
「緑の葉っぱが灯る夜」 第2章:霧雨の晩に①
ある晩のこと――。
「すっかり遅くなっちゃった」
買い物をすませた裕子は家路を急いでいた。
暖かな風が通りすぎるたびに、霧とも雨ともつかない水煙が、うっすらと縞模様を描きながら、淡くにじんだ街灯の前をいく筋も横切っている。
何気なく傘を横にして立ち止まると、ほんの少し、まつ毛に水滴がつくのを感じるだけで、街の灯を照り返しているせいか雲がぼうっと明るい。
細かな水の粒子がやわらかく顔を包み、裕子は思わず目を細めた。
――が、すぐに大きく見開いた。
空中に何か浮かんでいるのが見えたのだ。
(しゃぼん玉……?)
小さな光の玉が、パラシュートのようにゆらゆら揺れながら降りてきている。緑色に透きとおっていて中に何か入っているようだ。
(人のようだけど、でも――)
それにしては小さすぎる。
やがてそれは、すぐ真上にまで降りてきた。風船ほどの大きさだろうか、手のひらにふわりと載りそうだ。
思わず手を差し出し、二、三歩ほど歩み出たが、
「あ……」
腕の長さがちょっと足りなかった。
緑色の球体は風に流されながら、ゆっくり移動し、道路わきの沈丁花のてっぺんにそっと止まった。枝にひっかかったしゃぼん玉のように、今にもパチンとはじけそうだ。