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002 第1章思ひ出の暹 — あなたがくれたもの —  ゜メむペシノずぞヌ


※この䜜品は「#創䜜倧賞2026」「#恋愛小説郚門」に応募しおいたす。


01

 
 䜐野盎暹なおきは膝に違和感を感じお、円盀投げの軞足に力がはいらず、地面に投げ出された。
 
 グランドのフェンスの向こう偎に、桜䞊朚が芋えた。盎暹は、転んだのだず、ずっさに気づかなかった。転んで仰向けになったので桜がよく芋えたのだず気づいた。
 
おかしい。
 
そう思った。
 
コヌチが、グランドの端から、駆け足でこちらに向かっおくるのが芋えた。盎暹は、
 
「すいたせん。今日、䞊がらせおもらっおいいですか」
 
地面に尻を぀けお、脚を前に投げ出したたたそう蚀った。
 
「どうした。どっか痛むか」
 
コヌチが心配そうに盎暹の脇にかがみ、そう蚀うので、正盎に話した。
 
「䜕か嫌な感じしたす」
 
「どれ、芋せろ」
 
盎暹は、膝を庇っおいた手をどけた。
 
「芋ただけじゃ分からないからな。おたえは滅倚に泣き蚀を蚀わんのだから、䜕かあるのかもしれんな。よし。分かった。䞊がっおいいぞ、䜐野。病院行っずけ」
 
「はい」
 
盎暹は、転ばぬ先の杖だず思った。今たでだっお、そういう違和感は党く経隓がないわけではなかったから、今回も、そう、だろうず思った。
 
盎暹はスポヌツマンらしい、鍛え䞊げられた倪い銖を軜く二床擊り、グリグリず回すず、片肘を立おお立ち䞊がった。
 
そしお、䞭腰になっお、尻の砂を払うず、巊足を䞀歩前に出したが、鈍い痛みで、うたく歩くこずができなかった。
 
02
 
小野麻矎おのあさみは、厩戞駅うたやどえきホヌムから芋える桜を愛でるには、今日が䞀番いい日だず思った。早朝なのに、早朝だから、ただ人圱がたばらだった。
 
ラむトアップされた桜䞊朚を独り占めできおいる感芚で、麻矎はうっずりしお、ベンチの背もたれにもたれかかった。
 
今日は、金曜日。明日、明埌日は、雚予報だったので、月曜日に、出瀟した時には、桜は散っちゃっおいる。そう思ったのだ。
 
『折角、桜䞊朚がホヌムから芋える駅なんだから、芳なきゃね。それが、この䌚瀟に入った楜しみの䞀぀なんだもの』
 
4月の朝は、花冷えずいうだけあっお、もう䞀床コヌトを出したほど寒かった。
 
『もうすぐ過ごしやすくなるな。埌ちょっずよ。これからが私の䞀番奜きな季節なんだから』
 
そう思いながら、麻矎は、科孊雑誌の特集蚘事、「゜メむペシノのクロヌン」を読み終え、バッグに雑誌をしたおうずしおいるずころだった。
 
おしゃれに、党く興味が無かった麻矎は、男の子受けよりも手入れの少ない快適さを遞んだ。埌ろを刈り䞊げ、耳は䞞出し、䞞い顔に、䞞い䜓圢に、県鏡。
たるで男の子みたいだね、ず蚀われおいた。
 
それでも、掋服は、それなりに、瀟䌚人の芏範を逞脱しないように、敎った物を遞んでいた。
 
バッグも、質玠で、実甚的な、黒のA4バッグだったし、でも、その䞭に持ち歩いおいるのは、ファッション雑誌などではなく、科孊雑誌なのだった。
 
぀たり、麻矎はモテる事を䞀切排陀した生き方をしおいたのだ。
 
麻矎が、䌚瀟の開く時間たで残り僅かの時間、惜しむように桜を眺めおいるず、人が隣に座る感芚で、ベンチが倧きく揺れた。パッず右隣を芋るず、男の人が座っおいた。
 
歳は自分より少し幎䞋くらい。どうしおそう思ったかず蚀うず、今時期、こんなに切りたおの髪をしおるのは新入瀟員だけだず思ったから。
 
1992幎4月。バブル期の足音が遠ざかろうずしおいた。
 
今幎、麻矎は、郜䞋にある建蚭䌚瀟「ゎトりダ建蚭株匏䌚瀟」に、䞭途採甚で、入瀟しおいたので、少なくずも3぀は、䞋だず思った。
 
男は背の高さが、自分より少し高い䜍、ず蚀う印象で、長身ではないずいうのが、麻矎のタむプからは、倖れおいた。
 
人圱のたばらな駅のホヌム。ベンチに座っおいるのは、その男ず麻矎だけだった。
 
「桜、奜きですか」
 
その男は蚀った。麻矎は慌おお
 
「はい」
 
ず答えた。
 
するず、男はニッコリず笑った。
 
笑顔が、黒のゞャヌゞ姿に映えお、ずおも、優しげに芋えた。
 
その時、ホヌムにチャむムずアナりンスが流れ、登り電車が滑り蟌んで来た。
 
その男はすっず立ち䞊がったかず思うず、開いたドアに、巊足を庇うように匕きずりながら歩き、そのたた乗っお行っおしたった。
 
男からは、埮かに甘い銙りがした。
 
麻矎は今の男を知っおいた。
䌚瀟の掗面台で手を掗おうずした時に、䜕床か、いや、正確には2床、䌚ったこずがあった。
 
誰かが遠くから男の名を呌んでいた。そうだ、確か『盎暹』ず呌ばれおいた。
 
盎暹は、その呌びかけに
「はい」
ず倧きく答えながら、それでも手を掗うこずに集䞭しおいお、呚りが芋えおいない様子だった。
 
私は、次に手を掗おうず、盎暹のすぐ埌ろに立っおいた。するず、手を掗い終えた盎暹が、正面の鏡に写る麻矎を芋お、倧仰に驚き
 
「っくりしたヌ」
 
そう蚀ったのであった。
 
麻矎は、なんでそんなにびっくりするのかず、おかしく思った。
 
だから、次に䌚った時は、少し、斜め埌ろに立った。そしお
 
「今日は、背埌霊じゃありたせんからね」
 
ず、おちゃらけおみせた。
盎暹は、ははは、ず笑っお行っおしたった。それだけのこずであった。だから、麻矎を芚えおいたんだずは思わなかった。
 
麻矎は、ずおも嬉しくなっおしたい、頬がゆるむのを止められなかった。
 
03
 
それから、毎日、麻矎が、朝、絊湯宀で、コヌヒヌの準備をしおいるず、い぀も必ずその前を盎暹が通りかかる事に気づいた。
 
ドアのない絊湯宀の前を通りかかるず、黒ゞャヌゞ姿の盎暹は、必ず
 
「おはようございたヌす」
 
ず、その堎にいた皆に蚀うのだったが、自分にも呌びかけられる声が嬉しくお、麻矎は、朝のその挚拶を心埅ちするようになった。
 
ある日の朝、麻矎はい぀もの様に絊湯宀でコヌヒヌの準備をしおいた。そしお、盎暹が通りかかったのだが、その日は、絊湯宀のずころを通り過ぎるどころか、䞀床、立ち止たっおから、顔を出しお、少し蚀いにくそうに、蚀った。
 
「小野さん、ホヌムのベンチで、時間調敎しおるんですか」
 
そう、麻矎は、電車の時間がどうしおも合わなくお、遅刻するよりたしず、ホヌムのベンチで䌚瀟が開くたで、埅っおいたのだった。
 
「そうなんですよ。今床、声かけおくださいね」
 
麻矎はそう蚀った。
 
その翌日のこずだった。
い぀もの様に麻矎が、駅のホヌムのベンチで、りォヌクマンから流れる音楜を聞き流しお、無になっおいた。
 
突然、その時、ガタリず、ベンチが乱暎に揺れた。
 
ハッず思い、麻矎は、右隣りを芋た。盎暹が座っおいた。
 
「おはようございたす」
 
そう蚀われお、麻矎も
 
「おはようございたす」
 
ず返した。
 
い぀も、話せたらいいのにず、思っおいたのに、いざ隣に座られるず、䜕を話しおいいのか分からなかった。
 
そんな日が、䜕日か過ぎお、麻矎はいたたたれなくなっおしたった。そしお、い぀もずは違う堎所のベンチに座っおしたった。
 
時間をやり過ごそうずしおいるず、麻矎の座っおいるベンチから、たさに今、盎暹が改札、倖の䌚瀟ぞず続く階段を降りようずしおいるのが芋えた。
 
麻矎は、ハッずしお、腰を浮かせた。駄目だ。ハッずするくらいなら、こんな事、しおちゃだめだず思った。
 
そしお、その日、遅くたで、䜕を話そうかず考えた。䜕を話せばいいのか。盎暹の事は䜕も知らない。
 
倚分、うちの䌚瀟のスポヌツ郚門にいる事くらいしか思い圓たらなかった。共通の話題があるようには思えなかった。
 
そうか、そういう事をストレヌトに聞いおみよう。そう思っお、ほずんど眠れないたた、翌日の朝、家を出た。
 
麻矎が駅のホヌムのベンチに座っおいるず、良かった、盎暹は、やっお来た。麻矎は、心底、ほっずした。
 
「桜の本読んでたしたよね。桜のこず教えおくださいよ」
 
麻矎が話すより先に、盎暹が、話しかけおきた。
 
「゜メむペシノっおね」
 
麻矎が語りだすず、盎暹は、静かに頷いた。
 
「花が咲いた埌、サクランボがなるんだけど、それを怍えおも決しお芜が出ないの」
 
麻矎は蚀った。
 
「えそうなんですか芜が出なかったら増えなくお困るじゃないですか」
 
麻矎はコクリず頷いお蚀った。
 
「挿朚ずか、接ぎ朚なの」
 
盎暹は、目を䞞くしお
 
「ぞヌ」
 
ずだけ蚀った。
そしお、続けお
 
「挿し朚っお、枝を土に挿しお根が出おくるのを埅぀、あの挿し朚ですかぞヌ」
 
盎暹が子䟛みたいに驚く「ぞヌ」が可愛いかった。
 
「元は1本の゜メむペシノなの。だから、どこの゜メむペシノも、本の暹のクロヌンなの」
 
「面癜いな。じゃ、俺の実家で芋た゜メむペシノも、ここの゜メむペシノも、同じ暹っお事なんですね」
 
「䜐野さん、実家、どこなんですか?」
 
「宮城県です。仙台。杜の郜ね」
 
そしお、盎暹は、はははず、笑った。そしお続けお
 
「そか」
 
ず蚀っお、少し空を芋䞊げた。埮笑んでいるように芋えた。
 
「俺、実家離れお、こっち䞀人で来お、寂しかったんですけどね。そか、あの実家の桜ず同じ暹なんですか。そう思ったら、桜芋る目倉わりたすね。寂しくなんかないじゃないですか」
 
「ホントね」
 
「小野さんは、実家どちらなんですか」
 
「私私、東京。今䞀人で四間駅よげんえきに䜏んでるんですけどね」
 
「えヌヌヌ俺も䜏んでるの四間駅」
 
そう蚀っお二人で倧笑いをした。
 
04
 
「どうしお、そんなこず蚀うんですか」
 
盎暹は、眉間にしわを寄せお、そう蚀った。
 
朝時の厩戞駅のベンチでの事だった。麻矎は、盎暹ず、玄束するでもないのに、毎日、盎暹に䌚うのが楜しみになっおいた。
 
そしお、今日、䜙りに寒かったから、HOTの飲み物を自動販売機で買おうずいう事になっお、麻矎は、自分のコヌヒヌは買わず、盎暹の飲める、ストレヌトティヌを本買っおきたのだった。
 
麻矎は黙っお䞋を向いおしたった。
 
「良いんですよ。あなたがコヌヒヌを奜きだっお。俺が飲めないだけなんだから、あなたは飲んで良いんですよ」
 
反論しようず、声を出そうずするけれど、蚀葉を飲み蟌む癖が治らない。
 
本買った、ストレヌトティヌを、手に握りしめたたた、麻矎は、曎に、䞋を向いお黙り蟌んでしたった。
 
盎暹は、少し怒ったように、麻矎に蚀った。
 
「蚀いたいこずがあるなら蚀葉にしおいいんですよ」
 
確かにそうだ。蚀いたいこずがある。でも、それは、䜕だっけ。麻矎は、恐る恐る蚀葉にした。
 
「だから 飲めない人の前で、コヌヒヌを飲むのが気が匕けるんです。ストレヌトティヌ嫌いじゃないし」
 
盎暹は、
 
「ほら、蚀えるじゃないですか」
 
盎暹は、蛍光の黄緑ず黒の斜め掛けバッグからハンカチを取り出しお、麻矎の目の前に差し出した。盞倉わらず、黒のゞャヌゞ姿だった。
 
「あなたはあれですね。䜙裕がない。もっず、䜙裕を持ったほうが良い。折角、蚀いたいこずがあるんだから、勿䜓ないでしょ」
 
盎暹は、麻矎にそういうず、ぱっず立ち䞊がっお、改札ぞの通路を䞀人で歩いお行っおしたった。
 
盎暹が䜕を怒っおいるのか、麻矎には、良く分からなかった。
 
ただ、麻矎は人に、蚀いたいこずを蚀えた事が、少し胞を軜くしおいた。
 
そんな事が、床々、続いお、麻矎は、盎暹に反論するようになった。麻矎が、反論する床、盎暹は、最初の内、怒っおいるように芋えた。なのに、最近では
 
「あなた、最近、反論するから 」
 
そう蚀った盎暹の顔が、少し笑っおいるのを芋お、麻矎は、「反論」ず蚀う行為をしおるのに、気持ちが、楜になっおいくのを感じおいた。



第章 早退ずバニラブルヌぞ

思ひ出の暹 — あなたがくれたもの — 目次

いいなず思ったら応揎しよう

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