『Renaissance』文化論 ⑤なぜRenaissanceはAOTYを逃したのか
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1. はじめに ― 「なぜ負けたのか」は分かるのか
2023年2月5日、第65回グラミー賞。Beyoncéの『Renaissance』は、Album of the Year(年間最優秀アルバム)の候補に入っていました。
『Renaissance』は批評家から高い評価を受け、AOTYの有力候補としても名前が挙がっていました。しかし、受賞したのはHarry Stylesの『Harry’s House』でした。
人種の問題だったのか。ダンスミュージックだったからなのか。それとも、『Harry’s House』が選ばれた別の理由があったのでしょうか。
ここで、先に重要なことを書いておきます。
正確な敗因は分かりません。
グラミー賞はAOTYの得票数を公表しておらず、受賞作以外の候補に順位をつけた結果も示していません。Voting Members(投票会員)一人ひとりが、どの作品に、どんな理由で投票したのかも分からないからです。つまり、「『Renaissance』は○○だったから負けた」と一つの理由を事実として示すことはできません。
ただし、確認できることはあります。
その夜、Beyoncéは『Renaissance』で4部門を受賞し、グラミー史上最多受賞の記録を更新しました。それでも、Album of the Yearには届きませんでした。
では、AOTYはどのような仕組みで選ばれていたのでしょうか。そして、この結果はなぜこれほど大きな議論になったのでしょうか。
今回は、2023年当時の投票制度、BeyoncéのこれまでのAOTY候補歴、過去の受賞結果、そしてAdele、Harry Styles、JAY-Zらの言葉をたどりながら、「分かること」と「分からないこと」を分けて見ていきます。
2. 32個目のグラミーと、まだ届かなかったAOTY
第65回グラミー賞は、Beyoncéにとって記録的な夜でもありました。
『Renaissance』とその収録曲で9部門にノミネートされ、そのうち4部門を受賞しました。
「BREAK MY SOUL」でBest Dance/Electronic Recording、『Renaissance』でBest Dance/Electronic Music Album、「PLASTIC OFF THE SOFA」でBest Traditional R&B Performance、「CUFF IT」でBest R&B Songを受賞しています。
これによってBeyoncéのグラミー受賞数は通算32に到達。31勝だった指揮者ゲオルク・ショルティ(Georg Solti)を抜き、女性に限らず、グラミー史上最も多く受賞した人物になりました。
その一方で、まだ受賞していない主要部門があります。Album of the Yearです。
Beyoncéのソロ・アルバムがAOTYの候補になったのは、『Renaissance』が初めてではありません。
『I Am... Sasha Fierce』は第52回グラミー賞で候補となり、受賞したのはTaylor Swiftの『Fearless』。
『Beyoncé』は第57回で候補となり、受賞したのはBeckの『Morning Phase』。
『Lemonade』は第59回で候補となり、受賞したのはAdeleの『25』。
そして第65回では、『Renaissance』が候補となり、Harry Stylesの『Harry’s House』が受賞しました。
つまり2023年の授賞式を終えた時点で、Beyoncéはグラミー史上最多となる32の受賞歴を持ちながら、自身のソロ・アルバムでは4度AOTYの候補となり、一度も受賞していなかったことになります。
では、この二つの記録をどう考えればよいのでしょうか。
その前に確認したいのが、Album of the Yearがどのように選ばれていたのかということです。
GRAMMY公式|Beyoncéが『Renaissance』で32勝目を達成した受賞スピーチ
【ここからは有料です】
ここからは、2023年当時のグラミー賞の投票制度を確認したうえで、Black womanのAOTY受賞史、AdeleやHarry Styles、JAY-Zの発言、そして「ダンスミュージックだから負けた」という説まで順に検証していきます。
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『Renaissance』を起点に、Beyoncéの作品を文化史・社会史の視点から読み解くシリーズです。 本シリーズでは、アルバム『Re…
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