
西海市崎戸町百話#026〜平戸の志々伎山
第二十六話 平戸志々伎山
崎戸から海を眺めていると、天気の良い日には遠くに尖った山がくっきりと見える。
最初は、何という山なのか知らなかった。
そもそも、どこの島にある山なのかも分からない。
方角から考えれば、おそらく平戸だろうとは思っていた。
それにしても目立つ。
周囲の山とは明らかに形が違う。山頂が鋭く突き出している。
私はその姿を見て、火山なのだろうか、あるいは昔から何か信仰の対象になっている山なのではないかと思った。
平戸島の志々伎山。標高347メートル。
火山ではなかった。
しかし、信仰の山ではあった。古くから山岳信仰の対象となり、山麓には志々伎神社があり、山頂には上宮もある。
何も知らずに眺めて感じた印象も、まったく外れてはいなかったようだ。
そして、あの尖った姿を見ると、私はもう一つの山を思い出す。
故郷信州の浅間山麓に連なる烏帽子岳だ。
烏帽子岳は標高2,066メートル。志々伎山は347メートル。高さだけならまるで比較にならない。形も同じではない。
それでも、海の向こうに尖って見える志々伎山には、二千メートル級の烏帽子岳を思い出させるだけの存在感がある。
山というものは、高さだけで記憶に残るわけではないらしい。
海の向こうにある志々伎山と、信州の烏帽子岳。
それでも尖った山というだけで、私の中では二つの風景がつながっている。
そして、崎戸に来て、海の向こうに志々伎山を見るたび、故郷を思い出す。
園崎咲人