
超軟水と韓国コスメ、それから火曜日のカップラーメン
日本の水道水は世界的に見ても優秀らしい。
蛇口をひねればそのまま飲める水が出てくる国なんて、そう多くはないと聞く。ただ、水道水を飲むなんて、僕の選択肢にはない。別に潔癖症ってわけじゃないんだけど、あの独特のカルキ臭がどうも気に食わない。
超軟水の、喉に引っかからずにスッと落ちていく感じがいいんだよね。
たまに友達から「水なんてどれも一緒だろ」って言われるけど、そういう奴には「お前の味覚が雑なだけだ」と心の中で悪態をついている。口には出さないけれど。
僕の喉と胃の粘膜が求めているのは「超軟水」なのだ。
硬度でいうと10とか、それ以下のやつ。温泉水として売られているような、口に含んだ瞬間に輪郭がぼやけて、とろっと消えていくような水じゃないとダメ。だから僕の部屋の片隅には、常にネットで箱買いした超軟水のペットボトルが山積みになっている。毎朝起きると、冷やしたペットボトルのキャップを開け、超軟水をゆっくりと胃に流し込む。この水代だけで月に数千円は飛んでいくけれど、こればかりは譲れない。
「そんなに水にこだわるなんて、さぞかし丁寧な暮らしをしているんでしょうね」と言われそうだが、とんでもない。僕の財布は常にすきま風が吹いている。原因は明確で、欲しいものを後先考えずに買ってしまうからだ。
特に弱いのが、スキンケア用品と香水、そして部屋に置くディフューザーだ。
脱衣場の棚には、ハングル文字が並んだボトルが所狭しと並んでいる。そう、僕は韓国コスメの沼にどっぷりと浸かっている。日本のブランドも悪くないけれど、韓国コスメは成分のトレンドの移り変わりが早くて、成分もモリモリで僕の好みに合っている。
「シカ」だの「ガラクトミセス」だの「レチノール」だの、新しい成分がバズるたびに、ついポチってしまう。とはいえ、デパコスのように1本1万円以上するようなものは買わない。僕の暗黙のルールとして、1つのアイテムの上限はだいたい6000円くらいに設定している。
「6000円なら、まあいっか」
この言葉が僕の口癖であり、諸悪の根源だ。一つ一つはそこまで高価じゃなくても、化粧水、美容液、アンプル、クリーム、スリーピングマスク……と、ライン使いで買い揃えれば、あっという間に万札が飛んでいく。Qoo10のメガ割の時期なんて、毎日のように宅配便が届いて、その度に段ボールを潰す作業に追われている。
顔は一つしかないのに、使い切れないほどのスキンケア用品に囲まれて、僕は一体何になりたいんだろうとたまに思う。でも、お風呂上がりに、その日の気分に合わせて美容液やパックを選ぶ瞬間だけは、少しだけ自分がマシな人間になったような気がするのだから厄介だ。
部屋の匂いにも少しうるさい。いや、少しじゃないかもしれない。僕の部屋は、玄関を開けた瞬間からジャスミンの香りがする。柔軟剤も、部屋のディフューザーも、外出する時につける香水も、基本的にはジャスミンがベースになったものを選んでいる。
僕はジャスミンの匂いが好きだ。お店やネットで新しいジャスミンの香りを見つけると、つい財布の紐が緩む。 「また似たようなの買って」と友達に呆れられたこともあるけれど、配合やブランドによって微妙な違いがあるんだから仕方ない。欲しいと思ったら我慢できずに買ってしまう。だから、いつまで経っても僕の口座にはお金が貯まらない。
超軟水を飲み、顔に何層も韓国コスメを塗りたくり、ジャスミンの香りを纏う。文字にすると、なんだかすごく美意識の高い、意識高い系の生活のように見えるかもしれない。でも、僕の休日の過ごし方を知れば、その幻想は3秒で崩れ去る。
休みの日、僕は基本的に一歩も外に出ない。
ベッドから起き上がるのは、トイレに行く時と、お湯を沸かす時くらいだ。あとはずっと、横になったままスマホかテレビの大画面でYouTubeを見ている。
見ている動画も、ためになる教養番組や、洗練されたVlogなんかじゃない。オジサンがハンバーガー食べてる動画とか、ギャルが一週間の出来事を話している動画とか、本当にどうしようもない、どうでもいい動画を何時間も垂れ流している。
アルゴリズムがおすすめしてくるままに、思考停止で画面を眺める。生産性という言葉は、休日の僕の辞書には存在しない。
そして、お腹が減ったらカップラーメンか袋麺を食べる。
超軟水にこだわり、韓国コスメで肌を整えている人間の食生活がこれである。我ながらアンバランスだとは思うけど、休みの日にわざわざ自炊なんて面倒くさいことはしたくない。ちなみに、カップラーメンのお湯に超軟水は使わない。そこは水道水だ。沸かせばカルキも飛ぶし、そこまでセレブなわけじゃないからね。
水道水でジャンクなカップラーメンを作る。顔には数千円の美容液を塗っているのに、体内には大量の塩分と化学調味料を取り込んでいる。このどうしようもない矛盾に気づいてはいるけれど、直す気はない。人間なんて、だいたいそんなものだろうと少しひねくれた言い訳をして、スープまで飲み干してしまう。
そんな僕の、1週間で唯一の「外界との能動的な関わり」と呼べるルーティンがある。火曜日のコンビニ新商品チェックだ。
火曜日は、各コンビニエンスストアが一斉に新商品を棚に並べる日だ。これは現代日本における、ちょっとしたお祭りだと思っている。
火曜日の朝、あるいは仕事帰りに、僕はセブンイレブン、ローソン、ファミリーマートをハシゴする。別に特定の何かを探しているわけじゃない。ただ、「新発売」という赤いシールが貼られた商品たちをパトロールするのだ。
「へえ、今週は抹茶スイーツ推しか」
「このカップ麺、また有名店とのコラボか。前回のやつはスープが薄かったけど、今回はどうだろう」
心の中でそんな評論家みたいなことをつぶやきながら、棚の隅から隅までチェックする。そして、結局何かしら買ってしまうのだ。
特に、ちょっと変わった味のポテトチップスや、奇をてらった菓子パンなんかを見つけると、つい手が伸びる。美味しくないかもしれない。いや、十中八九、定番商品の方が美味しいに決まっている。それでも「新しいものを試した」という些細な経験値が欲しくて、レジに向かってしまうのだ。
家に帰って、コンビニのレジ袋から新商品のスイーツを取り出す。超軟水で淹れた(もちろんティーバッグの)紅茶を飲みながら、それを食べる。 「え、微妙かも。リピートないわ」なんて誰に聞かせるでもない独り言を言いながら、またどうでもいいYouTubeの動画を再生する。
傍から見れば、向上心も計画性もない、つまらない日常かもしれない。 でも、超軟水の口当たりの良さとか、新しく買った美容液のテクスチャーとか、火曜日のコンビニの棚の真新しさとか。そういう小さな手触りみたいなものだけで、僕の毎日はなんとか成立している。
ひねくれてるし、貯金もないし、休日はカップ麺ばかり食べているけれど。 大好きなジャスミンの香りに包まれて、今日も僕は、僕なりのぬるま湯の中でそれなりに機嫌良く息をしている。