
わたしのやりたいこと #2
前回までのお話↓
結局、その日はユキコの決意表明や将来の話だけでランチの時間が終わってしまった。
ユキコと私が話す時、大体私が聞き役にまわる程、彼女の方が話す量も多いとはいえ、今日はさすがに疲れてしまった。
その日の夕方、SNSではユキコが今日のランチで食べていた、カルボナーラの写真と共にコメントも投稿されていた。
『友人とランチ。いつも話聞いてくれてありがたいし、話していくうちに自分の頭の中も整理されていく気がする。やりたいことや夢を再確認できた良い時間だった!』
……満足だろうね、何のしがらみもなく夢を語れて。
聞いてるこっちは、何もかも自分の環境と比べてしまって、素直に聞けなくなってしまっている。
ハートマークをタップだけして、早々にスマホの画面を消した。
すると、その真っ黒な液晶に映っていたのは、眉間にしわを寄せ、口角を下げながら拗ねている自分の顔だった。
………私、こんなひどい顔してた?
「はじめのはじめのだいいっぽ!」
自分の息子の声で我に返る。ミホの家の前で友達と一緒にだるまさんがころんだをやっているようだった。
外に出て様子を見てみると、小学4年生の息子だけが、ズボンが引き裂かれるんじゃないかというくらい大股で、その集団の中で一番大きな一歩で有利に立っていた。
一緒に遊んでいる1年生の子は、まだ体が小さいから高学年の大きな一歩には敵わないし、6年生の子は、息子より身長が高いのに周りを気遣ってか、その年齢の歩幅にしては、小さな一歩だった。
案の定、息子が大人げないことをしていたので、下級生から大ブーイングをくらい、もう一回みんなで始めからやり直すことになった。
全員が無理のない、いつも歩いている自分の歩幅くらいで、はじめの第一歩を出す。
それでもやっぱり1年生の一歩はかわいらしい程に小さく、自分の息子や6年生と半分くらい差をつけられていた。
みんな、同じ一歩を踏み出しているのに、こんなにも歩幅が違うしスタート地点の距離も違う。
あ、もしかして。
それまで抱えていた小さな苛立ちが、ほろほろと綻んでいくのを感じた。
もしかして、私、ユキコのような大きな一歩と、自分が出せるであろう一歩の歩幅を比べて苛立っていたのかも。
自分はやりたいことがあっても、急に学校に行くといった周りの環境も変えてしまうような、大きな一歩は出せない。
頑張って大きな一歩を出せたとしても、次の一歩も同じ歩幅で行かなきゃいけない気がして、失敗するのが怖くて立ち竦んでしまうかもしれないから。その大きさで何度も踏み出せる人しか、一歩を出しちゃいけないと思っていたから。
でも、そうじゃなくて。
周りから見たら小さな小さな歩幅でも、それは立派な「大きな一歩」なのかも。
1年生が一生懸命出した一歩のように。
そんな小さな歩幅でもいいのなら、私でも、何かやれるかな。
ミホは家に戻り、スマホを開くと、SNSに広がる色とりどりの料理の写真達を眺めた。
そういえば、いつか、自分のカフェを開いてみたいって昔思っていたな。
今すぐに仕事辞めてカフェを開いてっていうのは出来ないけど、おしゃれな料理を作る練習だったら、家で出来るかも。
SNSにも少しずつ投稿してみようかな。
いつもの夕飯のメニューに、おしゃれな料理が出たら家族みんな驚くかも、と想像して、少し笑みがこぼれた。