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トライアングル / 第一部 2-4 (23〜24話)

    あらすじ

    夏休みも終盤。1-Eクラスではクラスの親睦を深める為にみんなで花火大会へ行く事が決まっていた。
    バイトが急遽休みとなった明来は、それに先立ちクラスメイトの女子達と共に女子会に勤しんでいた。
    普段一緒に居るのは奏太と淳汰、時たま颯翔。
    制服ではない服装で、同年代の女子達の会話はどれも新鮮で、しかし知らない情報、知らない世界を知る事となる。
    自分が見ている3人と、違う視点で見られた3人の違いに、明来は思うところもあって___。


    アキラを通して知る、好きというもの、好きという事。色んな好きの形。
    何に向けるか、誰に向けるか、それがどんな意味を持っているのか、どんな意味を持ったせてしまうのか。
    色んな好きの形があり、想いがあり、それらを受け入れ生きていく、高校生の物語。

    音楽×恋愛×青春の長編小説。
    恋愛部門のヒューマンドラマです。
    同性愛等の表現も含まれます。苦手な方はお気をつけ下さい。




    登場人物

    不破 颯翔 (ふわ はやと)

    1-Eクラス/ドラム
淳汰とは中学からの友人で、中学時代からバンドを組んでいた。ドラムを始めたのは淳太がキッカケ。明来の事を敵視している。
    皮肉屋で、物事を否定的に見る癖がある。

    小埜寺 淳汰 (おのでら じゅんた)

    1-Cクラス/ギター
明るくて人当たりが良く、コミュ力とテンションが高い颯翔の親友。
小学生の頃ギターを始め、同い年でギターが上手い明来を憧れの存在だと触れ回っている。


    逸見明来 (へんみ あきら)

    1-Eクラス /ギター・ベース
奏太の幼馴染で、淳汰とは同じ音楽教室に通っていた。一見大人しい清純派だが、複数開いたピアスにサボり癖など、強かな一面も持ち合わせる。
ベースも得意で、普段からサポートバイトをするなど実力派。


    柿谷 奏太 (かきたに そうた)

    1-Cクラス
成績優秀で、入試は1位のメガネ男子。入学式の代表スピーチも行っていた。
見るからに真面目そうなガリ勉で、実際勉強は好き。明来とは幼馴染以上の仲に見える。
写真部に所属しており、よくカメラを持って明来の写真を撮っている。


    23.違う視点で見えるのは

     お盆も終盤となった16日の朝、いつも通りに目覚めた明来はスマホのアラームを止め、のそのそと布団から這い上がった。寝起きはあまり良い方ではないが、自分で起きなきゃ誰も起こしてはくれない。今日は珍しく、奏太以外と遊ぶ予定が入っているので、自分1人で動くしかない。 
     今日は部活もバイトも休みだ。お盆は学校が閉鎖になる為部活が出来ず、バイトは連勤続きで店長からストップがかかった。雇用時間的には問題ない筈なのだが、学生らしく遊んでこいと強制的に数日の暇を出された訳だ。今日はその1日目。店長の優しさは有難いが、個人的にはもっと働きたい。新しいエフェクトもギターも買いたい。ベースを買ったばかりで貯金が底を尽いているに、先日のフェスでグッズを沢山買ってしまったのだ。今はシフトをありったけ入れて、通帳の残高を増やしたい気持ちでいっぱいだ。
     欲しいものは父に言えば買って貰えるが、そんな事で頼るのはなんとなく嫌だった。お小遣いは毎月貰っているので、それで足りない分は自分のお金でどうにかしたい。決して親孝行などではなく、ただそれが物欲しさのお金だったとしても、父にせびるのが嫌だった。
     今日は夕方から任意参加のクラス会だった。学校から程近い花火大会に全員で行こうという話だった。任意参加とはいえ2/3程が参加している。
     それに伴って、昼からクラスの女子数人と早めに集まり買い物へ行く約束をしていた。最初はバイト終わりに行くつもりだったのだが、話を聞いた店長からバイト先の先輩達まで、そんな機会に遊びに行かないでどうすると騒ぐのだ。こんな事なら話さない方が良かったとも思うが、しかしクラスの友人と遊びに行くという行為が嫌な訳ではない。ただ昔から友人が多い方ではなく、こういう機会がなかっただけに緊張してしまうから苦手だ。
     クラスの女の子達はきっと、可愛い服を着て来るのだろう。高校に入ってから休みに遊ぶ事はこれが初めてだが、外で会った時などはみんな可愛いらしい格好をしていた。
     オシャレに興味がない訳じゃないが、かといって服を買いに行く暇もなければ、拘りもない。オシャレな同世代を見る度に憧れはするものの、つい決まった店で適当に済ませてしまっている。他にお金を掛けたいところがあるので余計にそれで良いと思ってしまうから宜しくない。
     よく学校で話す子達は、特に目立ってオシャレだった。前に一度だけバイト先で会った事があるが、街中で見掛ける流行ファッションを取り入れていて、全体的に可愛らしい印象だった。リボンやハートやフリルなんかもあしらわれた、女の子の可愛さを詰め込んだような格好。所謂フリフリのお姫様みたいな服を着ている訳ではないのに、あんなにも女の子になれるのは何故なのだろうかと、不思議に思う。
     あの手な服への憧れがないわけではないが、自分が着るとなるとちょっと違う。だって、似合わないだろう。
     大きなリボンの付いたミニスカート、編み上げたジーンズ、大きなフリルの付いたTシャツ、レース素材のカーディガン、ショーウィンドウで見かけるガーリーな洋服達はどれも全部可愛い。女の子の夢が詰まっている。
     憧れがある事を否定はしないが、試着室で己の似合わなさに引いた経験があり、2度と袖は通さないと決めていた。ああいう時、奏太は全て「明来は可愛い。なんでも似合う」なんて適当な事を言うからアテにならない。
     それでも幼い頃は可愛いらしい服を着ていたと思う。いつからボーイッシュな服ばかり着るようになってしまったのだろう。気付けばそうなっていたんだったか……きっかけはなんだろう。
     なんにせよ、今日はオシャレで可愛い子達と並び歩くのだから、最低限自分も着飾る努力をしなければならない。今日くらいはアクセサリーなども身に付けてみようか、ライブのステージ衣装用に買い置いてあるのが幾つかある。
     いつもよりは遅めの起床。バイトがない日はいつもよりアラームを遅めにセットして、ゆっくり寝てしまう。

     部屋を出ると、まずリビングに置かれたテレビを点けてチャンネルを回した。お盆というのは普段の番組とは違うものばかりで、興味のある番組は何もやってない。朝のニュースも昼のワイドショーもなく、最近やたら見かけるアイドルと芸人の街ブラロケや特番ばかりで、大して面白くはない。特番である以上、時計代わりにもならず、ただ部屋の静けさを消す為にテレビを流す。これは最早習慣。
     顔を洗い、歯を磨きながら冷蔵庫の中を確認する。今日の朝食は何が良いだろうか。
     時間的に朝昼食兼用だ。食パンを焼いて、まだサラダの残りと、昨日のスープもある。他は目玉焼きにソーセージでも焼けば充分だろう。ここ数日同じようなメニューばかりだが、レパートリーが少ないので仕方ない。
     本当は1人なので適当に、ゼリー飲料や野菜ジュースだけでも良い。1、2食抜いたところで死にはしない。最低限身体を動かすエネルギーさえ摂っていれば問題ないと思っているのだが、ちゃんと食べて食材を減らしておかなければ、定期的にくる奏太の冷蔵庫チェックが怖いのだ。食材が減ってない、作り置きが減っていない、そこから食べてない事がバレて怒られる。奏太も過保護だとは思うが、心配してくれているのもわかるので無碍には出来ない。
     お盆はいつも来てくれる家事ヘルパーの新山さんもお休みで、食事の準備がされていない。その分、意識しなければ、何も食べずに1日が終わる。
     それでも普段から新山さんが作り置きをしてくれたり、奏太のお母さんが持たせてくれたおかずなどもあり、昔と比べると幾分真面目に食事を摂るようになった。前の私なら、朝食なんて食パンをそのまま齧って終わりにしていただろう。たかだか目玉焼きとソーセージでも、焼く様になっただけ成長だろう。

     出来上がった朝食を4人掛けのダイニングテーブルに出した。自分の定位置にだけ置かれたクッションは大分くたびれてきたので、そろそろ買い替え時だろうか。
     いつも新山さんが掃除をしてくれているおかげで、このテーブルも綺麗だ。所々に傷はあるが、まだ売ろうと思えば売れるだろう。綺麗なうちにこんなバカでかい4人掛けなど処分して、もっと小さいのにすれば良いのにと思うのだが、勝手に売るわけにもいかない。この家主はこの家に関心がないから、きっとそんな事どうでも良いのだろう。不必要になったら捨てるだけなのだ。
     そんな事を考えながら、つまらないテレビを見つつ朝ごはんを口に運んでいると、廊下で足音がした。気の所為だろうか。テレビの音量を下げて耳をそば立てる。やはり廊下の方で物音がした。どうやら父が帰ってきたらしい。
     お盆の間は旅行に行くとか言ってた様な気がするが、もう帰ってきたのだろうか。トラブルでもあったのか、予定を変更したのか。まあ、どちらにせよ自分には関係のない事だ。
     朝食を腹の底に押し込むと、さっさと食器を片付け、部屋に入った。今日の服がまだ決まっていないし、メイクも済ませてない。やる事は山程ある。
     クラスの女の子達と並んで歩く事を考えると、いつもより気合を入れた服が良いだろうか。花火大会の事も考え、1日動き回る事を前提とした服。ショートパンツじゃ露出が多くて、気合いを入れ過ぎだと思われるだろうか。変に男受けを狙っていると思われるのは不本意だから、そうは見えずに、しかしオシャレな女の子達と歩いて恥ずかしくない格好をしなくちゃいけない。
     薄手のバギーパンツにして、トップスはキャミソールにショート丈のシャツを羽織るのはどうだろう。これなら露出も程々で良いと思うが、キャミソールだとそれそれでまた誤解を生むだろうか。
     鏡の前であれこれ試行錯誤しながら、選んだコーデに袖を通す。悪くないと思いたい。女の子達と遊ぶのは楽しいと思うが、考える事が多くて疲れる。
     出掛ける前から気疲れを起こしつつ、軽く歯を磨いてメイクを済ませた頃には、もう出発時間ギリギリだった。

    「急がなくちゃ」

     慌てて身に付けていくアクセサリーを選び、カバンを持って、部屋で身だしなみとコーデの最終チェックをする。問題ない。今日の靴は履き慣れた黒のサンダルにしよう。少しヒールは高いが、むしろ人混みでも目立って良いだろう。逸れても見つけて貰いやすいかもしれない。女の子達と並んだ時の身長差が気にならなくはないが、みんなも高いヒールを履いてくると信じている。
     部屋を出て、念の為に部屋の鍵を掛けておく。何が起こるかわかない。防音室の鍵が掛かっているのも確認してから、まだ物音がする部屋の扉をノックをした。

    「私出掛けるから、戸締りお願いね」

     返事はない。だが、聞こえてはいるだろう。連絡は来てなかった。戻ってきてからも、何も言いにこない所を見るに、必要な物を取りに来ただけだろう事は、明来にはわかっていた。きっとまたすぐに居なくなる。父にとってここはただの荷物置き場だ。家でも、帰る場所でもない。
     玄関の鍵を持って、足早に家を出た。時間はギリギリ。電車に乗り遅れないよう、駅に向かわなくてはいけなかった。

    ***

     明来にとってクラスの女の子達と遊ぶのは、新鮮で楽しい時間だ。自分の知らないお店、知らない場所、知らない世界の話。何より恋バナやオシャレの話なんていうのは、普段奏太や淳汰などとする事がない。
     好きな人は居ないのか、好みの男子は誰かなんて事を訊かれると困ってしまうが、何処のクラスの誰がカッコ良いとか、誰と誰と付き合ったとか、そんな噂話を部外者の立場で聞く分には嫌いじゃない。
     噂話に花を咲かせるのは幾つになっても変わらないようで、中学時代も似たような事を話していた気がする。この手の話を楽しめるのは、自分自身がちゃんと紛れもない1人の女の子である事を自覚出来る点がとても良い。
     興味のある異性にピンとくるものがなくても、他人のそれらには興味を持てている。だから、自分はただの欠陥品ではなく、人より少しそういう事に鈍感で、周り少しだけより遅れている。それだけの事だと思う事が出来た。だから異性の話をするのも、聞くのも、嫌いじゃなかった。

     今回の噂話で知ったのは、普段一緒に居る3人がそこそこモテるらしいという事。自分の恋愛に興味がない明来にとっては、周りの女子の話が全て知らない国の文化を聞かされているような新鮮さがある。
     淳汰に関してはわかる気がした。明るくて、人当たりが良くて、頭も良くて、顔だって世間一般的に見たら良い方だと思う。そもそも淳太の悪口を聞く事はないし、お年寄りにも優しくて、老若男女万人受けするタイプだ。それが恋愛的に繋がるかどうかは別として、クラスの女子達が騒ぐのにも頷けてしまう。
     しかし話を聞くと、バンドのボーカルとしての歌声がどうやらイケな部類らしいのと、顔は可愛いタイプなのに、低めな声とのギャップが堪らないといったような話で、中身の事はあまり出てこなかった。
     しかし声と見た目のギャップというのは、わかる気がする。声変わりした時は驚いたものだ。
     元々は周りと大差ない平凡な声質だったが、それがまさかあんなに低くなると思わなかった。顔は出会った頃からあまり変わってないのに、声だけあんなに低くなってしまい、確かにあれはギャップがすごい。
     淳汰の話で唯一出た内面は、誰にでも優しいという事。けれど、恋愛にとってはそこがマイナスポイントだとも言う。自分だけに優しくして欲しい、恋人になったら周りが勘違いして苦労しそうなどと言われていた。
     淳汰の良い部分だと思っていた所が、恋人にするにはマイナス面になるようで、恋愛というのは難しいものらしい事を学ばされる。
     逆に自分だけに優しくしてくれそうなのは颯翔らしい。普段の気怠げで周りに興味が無さそうなのに、さり気ない気配りや優しさが刺さった、というエピソードを聞かされた。あの手のタイプは、惚れたら自分だけを甘やかしてくれるに違いないという。

    「アッキーは普段から、不破に優しくされているんでしょ?」
    「わかる〜。あのタイプは仲良い奴にしか見せない顔とかありそうだもん」

     そんな期待には答えられず「どうかなぁ……」と言葉を濁す。颯翔の優しさとやらは、どれも本当に些細なものだが、日直の時、届かない黒板の上の方を消してくれたとか、重い荷物を代わりに運んでくれたなど。少女漫画で見た事あるやつと思っていたら、同じ事を口にしている子が居た。
     少なから、聞かされたエピソードのような優しさを受け取った記憶はない。あるのは敵対心位なものだ。だからこそ、颯翔が女の子達に対してそんな事をするキャラだったのかと、感心してしまう。きっと淳汰にはそれ以上の事をしているのだろうが、淳汰が鈍いのか、自分がその対象だと思っていない故なのか、きっと空振りばかりなのだろう。 
     加えて颯翔は背の高さもあり、身長だけは理想的などと、淳汰以上に見た目で騒がれていた。

    「絶対180はあるよね!」
    「○○先輩と一緒に居るの見掛けたけど、先輩より大きかったから確実」
    「高身長良いよね〜。キスする時身長差で屈んでくれるのとか……」
    「わかる!!」

     女の子達は口々に身長についての理想論を口にしていた。180㎝というのが、女の子達からすると一つの基準になるようで、度々身長や180㎝というワードが、まるで恋バナのキーワードのように飛び出していた。昔より高身長の基準も上がり、今の子は大変だ、なんていう何処の目線かわからない同情をしてしまう。

     明来からすると一番意外だったのは奏太の名前が出た事だった。よくうちのクラスにも、他クラスにも出入りしている淳汰、同じクラスの颯翔はわかるが、別のクラスな上、教室じゃ目立たず静かなタイプであろう奏太の名前が、女の子達の口から出るとは思っていなかった。
     実際周りの評価も「物静かで、口数の少ない人」だったが、学年トップの秀才というところがポイントらしい。流石は進学校だ、勉強が出来る事もモテる要素の一つになるらしい。
     入学してから不動の一位を守っている。聞くと、クラス内の小テストなどでも毎回一位だとか。無駄に騒ぐ男子と違って、物静かで多くを語らないミステリアスな所が、逆に想像を掻き立てられるらしい。
     女の子というのは、わかりやすく素直なのが可愛いと言ってみたり、何を考えているかわからない方が魅力的と言ったり忙しい。
     ただ背が低いから無し、と言われていたので、やっぱり身長というのは一つの基準のようで、そこで少し安心する。奏太は自分の事で騒がれるのを苦手としているので、少なくとも恋愛対象として女子達に騒がれないうちは静かだろう。

    「柿谷は彼氏にするより、眺めるタイプ」
    「わかる。美術品みたいなね、観賞用」

     そんな言葉に周りも頷いていた。
     色が白くて、よく見ると美形で、切長だけど大きな黒目がちな瞳。「メガネを外せば絶対化けるタイプ」というのには全員が口々に同意を示していた。
     シワひとつない制服を毎日キッチリと着こなし、黒縁のスクエア型メガネが、真面目で堅物そうな印象を与えるせいか、彼氏にするのは面倒くさそうと言われていた。
     実際は堅物でもなければ、案外可愛らしい一面もあるのだが、そんな事を言ってしまえばまたも「ギャップ萌え」なんて事になりかねないので、明来も黙っておく。奏太の魅力は奏太を知ろうとした人だけが知れば良い。
     眺める分には目の保養。あれは観賞用。そう口々に言う女の子達の言葉に、少しばかりわからないでもない気持ちを抱きながら、しかし他の女の子が奏太に向かう事が無さそうで安心していた。
     奏太を本気で好きになってしまったりしたら、泣きを見るのは女の子の方だ。奏太自身も断る事で傷付くだろうし、そんな奏太を見たくはない。どんなに女の子達が頑張ろうと、奏太を振り向かせるのが厳しい事は、明来が一番よく知っている。
     結論、彼氏にするならそれなりに背が高く、程々に勉強が出来るが、明るくて真面目で、他の女の子に靡かない、加えて運動も出来るタイプが良いという事だった。中々に理想が高いと思う。
     具体的に挙がった名前の中には淳汰も入っていて、やっぱりモテるタイプなのだなと思った。

    「アッキー本当に小埜寺と何にもないの?」
    「絶対あっちは好きだよね」
    「わかる。いつもくっ付いてくるし、必ずお昼とか迎えに来てない?」

     女の子達は興味津々で明来に迫る。自分達が実際淳汰とどうにかなりたいというより、理想を語り、淳汰と可能性のある女子を見つけて話を聞きたいだけなのだろう。
     そんな質問には「バンドが一緒だから」「前から仲は良かったからね」と、同じような返ばかりしてしまい、逆に怪しまれる結果になってしまった。
     明来自身、本当に淳汰にも他の特定の誰かにも興味はないのだが、それを伝えるのは難しかった。
     人の話を聞くのは楽しいが、自分が当事者になるのはやっぱり違うと、改めて思うのだった。


    24.私だけが知っている

     夕方、待ち合わせ場所の駅前は、花火大会に行くだろう人間で既に賑わっていた。
     既に集まっていたクラスメイトとも落ち合い、それぞれ、なんとなく浮き足立っているのが伺える。クラス委員長の颯翔は出欠を取りながら、その様子に辟易していた。本当なら、こんな人混みに花火など見に来たくはなかった。
     クラス会の発案者はクラスの中心に居る女子で、元々は何人かで行く予定だった花火大会に、便乗して一緒に行こうとした男子グループが加わり、いっそクラスの全員で行こう、という話にまで広がって今がある。
     幹事自体は盛り上がった女子と男子が取りまとめてくれているが、委員長なのだからと、勝手に巻き込まれ、こうして仕切る事になっている。
     本当は家でゲームして寝ていたいというのが、颯翔の本心だった。 
     女子は半数近くが浴衣を着ていた。何処かでレンタルしてきたのだろう派手な浴衣から、家で着てきたらしいヨレた着付けの者、しかしその全員がいつも以上に着飾って、気合を入れているのがわかる。
     私服で来ている女子達までもが、服に髪型に化粧に、いつもよりオシャレをしているらしいのは見てとれた。
     対する男子は誰も浴衣はおろか、甚兵衛すら着ていない。気合を入れるのも恥ずかしいと思っているのか、ラフな格好の奴らばかりだ。女子達と並ぶと、余計に服装が雑に見える。
     普段の制服とは違うだけなのに、服装一つで人間というのはどうしてこうも違う目で見てしまうのだろう。あちらこちらでソワソワしている姿が目に入り呆れる。形が変わろうが、服は服だろう。

    「全員揃ったから、そろそろ会場行くぞ」

     颯翔の声掛けで、20数人居る団体が花火会場へと向かって歩き出した。教室で居る仲良しグループ毎になんとなく固まって、人の波に乗って歩く。
     早くも逸れただの、なんだの騒いでいるクラスメイトに早くも「面倒くさい……」という颯翔の本音が漏れ出ていた。

    ***

     祭り会場へ着くと、出店を回るグループとさっさと場所取りに行くグループとに分かれた。明来は昼間遊んでいた子達と共に、出店を回る事にする。そうは言っても人混みの中、他のクラスメイトなども居て、あっという間に人の波に呑まれてしまった。

    「大丈夫か?」

     声を掛けてきたのは、何度か話した事はあるが、特別仲が良い訳でもない男子。確かいつも颯翔と一緒に居る、川田だ。教室では他の女子達と一緒の事が多いから、普段から男子との関わりは薄い。

    「大丈夫」
    「人多いよな」
    「ここら辺じゃ一番大きなお祭りだからね〜」

     そんな会話をしながら、前を歩く他の女の子達の背中を追い掛ける。

     昼間の話だと、川田は同じクラスの恵美梨が好きだとかなんとか。恵美梨は私の斜め前を歩いている。位置関係的に、上手くいけば話せると思っているのだろうか。生憎だが、自分は恵美梨との会話を取り持つような事は出来ないと、心の中で謝っておく。
     前を歩く女の子達は他の男子達と服の話をしていた。男子は誰の服がダサいとか、なんだそのTシャツとか、とにかく貶して笑い合う。面白さがよくわからないのは、感性が女子だからという事だろうか。
     女の子たちはその浴衣何処で買ったの?とか、その服可愛いねとか、互いに褒めて謙遜して、それ似合ってないとか、メイクが濃いとか、相手によっては地味なマウント取りになっていく。
     でも自分より上だと思った人が逆の事を言うと手の平を返し、裏では陰口言うのだ。
     現に目の前で「志島の浴衣すごいな、フリフリじゃん」と言った川田の言葉に、別の女子達は何やら小言を言っている。

    「えー気合い入れすぎじゃない?」
    「クラス会なのに、派手過ぎるって」
    「麗奈なら、ピンクより青のが似合うと思う」

     そんな言葉に男子達は何も言い返せないが、言われた麗奈は「そうかなぁ〜?れいなはフリフリ好きだから、絶対今年はこれ着るって決めてたんだよねぇ。だって、ピンクとレースって、可愛くない?」とどこ吹く風だ。

    「私も可愛いと思う」

     別に擁護するつもりではなく、ただ本当に浴衣が可愛いのでそう言った。薄ピンクの生地にリボンと花柄があしらわれた浴衣、レースとふわふわの帯を2本使いで締めていて、小柄で色白な麗奈に似合っている。髪型も美容室でセットして貰ったのか、凝っていてとても可愛らしい。それこそ絵に描いたような、理想の女の子像だ。
     しかし、そんな事を言ったら「アッキーはわかってないな〜」「確かにあれ自体は可愛いけどね」と返された後に、小声で「ああいうのは、彼氏と2人の時とか、女の子だけの時に着てくるやつだよ」なんて事を言われた。女子特有のTPOがあるから難しい。
     とりあえず私の格好は女の子達のウケが良かったようで、イメージ通り、カッコ良い、と言って貰えた。それが本心かどうかは別として、ダサくはなかったようなので安心する。服装一つで仲間外れなどは、流石に居た堪れない。
     女の子と遊ぶのは楽しいが、正直考える事が多くて疲れるというのが本音だ。余計な事に脳の容量を使わなきゃいけない事が面倒くさい。ただ音楽の事だけ考えて生きていきたいのに、そうもいかない。上手く学校生活をやる為には、人に合わせる事も必要で、それがたまに疲れるな、とは思ってしまうのも事実だ。
     でも人生は楽しい事ばっかりじゃない。こういうのも必要な経験である。友達だって、欲しくない訳じゃない。

     ここいらじゃ一番デカい花火大会という事もあり、他クラスの生徒にも会った。同じクラスの子が、先輩とデートしてたり、他クラスのカップルだったり、友達で来ているグループだったり、先輩達も含め、流石は地元のお祭りという感じである。
     そんなこんなで、増えたり減ったり繰り返して、元の人数より少し多く、知らない顔が増えていた。 
     普段関わりのないクラスと知り合えるのは嬉しい。部活の付き合いも多少はあり、違うクラスにも知り合いは何人か居るが、まともに話した事のない生徒は多い。10クラスもあるのだ。卒業まで一度と話す事なく終える同級生も居るだろうが、知り合える事に越した事はないと思っている。
     とはいえ、知らない男子から当たり前に女の子として接しられるのあまり良い気はしなかった。普通の女の子なら嬉しいのだろうが、明来にとっては、異性として見ている事があからさまにわかる態度を取られるのは警戒してしまう。
     全員が全員下心で自分を見ているとは思っていし、恋愛対象として狙われているとは思っていない。ただ、異性として見られたところで、こちらとしては返せるものは何もなく、期待する様なものは渡せない。だから、あくまでフラットに、人間としてだけ接して欲しい。
     そういう意味で、女の子達は自分と同じラインで接してくれるので楽なのだ。
     昔は男女の垣根なんて無かったのに、いつの間にか男は男、女は女になっているんだから、成長についていくのも大変だ。適応しなければと思うけれど、しかし考え方など、そう簡単に変えられるものでは無い。本来あるべき変化と成長が、自分には追いついてないだけだと、そう割り切る他なかった。

     ***

    「あれ、颯翔じゃん!お前も花火来てたんだ」

     後ろの方から聞き慣れた明るい声が飛び込んできた。振り向くと6人組位の男子達がこっちに気付いて向かってくる。

    「明来も一緒だったんだ。あ、もしかして、クラスみんなで来てる感じ?」

     颯翔の少し前を歩いていた明来と、そこ周辺に居る男女グループに目を向け、淳汰はいつもの調子で言う。 
     団体の奥の方に奏太の姿も見えた。淳汰を取る敵は明来とばかり思っていたが、しかし何処にでも居るのは案外奏太の方かもしれない。
     僅かに睨むような颯翔の視線を見ながら、明来はそんな事を考えていた。
     奏太も今日はクラスの男子達と花火を観ると言っていた。淳汰に誘われて、迷っていると言うこで、行っておいでと背中を押したのだが、楽しめているだろうか。会うかもね、とは話していたが、本当に会えるとは思っていなかった。

    「そう、全員じゃないけど、親睦会兼ねて。既に半分位別のクラス混ざってるよ」
    「いいなー。俺らもやろうと思ったけど、全然集まらないから。男だけ」

     颯翔の言葉に淳汰は自虐気味に笑う。
     淳汰達の方は、意外にも私服が1人に他全員が浴衣や甚兵衛を着ていた。こっちは男子全員私服だというのに、祭りに対する気合の入れ方が違う。
     普段見慣れない甚兵衛を着たの淳汰の姿に、僅かながら良いと思ってしまった。さっきまで、女子の浴衣位で浮かれて……と他の男子達に思っていたが、確かに普段と違う格好というのは、これはこれでなんだか来るものがある。

    「えー男ばっかじゃつまんなくない?小埜寺達も一緒に回ろうよ」
    「私ら今、裕也達来るの待ってんだよね」

     しめたとばかりに淳汰の周りに女の子達が群がる。気付けば一緒に居た他の男子の所にも、女子が行っていた。本当に積極的な奴らばかりで、ハイエナのようだと思う颯翔に対して、明来は「本当にモテるんだなぁ」という実感が湧いていた。
     淳汰には普段から周りに人が居るだけに気にならなかったが、あっさりと女子に囲まれクラス会に自然と溶け込む姿を見ていると、なんだか淳汰がとても凄い人に思える。
     結局淳汰達のグループも合流し、クラス会だったのか、なんだったのかわからない集団はぞろぞろと屋台の間を歩いて行く。
     とは言え、大人数がいっぺんに回れる訳もなく。なんとなく固まっては居るものの、気付けば3つ4つの小グループに分かれている。
     積極的に行動し、このタイミングで近付きたい男女と、実質ほぼ出来上がってる男女と、それらに混ざれずあぶれた者達の中でまた男子のみ女子のみの固まり。
     颯翔はそんなグループのなかで女子を引き剥がし、淳汰を救い出すと男子数人と別ルートへと逸れ、それに剥がされた女子も付いていく。
     そんな2人を眺めながら、置いてけぼりになりそうな奏太の横に、明来は自然と収まり歩みを緩めた。

    「楽しめてる?」
    「まあまあかな。人が多くて疲れる」
    「確かに、大きいお祭りだもんね」

     花火の規模も大きく、市外からも沢山の見物客が訪れる。屋台の出店も多く、この通りだけでもぎゅうぎゅうに詰められて、人の波に乗って動く事しか出来ない。

    「明来も浴衣着れば良かったのに。母さん、着せたかったって嘆いてたよ」

     前を歩く女子を見て、奏太が寂しそうに呟いた。
     奏太は濃いグレーの浴衣を綺麗に着ている。母親が着付けたのだろう。下駄のせいでいつもより高い身長で、明来を見下ろす姿が、新鮮だった。

    「私は良いよ、昼間も遊びに行ったし。今年は七夕祭りで着たでしょ」
    「そうだけど……あれ去年の浴衣だったじゃん。今年は今年で、この間可愛いのを買ったから、新しいの着せたかったって」
    「じゃあ、今度着せて貰おうかな。今年も行くでしょ、花の川祭り」
    「約束だよ。俺もあきの浴衣見たい」
    「わかった、約束」

     この空気、この温度、この距離。女子特有のTPOも何も気にしなくて良い2人だけの時間が、明来にとっては心地良い。疲れて息苦しさを感じるクラスの空気から酸素を供給された気分になる。

    「後ろ〜!そろそろ花火観に移動するよ!」
    「わかったー!」

     前の方から大きな声が聞こえ、明来は手を振りかえす。この大人数だ。観る場所もかなり分散するだろう。けれど、こういう友人達と当たり前に花火を観に行く時間は、疲れるけれどもやはり楽しい。
     中学までとは違う友人と、遅くまで自分達だけで堂々と出歩ける嬉しさ。高校生になって一番実感する大きな変化だ。この自由度がとても良い。 
     花火は案の定、見物客が多く全員一緒とはいかなかったが、とても綺麗だった。そういえばここの大きな花火大会の花火を、会場で観るのは初めてだ。いつもは音だけか、遠くから眺めるだけだったから、こんなにも大きくて力強いものだとは知らなかった。
     横で奏太が食い入るような目で花火を見ていた。
     大きくて、迫力があって、今にも降ってきそうな勢いと力強さ。いつも行く近所の花の川花火大会は、数百発の小さな花火が上がる小さなお祭りだ。こんなに大きな花火を見るのは、初めてなのかもしれない。
     奏太は話によれば美形でモテるらしいが、こんなにも純粋に、花火を楽しみ見惚れてる子供っぽい姿を見たら、女の子達はどう思うのだろう。それもギャップだなんだと肯定的に捉えるのか、イメージが違うと思うのか。
     どちらでも構わないが、こういう姿も知らない人間が、表面だけで奏太を選ぶのは嫌だと思った。
     とはいえ自分が口出しするより前に、奏太が断るのは目に見えている。奏太のせいで泣く女子が増えないよう、このまま奏太は高嶺の花であって欲しいと、花火に願ってしまった。

    ***

     花火大会が終わり、散り散りになりながら解散となったクラス会。知らぬ間に抜け出している男女なども多く、休み明けはカップルが増えている事は、鈍感な明来でも想像がつく。
     それぞれ帰路に着き、電車を降りた後は奏太と2人いつもの帰り道を歩いていた。奏太はいつものように家まで送るというので、丁度返そうと思っていたタッパーを持って帰って貰うことにした。この間貰ったお惣菜が入っていた容器。今日の花火大会の話や、昼間女の子達と遊んだ話などをしながら、エレベーターで6階に降りる。
     廊下を進んで角部屋。バックから取り出した鍵回して、ドアを引く。
     ガンッ。と、明確に何かが引っ掛かる音がした。上み見ると、ドアロックが掛かっていた。これでは、家に入れない。

    「タッパーは今度で良いよ。泊まるだろ?」

     後ろに居た奏太が言った。
     家に入れる気がない、という明確な意思がそこにあるのは、何も聞かずとも、奏太もわかっていた。

    「……ごめん」
    「謝る必要ない。早く帰ろ」

     扉を閉めて、鍵を回した。荷物だけ取っていなくなると思っていたのに、どうやら今日はそうじゃない日だったらしい。旅行はどうなったのだろう。しかしそれは私が気にする事ではない。変に家に居て当たられる方が厄介だ。そう、私には関係ない事だ。

    「着替え、まだ置いてあったっけ」
    「この間のがあるよ」
    「じゃあ、大丈夫だね。コンビニでなんか買ってこ。ポテチ食べたい」
    「こんな時間から食べる気か?」
    「良いでしょ〜。食べたい気分なの」
    「じゃあ、俺はうすしお」
    「食べるんじゃん」

     廊下を戻り、再びエレベーターに乗って下に降りた。来た道を少し戻って、コンビニに寄る。
     結局ポテトチップスだけで済まずに、色々とお菓子を買い、その日はそのまま2人で奏太の家へと帰り、夜更けまでお菓子パーティーを楽しんだのだった。


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