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首都決壊シーズン2 首都崩落後半


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    ※本作は完全なフィクションです。本文中の実在の俳優名は、作者が映像化を想定した際の架空のキャスティングイメージとして記載したものであり、本人の出演・関与・承諾等を示すものではありません。作中の人物・設定は実在の人物の実際の言動・思想・経歴等を描いたものではありません。

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    〇 埼玉県長瀞町・矢那瀬(昼)
    ​太平洋高気圧が予想を上回る速さで後退を始め、空には不穏な雲が立ち込めている。
    避難指示が出された集落では、住民たちが慌ただしく荷物を車に詰め込んでいる。
    ​菜々(鈴木奈々)「(涙を浮かべながら)短い間でしたけど、本当にお世話になりましたぁ……。お野菜のこととか色々教えてもらって、本当、家族みたいで寂しいですぅ……」
    ​近所の老婆「いいのよ菜々ちゃん。私たちみたいな年寄りはバスで山梨へ避難するけど、菜々ちゃんたちは若いんだから、もっと安全な所へ行きなさい。戻ってきたら、また楽しくやりましょうね」
    ​菜々「(満面の笑みで)はいっ! 戻ってきたら、また!」
    ​背を向けた瞬間、菜々の瞳から温度が消える。(……戻ってこれるわけないじゃん。みんな仲良く沈んじゃえばいいのに)
    ​浦井「……行くぞ、菜々。不謹慎なことを考えるな」
    ​〇 浦井の自宅・居間
    ​テレビのワイドショーが流れている。
    ​伊集院光「気象予報士の森さん。この暑さ、いつまで続きますかね?」
    森朗「はい。画面の通り高気圧が弱まり、明日からは上空の寒気の影響で、関東周辺では非常に激しいゲリラ豪雨に警戒が必要です」
    ​浦井「……時が来たな。決行する」
    ​菜々「(震えるような歓喜で)ワクワクしますね! 避難とか、マジでウケるんですけど!」
    ​浦井が秘匿アプリを開く。
    ​浦井「レーダーに『赤』がかかる瞬間を狙う。時間は30分から1時間。豪雨が匂いを消し、雷が犬の鼻を狂わせる。……合流地点は寄居のカインズホームだ。動け」
    ​〇 亀の井ホテル寄居・対策本部
    ​瀧川総理が乗り込み、室内の緊張感はピークに達している。
    ​瀧川「上原! 本当に動きがあるんだな?」
    ​上原「ええ。予想より雨雲の発達が早い。……小泉くん、現場は!」
    ​小泉(防衛相)「山中に人の通行痕跡、そして警察犬が『ブツ』の匂いに反応しました。確実に潜伏しています。……ですが、この雨です。痕跡すら、豪雨が洗い流そうとしている」
    ​上原「奴らの狙いはそこだ! 豪雨に乗じて自分たちの『影』を消し去り、低気圧で警察犬の能力を封じ込める。……総理、避難の前倒しを急がせてください。一刻の猶予もない!」
    ​瀧川「……おい。奴ら、そんな天候の力まで利用するってのか!」
    ​〇 浦井のハイエース・車内(激しい豪雨)
    ​バケツを引っくり返したような雨がフロントガラスを叩く。波久礼駅付近の検問。
    ​警察官「(雨に濡れながら)浦井さん、確認です。……買い物ですか?」
    ​浦井「ええ。避難が始まる前に、花園のハーズまで買い出しに」
    ​菜々「(窓を少し開け)避難の準備です! 避難の! ご苦労様でーす!」
    ​警察犬も、長らくこの地で生活してきた彼らの匂いを「日常」のものとしてスルーする。
    検問をパスし、再び自宅へ戻った浦井は、タブレットの雨雲レーダーを凝視する。真っ赤なセルが長瀞に重なった。
    ​浦井「……いよいよだ。行くぞ」
    ​二人は防護装備とマスクを装着し、豪雨の闇に紛れて裏山の急斜面を登り始める。
    ​〇 長瀞町・金尾山(山中)
    ​自衛隊も警戒しているが、視界を奪う猛烈な雨に動きを制限されている。
    そこへ、隊員と同じ迷彩服を身につけた浦井の部下たちが、音もなく急斜面に「仕掛け」をセットしていく。
    ​浦井「……最初の『神風』が吹いたな」
    ​山中に向かって、警察犬が異常なほど激しく吠え始める。
    ​警察官「(無線機を手に)こちら金尾山A地点! 警察犬が反応! 何か――」
    ​ドォォォォォォォン!!!
    ​聞いたこともない破裂音が山を震わせた。
    続いて、雷鳴をかき消すほどの地響き。金尾山の山体そのものが崩壊し、濁流の荒川へと雪崩れ込んでいく。
    ​一瞬にして飲み込まれる矢那瀬地区。
    崩落は連鎖し、標高200メートルに迫る「土砂の壁」が荒川を完全に堰き止めた。
    秩父盆地が、一瞬にして逃げ場のない「天然の巨大ダム」へと変貌する。
    ​〇 合流地点・寄居
    ​菜々「(狂ったようにリフレインし始める)ボーン! ドーン! ギャギャギャギャ!! ねぇ浦井さん! あのおばさんもおじいさんも、漬物になっちゃったよ! ねぇ! 漬物になっちゃった!!」
    ​浦井「落ち着け、菜々。……よくやった。あとは次の『神風』を待つ。決壊すれば、関東平野は最短で5日の命だ」
    ​浦井は冷徹に、自分たちの免許証の表面に貼られた偽装フィルムを剥がし取る。
    ​「浦井」という名前が剥がれ、そこには「新井伸之」「須崎花」という、全く別の名前が現れた。
    二人はそのフィルムをライターで焼き捨て、冷たい雨の中にその身を隠した。

    ​〇 亀の井ホテル寄居・特設指揮室
    ​窓の外は、激しい雨で白く霞んでいる。上原が腕を組み、モニターの雨雲レーダーを睨みつける。
    ​上原「……このゲリラ豪雨、いや、線状降水帯か。嫌な予感しかしないな」
    ​小津見「ですが、この豪雨の中で隊員を動かすのは無謀です。彼らは駒ではありません」
    ​上原「(瀧川を振り返り)総理。残念ですが、一刻を争う。一部を残して、隊員たちを安全圏へ退避させましょう」
    ​瀧川「ちくしょう! あと一歩ってところで……! 警戒と検問を県内全域、群馬まで広げろ!」
    ​瀧川がデスクを叩きつけ、怒声を上げる。
    ​瀧川「俺たちはいつも後手後手だ! 間に合わなかったらどうすんだよッ!」
    ​上原「……『第二フェーズ』に移るしかありません」
    ​その時、スピーカーから現場の悲鳴が混じった無線が飛び込む。
    ​警察官の声「(無線)こちら金尾山A地点! 警察犬が反応! 何か――」
    ​――ドォォォォォォォン!!!
    ​聞いたこともない破裂音が指揮室の窓を震わせ、空振が建物を大きく揺らす。続いて、雷鳴をかき消すほどの地響き。金尾山の山体そのものが崩壊し、濁流の荒川へと雪剥がれ落ちていく。
    ​一同「うわあああ!」
    ​窓の外では、土砂が波久礼駅、そして寄居橋のすぐそばまで押し寄せていた。金尾山とともに、矢那瀬地区が瞬く間に濁流の下へと沈んでいく。
    ​瀧川「おい! 被害はどうだ! 住民と隊員たちは無事か! 状況把握を急げ!」
    ​上原「(冷静に周囲を確認し)……ここまではギリギリセーフです。もっと手前を爆破されていたら、我々も今頃土砂の中でしたよ」
    ​瀧川「おいおい……。俺たちごと吹っ飛ばしてくれた方が、どんなに楽だったか……」
    ​3年前のあの地獄の決断がフラッシュバックし、瀧川が思わず弱音を吐く。
    ​上原「総理、弱気なことを言わないでください。ここを巻き込んだところで関東平野は沈められません。テロリストはそこまで計算済みだ。彼らにとって、我々は殺す価値すらない」
    ​小津見「奴らの狙いは『日本』そのもの。我々なんて、代わりがいくらでもいる『ちっぽけな存在』なんですよ」
    ​〇 寄居・緊急記者会見場(数時間後)
    ​瀧川が沈痛な面持ちでマイクの前に立つ。
    ​瀧川「国民の皆様。またしてもテロリストが暴挙に出ました。避難は開始していましたが、矢那瀬地区で行方不明・犠牲者5名。自衛隊員1名、警察官2名……そして警察犬1頭が巻き込まれました。まずは亡くなられた皆様に、深い哀悼の意を捧げます」
    ​大原「行方不明となっている住民の氏名を公表します。中澤武久さん、静子さん。久保喜与志さん。……そして、浦井誠さん、浦井菜々さん」
    ​リストの中にはテロリスト本人の名がある。彼らは見事に、自らの死を偽装して歴史の闇へと消えていた。
    ​記者A「この豪雨で警戒を緩めたのは本当ですか!」
    記者B「警察や自衛隊は、国民を見捨てて自分たちだけ逃げたんですか!」
    ​3年前の「共犯者」というレッテルに疲弊した記者たちが、容赦なく牙を剥く。
    大原が冷徹にマイクを握ろうとしたその時、上原がそれを制して前に出た。
    ​上原「(記者を指差し)待ちたまえ! 確かに犠牲者は出た。だがね、まだ日本が沈んだわけじゃないんだよ! 日本の警察が無能? 好きに言えばいい! だが相手は正体の掴めないテロリストだ。君だって、見ず知らずの相手がいきなり全力で殴ってきたら対処のしようがないだろ! 我々は人的被害を『最小限』に抑え込んだんだ。……山と命をトリアージしたかもしれない。だが、本当の怖さはこれからなんだよ!」
    ​石原良純の本領発揮。保身など一切考えない、暑苦しくも圧倒的な正論。記者たちも、大原ですら、その気迫に気圧される。
    ​記者「……じゃあ、この『天然ダム』はどうするんですか! 決壊したらどうなる!」
    ​上原「それは『寛保の洪水』を遥かに上回る水害。日本そのものが決壊する。……だが、策は講じている。テロリストに、これ以上の『神風』を吹かせなければだがね」
    ​瀧川「上原大臣の言う通りだ! 首都圏の住民は、慌てることなく普段通りに過ごしてほしい。秩父の住民は山梨へ。すでに手は打ってある」
    ​記者「すでに!? じゃあ、初めからテロに屈していたんですか!」
    ​瀧川「(一喝して)違う! 屈するなら一兆円払っている! だが前回同様、払ったところでテロは防げなかったはずだ。何があっても人命優先。それだけだ!」
    ​〇 指揮室(その後)
    ​作戦会議を始めようとしたその時、コンコン、とドアがノックされる。
    入ってきたのは、サングラスをかけたあの男。
    ​森田「いやぁ、会見見たよ。私もすぐそこに(川の博物館に)いたもんだからね。それにしても上原くん。君のやかましい声は、博物館の展示室までよく響いていたよ(笑)」
    ​上原「(背筋を伸ばし)森田先生!」
    ​瀧川「じいさん、職場がすぐそこだもんな。……寄ってくれたのか」
    ​森田「上原くん。君はもう気づいているだろう。今回の『答え』を」
    ​上原「(深く頷き)先生が江戸の伊奈様なら、私は近代の渋沢翁で行きます! すでに秩父太平洋セメントに『ブツ』は送り込んであります。総理、住民の避難に全力を」
    ​瀧川「心配はいらん! 小津見の坊っちゃんには、また『土砂のダム』の手術をしてもらう」
    ​小津見「ええ。荒川にステント用のパイプを仕込みました。ですが、それは応急処置に過ぎない。早急に『バイパス』を作らなければ……」
    ​瀧川「どうなんだ大臣。じいさんに頼らず、お前の口から言ってみろ」
    ​森田と上原が、不敵な笑みを浮かべて同時に指差した。
    ​森田・上原「「――県道13号、前橋長瀞線!」」

    ​〇 首相官邸・地下秘密対策室
    ​モニターには秩父から利根川水系へ抜ける等高線が複雑に入り乱れている。
    ​瀧川「……さっぱり分からん。その県道がどうしたってんだ?」
    ​上原が、まるで明日の天気を解説するかのような軽快さで、しかし狂気的なまでの知識を披露する。
    ​上原「原島、久保島、内ヶ島、高島、血洗島、起会(おきあい)、広瀬……。総理、この地名に共通するものが分かりますか?」
    ​森田「(ニヤリと笑い)……そう。言わずもがな、だね」
    ​瀧川「地名なのは分かるが……それがどうした!」
    ​上原「荒川も利根川も、かつては縦横無尽に入り乱れていた! 洪水が起こるたびに土地は削られ、残った場所は『島』となった。つまりこの二つの河川は、分かたれた兄弟のようなものなんです。そして秩父には、その二つを分ける運命の『分水嶺』が存在する。それが県道13号、前橋長瀞線です! 渋沢翁の生誕地へと続く、この道こそがバイパスになる!」
    ​森田「その渋沢翁が作った太平洋セメントのプラントに、秩父鉄道。……そこにあの『魔改造ポンプ』を預けたわけだ。これも何かの縁だねぇ」
    ​小津見「(即座に立ち上がり)……合点がいきました! 至急、工兵部隊を投入し、掘削工事に取りかかります!」
    ​瀧川「頼む! その県道を、山ごと掘り返してやれ!」
    ​季節は7月後半。ゲリラ豪雨と台風の足音が、刻一刻と近づいていた。
    ​〇 山梨県・石和温泉
    ​次々と観光バスが到着し、秩父からの避難民が降りてくる。
    ​早川知事(武田真治)「(痛々しいほどの笑顔で)……埼玉県民の皆様、ご安心ください。ゆっくりお寛ぎくださいね!」
    ​出迎える早川の横で、副知事が苦々しく囁く。
    ​副知事「……かき入れ時のこの時期に避難民の受け入れ。国の補償がなきゃ、うちは破産ですよ。山梨が秩父の水の『バイパス(逃げ場)』にされなきゃいいですがね」
    ​早川「(空を見上げ、震える声で)……心配すべきは、うちも盆地だということだ。甲府盆地の出口を塞がれなければいいが…身延…」
    ​その言葉は、祈りのように虚空に消えた。
    ​〇 埼玉県川島町・会議室
    ​飯沼農水相が、遠山正広・悟の兄弟と向き合っている。
    ​飯沼「……今回のテロで、秩父は一瞬にして巨大なダムと化した」
    ​悟「(食い気味に)……まさか! またうちの町を沈める気ですか!? 冗談じゃない!」
    ​正広「……悟、落ち着け。飯沼さんの話を最後まで聞け」
    ​飯沼「(深く頭を下げ)逆なんだ。あの事件以来、この川島町には優先的にスーパー堤防を築いてきた。だが他の地域は間に合っていない。……今度は、川島が本当の『島』になるかもしれないんだ」
    ​悟「本当の、島……?」
    ​飯沼「土砂のダムが決壊した時。この町は生き延びる。関東平野における『ノアの方舟』になるんだ。その際は……近隣の避難民を、すべて受け入れてほしい」
    ​悟「……3年前、うちだけ犠牲にしたくせに、今度は他を助けろって言うんですか……?」
    ​〇 川島町・市民ホール
    ​騒然とする町民たちの前で、瀧川総理が壇上に立つ。
    ​瀧川「……3年前は本当に申し訳なかった。だが今回は、逆だ。川島町には、『島』になってもらう!」
    ​町民たち「……!?」
    ​理解が追いつかない町民たち。その中で、一人の男が野次を飛ばす。
    ​山口父「どういうことだ? うち以外はみんな沈んじまうってのか? ハッ、ざまぁねえな!」
    ​瀧川「(真っ直ぐに見据え)……その通りだ」
    ​静まり返る会場。そこへ、悟が壇上へ駆け上がる。
    ​悟「……みんな、聞いてくれ! あの時、うちは沈んだけど、俺たちの命は救われた。今度は、この町が『ノアの方舟』になって、近隣を助ける番なんだ。俺だって、まだ整理がつかない。……でも、この総理と、俺たちの町を、信じるしかないんだ!」
    ​泥にまみれて復興を支えてきた遠山兄弟の言葉に、怒号は次第に、重苦しい沈黙へと変わっていった。
    ​瀧川「……テロリストは全力で追っている。土砂のダムに対しても、すでに策は打ってある。信じてくれ」
    ​ニュースでは「秩父にできた土砂の山」として報じられているが、関東平野の住民の多くは、まだそれが自分たちの首筋に突きつけられた「水の刃」であることに気づいていなかった。

    ​〇 長野・群馬県境・十石峠(昼)
    ​標高1,300メートルを超える峻険な峠道。
    自衛隊と警察による、県境を跨いだ厳重な検問が行われている。
    一台の乗用車が止められる。運転席には、浦井から姿を変えた男。
    ​警察官「……失礼します。緊急警戒により、検問を実施しております。免許証と車検証を」
    ​新井(浦井)「(穏やかな笑みで)ああ、ご苦労様です。……はい、これ」
    ​提示されたのは「新井信之」名義の免許証。新井は、偽装した住所や経歴を淀みなく答え、警察官の疑いの目を難なく受け流す。
    ​〇 同・長野・群馬県境・内山峠
    ​別の検問所。そこには「須崎花(菜々)」がいた。
    ​須崎(菜々)「(少し困ったような、愛嬌のある顔で)須崎花です。……ええ、ちょっと実家の方に。大変ですね、お巡りさんも」
    ​彼女の持つ「無害な善良さ」に、警察官は「通っていいですよ」と促す。
    検問をパスし、バックミラーに映る警官を見て、彼女の口角が吊り上がる。
    彼らが目指すのは、秩父の裏側――山梨。
    ​〇 亀の井ホテル寄居・特設指揮室
    ​土砂ダムの監視モニターの前に、新たな男たちが加わっている。前作で瀧川の右腕として戦った内山と窪川だ。
    ​上原「(瀧川に)総理。土砂ダムの安定監視のために、専門家を呼びました。私の兄弟弟子のような男です」
    ​内山「(会釈し)ご無沙汰しております、総理。現場には窪川も連れてきました。土砂の堆積圧力と湧水量の計算、バイパスの流量シミュレーションは我々にお任せください」
    ​瀧川「……またあんたらに頼ることになるとはな。頼む、時間を稼いでくれ」
    ​大原「本題に入ります。我々は常に守備側です。テロの『根源』を断たない限り、この国に明日はありません」
    ​小津見「情報本部(DIH)の分析では、黒幕の国家にはすでに目星がついています。前回の不審船は外国籍の艦隊に紛れ、公海上で姿を消した。テロリストたちも、いずれそこへ合流する手はずでしょう」
    ​そこへ、公安部長・羽沢(原田泰造)が重い口を開く。
    ​羽沢「……我々も手をこまねいているわけではありません。矢那瀬で犠牲となったはずの『浦井夫妻』について、不審な証言が得られました」
    ​回想の中の菜々「……多摩湖の近くに住んでたんですけど、あんな事件もあって。夫がフリーランスなので、ここなら静かに野菜も作れるかなって」
    ​羽沢「夫の仕事関係を洗ったところ、利根川に『テロダム』を作り上げたヤードの解体業者と繋がりがありました。証言レベルですが、確度は高い。……何より不可解なのは、百メートル以上の土砂に埋まったとされる彼らの遺体が、未だに一点も確認できないことです」
    ​瀧川「……奴ら、生きてるのか。死を偽装して逃げたってのか!」
    ​石原「(地図の裏側を指差し)……もし彼らが追い打ちをかけるなら、秩父の裏側。同じ盆地構造を持つ、山梨です」
    ​瀧川「(決断の目になり)……よし。山梨を封鎖しろ! 物流は正丸と雁坂の最低限に絞れ。検問を十倍に増やし、怪しい奴は片っ端から突き返せ。俺の権限だ。……ニュースで流せ。潜伏先を特定し、包囲網を敷いたとな。嘘でもいい、俺たちが先手を打っていると見せつけて、奴らの動揺を誘う!」
    ​総理の猛々しい咆哮。だが、その気迫を嘲笑うかのように、日本のはるか南の海上で、巨大な熱帯低気圧が不気味な渦を巻き始めていた。

    ​〇 TBSテレビ・スタジオ(昼)
    ​ワイドショーのセット。伊集院光が険しい表情でモニターを見つめている。
    ​伊集院「……続いては気象の話題です。大型の台風が発生したとのことですが、今後の進路はどうなるんでしょうか。そして何より、秩父を塞いでしまったあの『土砂ダム』への影響が心配です。気象予報士の森さん?」
    ​森朗「(パネルを指し)ええ、非常に気掛かりです。台風は今後さらに発達し、太平洋高気圧の縁をなぞるように北上してくる。高気圧の張り出し次第では、関東に直撃する恐れもあります」
    ​伊集院「その土砂ダムの現場には、東さんが行っています。東さん?」
    ​〇 埼玉県寄居町・荒川沿い(中継)
    ​雨風に打たれながら、東冨貴リポーターがマイクを握っている。
    ​東「はい! 私は今、寄居町の現場近くに来ています。安全上の理由で立ち入り制限がありますが、ここからでも崩落した金尾山の巨大な土砂の壁がはっきりと見えます! 現場では上原大臣の指揮のもと、水資源機構と自衛隊が不眠不休で補強作業を続けています!」
    番組の合間、首都圏の知事が緊急の国の広報CMに出演している
    下川「国民の皆様、まだ、首都圏は安全です、慌てずに落ち着いてください、もしもの時は各自治体の判断を仰いでください、くれぐれもパニックを起こさないように頼むぜ!」

    ​〇 茨城県つくばみらい市・岡崎家
    ​テレビを見ている純也と美希。3年前の「沈没」を生き延びた息子・秀太郎も高学年になり、地図帳を広げている。
    ​秀太郎「……すごい山だね。お父さん、荒川が決壊したら、利根川は大丈夫なのかな? 江戸時代に伊奈様が利根川を東京から切り離した(利根川東遷)んだよね?」
    ​純也「(驚き)……よく勉強してるな。将来は茨城県知事にでもなってくれよ。あの水戸黄門ぶった知事(光田)には呆れ果ててるからな」
    ​美希「本当、五霞町を千葉に差し出しちゃうなんて……。下川知事(千葉)が茨城の知事だったら、どんなに心強かったか」
    ​〇 長野県・国道299号(走行中の車内)
    ​偽装された「新井」の車内。スマホの秘匿アプリが鳴る。
    ​部下Aの声「……長官、ご報告です。山梨へ続く全てのルートが完全封鎖されました。自衛隊が文字通り壁を作っています。近寄る車両は全て突き返されています」
    ​新井(浦井)「(冷徹に)そうか。瀧川も本気らしいな。……いいだろう、須崎(菜々)にも伝えろ。一旦引き返し、例の場所で待機だ。……焦る必要はない。我々には、最強の『カミカゼ』が味方しようとしている」
    ​〇 寄居・特設対策本部
    ​瀧川が泥だらけの長靴のまま部屋に入ってくる。
    ​瀧川「坊っちゃん(小津見防衛相)。工事はどうだ?」
    ​小津見「(ヘルメットを脱ぎ)あともう少しです。ですが、県道脇の狭窄区間の掘削に手間取っています。……台風の暴風域に入るまでに、何としても繋げます」
    ​上原「……まずいな。これは国交相としてではなく、気象予報士としての直感だが……奴らにとって、これ以上ない『神風』になる。気圧が下がり、雨が強まる。それが奴らの引き金だ」
    ​瀧川「俺があれだけ大見得を切ったんだ! 何が何でも工事を終わらせろ。……それで、実際にその『県道バイパス』を流したら、どこが水を被る?」
    ​上原「(地図を指し)……神流川(かんながわ)沿い、そして利根川。本庄市と深谷市の北部、熊谷の一部も免れません。被害を最小限に食い止めるには、これが限界です。……あとは渋沢翁が、故郷を護ってくれるのを祈るしか……」
    ​〇 同・会議室
    ​緊急招集された埼玉・土田知事と、群馬・藤川知事。
    ​瀧川「……荒川のバイパスを掘っている。本来ならダムにトンネルを貫通させるまでの応急処置だが、この台風じゃ間に合わねえ。今回の『トリアージ』は、利根川と小山川(こやまがわ)沿いだ」
    ​土田(埼玉)「(ガタガタと震え出し)……また、うちの県ですか……。また……(白目を剥いてふらつく)」
    ​藤川(群馬)「勘弁してくれよ! 大事な名勝、三波石(さんばせき)が沈んじまう!」
    ​瀧川「(藤川を睨みつけ)埼玉は我慢しろ! 群馬、お前もだ! この地域の避難をあえて目立たせることで、首都圏のパニックを抑え込む。……勝負の5日間だ!」
    ​〇 秩父・県道13号線・工事現場(夜)
    ​豪雨の中、最後の岩盤が重機によって砕かれた。
    ​隊員「開通! 開通しました! 荒川からの『魔改造ポンプ』、接続完了です!」
    ​沸き起こる拍手。小泉が内山、窪川と頷き合う。
    ​小津見「ご苦労! ……内山さん、ダムの状況は?」
    ​内山「補強は済みました。上流の二瀬、浦山、合角(かっかく)の各ダムも限界まで放流して空けてあります。……台風の総雨量にもよりますが、秩父市街の影森駅付近までなら、なんとか持ち堪えられるでしょう。窪川、ポンプの稼働はお前の判断に任せる」
    ​窪川「(スイッチを握り)了解しました。……流しすぎれば利根川が死ぬ。荒川の水位と睨み合いながら、ミリ単位で調整します」
    ​上原が窓の外、真っ黒な巨大な渦を巻いて迫る衛星画像を見据える。
    ​上原「……テロリスト諸君。迎え撃つ準備は整った。あとは……『君たちの神様』にでも祈るんだな」

    ​〇 シーン12:分水嶺の決戦、そして「共犯者」の明日
    ​台風は、相模湾から北上する最悪のルートで関東を襲撃した。
    一方、テロリストの浦井たちは、山梨への道を断念し、関連会社の別荘に潜伏していた。
    ​新井(浦井)「……山梨は諦める。前にも言ったはずだ、我々は生き延びてこそ次の作戦があるのだと」
    ​部下「了解です」
    ​須崎(菜々)「そうよねぇ。捕まっちゃったら、もっと気持ちいい破壊、できなくなっちゃうもんね」
    ​新井「わざわざリスクを冒す必要はない。インフラを破壊し、経済にダメージを与え、平和ボケしたこの国に恐怖を刻みつけた。この後は、単なる『オマケ』に過ぎない」
    ​別荘のリビング。彼らはワインを片手に、テレビに映る「自らが招いた地獄」を高見の見物と洒落込んでいた。
    ​〇 寄居・特設対策本部
    ​猛烈な豪雨の中、窪川は「魔改造ポンプ」のレバーを握り、一進一退の攻防を続けていた。
    ​窪川「所長! 土砂ダムの圧力、現在は!?」
    ​内野「(モニターを凝視し)まだ耐えられる……大丈夫だ、持ちこたえろ!」
    ​自衛隊員「報告! 秩父鉄道・御花畑駅付近まで水没しました!」
    ​上原「(地図を叩き)利根川の中流域はまだ余裕がある! 渡良瀬遊水地が踏ん張っているうちに逃がせ!」
    ​北山「(無線)こちら利根川上流、八ッ場ダム! 水位が急上昇、緊急放流を開始します!」
    ​内山「まずいな……。窪川、ポンプを抑えろ! 下流が死ぬぞ!」
    ​窪川「……ええ。影森駅さえ死守できれば、まだ我慢できます!」
    ​隊員「小山川が越水! 本庄市、旧児玉町付近で浸水が始まりました!」
    ​瀧川「……やむを得ん。計算通りだ。耐えろ……!」
    ​窓の外、暴風が唸りを上げる。上原が空を睨む。
    ​上原「台風の中心は過ぎた……あと少し、あと少しだけ持ってくれ!」
    ​隊員「影森駅、水没まであと1メートルです!」
    ​窪川「……すみません! ポンプ、限界まで回します!」
    ​グォォォォォォンッ!! けたたましい稼働音が響き渡り、内野所長が叫ぶ。「こっちも圧力が限界だッ!」
    ​その時、一際大きな雷鳴が轟いた。
    ​隊員「熊谷市で床下浸水! 忍川、元荒川より武蔵水路へ内水流入、開始!」
    ​風向きが変わり、雲が高速で流れていく。小康状態になりかけた、その瞬間だった。
    ​――ドォォォォォォォンッ!!!
    ​上原「……この雲の流れ。自然は、我々に味方した。さあ、持ちこたえてくれ……!」
    ​瀧川「おい! どうなった!? また、助かったのか……!?」
    ​土砂ダムの一部が崩落し、濁流が指揮室の目下まで押し寄せた。だが、そこで動きが止まる。台風一過の、不気味なほどの静寂が訪れた。
    ​瀧川「……流域の被害は」
    ​部下「……想定内の範囲で収まっています!」
    ​瀧川「(椅子に深く沈み込み)……落ち着いたら、会見を開く」
    ​〇 首相官邸・記者会見(当日夕方)
    ​瀧川は、数え切れないフラッシュを浴びながら、深く、長く頭を下げた。
    ​瀧川「……この度の事件、並びに被害に遭われた方々に、心よりお詫び申し上げます。特に秩父の皆様……。我々の手で、街を沈めてしまいました」
    ​記者「もう住めないんじゃないですか、総理! 補償はどうするんですか!」
    ​大原「補償は迅速に行います。また、崩落した土砂はそのまま残し、完全な常設ダムとして整備します。秩父鉄道、国道140号は新たにトンネルを掘削します」
    ​人的被害が奇跡的に少なかったと知るや、記者たちの矛先は警察へと変わる。
    ​記者「テロリストはどうなったんですか! またテロが起きたらどうする!」
    ​羽沢公安部長「……それについては、私からお答えします。現在、詳細は控えさせていただきますが、重要人物の特定は進んでいます。長野県内に潜伏しているとみられ、全力で捜査に当たっております」
    ​犯人を誘い出すための、一か八かのブラフ。
    瀧川は最後に、レンズの向こう側の国民を真っ直ぐに見据えた。
    ​瀧川「……国民の皆様。今回も『共犯者』となっていただき、ありがとうございました」
    ​〇 別荘・リビング
    ​テレビを消した新井(浦井)が、冷ややかに笑う。
    ​新井「人物の特定か。まあいい、浦井としての行動がバレたところで、我々の『本当の名前』には誰も届かない」
    ​須崎(菜々)「ですねぇ。名前なんて存在しないんですから、私たちには。……新井さん、次の目的地は?」
    ​新井「次は、関ヶ原を越えて西だ。……すでに、次の手は動いている」
    ​二人は、名残惜しそうに一度だけ秩父の空を振り返り、闇へと消えていった。
    ​〇 ラスト・森田家。
    ​瀧川「……お前はどう思う。これで良かったのか。じいさんも、あいつ(亡くなった妻)も」
    ​森田「過ぎたことだよ。目の前を生きていくしかないじゃないか。……あの瞬間、あんたは持てる札の中で、最高の一手を出した。それだけだ」
    ​傍らで、森田の妻が静かに微笑む。
    ​森田の妻「あの子も、きっと同じです。自分で、その選択をしたんですよ」

    ​瀧川は、窓の外に広がる、再び平穏を取り戻したかのような東京の街並みを、静かに見つめ続けた。
    ​(完)

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    初作品を書いたのですが公開したり人に見せるのはまだでしたのでコチラに載せてみました 今回はシリーズ1の1話と2話です 「首都決壊-THE TRIAGE-」 ご興味、見てくださる方いましたら続編載せて行きます あとは、思いついた駄話を載せてます よろしくお願いします

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