思わず買っおしたいたした」
     チャクシダトは、バザヌルで買い求めた果物の入った麻袋を圌女に手枡した。
    「もうハルブザヌルが今幎は初めお、いただきたすよ倧奜物なんです。熟れた甘い匂い 食べ頃ですね。皆様の分、さっそく切っお参りたすね」ず蚀っお受け取り、切り分けお出おきた。
     「甘瓜」はラグビヌボヌルのような圢をしおいお倖の黒い瞞暡様はスむカのようにも芋える。䞭を割るずオレンゞ色の果肉は熟し、甘い銙りが蟺りに広がった。

    「さあ、旭俊゜ゞュン様もどうぞ。疲れが吹き飛びたすから」ず、その瓜を勧めた。
    「うわヌ、矎味しいですね」
     ゜ゞュンは思わず叫んだ。
    「お気に召しお頂けお良かった。
    わしは䞻あるじの亀茲の商人ダダンブク(Datang-buk)じゃ。宿で旅の疲れを癒しお寛いでくだされ。
     ずころで チャクシダト、お越しになった客人はどちらからのお方かな」
    「これは倱念しおたした。こちらは鶏林ケむリンからいらした金旭俊キム・゜ゞュン様でございたす。新矅シルラの王族のお方で、孊問の研鑜で唐や倩竺のナヌランダヌの孊舎ぞ行かれた垰りに西域を通られたので、康囜・安囜をご案内しお参りたした。旭俊゜ゞュン様は胡楜こがくを孊ばれおいるずのこずでしたので亀茲にお連れしたのです」
     いく぀もの驚きが、゜ゞュンを襲った。
    「え王族 䜕の話鶏林から来たっお蚀ったか」

     倩竺はむンド。康囜ずは今のサマルカンド。安囜はブハラのこずだ。
    (鶏林っお、䞉囜時代の新矅シルラの郜だろ)
     ゜ゞュンは、心に思った。
    「そしお、そちらは」ず、チャクシダトが聞いた。
    「この方か こちらは倭囜から来られた田䞭臣玔麻呂たなかのおみすみたろ様じゃよ。唐に留孊生りゅうがくしょうで来られ、敊煌ずんこうで研鑜しおおられた。わしが楜噚を敊煌ずんこうに届けに行った時に知り合っおな。『胡楜に興味をお持ちなら亀茲楜を芳おいかれおは』ず、お連れしおきたんじゃよ」
     (えたさか)
     倭囜から来たずいう若者は『玔䞀』ず髪型が違うだけで、激䌌だった。

    「初めおお目にかかりたす。倭囜から参りたした、田䞭臣玔麻呂たなかのおみすみたろにございたす。あなたも胡楜にご興味がおありずは。遠い、この地でお䌚いいたしたしたのも䜕かのご瞁でしょうな。よろしくお願い申し䞊げたす」ず『玔麻呂すみたろ』は真顔で蚀った。
    「初めおかよふざけおるだろ玔䞀」゜ゞュンは、心の䞭でツッコミを入れたかったが、そんなシヌンでは無さそうだ。

    (たさか、これはオレの過去の蚘憶玔䞀もあの宿の人たち、アンマネヌゞャヌみんなが亀茲で昔、䌚った人たちだったっおこずなのか)
     ゜ゞュンには、ただ理解できなかった。

    「初めたしお金旭俊キム゜ゞュンず申したす。よろしくお願い申し䞊げたす。(゜・・・)
    ケ、ケむリンから参りたした」
    圌は「゜りルから」ず蚀いかけ、
    (鶏林ケむリンからず玹介されたわけだから、ここは合わすのが無難だ)
    ず考えお、ケむリンず蚀い換えた。

    (そう蚀えば『鶏林』ず蚀えば、僕のじいちゃん、ばあちゃんは慶州の出身だ・・・『鶏林』っお慶州の昔の名前だろ鶏林はずもかく、アむツは『スミマロ』っおマゞ、玔䞀に激䌌なんだけど)

     ゜ゞュンは困惑しながらも、今は、この状況を受け入れるほかないず思った。

    「鶏林ですかそれは遥々はるばる、遠い亀茲にたで、お越しくださいたしたな」ず、ダダンブクの蚀葉を聞いた゜ゞュンは思い出しおいた。
    (しかもキゞず蚀えば、ブハラの長老が『昔話で蚀っおいた亀茲囜』なのか)


     時空を超えお、蚘憶の奥底に迷い蟌んだ気分だず゜ゞュンは感じおいた。
    「い぀も『倢』に芋おいた、遠い昔のどこかに来ちたったっおわけ 
    これっお、たさか、タむムスリップしちゃったの





    第十䞀章 亀茲楜の宎





    「旭俊゜ゞュン様、長旅でお疲れでしょう。宿の方でお䌑みになっおくださいな。チャド、お荷物をお持ちしお、ご案内しお差し䞊げお」
    「そうですね ご案内したしょう。こちらでございたす」

     チャドは川沿いを通っお、゜ゞュンを案内した。
     倩山の雪解けの氎を集め氎嵩みずかさを増した川は、ゎォヌゎォヌず音を立おおいた。オアシスの緑は眩しく、氎車小屋の音がカタヌンカタヌンず響く氎蟺には、杏あんずや季すももが小さな実を぀け、柘抎ざくろの赀い花が咲いおいた。

     広い庭を囲むように二十棟皋の宿が軒を連ね、駱駝小屋の前にはラクダたちが草を食んでいた。亀易から垰った隊商は街に入る前、ここで旅の疲れを癒す。

    「旊那様は長幎、薩保さっぜうをされおいたしたから、埀時には倧勢の商隊が出入りしお、唐や敊煌ぞ埀来する商団で賑わっおいたした。
     申し遅れたした。私はチャドず申したす。旊那様の楜噚工房で働く職人でしお。先皋、お迎えした女性は私の母。父も私も、この近くの旊那様の工房で楜噚䜜りをしおるんです」
     チャドは、向き盎っお挚拶をした。

    「こちらのお郚屋です。着替えは、これをどうぞ。氎を汲んでおきたしたので砂挠の砂を萜ずすのにお䜿いください。埌で蒞し颚呂に、ご案内いたしたしょう。準備が出来たしたら、たた参りたす、ごゆっくり」

     ゜ゞュンは砂だらけになった衣服を脱いだ。垃を湿らしお䜓を拭き、着替えお暪になった。





    「 旭俊様、旭俊様」ず呌ぶ声に、゜ゞュンは目を芚たした。
    「お䌑みになれたしたか。食事の準備が出来たしたので、あちらぞどうぞ」
     空が茜色に染たる頃、二人は母屋の方ぞ向かった。

     屋敷の前の広堎には胡楊の朚で組んだ倧きな『焚き火』があり、男の背䞈より高くたで炎が䞊がっおいた。焚き火を囲むようにテヌブルが䞊べられ、卓䞊には埡銳走や果物が出されおいた。

    「旭俊様、さあさあ、こちらぞどうぞ」
     屋敷の䞻人ず息子チャクシダトの近くの垭に案内された。偎には玔䞀そっくりの遣唐䜿・玔麻呂すみたろもいた。

    「ようこそいらっしゃいたした。うちで䜜った葡萄酒です」
     䞻あるじのダダンブクは、旭俊゜ゞュンのグラスに葡萄酒を泚いだ。
    「さあ、皆さんもどうぞ」
     䞻人の也杯の掛け声で宎は始たった。
    「今幎の葡萄酒は出来がよろしいですね。父䞊」
     久しぶりに垰った息子の蚀葉に、ダダンブクは顔をほころばせた。
    「矎味い唐で食べたご銳走より、これが食べたかったんですよマフシヌドおばさんの䜜るメシが䞀番だ。な぀かしいなあ」
    「たあうれしい十幎ぶりに垰られるチャクシダト坊ちゃんのため、特別に腕を振るったんですから。そう蚀っお頂けたら䜜った甲斐がありたしたよ」

     マフシヌドは、客の方を向いお、「さあ、玔麻呂すみたろ様、旭俊そじゅん様も遠慮なさらないで、どうぞ召し䞊がっおくださいね。どんどん、運んでたいりたすからね」
     圌女は皿に料理を取り分けた。
    「たずはこちらを召し䞊がっお。砂挠の旅で疲れた䜓にはこれがいいんですよ」ず圌女は蚀っお、胡麻味の胡瓜の和え物を圌に勧めた。
    「このスヌプもどうぞ」ずスヌプを目の前に眮き、䞲焌き肉や蒞し逃子ず次々ず料理を運んできた。
     ゜ゞュンには芋慣れぬ珍しい献立もあったが、サッパリずした酢の颚味やニンニクやネギの効いた味付けは圌にも銎染みのあるものであった。

     䞻人のダダンブクは、玔麻呂に尋ねた。
    「ずころで、倭囜はどの蟺りにあるのですか私も商いで、あちこち旅しおいたすが倭囜には、ただ行ったこずがないもので」
    「ダダンブク様は鶏林は、ご存じでしょうか」
    「ええ、楜噚のお届けで鶏林には行ったこずがございたす」
    「倭囜は、鶏林の前に広がる海を枡った所にある囜なんです」
    「ほう 」
    「生たれたのは母の故郷の『筑玫ちくし』にございたす。倩気の良い日に島を巡れば、察岞に䌜耶かや囜を望めたす。幌い頃は、海蟺にある母方の祖父母の家によく行ったものです」
     遣唐䜿ずしお既に䞃幎。圌は懐かしい故郷を思い浮かべお語った。

    「母方の祖父の家は、代々、貝の亀易をしおおりたした。南海の倚犰たねの島々で採れた倜光貝やこうがいを加工し、倧和の朝廷はもちろん、昔は䌜耶かやや新矅しらぎ、癟枈くだらぞも亀易しおおりたした」
    「ほう玔麻呂すみたろ様のおじいさたは、亀易をしかも海路ずは驚きたした。今床、詳しくお聎きしたいですな  
    ずころで、そちらのお客様、旭俊゜ゞュン様は確か  」
     今床は゜ゞュンの方に笑顔を向けお語りかけた。
    「先皋、旭俊゜ゞュン様は新矅シルラから来られたず申されたしたね」
    「え、ええ・・・」
     ゜ゞュンは、䞀瞬、蚀葉に詰たっおしたった。ちょうどその時、楜団が楜噚を持っお珟れた。


    「旭俊様、申し蚳ない。お話の途䞭ですが  そろそろ、宎うたげの準備ができたようじゃ。お客様に亀茲楜きじがくをお聎かせいたしたしょうか」

     日が傟きかける頃、その挔奏は始たった。
     匊楜のゆったりずした挔奏に、打楜噚の音が加わりスピヌドを䞊げおいった。撥匊は぀げん楜噚を掻かき鳎らし、陜気な歌も加わった。聎衆も䞀䜓ずなっお手を叩き、足で拍子をずりだした。

     すでに日が暮れたオアシス。鮮やかな連珠れんじゅ柄の赀い絚毯じゅうたんの䞊の舞台は、赀々ず䞊がる炎で昌のように明るい。
     そこに゚メラルドグリヌンの光沢ある絹の衣装に身を包んだ嚘が舞いながら登堎した。
     「あっ  」
     ゜ゞュンは、䞀瞬、息をのんだ。

     「この音楜、この堎面  それは、倢に䜕回も出おきた異囜の宎だそしお、あの嚘は・・・」

     チャクシダトの効のロクサナは、ブハラで䌚った宿の嚘ず瓜二぀ 
     圌女を芋た時、圌は錓動を抑えるこずが出来なくなっおしたった。
     䜕床もみた倢のあのシヌン。顔が芋える前に目が芚めお思い出せなかった『倢の䞭の嚘』が、今、圌の目の前にいる。

     ロクサナは片方の手を高く掲げ、もう䞀方の手で柔らかく円を描くように舞った。ロクサナが手に持぀透けるように薄い゚メラルドの絹のリボンは、圌女が舞うたびにフワリず空くうを舞った。それは、たるで倩女の矜衣。ゆっくりず優雅に始たった螊りは、速床を䞊げ玠早く回旋する。巊右の手に持った絹のリボンで円を描きながら旋回のスピヌドを䞊げおいった。

     この螊りこそ、唐代の「胡旋舞」そのもの  
     ロクサナは舞いながら䜍眮を倉え、゜ゞュンの垭のすぐそばで螊り出した。頬が玅朮し埮笑みながら舞う、ロクサナの柄んだ瞳に芋぀められた時、゜ゞュンは身䜓䞭が熱くなるのを芚えた。




    第十二章 亀茲の月灯りの䞋で


     宎は終わった 

     旭俊゜ゞュンは、ただ胞の高鳎りを抑えられずにいた。郚屋に居おも萜ち着かないず思った圌は、䞭庭を散策するこずにした。昌ず違っおオアシスの倜は肌寒い。
    (頭を冷やすのにちょうど良い)
     圌は葡萄棚の䞋に座り、がんやり月を眺めおいた。
    「そう蚀えばブハラでも、今日のような月が出おいたな それにしおも、玔䞀ずアン・マネヌゞャヌはどうしおいるんだろうな 」
     ゜ゞュンは、月を芋䞊げながら思った。




     するず、そこに近づいおくる人圱があった。

    「あら もしかしお旭俊゜ゞュン様ですか」

     圌が振り返るず、『あの嚘』が立っおいた。嚘は淡い氎色の服の䞊に金の刺繍の入った濃玺の䞊着を矜織っおいる。

     やっずおさたっおいた錓動が、再び速たった。
    「ああ ロ、ロクサナ様でしたね。
    新矅シルラから来た金旭俊キム゜ゞュンにございたす。玠晎らしい『舞い』をありがずうございたした」
     動揺しおいるずロクサナに気づかれないよう、圌は平静を装っお手短に答えた。

    「遠くから来られたず兄に聞きたした 亀茲にお䟛したチャクシダトは私の兄なんです。ようこそ亀茲にお越しくださいたした。
    あっ、いけない おばさんに蚀われおいたのに。お茶をお出しするのを忘れおいたした。喉が枇きたすでしょう飲み物をお持ちしたすね」

     ロクサナはそう蚀うず、䞭に戻っお飲み物を持っおきた。圌の前に眮かれた噚からは、湯気がたっおいる。

    「お茶でございたす。マフシヌドおばさんが甚意しおあったのに、お郚屋にお持ちするのをうっかりしおおりたした。沞かし盎しおきたした。このお茶、ここで飲たれたすかそれずも、お郚屋で」

    「あ、ありがずうございたす。こちらで頂きたす」
     ゜ゞュンは、茶を飲みながら空を芋䞊げおいた。
    (䜕か蚀わなくおは堎が持たない )
    やっずの思いで、ひずこず蚀った。

    「  月が綺麗ですね」
     静かなオアシスの空には、゜ゞュンが゜りルで芋たこずもないくらい月は倧きく芋えお、無数の星が瞬いおいた。

    「ホントに綺麗今倜は星もいっぱいですね。うわヌ、これが春の月
    『倩山の雪解けの頃の月は優しい色をしおいるのよ』っお、マフシヌドおばさんが教えおくれたずおり、『優しい色の月』ですね  
    あっ、ごめんなさい。
    マフシヌドおばさんっお、私の乳母なんです 」

     ゜ゞュンには、月灯りがロクサナだけを照らしおいるように芋えた。圌は手を枩めるように噚を䞡手で持ち、ゆっくりず茶を飲んでいた。
     満月に照らされ、ロクサナの線み蟌んだ髪に぀けた小さなラピスラズリの髪食りがキラキラず茝いた。


    「お寒くありたせんか」
    「だ、倧䞈倫です 」
    「今倜は慣れない土地で萜ち着かないかもしれたせんね  
    明日から兄やチャド兄さんが、亀茲をご案内するず申しおおりたした。今倜はゆっくりお䌑みくださいたせ」



              埌線に続く




    長い小説を、ここたで、お読みくださっおありがずうございたす😊
    珟圚、連茉䞭ですが、ここたでをたずめたものがこちらです。

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    ⭐carettaカレッタはアカりミガメのこず🐢 少ししか読めなくお、コメント芋逃しごめんなさい 読んで頂き感謝です ⭐゜グディアナ物語連茉お䌑み䞭💀 [モットヌ]陞でゆったり 海を悠々ず泳ぐりミガメ #小説#音楜#医療#シルクロヌド#歎史#犬#ゞュンス#KPOP#掋楜

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