
【短編童話】トガールのいびつなベスト
私の名はマリエール。
虹色の毛糸で編み物をしようと考えている。
誰に編もうか?たくさんの顔が思い浮かぶ。
ジャムスの店では、朝のパンが
焼きあがった。
短い朝ごはんをジャムスとキノコっちで
食べている。
「ねぇ、ジャムス。今日、
トガールおばあちゃん来る?」
ミルクパンを食べながらキノコっちはジャムスに尋ねる。
「トガールさん?どうだろう?」
ジャムスは、パンにバターを塗り、
口に放り込む。
「何かあるのかい?」
「うん。マリエールが来て欲しいって、
伝えなくちゃいけないの」
キノコっちはホットミルクをゴクリとひと口飲む。
「なら、オレも見かけたら伝えとくよ」
「本当?ありがとう、ジャムス」
「さて、クリームパンをお願いしようか、
キノコっち」
「はーい!まかせて!」
ジャムスとキノコっちの忙しい朝が始まる。
お日さまがまもなく顔を出しそうだ。
「おはよう、ジャムス」
トガールが朝一番でやってきた。
「やぁ、トガールさん。早いね」
ジャムスは店の前を掃除している。
「えぇ、これを届けに来たのよ。よかったら使ってくれるかしら?」
トガールはジャムスに自分の作ったエプロンを手渡した。
「これは……エプロン?いいのかい?」
「迷惑かけちゃったもの。せめてもの
お詫びよ。キノコちゃんの分もあるの。
渡してくれるかしら?」
「そういえば、キノコっちが小屋に来てほしいって言ってましたよ」
「キノコちゃんが?」
キノコっちが奥からやってくる。
「トガールおばあちゃん!」
「あら、キノコちゃん、おはよう」
「おはよう!」
そういうと、キノコっちはトガールに抱きついた。
「キノコちゃん、今聞いたわ。遊びに行ってもいいの?」
「もちろん!マリエールが来てって」
「いつがいいかしら?」
「明日は?ボクもいるよ!」
ジャムスがエプロンをつけてやってくる。
「キノコっち、トガールさんがエプロンを
作ってきてくれたよ。つけてごらん」
そう言うと、ジャムスはエプロンを
キノコっちに着せた。
「本物のパン屋さんみたいだ!かっこいい!」
「キノコちゃんも火傷しないようにって」
「ありがとう!おばあちゃん」
トガールは優しいまなざしでキノコっちを見つめた。
次の日――
トガールはマリエールの小屋を訪れた。
「マリエール?トガールよ」
「トガールさん、いらっしゃい。さ、中に」
キノコっちが奥からバスケットを持ってやってくる。
「おばあちゃん、いらっしゃい!見て、
ボクの子どもなの。ぴっぴとぴーちゃん」
「あら、かわいい。いつの間におとうさんになったの?」
「おかあさん!ボクが生んだの!」バスケットを抱きしめるキノコっち。
「さ、トガールさん、お茶でも」マリエールはテーブルにお茶を置く。
「きのこちゃん、おかあさんになったのね」
トガールは楽しそうにお茶を飲む。
「そうなんですよ。そうだ、トガールさん、編み物はお出来になりますか?」
「編み物?もちろんできるわよ。大好きだもの」
「それはよかった!実はたくさん毛糸をいただいたのです。私に編み物を教えていただけませんか?」
マリエールは、ポポからもらった虹色の毛糸をトガールの前に持ってくる。
「まぁ!なんて美しい毛糸なんでしょう!」トガールは毛糸をそっと手に取り、光にかざした。虹が指の間で揺れた。
それからトガールはマリエールに編み物を教えるようになった。
ある日、マフラーを編んでいると、トガールが思い出話を始めた。
「若い頃、トマスにセーターを編もうと思ったの。でも毛糸を買うお金もない。私は自分のセーターの糸をほどいて編むことにしたの。そうしたら、片方の袖の分が足りなくて。どうしようかと困っていたら、トマスが、『悪いんだが、その片袖をほどいてもらえるかい?ベストとして着るよ。余った糸はトガールのマフラーにしておくれ』って」
毛糸を見ながら、くすくすと笑うトガール。
「結局、出来上がったのはいびつなベスト。
でも、トマスは文句ひとつ言わず、いつも笑顔で着てくれたわ」
微笑むマリエール。
「優しいですね、トマスは」
「えぇ。そういう人なの。マフラーも、私が寒くならないようにって」
編み針からどんどん編みあがるマフラー。
トガールはトマスの想いも編み込んでいるように見えた。
「ほら、できたわ」トガールが仕上げの糸を切る。
「何とキレイなんでしょう」マリエールは出来上がったマフラーを手に取ってみる。
「私のはまだまだ、いびつですね」
「私のベストよりマシよ」マリエールとトガールは笑い合う。
「私もまた、編み物をしたいわ。とても楽しかった」
トガールは毛糸を優しくなでる。
「では、この毛糸をお持ちください。私一人ではとても…」
「おばあちゃん、ボクにも何か作って」キノコっちがトガールの隣に座る。
「じゃ、キノコちゃんにはかわいいベストを作ってあげましょうか」
「やったー!ぴっぴとぴーちゃんにも何か作って!」
「あらあら、これから大忙しだわ」
トガールさんは嬉しそうにキノコっちの肩を抱いた。
コルネイユは豊かな実りをもたらす神の使いの鳥。
すでに豊かな幸せを運んできてくれた。
笑顔が広がり、風が穏やかに木の葉を揺らしていた。
──トガールのいびつなベスト──
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