
義母観測日記⑤ 〜今日はテレビじゃない〜
主人は本来2週間の予定で入院していた。
しかし、病棟から出られない生活や同室の患者さんへの気遣いが想像以上に大きなストレスだったらしい。
主治医に相談した結果、1週間で退院できる事になった。
私は義母にその事を伝え、翌朝主人を迎えに行く準備をしていた。
ところが家を出ようとした時だった。
義母が私を呼び止めた。
「ほら、テレビ見てみ。変な線いっぱい入るやろ?」
またテレビだった。
「息子が帰ってきたらお願いしようと思ってるねん」
私はできるだけ穏やかに説明した。
「お義母さん。テレビの事はもう主人にも伝えてあるから」
「でも今日は退院の日なんよ」
「しかも先生がもう大丈夫って言ったんじゃなくて、本人が入院生活に耐えられへんくらいしんどくて退院するんよ」
「今日はテレビの話じゃなくて、主人をいたわってあげてほしいねん」
それでも義母はテレビの話を続ける。
私は同じ説明を何度も繰り返した。
ようやく納得した頃には、迎えに行く時間を大きく過ぎていた。
慌てて病院へ向かう。
スマホを見ると主人から大量の着信。
LINEも何件も届いていた。
病院へ着くと、主人はすでに退院手続きを終えて玄関で待っていた。
「えらい遅いな」
不機嫌そうに言う主人。
当然だと思った。
私は事情を説明しながら謝った。
とりあえず義母の家へ戻り、少し休む事にした。
義母は昼食を用意して待っていてくれた。
三人で食卓を囲む。
主人の顔の麻痺はまだ残っていた。
食事も飲み物も思うように口へ運べない。
水はストローで飲んでいた。
そんな主人へ義母が優しく声をかける。
――かと思った。
「あのなぁ」
義母が口を開いた。
私は嫌な予感がした。
「このテレビな。今は大丈夫やけど、時々線入って見にくいねん」
あれだけ言ったのに。
今日はテレビの話はやめてほしいと、何度も伝えたのに。
主人の顔色が一瞬で変わった。
そして私は思った。
義母は本当に、人の話を聞かない。
次回へ続く。