
Beyoncéが試した「22日間」は、どうビジネスにつながった?――22 Days Nutritionを追う
1.はじめに――「22日間」はどうビジネスにつながった?
ビヨンセ(Beyoncé)は、これまで何度も食事や身体について語ってきました。
映画の役作りのために短期間で体重を落としたこともあれば、Coachellaへの復帰を前に厳しい食事制限をしたこともあります。そして2013年には、ジェイ・Z(JAY-Z)と22日間の植物ベース食に挑戦しました。
その「22日間」は、食事のチャレンジだけでは終わりませんでした。
2015年、ビヨンセはマルコ・ボルヘス(Marco Borges)が手がける22 Days Nutritionの事業パートナーになります。
ただし、22 Days Nutritionは、このチャレンジから生まれたブランドではありません。ボルヘスが2010年に始めた事業です。
では、2013年の「22日間」は、どうビジネスにつながったのでしょうか。
この記事では、ビヨンセが若い頃から経験してきた身体管理も振り返りながら、2013年のチャレンジ、2015年の事業提携、その後の展開までを追います。そして最後に、22 Days Nutritionが2026年の今どうなっているのかも確認します。
2.Beyoncéは以前から「身体を変える」経験をしてきた
22 Days Nutritionの話に入る前に、少しだけ時間を戻します。
ビヨンセにとって、食事を変えて身体をコントロールすることは、2013年に突然始まったものではありません。
2006年の映画『Dreamgirls』では、役作りのために「Master Cleanse」と呼ばれる方法を取り入れ、短期間で体重を落としたことを当時のインタビューで明かしています。
ただ、後に始める植物ベース食まで、この延長として考えるのは早計です。映画の役作りと、2013年の22日間では目的も背景も異なります。
では、ビヨンセが「22日間」を試すことになったのは、いつだったのでしょうか。
3.2013年――BeyoncéとJAY-Zが「22日間」を試す
2013年12月、JAY-Zは44歳の誕生日を前に、22日間の植物ベース食に挑戦すると自身のウェブサイトで発表しました。そこには、ビヨンセも一緒に参加すると書かれていました。
このチャレンジに関わっていたのが、以前から二人の食生活やフィットネスを支えていたマルコ・ボルヘスです。
では、なぜ「22日間」なのでしょうか。
JAY-Zは当時、習慣を作ったり変えたりするには21日かかり、22日目には新しい道ができている、という考えを紹介していました。これは後に22 Days Nutritionでも使われる説明です。
ただし、「21日で習慣が変わる」という考えを、ここで科学的な法則として扱う必要はありません。大切なのは、彼らが「22日」という期間をそう説明していたことです。
そして、この2013年のチャレンジから約1年後、二人の関係はビジネスへも広がります。
2015年、ビヨンセは22 Days Nutritionの事業パートナーになりました。
4.「22 Days Nutrition」は2010年から始まっていた
ここで、22 Days Nutritionそのものについて整理しておきましょう。
22 Days Nutritionは、マルコ・ボルヘスが2010年にマイアミで始めた事業です。2018年の同社の公式発表でも、「2010年にマイアミで創設された」と説明されています。
つまり、2013年にビヨンセとジェイ・Zが22日間の植物ベース食に挑戦した時点で、22 Days Nutritionはすでに存在していました。
「22日」という名前には、前章で触れた「21日で習慣を変え、22日目から新しい習慣へ進む」という考え方が使われています。ボルヘスは、この考えを食生活を変えるプログラムにも取り入れていました。
5.2015年――「22日間」の経験から事業パートナーへ
2015年1月、ビヨンセとマルコ・ボルヘスは、22 Days Nutritionで事業提携することを発表しました。同時に始まったのが、植物ベースの食事を自宅へ届けるミールデリバリーサービスです。
この発表で興味深いのは、ビヨンセ自身が2013年のチャレンジを振り返っていることです。
“I am so grateful that I took the challenge and credit Marco with leading by example. He is the most energetic person I know and it's all because of his decision to live a healthy lifestyle.”
さらに、こう続けています。
“He came up with a great program to get people motivated to make better nutritional choices. All you have to do is try. If I can do it, anyone can. I am excited to partner with him.”
この発言を見ると、2015年の事業提携では、ビヨンセ自身が22日間を試した経験も前面に出されていたことが分かります。
ただし、ビヨンセがメニューを考案したわけではありません。公式発表では、宅配される食事はボルヘスが考案したものとされています。
つまりビヨンセは、自ら「22日間」を経験した後、既存の事業にパートナーとして加わったことになります。
そして同じ2015年には、ボルヘスの著書『The 22-Day Revolution』も出版されます。著者はボルヘスで、ビヨンセは序文を寄せています。
さらに2018年には、ビヨンセとジェイ・Zとのパートナーシップのもと、「22 Days Nutrition Meal Planner」が始まりました。
これは2015年の宅配食とは別のサービスです。2015年は調理済みの植物ベース食を届けるサービスでしたが、Meal Plannerは献立やレシピ、買い物リストなどをオンラインで提供するものでした。
6.2018年――それでも、Coachellaでは自分を追い込んだ
22日間の植物ベース食を経験し、22 Days Nutritionの事業パートナーにもなったビヨンセ。
ところが、その後ずっと厳しい食事制限から離れていたわけではありません。
2017年、ビヨンセは双子のルミ(Rumi)とサー(Sir)を出産します。そして翌2018年、Coachellaへの出演に向けて、再び厳しい身体管理に取り組みました。
その過程は、Netflixのドキュメンタリー『Homecoming: A Film by Beyoncé』にも残されています。
映画の中でビヨンセは、目標を達成するため、パンや砂糖、乳製品、肉、魚、アルコールなど複数の食品を制限していたと説明しています。そして、その直後に「お腹が空いている」と口にします。
食事だけではありません。出産後の身体で、長時間のダンスリハーサルとトレーニングを重ね、ステージへ戻ろうとしていました。
後にビヨンセは、この経験から大切なことを学んだとして、もう二度と自分をあそこまで追い込まないと振り返っています。
“I will never, never push myself that far again.”
2013年に22日間の植物ベース食を試し、2015年には22 Days Nutritionの事業パートナーになった。それでも2018年には、ここまで自分を追い込んでいました。
「植物ベース食に出会って、それ以降は健康的な方法へ切り替えた」と単純にまとめられる話ではなさそうです。
実際、その数年後には、ビヨンセ自身が過去の身体管理について、さらに率直な言葉を残しています。
7.2021年――「ダイエットに時間をかけすぎていた」
2021年、40歳を迎える直前のビヨンセは、『Harper’s BAZAAR』のインタビューで、自分自身をどうケアしてきたのかを振り返っています。
家族や会社を支える立場で、自分自身をいつも優先してきたわけではなかったこと。長年のツアーによる不眠や、ハイヒールで踊り続けることによる身体への負担もあったと語りました。
その中で、こんな言葉を残しています。
“In the past, I spent too much time on diets, with the misconception that self-care meant exercising and being overly conscious of my body.”
8.2024年――Beyoncéは今もヴィーガンなのか?
ここまで読むと、「では、ビヨンセは今も植物ベースの食生活を続けているの?」と思うかもしれません。
2024年の『GQ』インタビューでは、その後の食生活についても本人が語っています。
ビヨンセは健康のために意識していることとして、栄養やサプリメントなどについて語り、その夏にはターキーを除いて肉を食べるのをやめたことも明かしています。
この発言から分かるのは、少なくともこの時点で「肉を一切食べないヴィーガンだった」とは言えないことです。ターキーを食べている以上、ヴィーガンという食生活には当てはまりません。
一方で、この発言だけから「植物ベース食をやめた」と言い切るのも違います。2013年の22日間のチャレンジと、2024年の食生活は分けて考えた方がよさそうです。
つまり、「ビヨンセはヴィーガンなのか」という一言だけでは、彼女の食生活の変化は説明しきれません。
そしてもう一つ気になるのが、かつて彼女が事業パートナーになった22 Days Nutritionの現在です。
9.22 Days Nutritionは今どうなっている?
では、ビヨンセが2015年に事業パートナーとなった22 Days Nutritionは、現在どうなっているのでしょうか。
2026年9月に公式サイトを確認すると、少し不思議な状態になっています。
まず、食品などを販売していた公式ショップは現在、注文を受け付けていません。サイトには「現在このウェブサイトは非稼働で、注文を受け付けていない」という案内が表示されています。
2015年に始まった調理済みの植物ベース食を届けるミールデリバリーサービスについても、現在の注文ページから利用できる状態は確認できませんでした。ただし、サービスを正式に終了した日や、終了を発表した公式資料までは確認できていません。
一方、2018年に始まった「22 Days Nutrition Meal Planner」は、2026年9月現在もページや登録画面、料金表示を確認できます。
ただし、実際に新規契約の決済まで完了できるのか、現在も食事のコーチによるサポートが提供されているのかまでは確認できませんでした。日本から問題なく契約できるかどうかも不明です。
会社そのものについても確認してみました。
フロリダ州の法人記録を確認すると、旧法人はinactiveになっている一方、別の法人は現在もactiveで、2026年の年次報告にはマルコ・ボルヘスがCEOとして記載されています。
ただし、法人登記上のactiveは、それだけで「22 Days Nutritionのすべての事業が現在も活発に営業している」ことを意味しません。
そして、もう一つ分からないことがあります。
ビヨンセは2015年の事業提携、2018年のMeal Planner開始、2019年の公式動画までは22 Days Nutritionとの関わりを確認できます。しかし、2026年現在もどの程度の持分を持ち、経営に関わっているのかを示す公表資料は確認できませんでした。
現在の22 Days Nutritionは、「終了した」「今も以前と同じように続いている」のどちらか一言では説明しにくい状態です。商品ショップは注文を停止していますが、Meal Plannerのページや別法人は残っています。
そして、ビヨンセが現在どこまで事業に関わっているのかは、今回確認した公表資料からは分かりませんでした。
「22 Days Nutrition Meal Planner」公式サイト
10.おわりに――「22日間」を追って見えてきたこと
ビヨンセの食生活を調べ始めると、どうしても「何を食べたのか」「どれくらい痩せたのか」に目が向きます。
けれど、時系列で追ってみると、それだけではありませんでした。
2006年には『Dreamgirls』の役作りのために短期間で身体を変え、2013年にはジェイ・Zと22日間の植物ベース食に挑戦。2015年には、そのチャレンジに関わっていたマルコ・ボルヘスと22 Days Nutritionで事業提携しました。
その後、2018年のCoachellaでは再び自分を厳しく追い込み、2021年には、かつてダイエットに時間をかけすぎ、セルフケアを運動や身体への過剰な意識と取り違えていたと振り返っています。
少なくとも今回確認した本人の発言や公式資料からは、「この方法に出会ってすべてが変わった」という単純な物語にはまとめられません。
試した方法も、その目的も、そのとき本人が語っていたことも変わっています。
そして22 Days Nutritionも、2015年当時の姿のままではありません。現在、公式ショップは注文を停止し、Meal Plannerはページなどが残っているものの、実際にどこまでサービスが提供されているのかは確認できません。ビヨンセが現在どこまで事業に関わっているのかも分かりません。
だからこそ、昔の「ビヨンセがやったダイエット」を、そのまま現在の彼女の食生活として紹介することはできません。
私が今回いちばん興味深いと思ったのは、2015年の事業提携を発表したとき、ビヨンセ自身が「自分もチャレンジをした」と語っていたことでした。
その一方で、年月がたつにつれて、身体やダイエット、セルフケアについての本人の言葉も変わっていきます。
「ビヨンセ式ダイエット」を探すより、その変化を追う方が、ずっと彼女らしい話なのかもしれません。
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ビヨンセは、22 Days Nutrition以外にもさまざまな事業に関わっています。
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