
義母観測日記⑥ 〜退院5分後のテレビ〜
義母には何度もお願いした。
「今日は主人が退院したばかりだから、テレビの話はしないであげて」
迎えに行く時間が過ぎるほど説明した。
それでも伝わらなかった。
主人を連れて帰ってきた、その瞬間だった。
義母の第一声。
「このテレビなぁ……」
やっぱりテレビだった。
主人が爆発する5秒前。
私は「いっそこの場で気絶したい」と本気で思った。
主人が低い声で言う。
「おかん……」
義母は全く気付いていない。
「来月くらいに直すって言わなかったか?」
主人もまだ必死に感情を抑えていた。
すると義母は、
「わかってるで。今はまだ映るからええねん」
と平然と返した。
……いや、お義母さん。
何もわかってない。
テレビが映るか映らないかの話じゃない。
主人は、ついさっき退院してきたばかり。
顔の麻痺も残ったまま。
私は主人の後ろで必死にジェスチャーを送る。
「お願い!今はやめて!」
手でバツ印を作ったり、首を横に振ったり。
もちろん義母には通じなかった。
ついに主人が声を荒げた。
「おかん! 今じゃなくてもええんやろ!」
「俺、退院したばっかりや!」
「今は金もない!」
「その話を何回もされるのもしんどいんや!」
そして、とどめの一言。
「それ以上テレビ、テレビって言うなら……もうこの家には来ん!」
そこまで言われて、ようやく義母は静かになった。
私は心の底からホッとした。
「やっと終わった……」
そう思った。
……甘かった。
息子に言い返された事がよほど悔しかったのだろう。
義母は、このあとさらにパワーアップする事になる。
(次回へ続く)