
掌編コメディ小説『モーレツな馬鹿』
俺は、人が蕎麦を啜る時の音を、誤魔化してやる仕事をしている。当然、勤務先は主に蕎麦屋だ。日本全国を飛び回っている。チャリで。
御客様が蕎麦を啜る度に、俺は「ズッ、ズズーッ」と口から擬音を出す。落語家の様に、トイレの音姫の様に。こんな俺を、雇ってくれる企業など、無く、今はフリーランスで彼此、五年程やっている。
この日も、とある蕎麦屋で勤務していた。ランチタイムを過ぎて、店主が俺に言った、
「さっきからアンタ、何やっているんだ。帰ってくれないか?」
「えっ?」
俺は戸惑った。確かに、無断でこの店に来たのは、悪いと思っていた。まだ俺の擬音が、未熟なのも認める。客が残した食べ物を、勝手に食べたのは素直に、
申し訳ないと思っている。
俺は、少し照れ交じりの、微笑みで訊いた、
「俺の出す音、まだ、ヘタクソでしたか?」
店主は、俺をボコボコに殴った。
(これで何件目だろう? 出禁になった店)
「消え失せろ、デビルサタンがっ!」
今日も俺は、蕎麦屋にいる。
そんな俺の時給は、始めてからずっと、