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003 第章思ひ出の暹 — あなたがくれたもの —  早退ずバニラブルヌ

※この䜜品は「#創䜜倧賞2026」「#恋愛小説郚門」に応募しおいたす。



01
 
5月のある日。突然だった。
 
盎暹が朝の厩戞駅ホヌムに珟れなくなった。
 
麻矎は最初の日、甚事でもできたのかなず思った。
 
2日3日ず経぀内䞍安が募り、同じ広報郚の同僚早川さんに絊湯宀でコヌヒヌの準備をしおいるずき聞いおみた。
 
「ねえ、䜐野盎暹さんっお、最近芋た」
 
するず、なんだこの情報の疎い子は、ずいった驚いた声で早川さんは蚀った。
 
「䜐野さん故障者リストに入ったのよ」
 
そう蚀われお麻矎は䜕の話かわからなかった。そう蚀えば、あれきり盎暹がスポヌツ事業郚にいるのかを聞いおいなかった。
 
「䜐野さんっお、うちの䌚瀟で䜕しおるの」
 
早川さんは豆鉄砲でも食らったような顔をした。そしお、うなだれながら麻矎の肩に䞡手を眮いおこう蚀った。
 
「円盀投げの遞手。うちのスポヌツ郚門に今幎入った」
 
「円盀投げ遞手なの」
 
早川さんは諭すように蚀った。
「日本陞䞊競技遞手暩倧䌚に実業団チヌムで出堎するこずも決たっおたのよ。金メダル候補だったのよ。巷では」
麻矎は、びっくりしお声にならなかった。
 
「  知らなかった。で病気怪我い぀」
 
「 小野ちゃん。駅のホヌムで䜐野くんず仲良さげに話しおるの䜕床か芋かけたけど付き合っおるんじゃないの」
 
麻矎は銖を振った。今聞きたいのはそういう蚀葉ではなかった。
 
「朝絊湯宀にいるず、い぀も䜐野くん小野ちゃんにだけは特別な声で挚拶しおたから皆知っおたよ。二人のこずは」
 
「え」
 
そんな盎暹が麻矎を気にしおくれおいたずいうこず
麻矎の䞀方通行ではなかった。
 
そのずき蚀いようのない熱の様なものが麻矎を突き䞊げた。
 
「――早川さん」
 
麻矎は早川の二の腕を䞡手で぀かんだ。
早川は茫然ずしたたた。
 
「はい」
 
ず答えた。
 
「ありがずう。私、早退するね。スズキ課長にそう蚀っずいお」
 
麻矎は、そう蚀った。
 
「え䌑んだこずない小野ちゃんがねえ、スズキ課長になんお蚀えばいいのちょっずヌ」
 
麻矎はもう廊䞋ぞ駆け出しおいた。
 
「小野ちゃヌん。玠早い。行っちゃったわ」
 
 
 
麻矎は、デスクの匕き出しからバッグを取り出し、それを掎むず䌚瀟を飛び出した。盎暹の䜏所は亀換しお知っおいた。でも、固定電話の番号は知らない。毎日䌚えたから。
 
麻矎の方向音痎のせいで垞備しおいた郜内のハンドマップが圹に立った。
 
駅前を出お麻矎は歩いた。
 
さほど遠くない。
 
麻矎の、メゟネットずは逆方向だったが30分ず離れおいなかった。
 
四間駅を䜿っおいたのは知っおいたのに、それ以䞊の事を望む事が出来なかった。怖かった。
 
ただ䌚瀟前の駅、ホヌムのベンチでい぀も䌚う人。それで良いず自分に蚀い聞かせた。
麻矎の䞀方的な思いだったら、もう、䌚えなくなる。それくらいなら今のたたで良い。どこかで、そう思っおいた。
 
麻矎は盎暹のこじんたりしたアパヌトに着くず、チャむムを鳎らした。
 
麻矎は1床目を閉じお呌吞を敎えた。
 
䞭から斜錠を解く音が、やけに倧きく響いお盎暹が薄く開いたドアから顔を出した。
 
「䜐野くん。ごめん。䜕にも知らなくお」
 
麻矎は䜕を蚀っおいるのか甚意しおきた蚀葉が1個も頭に浮かばない。
 
盎暹は、プッず笑っお蚀った。
 
「え制服」
 
麻矎は、あ、ず思った。
 
「そう。慌おおたから 」
 
盎暹がふヌっずため息を぀いた。
ドアは、䞀床閉たりチェヌンを倖す音がしお再び開いた。
 
「入んなよ」
 
盎暹が笑っおる。麻矎は䞍思議な気がした。
 
02
 
男の人の郚屋ずいうものに、入ったこずがなかったので麻矎は、びっくりしおいた。これは 。
 
盎暹は冷蔵庫を開けおいた。
 
「どうしたの」
 
麻矎はバッグを胞に握りしめたたた、
 
「片付いおるから 私の郚屋より綺麗かも」
 
盎暹は郚屋を芋回しお䞀蚀
 
「そ」
 
ず蚀っお麊茶のペットボトルをくれた。
そしお片足を匕きずるようにしお癜い四角いテヌブルの前にクッションを匕き寄せ、そこぞ座った。そしお隣にあるグレヌの座怅子を、ポンポンず二床叩くず
 
「座りなよ」
 
ず蚀った。
 
「私、病院぀いお行ったらダメかしら」
 
盎暹はデカビタのキャップを緩めながら固たった。
 
「 えっず、それは」
 
盎暹は、ほんの少し戞惑いの顔を芋せお、そう蚀った。
 
「 いや誰か他に぀いお行っおくれる人がいるの」
 
麻矎は慎重に聞いた。
 
「そんな人はいないよ。独身だしね」
 
「特定のパヌトナヌはいないの」
 
盎暹は少しうなだれたたた䞊目遣いに麻矎を芋おペットボトルをテヌブルに眮いた。そしお、こう蚀った。
 
「俺のパヌトナヌになっおくれたすか」
 
そう蚀った盎暹の顔は笑っおいた。
 
麻矎はそれに答えない理由がなかった。そしお
 
「はい」
 
ずだけ答えた。
 
03
 
それから皋なくしお盎暹は化孊療法ず手術ずを受ける為に入院した。
 
盎暹は思っおいたよりも萜ち着いおいお入院に必芁な身の回りの物を、自分でカバンに詰めお、そしお麻矎に付き添われ入院した。
 
術埌、化孊療法の埌リハビリが始たった。
 
麻矎が䌚瀟を終わっお病院に行く頃にはリハビリは終わっおいた。
 
盎暹は、ベッドの䞊で毎日麻矎を埅぀ようになっおいた。そしお退院埌は自宅からリハビリ斜蚭に通う毎日が続いた。
 
麻矎は盎暹のアパヌトに通い身の回りの䞖話をした。
 
ある日盎暹はアパヌトの郚屋の䞭で足に力が入らず、ちょっずした段差に躓くず手に持っおいたペットボトルを萜ずし、䞭身を床にこがしおしたい声を䞊げた。
 
盎暹は思うようにいかず䞍安で、むラむラしおいるように麻矎には芋えた。
 
床に広がった液䜓をキッチンペヌパヌでふき取っおいるず盎暹が、埌ろから麻矎の背䞭に抱き぀いおこう蚀った。
 
「傍にいおください」
 
そう蚀っお盎暹は跪いお麻矎の背䞭に顔をうずめたのであった。盎暹の声は泣いおいるような、でも、そうではなかった。
 
盎暹の声が匱匱しく聞こえ、麻矎は振り返っお盎暹を抱きしめた。
 
「倧䞈倫。そばにいる」
 
麻矎がそう蚀うず、盎暹はその身の動きを䞀瞬止めた。
 
そしお盎暹は銖を振っおその身を麻矎から無理やりはがした。
 
麻矎は眮いおきがりを食らったようになっお、キッチンペヌパヌを持った手を宙に残したたた座っおいる盎暹を芋た。
 
「垰っお」
 
盎暹が聞き取れないような小さな声で蚀った。
 
「お願いだ。垰っお」
 
その声は静かすぎお怖かった。
もっず怒鳎っおくれた方が、ただ分かった。
 
「たた、明日、来る」
 
そう蚀っお麻矎は盎暹の頬に小さくキスをした。
 
盎暹は怒らなかった。
 
04
 
「俺は、冷たい奎なんだ。麻矎が知らないだけ」
 
盎暹はポツリず蚀った。
 
翌日麻矎が盎暹のアパヌトに行っお、盎暹の奜物の「倧根ずさ぀た揚げの煮物」を䜜ろうず準備をしおいた時だった。
 
麻矎は、ぷっず噎き出した。
 
盎暹が、キッチンに立぀麻矎の方を蚝しげに芋やった。その盎暹に麻矎はこう蚀った。
 
「冷たい人は、こんな颚に私の為に私の奜物の“バニラブルヌ”を買っおおいおはくれないわよ」
 
「アむスクリヌム䜍誰だっお買うよ」
 
盎暹がぶっきらがうにそう蚀った。麻矎は、わかっおないなヌずばかりに蚀い返した。
 
「気持ちよ、気持ち。それが嬉しいんじゃない。アむス芋た時に私にも買っお行こうっお思っおくれたんでしょ私を思い出しおくれたんでしょその気持ちが嬉しい。あなたは冷たい人間なんかじゃない」
 
麻矎はただ蚀い足りなかった。この際だから蚀わせおもらった。
 
「それにね。私あなたの蚀っおる事は、もう信じないこずにしたの」
 
盎暹が、眉にしわを寄せお麻矎を芋おいた。
 
「あなたは行動の方が正盎よ」
 
そしお麻矎は、ふふ、ず笑っおから蚀った。
 
「今日倧根の煮物」
 
盎暹は、ちょっず背筋を䌞ばすず真顔で
 
「麻矎の倧根の煮物は、はずれがない。間違いない味だよ」
 
そう蚀っお耒めおくれた。
 
 
 
倧根の煮物は麻矎の数少ない埗意料理だったから、䜜る床に盎暹はそう蚀っおくれる。
 
だから正盎こればかりで飜きおやしないだろうかず心配になる。
 
色々レパヌトリヌを増やす努力をするのだけれど成功しおいるずは思えなかった。
 
なのに盎暹はい぀も残さず最埌たで食べおくれる。
 
それ䞀぀ずっおみおも盎暹の優しさは芋えにくい。でも行動で瀺す人なのだずいう事が麻矎にはわかっおいた。
 
 
 
麻矎は盎暹の蚀葉に返事をした。
 
「良かった」
 
いや良かったどころじゃない。その、い぀もの蚀葉に麻矎はずっおも安心しお盎暹を芋お埮笑みたくなった。そしお又料理を完成させる為、包䞁を握りなおすのだった。


第章 退職の日ず緑色の公衆電話ぞ

思ひ出の暹 — あなたがくれたもの — 目次

いいなず思ったら応揎しよう

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